よい子の読書感想文 

読書感想文377

『耽溺』(岩野泡鳴 岩波文庫)

 これも国語便覧から抽出した作品のひとつである。文学史年表を見ると、未読有名作品は少なからずあって、十年ごとに二作ずつをピックアップした。本作は1900年代の未読有名作品から選んだもので、知識として岩野泡鳴の名は知っていても、作品を手にしたのは初めてだった。
 岩波文庫のリクエスト復刊で店頭に並んでいた。こうして安価な文庫で復刊しなければ、あとはアマゾンで安く探すくらいしかない。抽出した作品たちをいままで読まなかった理由は、それらを探す過程で否が応でも気づかされた。たいていのものは文庫化されていないか、されても絶版になっているのだ。
 と、復刊の恩恵でたまたま手にした『耽溺』であるけれど、読んで感銘も何もなかったし、同じ著者の作品を他にも読んでみようとは思えなかった。ただ、浪漫主義と自然主義の間に咲いた徒花として、日本の文学史上に、こうした過程を経る必要があったのかもな、という感想は得られた。
 解説にもあったが、急速な文明開化と欧化によって、カクテル、あるいはオジヤ的文化状況にあった明治という時代。その一側面を鮮やかに切り取って見せてはいるだろう。それを再確認する読書にはなった気がする。
 反動でもなんでもなく、無反省なまま、封建的に、自堕落に振る舞う著者本人らしき作中人物。これには読んでいる間中、まったく感情移入できなかったし、反感をすら持ってしまった、ということは付記しておこう。
 後の破滅的な私小説作家らが、ある意味で非常に自省的であったのに対して、まったく溌剌と自我を野放しにしている“耽溺”は、これもなにがしかのプロテストだったのかもしれないが……


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