アメリカを代表するウルトラランナーにしてウルトラトレイルでは伝説的な人、スコット・ジュレクの自伝的エッセイである。
トレイル、ロード問わず、ウルトラのトップ選手には特異な経歴の人が多い。求道の人、苦学の末に競技にのめりこんだ人、長らく肉体労働に従事して、競技を「人生のリベンジ」と呼んだ遅咲きのウィナーもいた。
傍目には順風満帆なスコットも、今回の読書で、苦労人だったことを知った。生活保護の家庭で幼少期を過ごし、長く母の介護に従事した。
苦しみが標準装備された子供時代だったのだ。それを、非行に走るのでなく、競技へと昇華させていったのは、周囲の環境や出会いに恵まれていたのだろうが、本人の真摯な生き方が、チャンスと幸運を手繰り寄せていったんだろうと思う。
食事へのこだわりは多くのウルトラランナーに影響を与えた。そのルーツは料理人だった母からの影響があり、かつ介護する中で自ら得ていったスキルでもあった。
いいかげんな食生活を反省する契機になりそうだ。
また、私にも適性があるんだなと再認識させてもらえる読書にもなった。よく、自分は哲学者や宗教家に向いていたのではないかと思ったものだったが、その特質はそのままウルトラランナーにも当てはまるのである。
長い自問自答、地獄のような悪魔との駆け引き。こういうことを楽しめるなら、そう、ウルトラを走らないわけにはいかないのだ。トレイルランニングが修験道に通じているように感じるのも、同じ理由かもしれない。
コロナ禍で目標が失われ、意気消沈している昨今だが、いまいちど自らを立て直し、スタート地点へ向かおうと思う。大切なのはレースそのものでなく、諦めずにリスタートすること、時間を作ろうとする日々のたゆまぬルーティンのはずだ。
そういうことを再び気づかせてくれる読書になった。
