ある程度名の通った作家だけれど、初めて手にした。地元の山が題材になっていて興味を持った。芥川賞作を読破していこうというここ数年のマイブームにも合致していたし、読むのを楽しみにしながら積ん読していた。
若くして作家デビューしながら、長らく沈黙した後、老年期に差し掛かって芥川賞という特異な経歴を持つ書き手。それだけに『月山』を読んでいてその背景が気になって仕方なかった。山奥の破れ寺で冬を越そうとする「わたし」とは何者なのか、と。
ですます調での語り口は新鮮だったが、その淡く優しげな文体の裏に、呻吟する毒虫みたいな何かを嗅ぎ取ったのは私の勘ぐり過ぎだろうか。
『鳥海山』においては電車内での描写に鳥肌たつようなものを感じた。
レールを踏む音が『もどき、だまし』と聞こえ出す。そのリズムに読む側も捕らわれていき、幽玄の作風に酩酊させられた。
解説を読み、“幽玄”を意図したものらしいと知った。長い長い絶筆の間、どのような曲折を経てきた人なのだろう。
その背後にあるものの底深さに、怖いもの見たさがそそられるのだった。
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