帰宅途中に通過する地下街の催事場でみつけた。
地元の、ローカルな出版社のものを、東京都心でみつける。それは異国で日本人に会うようなもので、つい無条件に親しみを抱いてしまう。しかも秋田・川反といえば私の故郷から徒歩数分の場所。よくよく内容も確認せずに買い求めた。捨て値の古本ではなかったのだが、ダボハゼというやつだ。
自費出版であろう。自己満足のためのみに出版された本だと言って差し支えない。著者はご年輩の医師で、感傷の慰みに散財したのだろうか。読んでもらって何かの役に立ててもらおうとかいうサービス精神も努力も費やされてはいない。身近な同僚や関係者が『懐かしいね』と軽い感慨を持つ程度の内容だ。
図書館や教育委員会、あるいは郷土史家を訪ねて取材すれば、それなりの情報は集まったかもしれぬが、著者は知り合いや店の人にちょっと会って話を聞くのみで、『詳しくはわからなかった。まあ仕方ないでしょ』というスタンスなのだ。寄贈された読者ならともかく、中には題名に惹かれて購入した読者もいただろうから、これはあまりに手抜きだと腹を立てられてもおかしくない。
ダボハゼしないように、気をつけようと反省した。旧友に会って意気投合した気がして、なんてこともありがちだが、思い出や贔屓目が現実を補整してしまうことを忘れてはならない。
私自身、本書で取り上げられた歓楽街とは縁のある人間なので、この肩透かしは痛かった。昔はそんなに栄えていたのか、という感慨はあったが、品のない文体にも辟易した。
