
感情移入できていない登場人物たちの大河ドラマは、録画していても(たまに観るような不真面目な向き合い方では流れに乗れず)、そのうち興味を失ってしまうことが少なくない。最近だと『いだてん』がそうだった。
しかし本作は、ドラマ化すれば1年はかかりそうな内容ながら、ときどき思い出したように続きを読んでも、面白くその世界観に戻ることができた。私が項羽や劉邦に全く感情移入していないにも関わらずだ。
これは驚くべきことだ。司馬遼太郎の筆力の為せる業ということだが、その魅力はどこにあるのか考えてみた。
一つは、丁寧かつ無駄の無い解説と振り返りだ。ときどき、上巻で描かれたエピソードが、さりげなく回想または説明され、不真面目な読者も「おぉ、そうであった」と想起しつつ新たな展開へと入っていける。
もう一つは、歴史の大河を泳がせてくれる作風、いわば司馬遼太郎節とでも呼ぶべきものだ。楽しみながらも、その学識・含蓄溢れた歴史観に学び、追体験し、現今の何事かと重ね合わせたり、何事かを客体化する助けとなっている。
娯楽的な小説として楽しめるのだけれど、消費されて終わるほど浅薄ではない。マンガや映画の原作に用いられるのも頷ける。人物は緻密に描かれるかに見えて、特定のイメージを強制はしないよう、キャラ化は避けられている。
読む者が脳内で完成させるよう企図したか。あるいはマンガや映画化も意識した結果かもしれない。いずれにせよ、語り手と主要な登場人物の距離感は、この手の作品として、手本といっていい絶妙さだろう。
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