これも過去の芥川賞を読んでみようという意図の下、アマゾンで見つけて入手した本。
どこへ行ってもずらっと並んでいて、キヨスクでも売っている松本清張。いまだにドラマがテレビでやってる流行作家。それだけで長らく私の手が伸びない作家だったが、実は芥川賞作家なのである。意外な盲点だった。
本書は宮部みゆきがチョイスした短篇集であり、純文学、時代小説風のもの、社会派推理小説がバランスよく編まれていて、初めて読む私にはちょうど良さそうだった。
芥川賞作は『或る「小倉日記伝」』といい、鴎外の「小倉日記」を研究する市井の人を描き、その地味で堅実な執筆のされ方には驚いた。
淡々と、丁寧に描かれるが展開に面白みはなく、それこそ鴎外の作品のような読後感。なぜこういう作品で世に出た人が、週刊誌に連載する作家になっていったのか不思議だが、どうやら受賞後に発表した短編の評判が芳しくなかったらしい。元来純文学をやろうとした人のようだが、しかし評判が良くなかったからといって推理小説に転じて稀代の売れっ子作家になるのだから器用な人である。
何らかの事件に取材し、丹念に下調べして描かれる、いわゆる社会派推理小説。その丹念さに敬服しつつ、ふむふむと読ませる巧みな文体なのだが、なぜだか熱中して読み込めなかった。つまみ食いしても途中で積ん読しても気にならないのだ。
それだけ印象に残らない作品なのかもしれないが、通勤電車で頭を使わずに、それなりに面白くて知的欲求を軽く満たしてくれそうな小説、であろう。日本のサラリーマンには必要とされ歓迎され続けたのもわからなくはない。
