よい子の読書感想文 

読書感想文793

『新世紀エヴァンゲリオン』( 庵野秀明原作・監督 )

 映像作品の感想は、原則ここに載せないのだが「自分ひとりが読むのは勿体ない」と言ってくれる人があり、個人的にメールした感想をこちらに転載することとした。
 なお、私はリアルタイムでは『エヴァンゲリオン』に接しておらず、初めて観たのが昨年NHKで放映された劇場版(序・破・Q)だった。
 その不可解さに、物足りなさ半分、興味半分を覚え、従来からのファンである人に質問をするうち、アニメ版を見てみることを薦められ、こうして感想を書いた、という顛末だ。
 さまざまな評論が出ているのだろうが、それらは敢えて読んでいない。製作現場を取材したドキュメンタリーは、BSで再放送されたが、これも録画だけして、観る前に感想を書いた。とりあえず自分のまっさらな印象をまとめてみた。

世界観:
オウム真理教及び『エホバの証人』のそれに類似。テレビ放映が地下鉄サリン事件の年と一致しているのは偶然ではないと思量。1999年に向けて、時代が要請していた世界観だったのだろう。
なんらの救いもないが、あと数年早く世に出ていたら、オウム真理教に傾倒した若者の幾人かは、破滅志向を『ヱヴァンゲリヲン』というエンターテイメントの中で昇華し得ていたかもしれない。(アフター・オウムの世代には、良くも悪くもガス抜きになったのかも)

使徒:
繰り返される戦争を暗喩しているのかと推量。人類は戦争により科学を発展させてきたが、滅亡へも近づいていくというパラドクス。
ハッキングする使徒、心を乗っ取る使徒もおり、未来の戦争を示す先見性に驚いた。

下地:
機動戦士ガンダム+不思議の海のナディア
バックボーンには旧約聖書と新訳聖書があって、キリスト再誕のプログラムをオウム真理教やエホバ的に解釈。その意味でカルト的

物語構成:
伝統的なエディプスコンプレックスをベースとしながら、自己同一性の問題を執拗に提起。その意味で大人の観るアニメではないと感じた。(10代の多感な時期に観たら、影響を受けただろうなと思う)
シャアとララァとアムロのエピソードを翻案したようなもの。あえてガンダムと同じ土俵で勝負したのは自信の現れか、「こうすれば売れる」という打算か。

総評:
○同年代にファンが多いのに私は観る機会がなかった。それは私が自衛隊の高校にいたころ放映されたからなんだなと知った(テレビは学年に1台しかなく、私はわずかな余暇時間は読書に費やした)。
まさに私は碇シンジのような年齢で軍隊に入っていて、そのことにより「エヴァンゲリオン」に出会わなかった。
でも、それで良かったと思う。当時、16歳くらいで観ていたら全身全霊で受け入れてしまい、人生に影響を与えていただろう。(私は私で、碇シンジみたいな特異な青春をリアルに送っていたわけで、この作品を受け入れていたら容量オーバーで壊れていたかもしれない。あの学校は旧海軍の亡霊が生きていて、ネルフ並かそれ以上に特殊だった。)
○25話26話は不毛だった。作品として手抜きに思えたし、人類補完計画というのが独善的で、やはり世界観にオウム真理教やエホバとの共通点を見いだしてしまう。
○若者向けとはいえ、10代から20代後半くらいまでをカバーできるよう人物設定されていて、これはガンダムに匹敵。
いわゆる萌え要素もあり、そういう部分でのファンもいるんだろう。綾波レイはララァの再来のようで、男心をくすぐる設定をされているし、アスカのキャラも(つらい子供時代を過ごした人に)強く共感を与えるだろう。
○異常さや特異さに翻弄される中、葛城3佐はカメラアングルや座標軸みたいな役割を果たし、大切な存在だと感じた。小説なら語り手の立ち位置か。
○碇ゲンドウには男としても人間としても魅力が感じられない(何も描かれてないから仕方ないが)。また教祖的なカリスマ性もなく、それがいっそう人類補完計画とかを荒唐無稽に感じさせる。
○多くの人が死んでいるはずなのに、残酷な、悲惨な場面を描かないのは戦いを綺麗事にしてしまい、若い人に悪影響だと残念に思う。ダークなファンタジーとして暗い雰囲気をまとっているが、本当の暗さから逃げている。
○謎、不可解さ、こういったミッシングリンクが作品を構成する一要素になっている。不備のようでいて、観るものに考えさせることで、余韻を長く楽しめる造りにはなっている。
○解釈の余地が敢えて残されている。日常生活で咀嚼することで、個人は各個人ごとに何かの気づきを得る。そういう影響力を持っていること。その点が村上春樹の作品に似ていると感じた(荒唐無稽さ、伏線を張りっぱなしなところも含めて)。
悪く言えば、そういうアシストがないと自らのアイデンティティーを描けない人を惹き付けてしまうのかも。作品が、上手く、軽妙にアシストしてくれるから。(自戒を込めて)


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