四月の終わり、小諸の中棚荘を訪ねた。藤村ゆかりのこの宿は、ほのぼのとした温泉宿だ。このぐらいの季節は、敷地内の八重桜や辛夷(こぶし)などが見ごろで、なかなか美しい。
千曲川の河岸段丘にあるこの温泉宿は、その一番上の段丘に、「初恋りんご風呂」と銘打たれた温泉がある。山頭火の紀行にも、中棚鉱泉としてその名がみえるこの温泉は、ガツンとパンチのある温泉ではないが、のんびりまったりと過ごすには、最適のような気がする。この日、まだ内風呂はりんご風呂だった。山頭火と中棚鉱泉についてはまた別の機会に書くこともあると思う。
内湯のりんご風呂もよいのだが、ぬるめの露天風呂に入って、木漏れ日をあびて、ゆっくり浸かっていると、日々のくだらないことがお湯に溶けていくような思いがする。露天風呂から遠く見える千曲川の景色も素敵だ。
この宿では、2002年ごろからぶどうの栽培を手掛けており、そのぶどうを使って作られた「御牧ケ原メルロー」と「御牧ケ原シャルドネ」というワインを中棚荘名義で出している。最近、対岸にジオヒルズというワイナリーを開いたらしい。
これまでは近隣のワイナリーでの委託生産だったらしいが、新しいワイナリーで醸造するメルローの味はどのようなものになるだろうと想像すると、少し興味がある。そういうわけでワインができるころ、また再訪することになるだろうと思う。