改定障害者総合支援法の成立にあたって(声明)
2016年5月25日、第190回常会において、障害者総合支援法(障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)等の見直し法案が可決・成立した。当会はこれについて、強く抗議の意を表明するとともに、その問題点とわたしたちの見解を以下に示すものである。
まずなによりも、国の基本姿勢の問題点を指摘しておきたい。
そもそも2013年に障害者自立支援法をほぼ名前を変えただけで施行された障害者総合支援法は、2010年1月に障害者自立支援法違憲訴訟団と国とのあいだで交わされた「基本合意」や、内閣府に設置された障がい者制度改革推進会議が2012年8月にまとめた「骨格提言」をまったくと言っていいほど反映していない。
そして、同法の附則に規定された3年後の見直しにあたる今回の改定にあたっても、「基本合意」や「骨格提言」がまたもや無視され、障害のある国民と政府との約束が完全に裏切られ、むしろ遠のいた感さえするのである。5月11日の衆議院厚生労働委員会では、塩崎厚生労働大臣が「基本合意」の全文を読んでいないことを明らかにした。これは、障害者政策にとりくむ現政権の基本姿勢を如実に表しており、こうした立場では国民の信頼をもとに責任をもって施策を推進できるはずがない。
次に、改定された法律の内容についてである。本年1月4日、安倍首相自ら施政方針演説で強調したように、今回の改定案では自立生活援助や職場定着支援など新規事業が創設されたが、これらの事業も障害のある人が置かれている実情や願いからすればほんの些細な改善と言える。全体として介護保険サービスとの統合への「地ならし」「布石」、あるいは障害者自立支援法への「回帰」「復活」としか言いようがないものが目に付く。これでは「改正」というより、徐々に「改悪」へ向かっていると危惧されても致し方あるまい。
また、いわゆる「65歳問題」で矛盾が露呈している介護保険優先原則(同法7条関係)を解消するのではなく、障害福祉サービス事業所が介護保険サービス事業所の指定を受けることで、問題の本質をすり替え、介護保険との統合に向けての既成事実をつくる方法は、今回の改定の特徴そのものである。さらに、「自立生活」の名のもとに、障害支援区分の低い者をひとり暮らしさせて重度障害者のためにグループホームを空室にするという方法も、まさに障害者の自立を単に形式化するだけで、真の自立支援に結びつくとはとうてい思えない。3年前にケアホームをグループホームに一元化し、重度障害者に対する支援が薄められて施行された本法だけに、詳しくは今後「政令で定める」と随所に規定されており、改定法そのものに対する信用がもてないのである。それを裏付けるように、付帯決議は衆議院で10項目、参議院で17項目が決議されている。法案成立にあたり、これほどの課題を残すのであれば、もっと慎重に深く審議すべきではなかったのか、立法府に対する疑念も晴れない。
なによりも、国は本法案が上程される前段より、財政制度等審議会が、障害福祉サービスの利用者負担について、軽減措置の経過措置の廃止をあからさまに主張したり、最近では厚生労働省内に設置されている「新たな福祉サービスのシステム等のあり方検討」プロジェクトチームが、露骨に介護保険サービスと障害福祉サービスの事業所兼用の方針を打ち出すなど、「基本合意」や「骨格提言」とは真逆の施策を平気で方向付けしている。
つまりは、今回の法改定の真の目的も財政の効率化であり、障害者の自立支援というよりは公的責任の後退と放棄であり、憲法25条の見直しが国の究極のねらいであるとするならば、今回の法改定はその序の口に過ぎないと言える。最後にこの点を指摘し、わたしたちは引き続き憲法25条を守り、障害者権利条約に依って立つ施策の実現をめざして、今後もさらに前進する決意を表明するものである。
2016年5月25日 きょうされん常任理事会
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