引用複雑な外国メディアとの関係
こうしたいわば「国と国との関係」と並行する形で問われるのがメディア,とりわけ国
境を越える外国からの電波と当該国との関係である。
NHKは1984(昭和59)年の試験放送を経て,1989(平成1)年から衛星2波による24時間衛星放送を開始した。当時,衛星放送は衛星からの電波が自国領土の外に漏れ,第3国で受信される「スピルオーバー」という問題を惹起したが,近年の放送技術の向上やデジタル化によって課題は徐々に克服され,伝送コストが安いこともあって発展途上国のなかにも衛星放送を導入する国が飛躍的に増えた。
電波が国境を越える放送のボーダーレス化は文化の交流という効果をもたらし,近隣国のテレビ番組も見たいという市民の率直な感覚が「スピルオーバー」の問題を飲み込んで
いった。が,同時に文化の「侵入」,国によっては「identity crisis」という負の効果を指摘す
る声もあり,人命救助を最優先して行われる国境を越えた災害警報放送を被災国が受け入れるかどうかという問題が新たに生じている。
この外国の放送機関との関係をどうするかという問題はモーリシャスで開かれた2回目
の国際調整会議でも取り上げられた。会議に出席した日本代表によると,多くのインド洋
沿岸の国からは気象庁からの「参考情報」を評価・歓迎するという発言があったなかで,例
えば12月26日の大津波でタイのリゾートなどで多くの自国民が犠牲になった北欧の代表か
らは「大規模災害が予想される警報が出された場合,その情報は全世界が共有すべきだ。
警報を出した国は国の義務として全世界のメディアに連絡すべきだ。そうすれぱ各国は直
接,自国民が多く滞在しているリゾートなどにも警報を伝えられる」という趣旨の意見が開
陳された。これに対してタイの代表からは「国の義務として全世界のメディアに連絡すると
いうのは費用や態勢などの問題があって不可能だ」という発言があったという。
また,インドの代表からは「外国からの情報は有難いが,インドとしては自国の判断で
警報を出すかどうかを決めることにしている。実際3月29日には自国の判断で警報は出
さなかった。外国メディアの情報が一方的にインド国内に流れてパニックになると困る」
という発言があったという。このインド代表の発言の背景には,国内の政治・社会情勢な
どからインドの放送機関には「国家の統合」や「地域の調和」などの分野に貢献する役割
が求められていることを反映して,自主性をもって対応したいというアイデンティティの
問題があるものと見られる。
このように”国益”や”面子”を心配したり気にかけたりするケースも少なくない。
このためNHKでは速報にあわせて「滞在国の情報にも注意してください」という付加情報
を流し,いたずらにパニックを引き起こさないための工夫や配慮をすることにしている、
また,気象庁は提供する情報はあくまでも「参考情報」であるとの立場から,国内向けの
警報や注意報のようにそれを解除することはしないとしている。これは,放送局にとって
はいつ(何時問後に)放送を打ち切るかということにも直結する。NHKは前回のインド洋大津波の時間経過を参考に,とりあえず地震発生から2時間半を目途に速報放送を打ち切ることにしているが,悩ましい課題である。<以上全文引用>
◇国境を越えるテレビの問題は、国際法の観点から、若干精緻に議論をするほうがよい。
相手国の同意が必要というDBS原http://www.oosa.unvienna.org/SpaceLaw/dbs.html
があります。実際、外国テレビの放送事業者に国内再送信を義務付けている国家実行を取る中華人民共和国のような例もあります。しかし、人権優先の観点から、相手国の国民の生命・財産を守る法益が、国家主権よりも優先する場合には、緊急避難としてこれを認める、事後に相手国に通知するということも認められる余地を残しておくことも検討する可能性が必要なのではないだろうか。但しその緊急避難といえるための基準を放送事業者がもてるかどうか、難しいですね。
追伸:インターネットのストリーミング放送の時期に直接衛星放送の話をするなんて思いもよらないかったです。
参考図書は以下の2冊 山本草二さんの凄さを感じます。
放送衛星 -その法制度的研究- 昭56
放送衛星をめぐる自由と規制 昭54