新・南大東島・沖縄の旅情・離島での生活・絶海の孤島では 2023年

2023年、11年振りに南大東島を再訪しました。その間、島の社会・生活がどのように変わっていったかを観察しました。

島の居酒屋・スナックの変遷

2023-06-10 19:27:40 | 旅行

 南大東島にはこれと言った娯楽施設は無く、住民にとっての楽しみは飲むことに集束される。居酒屋、スナックなどは住民同士の交流の場でもあるが、砂糖きび収穫のために来島した短期労働者にとっては息抜きの場となっている。1959年の「南大東村勢要覧」によれば、当時は飲食店が10軒、料亭が7軒があったと記録されている。時代は下って1970年に琉球政府が実施した「事業所基本調査調査票」によれば、料亭を含む飲食店は13軒が営業していたという。ここで飲食店とあるのは単に食事を提供するだけではなく、酒類を提供する居酒屋、スナックであると考えて良いであろう。このように、多くの飲食店が開業していたが、これは沖縄の離島に共通する社会慣習である。
 今回旅行した2023年には、飲食店、居酒屋、スナックなどの飲食、飲酒を提供するサービス業は十数店舗が確認できた。2022年3月現在で島の人口は1190人であることから、人口比率にしたら百人に1軒の割合である。2021年に総理府統計局は、「人口千人当たりの飲食店数」を発表していて、全国平均は4.09店であった。同時に、人口千人当たりにある飲食店数が多い地域を市町村別にランキングしている。この発表によれば、東京都千代田区では人口千人当たりの飲食店数は45.4店となっていて全国トップである。続いて二位以下には京都市東山区、大阪府中央区などの都市部が続いている。上位を占める地域は大都会であり、これらの地域には周辺の地域から商用や観光で流入してくる人達が多いためであろう。南大東村における当該の比率は14.01店であり、全国1917市町村の内で第25位にランクされている。南大東村は観光地でもなく都会でもなく、島の飲食店を利用するのは地元の住民が殆どである。島の飲食店数が如何に多いかを理解できる(総理府統計局が指す飲食店とは、食品衛生法で保健所で認可した店舗を意味するものと思われる)。
 さて、前回の旅行から11年の間に島の飲食店がどの様に変化していったか、を考察することにした。参考にしたのは2012年の電話帳、2016年に観光協会が発行した観光案内のパンフレット、2020年に商工会が発行した観光案内のパンフレット、2023年に観光協会が発行した観光案内のパンフレットである。別表に店名を記入した一覧表を作成したが、入手した資料が限られるので、どこまで正確に再現できているのかは自信が無いが、ほぼ正しいと思われる。なお、表の中で「○」とあるのはパンフレットに店名が掲載されていた店舗で、「-」とあるのは掲載されていない店舗である。しかし、実際に営業しているかどうかとは別であり、「-」と記入してあっても営業している場合もあるため注意する必要がある。なお、地元の商工会、観光協会ではしばしば飲食店のパンフレットを制作するが、営業している店舗を掲載してなかったり、廃業した店舗を掲載していてあまり正確ではない。また、観光協会では飲食店を紹介するホームページを開設しているが、これが誠にいい加減で、古いデータのホームページと新しデータのホームページが両立していた。古いデータのホームページを削除してから新しいホームページを立ち上げなければならないのを怠ってしまったからである。或る面からするといい加減なことであるが、ノンビリした離島ではこのようないい加減さが通用してしまうようだ。私が2012年と2023年に歓楽街を観察したのが現調(現地調査)と表示してあり、聞き込みにより情報の正確性を補強した。ネットに開設された「食べロク」「楽天グルナビ」や旅行者が開設したブログなども検索し、営業しているかいないかを判断する参考にした。
 調査してみて驚いたのは、観光パンフレットには店舗の電話番号が掲載されているのだが、電話帳には掲載されていないことを見つけたことだった。「富士食堂の大東そば」「ちょうちん」「なすび」などは電話帳に電話番号が記載されていなかった。詳しく説明すると、電話帳に記載された固定電話の電話番号は経営者の個人名で登録されているのもあった。「すずめの学校」の電話番号は三島商事という企業名で掲載されていた。固定電話の基本料金が個人と法人とでは相違するため、料金を安くするためかと思われた。
 島の住人からすれば、電話帳に店名が登録されていなくても別に困ることはない。飲食や飲酒をしたくなったらその店にまで出かければ良いのである。何かの都合で休業していたり満員だったりしたら別の店に入ればいいだけのことである。狭い島のことであるから、予約などという面倒な作業は必要はないのである。
 前回の旅行から11年が経過して、経営者が高齢になったため廃業した店舗もあれば、経営が行き詰まってしまった店舗もある。島の人口は年々減少していて、マーケットは縮小している。そんな環境の下で飲食店を継続させるのは、本州で店舗を運営するよりも難しいかもしれない。
 以下、各店舗について、私が気付いた点を説明する。
 「居酒屋詠ちゃん」
  大詠商店が運営していた食堂と居酒屋を兼ねた店であった。県道から在所集落に入る四つ辻の角にあったスーパーの「大盛商店」は買収されて「大詠商店」に店名が変わった。それまで倉庫として使っていたスーパーと大東そばの間にある建物を改造して飲食店を開業したようだ。大詠商店の「詠」を取って「詠ちゃん」と名付けたようだ。しかし、大詠商店が2020年に買収され、店名がスーパーミナミに変わった時に閉店した。
 「サロン喜多」
  この店は歓楽街の通りに面しておらず、個人宅の庭のような細い路地を入った建物の2階にあった。通りには小さな看板が吊らされているだけなので、私は気がつかなかったので2回の旅行でも入店しなかった。店の造作は不明であるが、沖縄焼酎や泡盛を飲ませるスナックらしい。お店の歴史は長いようである。
 「喫茶ソロ」
  スロット店の2階にあった喫茶店である。前回の旅行の時には一応は看板は掲げられていたが既に休業状態であった。今回の旅行では看板も無くなり、廃業したことが明白になった。そもそも、人口の少ない離島で喫茶店が運営できるのか問題である。
 「なすび」
  スナック「ジャンジャン」の2階にある居酒屋なのだが、開業しているのかいないのか、私には認識できない店であった。「食べログ」などには入店したという投稿があるため、営業は続いているらしい。
 「NOMO」
  前回の旅行の時にはこの看板であったが、2018年頃に居抜きで譲渡され「のら」という店名に変更されていた。今回の旅行の時、入店しようとしたが、お祭りの期間中は休業するとのことで利用できなかった。2024年末に廃業するという情報が入った。
 「乱美」
  Aコープの建物に寄り添うように設置されたビアホールである。この店の歴史は古いようで、2011年の旅行者のブログには入店した、という投稿がある。前回の旅行の時には営業していたはずなのだが、存在が分からなかった。前回の旅行の際に入手した観光案内パンフレットには、この店名掲載されていなかったからである。JAおきなわの建物に接近して建てられていることからJAとは関係があるのかもしれない。パンフレットにある店の電話番号を検索すると、「JAおきなわ多目的ホール」という名称が抽出された。
 「金海」
 2019年12月に開業した居酒屋で、2020年の観光案内パンフレットには掲載されている。食べログなどでは2020年に入店した、という旅行者の投稿があったが、今回の旅行では確認できず、2021年頃には閉店したようである。
 「VIP.ROOM」
 2020年の観光案内パンフレットには「島唯一のダーツバー」と宣伝していたが、今回の旅行では見つけることができなかった。席数が17の小さなバーのようで、どうもスナックウエーブの建物の裏にあったらしい。本州で流行っているダーツバーを島で流行らせようとしたのだが、住人には関心を持たれなかったようで、早々と廃業したようだ。
 「チャンプルー亭」
  スーパーミナミの反対側にあった居酒屋である。前回の旅行の時は既に廃業していて、日に焼けた看板が掲げられていた。今回の旅行では「あがりじま」の店名で、沖縄民謡をライブする居酒屋として営業していた。SNSの「X」には自店のアカウントがあり、2014年に別の場所で開業していたのだが、2018年にここに移転したという。常時開業しているのではなさそうで、休業している日も多いようだ。
 なお、「金海」「VIP.ROOM」「のら」は短期間で撤退したが、これらの飲食店は2018年か19年に開業していた。そのため、2020年に発生したコロナウイルスの感染拡大の影響をもろに受け、営業の自粛をすることになった。休業保証金の支援もあったのだろうが、来店者が減少して経営的に成り立たなくなったのではないかと推測される。運が悪かった、と言わざると得ない。