リバーリバイバル研究所

川と生き物、そして人間生活との折り合いを研究しています。サツキマス研究会・リュウキュウアユ研究会

ガス自殺の巻き添え

2008-04-25 20:45:16 | アユの流し目/雑記帳
ホテルで硫化水素自殺か=男性客死亡-滋賀・湖南市(時事通信) - goo ニュース

 学生時代、ガス自殺の巻き添えになるところだった。

 その日は5月の土曜日だった。大学の2年の時のことだ。
潜水士のテストが翌日にあったボクは試験のテキストを懸命に暗記していた。潜水士のテストは国家試験だがそんなに難しいことはない。テキストを読んで、減圧の計算ができれば大丈夫といわれている。一日あればと思っていたら、前日の夜になった。

 ボクのアパートはボクの通う大学と隣にある私立大学の学生が半分づつ位住んでいた。新入生が入ってきたので、その夜は同じ階のメンバーが集まって飲み会をするという。ボクは翌日に試験があるので、これは固持して、ともかく、テキストを読んでいた。夜中になって、飲み会が終わりアパートは静かになった。

 何やら、臭いがする。プロパンガスの臭いだ。

ボク以外の連中は相当飲んでいたから誰かがガスを止め忘れたかと思った。

 寝ている連中をみんなたたき起こして、ガスの元栓を確認した。妙なことに、どの部屋もガスを使っていないという。一同、確認して、またみんなは寝てしまった。

 ボクはまだ勉強が終わらないし、寝てしまったら朝起きられそうもないので、朝までテキストを読んでいた。それにしても、いっこうにガスの臭いは弱くならない。

 空が白みかかるころ、廊下が騒がしくなった。人が行き来している。
廊下に顔を出すと、大家さんと救急隊員があわただしく動き回っていた。

 隣の部屋の窓が開け放たれ、隣人が横になっているのが見えた。何事かが起こっている。でも、誰も何もしていない。
 不思議に思って、救急隊員の方にどうして彼を運ばないのと尋ねると。
「変死だから警察が来るまで動かせない」と言った。

 ガスの臭いがしたとき、ボクは彼の部屋のドアを叩いて、彼を起こした。
 ボーと顔を出した彼に「ガス臭くないか」と尋ねたのだが、彼は(ガスを)使っていないと答えて、すぐに引っ込んでしまった。 その時、ぼんやりした彼をボクは酒に酔っているのかと思っていたのだが、彼は酒席にはいなくて、その時点ですでにガスの栓を開いていた。

 後で、大家さんから聞いたことだが。彼が自殺したのは、女性との交際を親に反対されたからだという。救急車が来たのは、彼の様子を案じて彼女が通報したからだった。アパートの窓から、見慣れない女性が佇んでいるのがみえた。その彼女だったのかもしれない。

 ボクはそのまま、テストを受けに行き、帰りに花を買って帰った。

まだ、開け放たれている彼の部屋に入って、花を飾った。
 部屋の中、ちょうど、ボクの部屋側の壁際にまだ新しい冷蔵庫があった。その当時、30年前、冷蔵庫はまだ高級品で全ての学生が持っているというものではなかった。

 冷蔵庫を見たボクは、戦慄した。
もし、冷蔵庫のスイッチが入ったらどうなっていたか?そう思ったからだ。

 冷蔵庫の扉を開けると、冷蔵庫の電源は入ったままだった。

 
 その日、明け方近くになって、5月にしては冷え込んだ朝だった。もし、暖かな朝が来て、充満したプロパンガスに冷蔵庫のサーモスタットの火花が飛んで引火したら!
 鉄筋ブロック積みのアパートは爆風で大破して、ボクも無事では済まなかっただろうと思う。そして、プロパン自殺では、自殺志願の本人よりも隣人が死んでいるケースが多いのだ。

 しばらく、冷蔵庫のドアを開けたままにしていたからなのだが、その時、冷蔵庫がうなりモーターが回りだした。

自殺する人間に隣人への配慮を求めること自体が無理なことかもしれない。
 しかし、ボクは、彼への哀れみという感情よりむしろ、怒りに近いような悲しみを感じていた。
 ボクは、自分の部屋に戻って、アルバート アイラーのゴーストを窓を開け放して流した。

☆テキスト版
ホテルで硫化水素自殺か=男性客死亡-滋賀・湖南市
2008年4月24日(木)23:30

* 時事通信

 24日午前11時ごろ、滋賀県湖南市のビジネスホテル客室で「異臭がしている」と110番があった。宿泊客の男性(33)が浴室で倒れており、搬送先の病院で死亡が確認された。両親や兄弟あての遺書3通が残されており、県警甲賀署は硫化水素ガスを発生させた自殺とみている。

 ガスを吸った従業員9人がのどの痛みや不快感を訴え、病院で手当てを受けた。 
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1 コメント

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Unknown (世界的教養人)
2008-04-27 10:26:49
やはりN先輩はは悪運が強いのか。そういうことがあったと聞いてはいたけど。
冷蔵庫をコントロールする回路の接点はリレーと呼ばれる部品で、いちおう半密閉状態だし、ガス濃度が高いとかえって爆発しない。水素だと、空気中では数パーセントの濃度の時に爆発し威力も大きい、濃度が濃すぎると爆破しない場合もあると燃焼科学の授業で習った。
案外怖いのは、自殺に限らずガス漏れに気づいて明かりをつけたり、換気扇、扇風機などで排気しようとして爆発してしまうということもあるそうな。冷蔵庫や照明器具でも防爆型というものがある。有機溶媒などを保存するときや場所に使うそうな。
消防署が埋め立て地で家(といっても掘っ立て小屋)をプロパンガスで爆発させる実験を実際に見たけど、最初はガス濃度を高くしすぎていくら点火しても爆発しなかった。その後、ガス濃度を大きく下げたら何度目かでやっと爆発した。それでも凄かった。一瞬家がふくらんで炎が噴出した。コンクリートの部屋なら、もっと凄い破壊力になる。爆発は、強固なケースに入れて行わなければ大きな破壊力は得られない。
TNTなんかも、少量を開放された状態で火を付けてもブスブス燃える程度だという。鉱山などで使うアンホという爆薬を使っているところを見せてもらったけど、やはり開放された状態では火さえつかないそうな。(ただ、山積みにした状態では恐ろしいことになるらしい。)それを岩盤にあけた穴に充填して、起爆させるとやっと爆発する。
自殺のことを自死と言い換える(言い繕う?)ことがある。私はそれに大きな抵抗を感じる。自殺は他人を巻き込むことも含めていろいろな意味で大罪だと思う。
Nさんが棲んでいたナントカ学生寮は、このあいだ前を通ったときにはナントカマンションとかに名前を変えて、外壁も暖色系の色に塗り替えられていた。
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