【佐藤】ワシントンの視点にたてば、この戦いはウクライナとロシアの間接戦争でした。それがいまや、ウクライナ・西側連合対ロシアの直接対決に近づいています。そのプロセスで、アメリカは、今回の戦争が「使える」ことに気づいたのだと思います。ウクライナでの戦争が長引けば長引くほど、ロシアは疲弊していく!
ウクライナに戦わせることで「ロシアの弱体化」を狙う
【佐藤】しかも、アメリカが現地に送っているのは兵器のみで、自らの将兵の血を流すことはありません。戦争で死ぬのは、両軍兵士とウクライナの民間人だけです。誤解を恐れずに言えば、アメリカは、ウクライナをけしかけて戦わせることで、「ならず者」ロシアの弱体化を実現することができるわけです。
フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッドは、「ロシアに対する経済制裁によって、ヨーロッパ経済、とくにドイツ経済が麻痺していくことについても、ひそやかに満足感を味わっていることでしょう」と『第三次世界大戦はもう始まっている』(著・エマニュエル・トッド、翻訳・大野舞、2022年、文春新書)のなかで指摘しています。ドイツはウクライナ支援のための軍事支出を増やさなければならないのみならず、ロシアから得られなくなった天然ガスに相当するLNG(液化天然ガス)をアメリカから高い値段で買わなくてはなりません。この戦争によってドイツが弱体化するというトッドの指摘は鋭いと思います。
「アメリカにより管理された戦争」
【手嶋】佐藤さんはモスクワで、私はワシントンで、永きにわたった東西冷戦の終焉を見届けました。あのとき、超大国アメリカは、民主主義が勝利して自由の理念に世界が染めあげられていくというユーフォリアに包まれていました。しかし、いまやプーチンのロシアが力で隣国の領土を奪い、ドイツもその引力に引き寄せられているように見えた。そんな“プーチンのロシア”をイラクやアフガンでの戦争のようにアメリカ兵の血を流さずに弱体化させることができる、そう考えている。
【佐藤】ですから私は、この戦争を、「アメリカにより管理された戦争」と呼んでいます。供与する武器は、手を替え品を替え、NATO諸国もコントロールしながら、秩序に逆らったロシアの侵攻を食い止める。しかし、ウクライナに第三次世界大戦のレッドラインは、絶対に越えさせない。繰り返しになりますが、この戦争におけるアメリカの真の目的は、ロシアの弱体化です。ウクライナは、その道具に過ぎません。