2012年から始まった日本最初の本格的ダムの撤去工事、荒瀬ダム(球磨川)のよみがえって流れに川の未来の姿を重ねてみるのだ。
ダムの未来
万物には寿命がある。迫り来るのは老朽化だ。一説には七十年といわれるコンクリートの耐用年数。時をへたダムにはどんな未来が待つのか。三月には姿を消すというダムを球磨川(くまがわ、熊本県)に訪ねた。
荒瀬ダムは熊本県が電力の安定供給を目的に建設、一九五四年に竣工(しゅんこう)した、球磨川で最初のダムだ。以来、上下流での水害の増大、アユ漁などの衰退などの問題が生じる。解決を求めて地元、坂本村(現八代市)を中心としたダム撤去の声は高まり、二〇〇三年の水利権の更新を機に、一〇年のダム撤去が決まった。
ところが〇八年、県知事がかわり、工事費の高騰を理由にダム撤去の計画は凍結される。しかし、球磨川の流れを取り返したいという流域の市民らの声は大きく、曲折を経て県知事は一〇年二月、ダム撤去の決定を行った。
高さ二十五㍍という本格的なダムとしては日本初となる撤去工事は一二年から開始され、三月、最後の門柱が撤去される。
地元八代市で球磨川と係わり、荒瀬ダム撤去の運動を担った、つる詳子さんと川を巡った。
最初に案内された河口域には広大な干潟が広がる。砂が戻りアナジャコ漁の漁場が広がり、回復した藻場では伝統のウナギ漁(たかんぽ漁)が復活したという。
上流に移動し、荒瀬ダムを望む場所で昼食をとった。眼下には流れを取り戻した早瀬が見える。
「私も、ダム撤去の工事現場よりも早瀬に眼がいってしまうのよ」。つるさんがそう笑った。
ダムに豊かな未来を見た時代は確かにあった。しかし、川には山からの土砂を海に運んで国土を育て、魚たちの生活場所として地域を富ませる機能がある。川には、川にしかできない仕事があるのだ。
ダムの未来ではなく、川の未来を見たい。球磨川の、よみがえった流れを見てそう思った。(魚類生態写真家)
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