いつの頃からか、沖縄に行くとほとんど観光はせずひたすら食べ歩くようになりました。そんな美味しいものが溢れる沖縄の料理を教えてくれる先生が新たに加わったとニキさんから連絡をいただいて、いてもたってもいられず会いに行ってきました。
待望の先生、具志堅良子さんは、ゆんたく(おしゃべり)が好きでチャーミングなあんまー(おかあさん)。普段は那覇で暮らしていて、月に一度、大学に通うために一人暮らしをしているお子さんの世話をするために東京に来ているのだとか。なので、料理を教えるのはお子さんが住んでいるワンルームマンション。「狭くてごめんなさいね」とおっしゃいますが、具志堅さんは下準備も完璧に整えて手際よく調理するので、狭さを感じません。これも料理の腕前のうち、さすがです。
今回ごちそうになったのは、沖縄定番の炊き込みごはんのジューシー、皮付きの豚の三枚肉を煮たいラフテー、昆布を炒め煮したクーブイリチー、おふを使ったフーイリチー、具だくさんの沖縄味噌汁。炭水化物をこよなく愛する僕としては、ジューシーにもかなりこだわりがあるのですが、具志堅さんのジューシーは絶品です。しっかり出汁の旨味が感じられるごはんは、しっとりしていながらパラパラで軽い食感。まさに理想的な炊き上がりです。
ジューシーを炊くときには、豚のゆで汁を使います。だから、沖縄でも家庭では本格的なジューシーはそうそう頻繁には作らないのだとか。ラフテーを作るのにかたまりの豚肉を茹でたときに、その茹で汁で炊くのだそうです。レトルトパックのジューシーの素もありますが、やっぱり豚肉のゆで汁で炊くジューシーとは仕上がりが全然違います。
ラフテーもしっとりトロトロです。箸をあてただけでほろりと崩れるほど。僕もこれまでに何度も作ったことはありますが、肉が硬かったり、味が抜けてぼそぼそだったりで、まったくの別物でした。具志堅さんによると、美味しく煮るポイントは下茹でだそうです。豚肉を大きな塊のままじっくり茹で、その茹で汁に浸した状態で肉を冷まして、そのまま半日以上置くのだそうです。そうすることで、味をつけて煮込んでも硬くならず、余分な脂が抜けてさっぱりした味わいになるのだとか。
「圧力鍋を使ったら早く柔らかくなりますけど、フタをしないで煮た方が肉のくさみが残らないので、私は圧力鍋は使わず、鍋でゆっくり煮ていきます」。そのため、十分な時間が取れないときには、ラフテーは作らないのだとか。そこまで徹底することで、繊細な味になるのでしょう。
豚肉を下茹でする汁は丁寧に灰汁を取り、肉を取り出した後にしっかりと油を取り除き、キッチンペーパーで濾して透明なスープに。このスープはジューシーや炒め物など様々な料理に使用します。
沖縄で豚出汁とともに重要なのが鰹出汁です。具志堅さんは鰹出汁も削り節から引きます。沖縄から送ったという食材を詰めた箱の中に、愛用の削り節もありました。具志堅さんがいつも使っているのは、血合いのついた厚削りのもの。濃厚なうまみと香りを引き出すには、その削り節が必須なのだとか。
沖縄にはカチューユという味噌汁のような料理があるのですが、それはお椀にたっぷりの削り節と味噌を入れ、湯を注いでその味噌を溶くだけ。超お手軽ですが、手抜き料理ではなく、昔から愛され続けています。そんなカチューユにも、こうした厚削りの削り節が合うと言われています。
「なにも特別なものは使っていないんですよ」と言う具志堅さん。たしかに、厚削りの削り節や、塩気を抑えた醤油を使ってはいるけど、どれも高級品ではありません。沖縄から持参した皮付きの三枚肉も、特別なブランド豚ではなく、沖縄では普通に売られているもの。「肉と脂身のバランスをしっかり見て、脂身が多すぎないものを選ぶようにはしていますけど」。琉球料理は、特別な食材や調味料ではなく、じっくりと手間をかけることで美味しくなるようです。
ちなみに、沖縄の肉屋やスーパーでは豚は皮つきでの販売が基本です。これは熱い蒸気を当てて毛を抜く湯はぎという処理を行っているのですが、毛が残ることがあるためきれいに処理するには手間がかかります。そのため、沖縄以外の地域では皮ごとはぐのが一般的で、これは各小売店での処理ではなく、市場に出る前になされているので、皮つきの三枚肉は内地ではほとんど流通していません。おいしいのにね。残念です。
<筆者 写真 とらお>