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洋蘭の女王カトレアのデータベース(主に大輪系交配種)&育種交配・実生の魅力をご紹介

講演会「長期間開花する大輪系交配種カトレアの意図的作出の試み」

2024年08月18日 21時15分58秒 | ■講演会
(※この記事はお盆休み中のアップでしたので見逃した方もおられるかと思い、再アップさせていただきます)
 皆様、連日、猛暑日が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか?
 私の方は、有り難いことに幸運にも地元の植物園の観賞温室の管理運営等に携わる仕事に就くことができ、その温室の鑑賞価値の向上と差異化要素の創出(特色づくり)を目的に、まずは1輪でもよいので“年中、大輪のカトレヤの花が見られる温室にしたい!”との思いで奮闘中です。
 さて、そのような中、かねてよりご縁をいただいており、このカトログの記事にも多大なるお力添えをいただいておりました育種家の進藤瑞生さん(カトログでの四国巡礼さん)著「長期間開花する大輪系交配種カトレアの意図的作出の試み」を掲載させていただける機会を得ましたのでご覧下さい。
 なお、この記事を公開する目的は、このカトログの運営目的にもある「(4)大輪系カトレヤ交配種の価値と人気の維持・向上への貢献」にも合致いたしますため、この記事の内容にご興味をお持ち下さり、この試みに取り組んでみたいと思われた方には、プロ・アマ問わず、進藤さんにお繋ぎしたいと思いますので、ぜひご連絡ください(連絡先メールアドレス:s-nishi@kobe-catv.ne.jp)

長期間開花する大輪系交配種カトレアの意図的作出の試み
著者:進藤瑞生さん
 ひと月半を過ぎても未だ咲いている・・・!  50日を過ぎても尚しっかりと咲いている・・・!!
驚きと期待で、それ以降は毎日毎朝ワクワクドキドキしながら3個体の開花状態を見守ってきました。以前から開花期間の長そうな私の作出したC. Sunnystate’s Grand の3個体が何となく気にかかり、2019年のシーズンに最後まで咲かせ切ってみることにしたところ、何れも2ヶ月間(64,63,及び60日)しっかりと開花していました。大輪系の交配種のカトレアがこんなにも長い間開花しているなんて思いもしなかっただけに、新鮮な驚きでした。
 大輪系の交配種カトレアを栽培し始めてから早30年が過ぎましたが、この日までこれ等の開花期間はほぼ30日前後で、胡蝶蘭やシンビジューム、デンドロビューム等とは異なり、2ヶ月前後の長期に亘って開花させるような遺伝子は持ち合わせていないものと思い込んで来ただけに、私にとっては衝撃的な出来事でした。“大輪系の交配種カトレアにも少なくとも2ヶ月前後は開花させる遺伝子は間違いなく存在する!”と、はっきりと感じた瞬間でした。ベールに包まれていた素顔をちらっと覗かせてくれた、そんな思いで感慨深く見つめていたことを思い出します。

 凡そ30年前、とある大きな花屋さんで突然カトレアを扱わなくなると言う出来事に遭遇しました。理由を尋ねたところ、他の洋蘭に比べ花持ちが悪く、客からのクレームが増えたこと、売れる前に花が終わってしまうことが多く採算的に面白くないこと、等が返ってきました。当時の私にとっては生きた花を直に見て手当てできる唯一のお店でしたので、大変なショックでした。交配はこの出来事が切っ掛けで、“欲しい花が手に入り難いのであれば自分で作ろう!”と始めたのですが、それからもう20年が過ぎました。花容中心の新花作出を楽しみながらも、この時の“花持ちの悪さ”の話が心の何処かにずっと引っ掛かっていましたので、この3個体の結果はモヤモヤしていた気持ちが一気に吹ききれ、目の前が開けた思いでした。

 以来、私の交配の興味の対象は、花容中心から “花容プラス花持ち”にシフトすることになりましたが、その手始めはこの3個体の結果が翌年以降もしっかりと再現できるのかどうかの確認でした。この3個体の持つ長期開花能力の拠って来るルーツが祖先の持つ能力に由来するものなのか、それとも交配を重ねる過程でこの種が特異的に獲得した能力なのかは全く分かりませんが、取り敢えずこの3個体の再現性のチェックを行ってみることとし、更に一歩進めて、市場に流通する大輪系交配種カトレアの開花期間についても改めてその実態を把握してみることとしました。

 ここでは、3個体の再現性チェックの結果と、市場に流通するその他の膨大な大輪系交配種カトレアの内、手元にある幾つかの気に掛かっていたもの、確認しておきたいもの、等を中心に開花期間のチェックを行った結果について報告するとともに、一歩進めて、2ヶ月前後以上の長期開花期間を持つ大輪系交配種カトレアを“意図的に作出”する可能性について探ってみた結果についても併せて報告します。
 図-1.には参考までにC. Sunnystate's Grand 3個体の画像を示しました。

図-1. C. Sunnystate’s Grand(Orglade’s Grand x Horace)の3個体

‘Winter Delight’ 63日間開花)


‘Mieshia’ 64日間開花)


‘Yukiko’ 60日間開花)

1. 検討結果
1-1. 対象株及び評価方法
<対象株の選定>

 現状ではメリクロンを行うことが長期開花能力の遺伝に影響があるか否か分かりませんので、チェックを行う対象株には極力オリジナル株を使用することとしました。 又、出来る限りしっかりとした株を選ぶこととし、晩秋から冬咲きを中心に以下の基準で選抜したものを使用しました。
 *以前から気に掛かっていたもの
 *この際確認しておきたいもの(ex. 有名個体等)
 *出来る限り兄弟個体のあるもの
 *片親が共通するもの
対象株が実生株に付いては、花容中心で1次選抜された株を対象として用いることとしました。

<開花日数の判断>
開花開始日については、蕾が開き始めた日、終了日は観賞価値のある期間を念頭に置き、花茎中のどれか1輪のドーサルセパルが透けだした日としました。(ペタルが抱えだすのは概ねそれから3~5日後位でした。)
図-2.には参考までにその状況を示しました。

図-2. 開花開始及び終了時の判定
開花開始日・・・蕾が開き始めた日
開花終了日・・・同一花茎中のどれか1輪のドーサルセパルが透け始めた時


開花開始2日目


開花終了時

<開花期間(能力)の判定>
 栽培環境
については、栽培温室の冬季の夜間最低管理温度は15℃ですが、置かれている場所によっては多少差が有り、又、日中の日照環境にも多少の違いは有りました。又、対象株の準備の都合でチェック期間が3ヶ年に亘りましたので、年度によっては6~11月中旬にかけての栽培場所の日中の最高気温が35~40℃が可成り長く続く年も有ったり、冬期の日照条件も異なる等、年度の違いによっても栽培環境は必ずしも一定ではありませんでした。
その為開花期間(能力)の判定にはこれら変動要因も考慮して可成り幅を持たせ、私独自の下記基準での評価としました。

Cランク:開花期間30日前後程度以下(ほぼ一般的なレベル)

Bランク:開花期間40日前後(35~44日)程度 (比較的花持ちが良いレベル) 

Aランク:開花期間50日前後(45~54日)程度(1.5ヶ月強の開花能力を有するレベル)

Sランク:開花期間55~74日程度(2ヶ月前後強の開花能力を有するレベル)

SSランク:開花期間75日以上2.5ヶ月間以上の開花能力を有するレベル)


 このランク付けのベースは今回測定した開花日数の“実測値”ですので、この値は“少なくともこの日数は開花する能力がある”と言う事を示すものであって、その個体の開花能力の最高値(限界値)を示しているものではありません。前記変動要因如何によってはこの日数は若干変動しますので、このランク分けでは取り分け境界領域の開花日数を示した個体(例えば、43or44日間開花、Bランク判定)についてのランク判定には若干問題を含みます。前記変動要因如何によっては測定される開花日数は境界を越え、上位の能力評価ランク(Aランク)に入ることも十分有り得ますので、今回の結果をもとにそれぞれの個体に付した開花能力の判定ランクについては、絶対的な位置づけとしてでは無く多少柔軟に見て行く必要が有ります。

1-2. C. Sunnystate’s Grand の開花期間
 前記 C. Sunnystate‘s Grand 3個体の再現性チェックに際しては、比較のため兄弟5個体も一緒に加えて行ってみました。結果は表-1.に記載しました。

表-1. C. Sunnystate's Grandの開花期間テスト結果

      
 表中、前記3個体は赤字で、又、「開花期間」及び「花持ちランク」欄ではAランク以上は赤字で表記しました。
 3個体は何れも2ヶ月間咲き終わった2020年3月に割株をして使用しました。割株のハンデ―が有る株の状態ですが、その状態で果たしてどこまで前年度の2ヶ月間の開花期間に迫れるか、その実力を見極めるため、敢えて割って使ってみることにしました。因みに、‘Mieshia’の結果は3,3,3,4バルブに4分割した株のうちの3株(枝番-1,-3,及び-4)を使用したもので、芽吹いた1リードに着花した状態での評価結果を示しています。

 結果を全体的に見ますと、3個体の開花期間は何れも前年度の2ヶ月間には及びませんでしたが、割株直後のハンデ―が有るにも拘わらず1.5ヶ月を超えて55日前後開花しており、長期開花能力を持った個体であること自体は再現されたと判断しました。
 一方、比較のためにチェックを行った兄弟5個体は、一部1.5ヶ月近く開花するものは有るものの総じて40日前後(Bランク)であり、比較的花持ちの良い部類に属してはいますが前記3個体とは歴然とした有意差が認められました。この種全体で見ると、僅か8個体での結果ではありますが、個体間にはSランクからCランク近くまで開花日数に可成りのバラツキがあり、兄弟間で長期開花能力が受け継がれる程度には大きな差が有ることが分かります。
 図-3. には‘Mieshia’-3の開花状態の推移の画像を示しました。

図-3. C. Sunnystate‘s Grand ‘Mieshia’ の開花状態推移

開花36日後


開花49日後


開花53日後(終了)
 
 図-3.に見られる如く、開花終了の時まで花色には大きな変化もなく、展開もしっかりしていることが分かります。なお、C. Sunnystate‘s Grandはこれまでに40個体ほど開花させて観察してきましたが、その内、花持ちが良さそうと感じた個体は前記3個体のみでしたので、この交配における長期開花個体の出現確率は凡そ10%弱と、かなり低い結果でした。
 今回行ったC. Sunnystate‘s Grandの再現性チェックの結果、以下のような点が確認されました。

 ① 大輪系交配種カトレアにも2ヶ月以上開花させる遺伝子は存在する。

 ② 長期開花能力が子に受け継がれる度合いには兄弟間にかなりの個体間差がある。


 これらの結果は生物の持つ能力の通常の遺伝形態そのものであり、花色、花形、花サイズ、株姿等々の花容因子の遺伝形態とも何ら変わるものでも有りませんので、開花能力の兄弟間でのSランクからCランク近くに亘る受け継がれ方のバラツキのこの現象自体も、何もこの種のみに備わった特有の能力とはとても考えられません。長期開花能力はこの種が特異的に取得したものか、それとも先祖由来か、そのルーツ自体は現時点では不明ですが、この種が示したこの現象自体は、大輪系交配種カトレアの大多数においても恐らく共通した現象として存在しても何の不思議もないことが示唆されます。
 振り返ってみれば、前記3個体以外にも、私の所有する花の中に何となく花持ちが良さそうだなあと感じていた花が幾つか有りました。C. Seto Splendor ‘Nana’ HCC/JOSやRlc. Pastel Pageant ‘Seto’ AM/JOS等がその代表的なものでした。そこで、今回の結果を踏まえ、これ等2個体をも含め対象を市場流通株にまで広げて、改めて大輪系交配種カトレアの開花期間が実際にはどのような範囲にあるものか、実情を把握してみることとしました。

1-3. その他大輪系交配種カトレアの開花期間
 表2.1~表2.4に、C. Sunnystate's Grandの8個体を除く111品種、168個体の大輪系交配種カトレアの開花期間をチェックした結果を示しました。
 結果が煩雑になりますので、解析の一助とするため、便宜的に花色で以下の4つのカテゴリーに大雑把にくくって分類記載してみました。
 表2.1 セミアルバ系、(28品種、50個体)
 表2.2 白系&(パステル)ピンク系、(15品種、21個体)
 表2.3 (濃)ラベンダー系、(34品種、47個体)
 表2.4 黄色系、サーモン系、サンセットカラー~赤系(34品種、50個体)

 表中、試験株欄の太字はオリジナル株を、赤字はA、S又は、SSランクの長期開花株を示します。
 兄弟個体があるものは纏めて記載し、その内、花色の異なる兄弟個体が存在するものについては、比較し易い様に夫々の花色の欄に重複記載してみました。又、片親が共通するものについては親の影響が分かり易いように極力近くに纏めて記載してみました。開花期間欄、及び、花持ちランク欄では、見分け易いようにCランク以外は太字で表示してあります。
 結果を全体的に俯瞰してみますと、対象母数が比較的少ないにも拘わらず、花色にはあまり関係なく4カテゴリーの全てに亘ってS~SSランクの花が既に幾つか存在していることが見受けられ、前記C. Sunnystate's Grandの3個体が特別な存在では無かったことが分かります。又、Aランクレベルの花については、広範囲に亘って更に多く存在している様子が見受けられます。
 又、表中には長らく銘花として市場に流通してきた花も評価対象として全てのカテゴリーに亘り幾つか掲げてありますが、白系を除くと、一部にAランクの花が見受けられるものの総じてC~Bランクに多く有るようです。このような状況が結果的には“大輪系交配種カトレアの花寿命は短いものだ”(長期開花の遺伝子は存在しない)といった短絡したメッセージを私を始め多くの人々に与えてきた要因の一つではないかと感じています。
 以下、上記4つのカテゴリー別にその結果を見極めてみます。

①セミアルバ系の開花期間テスト結果
 セミアルバ系28品種、50個体についての結果を表2-1に示しました。

表2-1 セミアルバ系 (28品種、50個体)での開花期間テスト結果







 表2-1での28品種、50個体についての結果より、3個体(C. Seto Splendor‘Nana’、C. Sanyo Melody‘Enami’、及び、C. Sunnystate's Melody‘Momo’)がSランクにあることが分かりました。
 C. Seto Splender ‘Nana’の結果は以前から何となく想像していた通りでしたが、C. Sanyo Melody‘Enami’については我が家では初開花でしたので全くの想定外の結果でした。前年にリードを分株したばかりのバック株で、参考までに咲かせ切って見たのですが、根は余り触られていなかったとは言え決してしっかりとしたバック株ではなく、又、初リードでしたので驚きでした。

 C. Seto Splendorは、‘Nana’を含め5個体についてチェックを行ってみましたが、Sランクは‘Nana’のみで、‘Kayoko’がAランク、その他はB~Cランクにあり、この種においてもC. Sunnystate's Grand同様、個体間に大きな差が認められ、Sランク~Cランク迄、幅広くバラツイていることが認められます。この種におけるSランクの花は、僅か5個体の中ではありますが、凡そ20%の存在確率ですので、親が(CランクxAランク)の様な組み合わせからは余り高い確率では現れない様に見受けられます。この5個体中 ‘Nana’はJOSの入賞個体ですので、“優れた花容と長期開花能力”と言った2物を与えられた優良児と言うことになりますが、“花容”のみで判断すると、個人的には‘M&K’の方が優れているように感じています。因みに、もしも花容に優れることでCランクの‘M&K’のみが選抜され世に出ることになれば、人々の評価は“C. Seto Splendorは花持ちが悪いね!”と言うことになります。

 図-4及び、図-5にはこれ等3個体の内C. Seto Splender‘Nana’、及び、C. Sanyo Melody‘Enami’の開花状況の経時変化を示しました。

図-4. C. Seto Splendor‘Nana’の開花状態推移

1花茎目 開花4日後


1花茎目 開花33日後


1花茎目 開花51日後


(株全景) 開花62日後


1花茎目 開花63日後(終了


3花茎目 50日後(終了

 同様な状況は、花容中心で選抜され、兄弟個体が余り日の目を見ていない種に於いては往々にして起こりうることであり、こうしたことも “大輪系の交配種カトレアは花持ちが悪い!”と言った短絡した誤った情報を植え付けてしまう大きな要因になっているのではないかと感じています。
 C. Sunnystate’s Melody(CランクxAランク)に於いては比較的多くの兄弟個体が観察できたためか、‘Momo’以外にも開花期間が50日を超えSランクに迫るかなり長期間開花するAランクの個体の存在が幾つか見受けられていますが、ここでも兄弟個体間の能力の受け継がれ方には大きな差が存在していることが分かります。又、Sランクの存在確率自体も10%少々とC. Seto Splendor同様あまり高くはない様に見受けられます。

 なお、C. Sanyo Melody については、’Enami‘以外の選抜個体は日の目を見ていないようですので個体間での比較結果はありません。ただ、この個体自体はJOGAの入賞個体ですので、優れた花容と長期開花能力の2物を兼ね備えた個体が代表個体として単独で選抜されていたと言う事であり、非常に稀なケースのように感じています。これ等Sランク3個体の片親は、共にAランクのC. Melody Fair’Carol‘、もう片親は共にCランクの株で有り、交配が同じ様な(Cランク x Aランク)であることを考えると、S ランクの個体の出現確率自体は似た様な状況なのかも知れません。

図-5. C. Sanyo Melody‘Enami’の開花状態推移

開花4日後


開花51日後


開花55日後


開花59日後


開花終了2日後(64日後)

 C. Seto Splendor ‘Nana’は3リードで、1,2花茎と3花茎目との開花開始にはほぼ1か月ほどの開きがありましたので、この株全体としてはほぼ3か月間開花状態という驚くべき結果でした。
 1花茎目で見てゆきますと、63日目の開花終了時点まで花形は殆ど崩れませんでしたが、40日を過ぎたころからセパル、ペタルに少し黄緑色が乗り、リップの色の変化も認められます。株の置かれていた所が可成り日当たりの良い場所でしたので、3花茎目は40日を過ぎた時点でC. Sanyo Melody‘Enami’が置かれていたやや遮光の効いた場所の近くへ移動してみたところ、3花茎目についてはセパル、ペタルの黄緑色化は殆ど見られませんでした。一方、C. Sanyo Melody‘Enami’は最後までセパル、ペタル、リップ共に殆ど目立った変化が見られませんでしたので、色彩の変化に関しては強光線の影響が大きかったかと思われます。

 今回、C. Seto Splendor及び、C. Sunnystate's Melody以外の品種で兄弟個体が比較的多くチェック出来たものにC. Sunnystate's Mildcompton、及び、C. Melody Fair等がありますが、今回対象とした個体の中からはSランク個体の存在自体は認められませんでしたが、1.5ヶ月強のAランクの個体は幾つか認められ、個体間差の存在もはっきりと認められました。このようなバラツキから見ると、これらの種にもSランクの個体は存在する可能性はありそうに感じます。
 なお、今回のチェック対象が一個体のみであった品種からは、残念ながら前記C. Sanyo Melody以外にはSランクのものは見出せませんでした。 これ等は上記長期開花個体と同様にC.系が多く、又、片親にC. Horace及び、その子のC. Melody Fair‘Carol’等が使われるなど共通点も多いのですが、1個体のみでのチェックであったことが発見を難しくさせている様にも思われます。

 表頭にはC. trianae fma. semi-alba‘Okada’の結果も記載しました。この花自体は原種か否か異論も有るようで、交配種のC. Rita Renee ‘Matriarch’ ではないかともいわれている様ですので参考までの記載ですが、Sランクの素晴らしく長い開花期間を持っている様です。C. Rita Reneeの子については今回はC. Mildred Rivesの1個体‘Orchidglade’のみのチェックですが、この個体自体は平凡な開花期間を示しました。ただ、‘Matriarch’がこの交配親に使われていたのかどうかの確認はできていませんし、又、兄弟個体についても把握は出来ていません。

②白系&(パステル)ピンク系の開花期間テスト結果
 白系&(パステル)ピンク系の15品種、21個体についての結果を表2-2に示しました。

表2-2 白系&(パステル)ピンク系(15品種、21個体)での開花期間テスト結果




 15品種、21個体についての結果ですが、C.系の白花には驚異的な開花期間を持つ花があることが分かりました。C. General Patton‘Cheer’は50日も開花するAランク、その子のC. Earl‘Imperial’はSランクに有ります。又、C. Old Whitey‘Mount Empress’もSランクにありましたが、それらを両親に持つC. Hawaiian Crystalからは2.5ヶ月前後以上の驚異的な開花期間を持つSSランクの個体も出現しています。C. Hawaiian Crystalは、(SランクxSランク)の交配ですが、両親がSランクの花からは相当確率高くSランク以上の子が生まれる様に見受けられます。
図-6にはC. Hawaiian Crystal 2個体の開花終了時及び、終了直前の状態を示しました。2.5ヶ月前後においても花形はなおしっかりとしていることが伺え、驚きです。

図-6 C. Hawaiian Crystal の2個体の開花状態

‘Diana’ 開花76日後(終了1週間前


‘Maruga’ 開花73日後(開花終了

 又、両親がSランク及びAランクにあるRlc. Pastel Pageant(Aランク x Sランク)においても、2.5ヶ月に迫るSランクやSランクに近いAランクの子が比較的確率高く生まれるように見受けられますが、片親がSランクにあってももう片親がCランクのRlc. Llano(Sランク x Cランク)においては、1個体のみの評価なので定かではありませんが、やや確率は下がるのかも知れません。ただ、C. Old Whiteyの子はこの他にも市場に沢山存在していますので、これ等の中からは今後かなり多くのSランクの花が発見されるのではないかと期待しています。

 なお、表-1のC. Sunnystate's Grand、及び、表-2-1のC. Seto Splendor、C. Sanyo Melody及び、C. Sunnystate’s Melody,等の両親は何れもC~Aランクの花ですが、このようなC~Aランクの組み合わせからはSランク以上の花の出現確率はかなり低くなる様に見受けられます。
 これらの結果を勘案すると、確率高くSランク以上の花を作出するにはSランク以上の花を両親又は少なくとも片親に採用することが望ましいことを示唆するものであり、遺伝的には極めて当たり前の結果が現れている様に感じます。

 なお、表中、C. Old Whitey‘Mount Empress’はメリクロン株ですがSランクにあり、長期開花能力はメリクロンされてもしっかりと受け継がれることが伺えます。只、現在C. Old Whitey‘Mount Empress’のオリジナル株は既に存在していない様ですので、オリジナル株の持つ開花能力の100%が受け継がれているか否かは現時点では分かりません。操作の過程で細胞へのダメージを伴うメリクロン株は、遺伝子的には完全なクローンとは言い難い面も有ることを一応念頭に置いておく必要はあろうかと思います。
 又、前記セミアルバ系のC. Seto Splendor、及び、C. Sunnystate's Melody、等の両親も何れもメリクロン株でしたので、Sランク株の作出に際してはオリジナル株にこだわる必要性は必ずしもないように思われます。

③(濃)ラベンダー系開花期間テスト結果
 (濃)ラベンダー系開花期間テスト結果を表2-3に示しました。

表2-3. (濃)ラベンダー系(34品種、47個体)での開花期間テスト結果






 C. Sunnystate's Grandを除く34品種、47個体についての結果ですが、C. Sunnystate's Swan‘Luna’が(Cランク x Bランク)の交配ながらSランクにあることが分かりました。
 この欄にはC. Horaceやその子を片親に持つ品種が比較的多く上がっていますが、AランクにあるものはRlc. Major Duke‘Yuzuki’、Rlc. Hawaiian Reward‘Miki’、Rlc. Twenty First Century‘New Generation’、及び、Rlc. Sunnystate’s Ruby‘Yellow Eyes’のみで、総じてB~Cランクが多い結果でした。
 一個体のみでの評価が多かったことも一因とは思いますが、50日前後の比較的長い開花期間を持つ濃色系のAランクの個体の存在も有ますので、今後濃色系でのSランクの個体の発見も期待されます。膨大な流通株の中にどれ位実存するのか、長期間開花する濃ラベンダー系の花の意図的な作出を容易にする上では更なる発見を期待したい所です。

④黄色系、サーモン系、サンセットカラー~赤系の開花期間テスト結果
 黄色系、サーモン系、サンセットカラー~赤系(34品種、50個体)についての開花期間テスト結果を表2-4に示しました。

表2-4. 黄色系、サーモン系、サンセットカラー~赤系(34品種、50個体)開花期間テスト結果






 花色的にはかなり複雑なカテゴリーですが、微妙なサーモンピンク系の色彩のC. Misty Girl‘Royal Queen’、及び、赤系のRlc. Taiwan Beauty Girl‘ORCHIS’がSランクにあることが分かりました。又、Aランクの花は、黄色系のRlc. Kaoru Suzuki‘Volcano Sunshine’、及び、Rlc. Bill Krull‘Krull’s Primavera’、サーモン~朱赤系のRlc. Goldenzelle‘Orange Pumpkin’、Rlc. Sunnystate’s Whisper‘Oriental Lady’、及び、Rlc. Sunnystate’s Golden Sunset‘Summer Delight’、赤系のRlc. Sunnystate’s Unique‘Mieshia’等、広範囲の色彩に亘って存在していることが見受けられました。赤系にSランクやAランクの個体が、又、黄色系にAランクの個体が幾つか見つかったことは、今後のバラエティーに富んだ色彩の長期開花カトレアの作出検討にとっては収穫でした。 
なお、ここでもC. Misty Girl、Rlc. Goldenzelle、Rlc. Sunnystate’s Whisper、Rlc. Sunnystate’s Unique等に見られる如く個体間差は大きく認められていますので、このカテゴリーに限らず兄弟個体が存在するものは極力チェックしてみることが長期開花株の発見には望ましいように思われます。



2. まとめ
 2-1. Sランク個体作出の方向性

 以上、C. Sunnystate's Grandを含む112種176個体の大輪系交配種カトレアの開花期間の実態をチェックした結果から見えてきた事柄を整理しますと以下の様です。

① 大輪系交配種カトレアにも2ヶ月以上の長期開花の遺伝子は存在する!
(ラベンダー系のC. Sunnystate’s Grandの3個体以外にも2ヶ月以上の長期間開花する花は花色にあまり関係なく全カテゴリーに於いて既に幾つか存在している。)    

② 長期開花能力の子孫への受け継がれ方には、兄弟個体間でかなりの差がある。

長期間開花する両親又は片親からは、長期間開花する子が比較的高い確率生まれそうである。

④ 長期開花能力が強く顕在化していない親(B~Cランク)からも、長期間開花する子は低確率ながら生まれうる。
 
メリクロンされても長期開花能力は受け継がれ、メリクロン株からも長期開花能力を持った子は生まれうる。
  
 今回のチェックで明らかとなったこれ等の現象は遺伝子のごく一般的な伝承現象でありますので、大輪系交配種カトレアに対して、その優れた花容に2ヶ月以上の開花能力をも意図的に併せ持たせることは十分可能であることを示唆しています。その糸口は、今回明らかとなった様なS~SSランク(やAランク)の個体を両親、若しくは片親に用いることに有りそうです。
 長期間開花させる遺伝子が何か、何処からもたらされたものか、等については、遺伝子レベルでの解明が早期にこの世界に届くようなことは余程のことが無い限り難しいでしょうから、今回見出されたような既存の長期開花個体を足掛かりにすることが最も現実的な実現の近道の様に感じます。今後更に(A~)S~SSランクのいろいろな色彩の花が膨大な市場流通株の中から発見されればされる程、優れた花容に長期に亘り開花する能力を併せ持った多様な色彩の“次世代の大輪系交配種カトレア”とでも言うべき花の意図的な作出は容易になってくるものと思われます。

2-2. 意図的作出の試み
 私自身は取り敢えず今回のチェックで見出された花を用いて、以下の様な組み合わせのトライアルからその出現傾向を把握し、今後の効率的な作出のための指針を探ってみたいと思っています。

①(S or SSランク)x(S or SSランク)の交配からはどれくらいの高確率でSランク以上の花が出現するのか?

②(S or SSランク)x(A~Cランク)の交配では、Sランク以上の出現割合はどの程度になるのか?

 現段階で実施中の具体的な当面の組み合わせについては、図-7、-8,-9に対象株画像とともに記載しました。

図-7. 意図的作出の試み-1 (ラベンダー系)










図-8. 意図的作出の試み-2 (セミアルバ系)








図-9. 意図的作出の試み-3 (黄色~オレンジレッド~赤系)










 今回行ったスクリーニングでは花容中心で選抜された個体が対象でしたが、上記トライアルでは栽培する兄弟個体全てを対象としたデータ取りを行ってみたいと思っています。何世代にもわたって複雑に交配を重ねてきた交配種の世界において、小規模の母数からある程度の地図書きが出来るものかどうかは分かりませんが、何らかの1歩進んだ世界が見えてくることを期待して進めてみたいと思っています。
 なお、参考までに今回見出されたS~SSランクの個体については、参考記載のC. trianae fma. semi-alba‘Okada’を含めた15個体の画像を改めて図-10に纏めて掲載しました。
 又、今回Aランクと判定された個体のうち開花期間が50日を超える10個体についても参考までに図-11に画像を纏めて掲載しましたが、開花期間が50日に満たなかったAランクの18個体については省略しました。

図-10. S~SSランクの開花期間を有する15個体

C. trianae fma. semi-alba‘Okada’


C. Seto Splendor‘Nana’


C. Sanyo Melody‘Enami’


C. Sunnystate's Melody‘Momo’


C. Earl‘Imperialis’


C. Old Whitey‘Mount Empress’


C. Hawaiian Crystal‘Diana’


C. Hawaiian Crystal‘Maruga’


Rlc. Pastel Pageant‘Seto’


C. Sunnystate's Grand‘Winter Delight’


C. Sunnystate's Grand‘Mieshia’


C. Sunnystate's Grand‘Yukiko’


C. Sunnystate's Swan‘Luna’


C. Misty Girl‘Royal Queen’


Rlc. Taiwan Beauty Girl‘ORCHIS’

図-11. 50日を超える開花期間を有するAランク10個体

C. Sunnystate's Melody‘Miki’


C. Sunnystate's Melody‘Swan’


C. Sunnystate's Melody‘Yumiko’


C. Chian-Tzy Mildcompton‘Kao Hwa(国華)’


C. Mishima Flash‘Perfection’


C. General Patton‘Cheer’


Rlc. Pastel Pageant‘Maruga’


Rlc. Major Duke‘Yuzuki’


Rlc. Kaoru Suzuki‘Volcano Sunshine’


C. Sunnystate's Unique‘Mieshia’

3. 終わりに
 今回の検討結果で、これ迄ベールの陰に隠されていた大輪系交配種カトレアの素顔をしっかりと垣間見させて貰った、そんな気がしています。長期開花能力を持ち、且、花容に優れた花を意図的に作出する試みは今なお道半ばですが、間違いなく出来るとの思いを強くしました。
 今回の検討では、カトレアの持つ弱点の一つと言われる“開花株の移動に伴う花持ちの低下”の程度については全く検討の対象とはされていませんが、これ等長期開花株に於いても低下がどの程度で止まるのかは重要で、今後の課題として改めて個別に把握してみる必要が有ります。
又、リップの焼けや、色落ち等、“花色の安定性”に付いてもカトレアの課題の一つでもありますので、同様に個別に注意深く見て行く必要が有ります。
 花容に優れ、且、2ヶ月前後以上の長期に亘り開花する多様な色彩の大輪系交配種カトレアが意図的に作出出来るような時代が来ることは、私にとっては過去の苦い思い出を払拭出来る望ましいことですが、それがカトレアの世界にとって本当に望ましいことであるのか否か、一趣味家の私には良くは分かりません。冬季の管理の煩わしさを考えると、所詮マニアックな世界からは抜け出せない様には思えますが、カトレアを愛するが故に、個人的にはもう少し多くの人がもっと身近に鑑賞できるところにカトレアが居て欲しい、そう願うものです。もう一度多くの花屋さんでもカトレアが直に見られる、そんな時代が来ることを願っています。
 長期開花株を見出す方法は、単に気になる個体を最後まで咲かせ切って見るという極めて簡単な作業だけですので手軽に行えます。取り分け交配をやっておられる方は多くの兄弟個体を対象と出来ますし、交配相手も自由に選べますので見出す確率も高く、求める優れた花容に加え、長い開花寿命をも併せ持った“次世代の大輪系交配種カトレアの世界“とでも言うべき新しい世界を切り拓く愉しみが期待できます。今後、多くの皆さんがこの分野に興味を持って参加して頂けることを願うものです。
 最後になりましたが、本検討に際しては、鈴木有城氏、小島舎の小島研二氏、及び、CattleyArt(株)の長井輝雄氏の各氏から貴重な情報を賜りましたことを記させていただきます。




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