犬吠埼は古くから景勝地として知られ、明治期には旅館ができた。しかしながら、温泉を掘り当てるには 1000 m ものボーリングを要したため、ホテルや旅館に温泉が引かれたのは平成に入ってからである。現在は、潮の湯、屏風ヶ浦温泉、黒潮の湯の 3 源泉が使用されている。
犬吠埼ホテルは黒潮の湯を引いており、海の見える露天の大浴槽と 1 人サイズのポリバスに使用している。大浴槽の縁から寝湯の方へオーバーフローしており、おそらく循環かけ流し併用であろう。ポリバスは源泉かけ流しと書かれていたが、一向にオーバーフローすることはなかった。塩味、臭素臭、消毒臭のある湯で、湯上りは食塩泉らしくベタベタとした肌ざわりだ。大浴槽は無色透明だったが、ポリバスでは黄褐色透明であった。源泉の素性はなかなかに濃く、臭素、ヨウ素、アンモニアなど特徴的な成分も多が、それほどキャラクタレスティクな感じはしなかった。加水はしていないとのことなので、十年余りの間に成分が減少しているのかもしれない。他に露天には海草風呂、内湯に白湯の大浴場、サウナ、水風呂がある。海藻風呂はヌルヌルを期待したが、洗濯ネットにわずかばかりの海藻が入ったのが沈められているだけで、ただの白湯と言って差し支えなかった。
源泉かけ流しを謳いつつオーバーフローのないポリバスやなんの特徴もない海藻風呂など、やや残念に感じる点が多かった。一部の浴槽でオーバーフローがあったのはよかったが、オーシャンビューに甘えず、風呂のコンセプトを見直すべきだろう。
(2020 年 7 月)
◆源泉情報◆
源泉名:犬吠埼温泉黒潮の湯
泉質:ナトリウム-塩化物泉
泉温:23.6℃
成分:溶存物質 22730 mg/kg、主要な成分は以下の通り(いずれも mg、カッコ内はミリバル %)。
ナトリウムイオン | 7425 (82.55) | 塩化物イオン | 13690 (99.26) |
カルシウムイオン | 1075 (13.71) | 炭酸水素イオン | 101.9 (0.43) |
マグネシウムイオン | 154.8 (3.26) | 臭素イオン | 51.2 (0.16) |
アンモニウムイオン | 11.7 (0.17) | ヨウ素イオン | 52.5 (0.11) |
鉄 II イオン | 5.7 (0.05) | メタホウ酸 | 85 |
分析日:2009 年 2 月 5 日