※2011 年 8 月に廃業しました。
玄関から声をかけると、女将さんが出てきてくれ「ウチは小さな浴槽しかないけどそれでもいいか」、「ちょっと広めのもあるから、先に小さい方に入って、その後、広い方で寛ぐとよい」などいろいろと説明をしてくれた。600 円の入浴料を払うのに 1000 円札を出したら「今の若いのは金持ちね。お釣り持ってくるから待っていて」と。後で知ったことだが、話好きの名物女将だったよう。
浴室は男女別ではなく、貸切で使用するようだ。生活感あふる脱衣所で、なにか民家の風呂を借りているような感覚になる。
浴室を戸を開けると、澄んだ深緑色の湯が丸い湯舟に湛えられていた。なんとも美しい色だ。硫黄の香が立ち込め、水面には油膜が浮いていた。パイプから注がれた湯は、湯舟の縁の細い切れ込みから注がれた分だけかけ流されていたが、浸かると全周からあふれ出した。やや熱めの湯で、黒い湯の花が舞い、口に含むと苦味とアブラ臭がぶわっと広がる特徴的な湯だった。大変に温まりがよく、この浴室で出たり入ったりを繰り返し、だいぶ時間を使ってしまったため、もう一方の浴室はほとんど記念入湯のような駆け足の入湯となってしまったが、浴室の隅の湯舟は 1 人でも足は延ばせないような小ぶりであった。
特徴的な湯、使い込まれた浴室の雰囲気と大満足だったのだが、「小さい方に入ってから広い方の浴槽」の指図を無視してしまったため、湯上りは女将にとやかく言われることになった。
(2009 年 4 月 12 日)