第4回ODA民間モニターOBOG会議事録
H.20年度ODA民間モニターチュニジア班
久保山和哉
(註)本議事録は、講師の方の発言主旨を事務局で纏めた物で、
その内容に関しては、事務局に全面的責任があります。
◎参加人数 24名(事務局含む)
◎講演者
JICA農村開発部審議役 窪田博之氏
(外務省より出向)
アフリカの食料問題関連のワークに携わる。
→「ガーナ」というイメージの思い込みでやってしまい、現地に
とって本当に有益な支援を行えないことがあるのに加え、他の
ドナーとの競合など苦労があった。
◎講演内容
・ガーナと森林伐採
輸出産品の上位3位以内に木材が含まれており、砂漠化の原因。
・ガーナ建国の父であるエンクルマによる独立運動。
独立運動の結果、1957年にイギリスから独立を果たしてアフリカ
開放に強力なイニシアティブを発揮。また独立後に様々な開発案
件が行われたが、アコソンボダムのように有益な案件から税金の
無駄使いとされる案件まで多数あった。
・ダムと水力発電の利権
アコソンボダムは隣国との国境付近に位置していたため、独立の
際に水力発電の利権問題も発生(電力の所有権、輸出入関連など)
また、昔は主要輸出品としてアルミニウムのインゴットが挙げら
れていたが、発電した電力でアルミニウムのインゴットを精製し
ていた外資系企業が撤退したため、ガーナも主要事業であるアル
ミニウム事業から撤退することに。ただ、原料であるボーキサイト
はまだ眠っていると言われており、採掘は行われていない模様。
→資源開発には非常にコストがかかるため実施できていない。
※アルミニウム製造のフロー
→ボーキサイトを輸入
→安く買い叩かれたアコソンボダムの電力でアルミニウムを精錬。
→ガーナとしてベネフィットを得られない。
→豊富な電力を国内向けに活用できない現状があった。
→国内資源の略奪。
アルミニウムを精錬、輸出していた外資系企業が撤退したことで、
国の収入は減少したものの、逆に国内に電力を供給できるように
なったメリットも。
・2004年 アフリカカップ
2004年にガーナで初めてアフリカカップが開催された。アフリカ
カップの開催に合わせて中国からの援助で都市にホテルを多数建設。
結果、メインの通りは発展し、大規模なマーケットが見られるよう
になたが、隣の通りに入ると農村が広がっていることもある。ただ、
これら農村でも少しずつながら発展の兆しが見られるようになった。
→靴を履いている子供が増えたなど。
・教育
教育自体は無料だが、School Fee(制服の費用、先生の給料etc.)
が必要。
→子供を学校に通わせることが出来ない家庭が多数あった。
・2000年の債務削減運動(ジュビリー2000)
大規模なインフラ整備などにばかり目を向けられているため、政府
が抱える債務がGDPの何倍にも膨れ上がってしまった。これを解決
するための運動。
90年代後期から2国間の多重債務問題の解決が進んだが、多国間の
債務問題の大きさが浮き彫りになってきた(UN、WB、IMFなどの債務)
・ガーナに対する財政支援
諸外国からの財政支援は、一般の財政に対する支援と各ドナーの
比較優位に応じた支援の2本立ての支援が行われている。
・ガーナにおける政権交代
選挙によって政権交代が行われているアフリカでは非常に稀な
ケース。
→平等な選挙によって政権が選ばれるだけでなく、政権後退が
行われた際も武力衝突やクーデターなどのトラブルはほとん
ど発生していない。
また、シエラレオネ、リビア、アイボリーコースト(象牙海岸)
といった西アフリカは紛争や武力衝突が多々発生している地域で
あるものの、ガーナは非常に安定しているという面もある。
・ガーナにおけるガバナンス
行政によるガバナンスに加えて地方の首長制度が行われており、
地方の人的資源のレベルが、ガバナンスに直結している。
→南西部は国内でも豊かな地域になっており、有力者は国内最
高峰の大学や海外の教育を受けているケースが多い。一方、
北部のサヘル地域では高度な教育を受けている住民が少なく、
経済発展の度合いに影響が強く現れてしまっている。
・アイボリーコーストにおけるカカオ農園
プランテーション農法を行うことで、長年にわたって世界最大のカ
カオ生産地となっている。収穫は年に2回、育てる間にも非常に手
間がかからないため、小農向けの製品となっている。
また、金もガーナに大きな利益をもたらしている輸出産品となって
いるが、政府にロイヤリティを支払う必要があること、資源開発に
膨大な資金が必要となってくること、輸出の利益のすべてがガーナ
に入ってくるわけではないことなどから、カカオの方が金よりも輸
出産品として優れている。
日本は、ガーナからコンスタンスに需要の6割以上のカカオを輸入。
→ガーナの品質が高く安定していることに加え、日本人の好みに
あっているため、とても評価が高い。
※カカオ公社
世銀やIMFが民営化を行わなかった数少ない公社の1つで、ガーナの
カカオ公社は原則輸出の3分の2を生産者にバックしている。
・ガーナにおける奴隷貿易
ギニア湾沿岸諸国は、奴隷の大輸出地域と言われていたが、その歴史
的な背景を見ると、アフリカの人間が奴隷となる人たちを捕らえて、
三角貿易の形で欧州に向けて奴隷を送っていたといわれている。
またヨーロッパで奴隷鮮度が完全に撤廃されたのは1800年代半ばにな
ってからであり、その後も世界の各地域では奴隷制度が行われていた。
・アフリカからヨーロッパへの移民
留学や合法の移民といった正規のルートを取ることが出来ない住民が
非常に多く、彼らは不法入国の手段を取るしかない。スペインやイタ
リア、ポルトガルといった地中海沿岸諸国に不法入国しようとするア
フリカの人はあとを絶たないが、南ヨーロッパ諸国の政府とによる入
国阻止とのせめぎあいが日々行われている。
・ガーナと野口英世
野口英世は、1920年代に国民のためではなく黄熱病の研究の為にガー
ナに渡ったため、国内で英雄のような扱いを受けているわけではない。
ただ、病原菌を克服するという目的を持って単身アフリカに渡り、実
現した彼の功績は非常に高く評価されており、敬意を表されている。
・結びに -日本とガーナ-
日本はガーナにとって、主要なアクターではないことは明らかである
が、貧困削減計画の一環として、ガーナの文化を深く理解してワーク
していくことがとても重要になってくる。
また、ガーナの主要農産品の1つであるコメに対して、日本は生産の
面で強い優位性を持っているが、日本の農業従事者は高齢化が進んで
おり、現地支援に繰り出していくことは非常に難しい。農村開発とい
う分野に関心をもってもらいたいのはもちろんであるが、現地におけ
る現状、分野内のスペシャリティを身につけて、途上国支援にのぞむ
ことが出来る人材育成が非常に重要となってくる。
◎Q&Aセッション
Q:何故、ガーナはクーデターが起きつつも内戦を避けることが出来たか。
A:アニミズムの土着宗教が残りつつも、北部がイスラム教、南部がキリ
スト教となっている。ガーナは歴代大統領が南部出身、副大統領が北
部出身(またその逆)と伝統的になっており、豊かな南部と貧しい北
部の対比はあるものの、人口比や経済比率を超えて決められた慣習と
なっている。ほか、文化的な要因が多分に含まれている。
Q:多重債務問題の起きた要因とその背景。
A:借りたら返すという原則は大前提としてあることを伝えていく一方、
途上国の多くが抱えている多重債務は完全に返すことが出来ないよう
な段階まで膨れ上がってしまった(ヤミ金融のような状況)。
ただ、そのような状況になっているなか、それでもなお貸し付けよう
とする人がいること、石油や食料など輸入せざるを得ない資源を輸入
するための貸付金が必要であることなど、多重債務が膨れ上がり続け
るカラクリにはまってしまっている。
また、世界銀行やIMFは各国政府に対して貸付を行う最後の砦であり、
彼らが貸付を行えない国に対して融資できる機関は存在しない。2国
間の債務問題の解決が進んでいく中で世銀やIMFの貸付額の膨大さが
目立ってしまったのは、最後の砦としての有志の返済が残ってしまっ
たことが原因の1つ。
世銀やIMFの政策については、返せないほどの金額を無理やり融資して
いたといった非難も多くあるが、彼らの援助がなければ破綻してしま
っていたであろう国が多数あることも事実。世銀やIMFの政策が間違っ
ていたという見解にも合理性は見られるが、一概に世銀やIMFの政策が
原因であったとは言い難い部分もある。
Q:2008年のアフリカ開発会議。議題のメインはサブサハラの開発だった
が、コンサル業者を使って案件を発掘させている現状にはばら撒きの
性格があると聞いた。アフリカの技術協力にはオーナーシップが非常
に重要であると思うが、どのような手段が有効であると考えるか。
A:コンサルが発掘するまでもなく、対象国はニーズで溢れているのが現
状であり、無数に存在している現行の案件の改善や新規案件を行うに
あたって、エンジニアリングの力が重要。ただ、これらの案件を行う
にはエンジニアリングだけでは不十分であり、効果的かつ継続的にオ
ペレートする人材と繋げるための経験が必要。つまり、お金があれば
解決できるというのは間違いであり、お金はもちろん必要であるが、
インフラなどのハード面と人材などのソフト面の融合が必要不可欠。
以上
H.20年度ODA民間モニターチュニジア班
久保山和哉
(註)本議事録は、講師の方の発言主旨を事務局で纏めた物で、
その内容に関しては、事務局に全面的責任があります。
◎参加人数 24名(事務局含む)
◎講演者
JICA農村開発部審議役 窪田博之氏
(外務省より出向)
アフリカの食料問題関連のワークに携わる。
→「ガーナ」というイメージの思い込みでやってしまい、現地に
とって本当に有益な支援を行えないことがあるのに加え、他の
ドナーとの競合など苦労があった。
◎講演内容
・ガーナと森林伐採
輸出産品の上位3位以内に木材が含まれており、砂漠化の原因。
・ガーナ建国の父であるエンクルマによる独立運動。
独立運動の結果、1957年にイギリスから独立を果たしてアフリカ
開放に強力なイニシアティブを発揮。また独立後に様々な開発案
件が行われたが、アコソンボダムのように有益な案件から税金の
無駄使いとされる案件まで多数あった。
・ダムと水力発電の利権
アコソンボダムは隣国との国境付近に位置していたため、独立の
際に水力発電の利権問題も発生(電力の所有権、輸出入関連など)
また、昔は主要輸出品としてアルミニウムのインゴットが挙げら
れていたが、発電した電力でアルミニウムのインゴットを精製し
ていた外資系企業が撤退したため、ガーナも主要事業であるアル
ミニウム事業から撤退することに。ただ、原料であるボーキサイト
はまだ眠っていると言われており、採掘は行われていない模様。
→資源開発には非常にコストがかかるため実施できていない。
※アルミニウム製造のフロー
→ボーキサイトを輸入
→安く買い叩かれたアコソンボダムの電力でアルミニウムを精錬。
→ガーナとしてベネフィットを得られない。
→豊富な電力を国内向けに活用できない現状があった。
→国内資源の略奪。
アルミニウムを精錬、輸出していた外資系企業が撤退したことで、
国の収入は減少したものの、逆に国内に電力を供給できるように
なったメリットも。
・2004年 アフリカカップ
2004年にガーナで初めてアフリカカップが開催された。アフリカ
カップの開催に合わせて中国からの援助で都市にホテルを多数建設。
結果、メインの通りは発展し、大規模なマーケットが見られるよう
になたが、隣の通りに入ると農村が広がっていることもある。ただ、
これら農村でも少しずつながら発展の兆しが見られるようになった。
→靴を履いている子供が増えたなど。
・教育
教育自体は無料だが、School Fee(制服の費用、先生の給料etc.)
が必要。
→子供を学校に通わせることが出来ない家庭が多数あった。
・2000年の債務削減運動(ジュビリー2000)
大規模なインフラ整備などにばかり目を向けられているため、政府
が抱える債務がGDPの何倍にも膨れ上がってしまった。これを解決
するための運動。
90年代後期から2国間の多重債務問題の解決が進んだが、多国間の
債務問題の大きさが浮き彫りになってきた(UN、WB、IMFなどの債務)
・ガーナに対する財政支援
諸外国からの財政支援は、一般の財政に対する支援と各ドナーの
比較優位に応じた支援の2本立ての支援が行われている。
・ガーナにおける政権交代
選挙によって政権交代が行われているアフリカでは非常に稀な
ケース。
→平等な選挙によって政権が選ばれるだけでなく、政権後退が
行われた際も武力衝突やクーデターなどのトラブルはほとん
ど発生していない。
また、シエラレオネ、リビア、アイボリーコースト(象牙海岸)
といった西アフリカは紛争や武力衝突が多々発生している地域で
あるものの、ガーナは非常に安定しているという面もある。
・ガーナにおけるガバナンス
行政によるガバナンスに加えて地方の首長制度が行われており、
地方の人的資源のレベルが、ガバナンスに直結している。
→南西部は国内でも豊かな地域になっており、有力者は国内最
高峰の大学や海外の教育を受けているケースが多い。一方、
北部のサヘル地域では高度な教育を受けている住民が少なく、
経済発展の度合いに影響が強く現れてしまっている。
・アイボリーコーストにおけるカカオ農園
プランテーション農法を行うことで、長年にわたって世界最大のカ
カオ生産地となっている。収穫は年に2回、育てる間にも非常に手
間がかからないため、小農向けの製品となっている。
また、金もガーナに大きな利益をもたらしている輸出産品となって
いるが、政府にロイヤリティを支払う必要があること、資源開発に
膨大な資金が必要となってくること、輸出の利益のすべてがガーナ
に入ってくるわけではないことなどから、カカオの方が金よりも輸
出産品として優れている。
日本は、ガーナからコンスタンスに需要の6割以上のカカオを輸入。
→ガーナの品質が高く安定していることに加え、日本人の好みに
あっているため、とても評価が高い。
※カカオ公社
世銀やIMFが民営化を行わなかった数少ない公社の1つで、ガーナの
カカオ公社は原則輸出の3分の2を生産者にバックしている。
・ガーナにおける奴隷貿易
ギニア湾沿岸諸国は、奴隷の大輸出地域と言われていたが、その歴史
的な背景を見ると、アフリカの人間が奴隷となる人たちを捕らえて、
三角貿易の形で欧州に向けて奴隷を送っていたといわれている。
またヨーロッパで奴隷鮮度が完全に撤廃されたのは1800年代半ばにな
ってからであり、その後も世界の各地域では奴隷制度が行われていた。
・アフリカからヨーロッパへの移民
留学や合法の移民といった正規のルートを取ることが出来ない住民が
非常に多く、彼らは不法入国の手段を取るしかない。スペインやイタ
リア、ポルトガルといった地中海沿岸諸国に不法入国しようとするア
フリカの人はあとを絶たないが、南ヨーロッパ諸国の政府とによる入
国阻止とのせめぎあいが日々行われている。
・ガーナと野口英世
野口英世は、1920年代に国民のためではなく黄熱病の研究の為にガー
ナに渡ったため、国内で英雄のような扱いを受けているわけではない。
ただ、病原菌を克服するという目的を持って単身アフリカに渡り、実
現した彼の功績は非常に高く評価されており、敬意を表されている。
・結びに -日本とガーナ-
日本はガーナにとって、主要なアクターではないことは明らかである
が、貧困削減計画の一環として、ガーナの文化を深く理解してワーク
していくことがとても重要になってくる。
また、ガーナの主要農産品の1つであるコメに対して、日本は生産の
面で強い優位性を持っているが、日本の農業従事者は高齢化が進んで
おり、現地支援に繰り出していくことは非常に難しい。農村開発とい
う分野に関心をもってもらいたいのはもちろんであるが、現地におけ
る現状、分野内のスペシャリティを身につけて、途上国支援にのぞむ
ことが出来る人材育成が非常に重要となってくる。
◎Q&Aセッション
Q:何故、ガーナはクーデターが起きつつも内戦を避けることが出来たか。
A:アニミズムの土着宗教が残りつつも、北部がイスラム教、南部がキリ
スト教となっている。ガーナは歴代大統領が南部出身、副大統領が北
部出身(またその逆)と伝統的になっており、豊かな南部と貧しい北
部の対比はあるものの、人口比や経済比率を超えて決められた慣習と
なっている。ほか、文化的な要因が多分に含まれている。
Q:多重債務問題の起きた要因とその背景。
A:借りたら返すという原則は大前提としてあることを伝えていく一方、
途上国の多くが抱えている多重債務は完全に返すことが出来ないよう
な段階まで膨れ上がってしまった(ヤミ金融のような状況)。
ただ、そのような状況になっているなか、それでもなお貸し付けよう
とする人がいること、石油や食料など輸入せざるを得ない資源を輸入
するための貸付金が必要であることなど、多重債務が膨れ上がり続け
るカラクリにはまってしまっている。
また、世界銀行やIMFは各国政府に対して貸付を行う最後の砦であり、
彼らが貸付を行えない国に対して融資できる機関は存在しない。2国
間の債務問題の解決が進んでいく中で世銀やIMFの貸付額の膨大さが
目立ってしまったのは、最後の砦としての有志の返済が残ってしまっ
たことが原因の1つ。
世銀やIMFの政策については、返せないほどの金額を無理やり融資して
いたといった非難も多くあるが、彼らの援助がなければ破綻してしま
っていたであろう国が多数あることも事実。世銀やIMFの政策が間違っ
ていたという見解にも合理性は見られるが、一概に世銀やIMFの政策が
原因であったとは言い難い部分もある。
Q:2008年のアフリカ開発会議。議題のメインはサブサハラの開発だった
が、コンサル業者を使って案件を発掘させている現状にはばら撒きの
性格があると聞いた。アフリカの技術協力にはオーナーシップが非常
に重要であると思うが、どのような手段が有効であると考えるか。
A:コンサルが発掘するまでもなく、対象国はニーズで溢れているのが現
状であり、無数に存在している現行の案件の改善や新規案件を行うに
あたって、エンジニアリングの力が重要。ただ、これらの案件を行う
にはエンジニアリングだけでは不十分であり、効果的かつ継続的にオ
ペレートする人材と繋げるための経験が必要。つまり、お金があれば
解決できるというのは間違いであり、お金はもちろん必要であるが、
インフラなどのハード面と人材などのソフト面の融合が必要不可欠。
以上