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クロノ太陽・・・・・19

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「待てお前達、丸腰相手に切りかかるとは卑怯にも程がある、おまけにこちらは二人しかも一人は子供、こちらにも武器を渡せ!」そう草加が言うと軍刀二本こちらに差し出した。草加は軍刀の一本を返し樫の棒を求めた。これを健一に渡し、
「健一、お前は棒で身を守れ!俺が全員相手する。さあ、来い!」草加は四方を囲まれた。だが草加から手を出すことはなかった。さすがに卑怯と言われたものだから一人ずつかかっていったが、草加に全てかわされしまった。
「お前ら、本気でかかってこないのならこちらから参る。」
そう言うと四人相手に反撃し始めた。
その動きはとにかく速いそして全員を一瞬に倒した。見ていた健一もポカン~と口を開けて呆気に取られていた。
「健一!後ろだ!」草加が叫んだ。先ほどの一人が立ち上がり健一目掛けて刀を振り下ろした。ゴッンと棒で刀を弾き首に一撃、相手はもんどりうって倒れた。会場は騒然としたが直ぐに倒れた者達も起き上がり健一と草加に一礼して救護の隊員によって運ばれて行った。
「健一、大丈夫か?」
「先生、大丈夫です!」
「お前の棒の腕もだいぶ上達したな!それにあいつらは全員、峰打ちだから命に別状はない。ただ気になるのが全員の剣には殺気がなかった。」健一も見た限りでは殺気よりも試されているような気がして仕方なかった。
 すると、今までどこにいたのか柿杉が出てきた。
「二人ともご苦労さんだったな。」
「お前、どこに行ってた!この事を知っていたのか?」
草加の質問に柿杉は、「すまん。どうしても草加、お前の腕前がみたいと軍のお偉いさんが言うのでな。一芝居打ったん
だ。」
「だから、殺気がなかったんだな。」
「柿杉先生、次の試合にはとても出れる状況じゃないですよ。」
「次の試合?健一、お前の試合はもう終わった。これ以上、お前が勝ち進めば他の連中の立場がなくなるからこの辺でやめてほしいと言うのが本音だそうだ。それにお前の黒帯に対して誰も文句言う奴もいない。九州の空手会のお偉いさんも全員一致でお前の初段も許可された。」
「じゃ~お前は最初からそのつもりでここに連れてきたのか?」と草加は怪訝そうな顔で柿杉を睨み付けた。
「バカを言え!俺もそんなこと知らずにここに来て、その後、柳川少佐に話を持ちかけられたんだ。で、俺とお前の二人にこの士官学校の武道担当の教官をしてほしいとのことだ。」
「じゃ~先生たちは長崎を離れるのですか?」
「まだ、俺は今聞いたばかりで何も決めていないぞ!」
「草加!お前の不名誉除隊も取り消すとのことだ。いい機会じゃないか。それに俺たちは嫌で軍を除隊したわけじゃないし、軍で国のために一人でも多くの者に武道を通して生還してもらえるように鍛えてやるんじゃなかったのか!」
「言われてみればそうだったな。」と最初の勢いが草加にはなくなり、柿杉に諭された。
「でも、どうして軍を不名誉除隊したんですか?」
「健一、お前には言っていなかったが上官を切った!」
「えっ!上官を殺したんですか?」
「バカ!殺したわけじゃない。着衣している軍服を切ったんだ。皮膚にはかすりもしていない。」
「何でそんな無謀なことをしたんですか?」
「それは陸軍師団で満州にいたとき、何でもかんでも暴力を振るう上官がいて師団の連中は演習の事故に見せ掛けて殺す計画をしていたんだ。さすがに俺もそれはできんから、上官に直談判に行くことになって話し合ったが受け入れられず、何十回と殴られたがそれでも我慢していると軍刀を抜いて切りかかってきた。そこで、刀を取り上げて軍服だけを切った。と言う訳だ。」と草加は健一に答えた。
「そう言う事情だったのですね。でも、暗殺の計画はどうなったのですか?」と興味ありげに健一が聞くと、
「俺が軍法会議にかけられたことで、その計画はなくなった。そして、その計画を阻止するための談判であることが判り除隊させられた。本当なら銃殺されてもしかたないのだが、他の上官達が俺の剣の腕を惜しんで減刑してくれたらしい。」
「そういうことだ。健一、悪いがここからは俺と草加の二人で話しをしたいから気を利かせてくれるか?」
「わかりました。僕も柳川少佐と話があるので失礼します。」内心の不安を隠しながら健一は柳川のもとへ向かった。
 「ちょっと見ない間にまた、体格がよくなったね。」
「ありがとうございます。でも、今はそんなことより先生たちはどうなるのですか?」
「本人達の希望が最優先と言いたいところだが、ここでの申し出を断ることは軍に対する反逆であると見なされる。だから断ることは出来ないはずだ。」
「やはりそうでしょうね。でも、これだけは忘れないでください!とにかく、あの二人も来年の八月に広島と長崎には絶対行かせないと。」
「わかっているよ。僕らも含めてだね。」
「そうです。それさえ分ってもらえるのであれば、あとはお願いします。」
「何か、君のほうが師匠みたいだな!」と柳川少尉は笑って見せた。それは健一から芙美、同様に大切な人を離さなければならないということであった。
 それから、2時間ほどで大会も終了し、草加と柿杉の両名も姿を現し健一との別れの時が来た。
 「健一、いろいろ大変だったがこれが、お前の黒帯と認定証だ。道場に飾っておけ!俺も2~3ヶ月に一度は道場に戻るようにするから稽古しておけよ。」と柿杉が言うと、今度は草加が、「健一、短い間だったが俺の稽古によく絶えたな
だが、これからが本当の意味でつらい稽古が始まる。それは一人で自分を鍛えることだ。手を抜けば忽ち技が錆びる。今後、自分自身で精進しろよ!」健一に最後の言葉として送った。たぶん、二度と会うことは出来ないだろうと全員がそう思った。


続く・・・・
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