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クロノ太陽・・・・・18

「始め!」の声で二人は身構え、対戦者のほうから突きや蹴りを繰り出した。健一はその突きや蹴りを受けると言うよりも打ち砕くように払い、相手の顔が痛みで顰めた、この時とばかりに前蹴りで相手を牽制し中段突きから追い突き、中々相手も手強かったが呼吸の乱れを呼んだ一瞬に右上段回し蹴りで相手の頸部に一撃を決め、相手は立つ事が出来なくなった。そして、勝者の名乗りを受けて一回戦を勝ち進んだ。一回戦とは言っても九州の地域の代表だけあって、あっさりとは勝つことは出来なかった。健一は二回戦での苦戦は避けられないことを悟った。
「健一よ。試合の厳しさが少しはわかったか?」今まで口を開かなかった草加がポツリと声をかけた。
「さすがに代表選手だけあって簡単には試合させてはもらえなかったです。二回戦も不安です。」
「誰でも不安だよ。誰でも勝てるという保障はないし、絶対に勝てる技というのもないんだ。だから毎日、稽古するんだよ。いつも同じ相手と稽古していると相手の次の手や癖などで出方がわかるが始めての相手だとどう出てくるかもわからん、そういう意味においては対戦相手もお前の師であると思え、そう考えれば不安よりもどう教えてくれるのかワクワクできるだろうが?そじゃないかな?」
「つまり、プラス思考で考えるということですね。」
「健一、中々ハイカラな言い方するじゃないか。」二人はお互いを見てにこやかに笑った。草加は滅多に笑ったところを健一に見せたことがなかったため、健一も草加に対して本当の意味での師弟としての関係がいっそう深くなった。
 とはいっても二回戦の相手はそんな流暢なことを言っているような相手ではなかった。見るからに健一の倍はあろうかと思うほどで九州では一位、二位を争うほどの実力者だそうだ。草加は不安がる健一にあるアドバイスをした。
「健一、勝つことは大変なことだ。でも、勝ち続けることは更に難しい。だが、負けを受け入れるのはもっと難しい、だからこそ負けても次に繋がればそれは無駄ではなく、次の勝利のための足掛かりになるのだ。」
「先生、もし僕が白羽取りのときに先生が止めなかったらどうなってましたか?」
「たぶん、もう一人の健一が出来てこの世からいなくなっていただろうよ。」健一はこれを聞いていかに無謀なことをしようとしたか背筋に冷たいものが走った。
「そんなことより二回戦の相手は鍛眼法を使うしかないだろうな。正攻法で勝てる相手ではない。」
「はい、そのつもりです。」
「自分の思うように使うことができるか?」
「わかりません。でも、ここまで稽古に励んだのですから。」
健一は自信なさそうに言った。だが、時とは残酷なもので試合のときを迎えた。
「二回戦、選手は前に!」の声に促され一回戦を勝ち抜いた十二人が前に並び礼をした。健一は始めの二組になり、すぐに試合が始まった。
 お互い礼の後、「初め!」の声。
さすがに、相手も健一の出かたを見て慎重になっていた。しかし、先に手を出したのは健一のほうで正拳の連打から蹴りの連係で相手の手数を封じているかのように見えた。健一は「いける!」と内心思ったのも束の間、相手からの激しい反撃にかわすどころか2,3発突きと蹴りが入った。次に上段の蹴りを左腕で受けた、そのとき、足先がこめかみ部に入った。健一は思わず倒れかけたが踏ん張ってこれを耐えた。
しかし、すべては二重に見え足元がふら付いてしまった。
ここぞとばかりに対戦者は勝負にでた。
「もらった!」と健一に止めの蹴りが!
ふっと、紙一重でかわすと体制のくずれた相手の顎に前蹴りが入った。対戦者は血を吐きながら後ろに倒れた。
「一本!」その声から立ち上がることはなかった。
健一は無意識のうちに鍛眼法で相手の動きがスローに見えその蹴りに対応したのであった。
 健一は運がよかったと思った。しかし、草加は当然と言わんばかりに大きく頷いた。
「健一、やっと日頃の成果が実ったな!」
「いえ、運が良かったんです。」
「バカ者、運だけで鍛眼法は使えないわ。だが、窮地に追い込まれたからからこそ確かに使えたかも知れん。然るに稽古あってこその成果と言えよう。」今日の草加は妙に饒舌であった。そして、誰よりも健一の勝利を喜んでいた。
「ところで、柿杉が見えんが、どこに行ったんだ?」
たしかに、二回戦の健一の試合から柿杉の姿がどこにも見あたらなかった。だが健一には次の三回戦の対戦相手のことしか頭になかった。そして10分程たっただろうか、いきなり健一と草加の前に若い軍人が四人やってきて試合場の真ん中へ引きずり出された。
「何をするんだ!」草加は叫んだ。さすがに草加も訳がわからず戸惑っていると、軍人の一人が軍刀を抜き、
「師匠の仇、二人とも生かして帰すな!」と 他の三人にも軍刀を抜かさせた。先ほど健一が対戦した相手の弟子達が逆恨みして草加と健一に襲い掛かったのだ。

続く・・・・・
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