「それは以前、君から聞いていたので防空壕の位置は調べておいた。」
「一番近いところでどのくらいで着きます。」
「とにかく、全員でそこに向かいましょう!」と健一に言われて柳川も他の軍人たちに壕での取調べをすると嘘をつき全員を5百メートル先にある壕へと向かった。
時間は徐々に迫っていた。壕に着いたのは爆弾投下の十分前である。そして、こんな時に限って古屋巡査が追いかけてきた。「健一、貴様今度という今度は逃がさんぞ!」
古屋は健一の襟首を持つとグイッと引っ張り壕の中に放り込んだ。と同時に空襲警報がけたたましくなった。他の軍人たちも壕の中へ一目散に逃げ込んだ。
「こいつはアメリカのスパイかも知れん!」と訳のわからない事を古屋が叫んだ。「何をばかげた事を!」と柳川が反論するが、健一は時計を見てあと五分であることを確認したところで外に飛び出した。
「あの時計!俺の時計だ!」と古屋も健一の後を追って壕の外へ飛び出した。
「こら~!健一、待たんか!」と大声で怒鳴る古屋だったが、
健一は上空のB-29に気づき、「しまった!」と思った。時計は五分遅れることを忘れていたのだ。もう爆弾が投下されていた。健一は目の前にあるレンガ作りの焼却炉の中に飛び込んだ。幸い焼却炉の中は火の気がなく焦げた臭いだけだった。この状況に古屋も上空を見上げた途端、はげしい閃光が彼を襲った。彼は瞬時に蒸発してしまった。健一はあの後の爆風をこの中でやり過ごそうと思っていたが、その考えが甘かったことに気づいたのは爆風によって、その焼却炉ごと吹き飛ばされ自身の体もほかの残骸と共に吹き飛ばされ、意識がなくなった。浦上天主堂から周囲2km、すべての建物がなくなり壊滅状態となった。
健一はしばらく夢をみているようであった。暗闇の中を自分自身が光となって前からくる光とすれ違った。そのとき、イメージが伝わってきた。それは、何とも懐かしい暖かいものであった。さらに進むと闇の中に薄明るい光が見えた。そして、その方向に行くに従い段々明るくなってきた。次に声がしてきた。
「健一さん、健一さん!」その声はしだいに鮮明になり、健一は目を覚ました。
「はっ、原爆が!」と思わず声が、
続く・・・・
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