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クロノ太陽・・・20

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「これまでお世話になりました。くれぐれもお体に気をつけて。それでは失礼します。」
来る時は三人であったが帰りは一人と健一は寂しさを感じていた。そして長崎へと帰って行った。
 あれから、十ヶ月が過ぎた。
戦火は徐々に激しさを増し、健一の学校はというと授業はかたちばかりで竹槍の稽古や校庭に作った畑の世話と勉強とは程遠い生活であったが、それでも、一人道場で稽古をするのが日課になっていた。
 昭和二十年八月一日現在、長崎市内の空襲は5回を数え激化の一途をたどっていった。幸いこの大浜村は直接の被害はなかったが農家以外の食料は底をつき町から食料を求めて、この町にも人々が来るようになった。だが、原爆の投下まであと一週間、せめて父と母、タミの三人に熊本の柳川少佐のいや、柳川少佐はこの春、中佐になっていた。その妻、芙美に会いに行くようにと健一は柳川に連絡をして八月八日に熊本へ行く準備をしていた。
「健一、手紙がきてるよ。」
「誰から?」健一が母に聞くと、
「陸軍参謀本部?」と答えが返ってきた。
何でこんな時期に陸軍からの手紙と健一は嫌な予感がした。
「とにかく、中を読んでごらん。」と心配そうに母がいうと、
それに促されて、封書を開けた。
「来る八月八日十一時に浦上天主堂の来られたし、柳川中佐も同行いたします。」との事を告げると母が父を呼んだ。
「こんなときに健一に市内に出て来いとは?俺が柳川君に話をしよう。」と父が興奮して言った。
「父さん、軍が決めたことに僕が逆らえば家族にも迷惑がかかるし柳川さんも来るんだから心配には及びません。その後、
父さん達を追いかけて熊本に柳川さんと行きますから。」といって父を説き伏せた。母にもくれぐれも心配しないようにと告げた。だが、健一の心配は柳川であった。あれほどこの日に長崎市内に来るなといっていたのに戦局が悪化しているためだと健一なりに理解はしていた。
(「でも、あと三日で広島に原爆が落ちる。そうなれば、軍部はますます追い詰められてどんな行動をとるか柳川だけでは押さえられないだろう。」)と健一も普段どうりに装いながらも落ち着かない日々が続いた。
 そして八月六日八時十五分、広島に原爆が投下された。
ラジオからの大本営発表は新型爆弾とのことで村の中でもいろいろな噂が飛び交った。それは白い服を着れば爆弾からの被害がないとかいうものであった。だが、健一には父と母、それにタミを熊本に送ることが最大の目的であった。そして、心配する母たちを何とか納得させて送り出した。
「さて次は、明日をどうやって凌ぐか思案していると、巡査の古屋に呼び止められた。
「お前、明日は軍に呼ばれて市内に行くそうだな?どれだけ軍の信用を得ても、俺はお前を絶対に許さんからな!」と息巻いた。
「巡査さん、子供相手に大人気ないよ。」健一はそういってその場から立ち去った。このまま明日、何事もなければいいがと思いつつ健一は床についた。
 そして、運命の日が訪れた。健一は早朝から稽古して戸締りをして家を出た。すると嫌な予感が当たった。古屋巡査が健一の行く先を阻むかのように立っているではないか。
「健一、お前を市内には行かせんぞ!」また、厄介なときに厄介な相手と会うとは健一も、この時ばかりはイラっとした。
「古屋さんよ!今まで下手に出ていたが貴様にはいい加減うんざりだよ。怪我しないうちにさっさと帰んな。」と本来の野太いおっさんの声で一喝すると、ギョッとした表情をしたものの、「人を馬鹿にしやがって!」と殴りかかってきた。この古屋の攻撃を2~3回軽くかわすと首の部分に横蹴りを入れた。古屋はもんどりうって地面に倒れ気絶した。
このときとばかりに健一はバスの乗り場まで走りバスに飛び乗った。周りの様子を伺いながら山本長官から貰った腕時計をして約束の浦上天主堂へと向かった。
 健一は十時三十分に浦上天主堂に着いた。すでに軍部の者や柳川中佐が広島の新型爆弾の件が話題になっていた。健一は何となく今日タイムスリップするような予感がしていた。
 「健一くん、すまない!ここに呼び出すことになって。」
「柳川中佐、ちょっと二人だけで話しできますか?」
「わかった。すまんがちょっと席を外すぞ!」と部下に告げ少し離れたところで話をした。
「どうしてこんなときに、ここに居るんです?あれほど長崎市内に来てはいけないと言ったのに!」
「わかってはいるが広島の新型爆弾のことで軍が殺気立っているんだ。そして、君がこの件に関わっているのではないかという者が現れて疑われているんだよ。どうも山本長官の時から君に陸軍の将校が一般人に化けて身辺調査をしていたみたいだ。名前が古屋とか言っていたかな?」
「嘘でしょう、あの巡査が陸軍の・・・・・」健一は絶句した。あの古屋巡査が陸軍のスパイだったのだ。
「どうしよう!」
「どうかしたのか?」と柳川が言うと先ほどの経緯を説明した。
「まずいな!」と柳川が言うと、健一は開き直って、
「まあ、それはいいですよ。それより後十五分ほどで新型爆弾がここに落ちます!」


続く・・・・
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