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クロノ太陽・・・15

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「体洗ってあげる。出て行けいっても無駄だよ。もうじき柳川さんのところにお嫁にいくから今は何もいわないで。」 この状況では逃げ場のない健一であった。
「わかったから、背中だけおねがい。そうしたら、出てくれるよね?」
「わかった、今日なにがあったのか詳しく教えて!」その言葉にうながされてぽつりぽつりと話し出した。
健一が風呂からあがったころ父が帰ってきた。
「妙な話なんだが火事はおさまったし、飛行機の残骸も残ってはいるんだが米軍のカレンダーが1945年のもので機の中には一人だけ、ナビゲーターがいなかった。まだ、生きているかも知れんから戸締りをしっかりしておくように!」
そして、芙美から健一の話を聞いて淳之介は驚いて、健一を呼んだ。
「健一、大丈夫だったか?今日は酷い目にあったな。けがはないか?」
「父さん、大丈夫です。」
「今日はいろいろあったろうから、早く休みなさい。また明日、話を聞かせてもらうから。」
「わかりました。では、おやすみなさい。」と言って健一は床についた。しかし、興奮状態でなかなか寝付けなかった。
それと芙美が風呂場で意味深なことを言ったのも気になっていた。それは、(「健一くんが10年早く生まれていたら、」)と芙美が溜息まじりではいた言葉だった。それにあの剣の使い手と気になることだらけでとても眠れる状況ではなかった。そして、一睡もしないまま朝を迎えた。
 この日は朝から山狩りをはじめて1時間もしないうちに残りの米兵の遺体が確認された。学校の校長室に古屋巡査がきて父に報告していた。古屋巡査は健一の教室の前でガラス越しに健一を睨みつけた。まるで逃がした獲物を見つけたかのように。
健一は学校が終わると早速、柿杉のところへ向かった。
「先生、先生!昨日凄いものを見ました。」
すると、道場から着物に袴姿の男が出てきた。
「えらい、元気なボウズだな!」 
「始めまして、僕、小椋健一です。あなたは?」と健一が言うと奥から柿杉が、
「健一!こいつが草加十蔵だ。俺の親友で直心影流の達人でこれからお前の新たな師匠になる。」
「小僧、草加十蔵だ。まだ、お前を弟子にするかはお前の腕しだいだ!」
「草加、そんな事言うなよ。腕前は俺が保障する。秋の武術大会までになんとかお前の鍛眼法を会得させてほしいいんだ。そのために呼んだのだから。」
「草加さん、いえ、先生、僕は戦闘機の尾翼を居合いで斬られたのを見ていまだに手が震えています。刀で鉄を斬るなんてことが信じられない思いです!」
「ほほ~見ていたのか。信じようが信じまいがお前の見たことは変えがたい事実だということはわかっているだろう?」
「頭ではわかっていても有り得ないという気持ちが強いのです。」
「有り得ないこと?有り得ないことではない。それはお前が知らないだけだ。使った刀は肥後熊本の胴太貫で達人と呼ばれる人が使えば戦国時代の兜でも割ることもできる。それが技といわれるものであり、そのために稽古して修行に明け暮れるのではないのか?前置きはこの辺でいい健一、道場へ来い!」というと草加は道場へ向かった。健一と柿杉も後について行った。
「健一、草加は剣術だけじゃなくて、楊心流柔術も会得した奴だ。遠慮はいらんからお前の実力をみせてやれ。」その言葉にゆっくりとうなずいた。
「さあ~かかってこい。」
「やあ~。」健一の前蹴りから回し蹴り、上段へ下段へ変幻自在の蹴り技を繰り出し、間合いが詰まると連続の突きを出す。しかし、草加にはかすりもしない、まるで健一の動きをすべて見切っているかのように、しかも、その動きは水が流れるように滑らかであった。
「健一、そこまでか?では、こちらから参る!」
やはり流れるような動きで健一の手首を取ったかと思うと健一の体は宙に舞い床に叩きつけられた。
「それまで!」と柿杉が言い放った。
「中々の腕前だ。だが、まだ動きがあまいな。」と草加が言うや否や健一が、
「草加先生、先ほどの動き僕に教えてください!」
「ほほ~いまの組手で動きの違いがわかるのか?さすがに柿杉が見込んだだけのことはある。だが簡単に会得できるものではないし稽古は想像以上に厳しいぞ。」すると柿杉が、
「もうすでに想像以上の稽古を積んできているよ。健一、胴衣を脱いでみろ。」その言葉に促されて上半身を脱いでみせた。だが、草加の表情はさすがに動じなかった。
「確かに人並み以上に鍛えているのはわかるが、見栄えする筋肉だけでは鍛眼法は得られない。むしろ内にある筋肉を鍛える必要がある。とにかく今からそのための稽古を始める。」
「じゃ~、稽古つけてくれるのか?」
「健一さえ了承すればだが?」
「どんな稽古もやります。よろしくお願いします。」
 草加は庭の四方の木にロープを垂らしその先に1キロ程の薪をくくり交互に振りはじめた。その数10本、そしてその中心に立ち薪をかわすという稽古だった。確かにその動きは流麗で息を呑むほど美しい動きであった。
「健一!見本はみせた、こんどはお前がやってみろ。手で受けずに紙一重でかわす。だから、無駄な動きをするな。」
「わかりました!いいですよ。薪を振ってください。」
「うわっ~。」健一に薪が次々に当たる。ひとつ交わせば別のが当たる。はじめからうまくいくわけがなかった。
「最初はそんなもんだ。な~に焦ることはないさ。少し慣れたころに鍛眼法の理屈もおしえてやるから心配するな!」
「本当に大丈夫か。」めずらしく柿杉が不安そうに言った。
「心配するな!俺はこれを会得するのに3年かかったんだ。そんなに簡単なら苦労しないわ!」と草加はニヤリとした。
こうして健一の新たな稽古がはじまった。
 そして一ヶ月が過ぎたころ事件が起こった。

続く・・・・
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