魁1a型は、あくまでもピュアな高音質実現のために、プラスチックとコンクリートの積層ハイブリッド構造を採用しました。
(この方向の振動が) (伝わっていく)
これにより高剛性、重量級のエンクロージャーを実現、不要な共振、箱鳴りを排除することに成功しています。
その効果は一目瞭然、純度の高いクリヤーなサウンドに、あなたは驚かれる事でしょう。
宣伝文句風に言えば、こんな感じでしょうか。
嘘はついていません。
JAROから誇大広告と言われるかもしれませんが。
でも、これで終わらせては見も蓋もありません。
エンクロージャー(箱)についての、現在の私の所見を述べておこうと思います。
ユニットをエンクロージャーに納めるのは、もちろん低音再生のためです。
そしてユニットの振動は直接、あるいは空気を経由して必ずエンクロージャーに伝わります。
あなたがどうしても箱鳴りを嫌うのであれば、話は簡単です。
アンプのスイッチを切りましょう。
はい、問題解決!
冗談はともかく、前述のとうり、音を出せば必ず箱鳴りは発生します。
スピーカーは、録音された電気信号を忠実に空気の振動に変換すべき、という理想論からいうと、箱鳴りは不要な附帯振動ですから、望ましくはありません。
でも、どうしても発生するものならば、うまくコントロールする事が必要になります。
この方法には2つの考え方があります。
1つ目は箱鳴りを極力抑え込み、目立たなくしていこういう、スピーカーを音楽再生装置と捉える考え方。
そしてもう1つは、箱鳴りが不可避であるならば、うまくチューニングして美しく響かせようという、スピーカーを楽器のように捉える考え方です。
後者の考え方には方程式がありません。
とにかく作り込んで経験を重ねる。
つまり、職人の永年の勘による音作り、という世界になります。
そのような深淵に、私など到底踏み込めません。
そこで私は前者、箱鳴りを目立たなくする方向で考えていきたいと思います。
まずは最初に、ユニットから直接箱に伝わる場合を考えていこうと思います。
ユニットから箱に伝わる振動は、進行方向に対して振幅が縦方向(前後)に伝わるP波と、横方向(直角)に伝わるS波が存在します。
地震波と同じですね。
音への影響が大きいのはS波の方です。
エンクロージャーの場合、具体的には次のような振動になります。
(この方向の振動が) (伝わっていく)
一般的なイメージの箱鳴りはこれですね。
エンクロージャーの板には弾性があり、特定の周波数で共振します。
S波の特徴は、振動の向きが板の共振と同じ方向だということです。
そのため、板は固有の共振周波数で大きく振動します。
振動板と異なる位相で、大きく振動するのですから、干渉が起きて音が濁ります。
実はこのあたりは微妙で、これが豊かな厚みのある音だと評価される場合もあります。
でも基本的には箱鳴りは有害である場合が多いので、対策がとられます。
S波箱鳴りへの対策は普通に一般的に行われている事ですので、ここでは簡単に触れておきます。
①箱の剛性を上げる
これにより共振への抗性が高まり、共振の波高が下がります。
具体的には、剛性の高い素材を使用する、板を厚くする、構造を工夫する、等が考えられます。
②板の重量を増やす
重くすると共振周波数が下がります。
音のエネルギーは低音になるほど大きくなるので、共振周波数が下がれば共振にも大きなエネルギーが必要となり、相対的に箱鳴りが少なくなります。
一般的には剛性の高い素材は重量級になるので、この2つを同時に満たすことになります。
③補強を加える
補強すると共振周波数が高くなりますが、剛性を大きく上げたのと同等の効果が得られるので、総合的には箱鳴りを抑えることができます。
④内部損失の大きい素材にする
内部損失が大きいと、伝わる振動も減衰、箱鳴りも減ります。
ただし、これを重視して剛性を下げると逆効果となるでしょう。
こう考えてくると、理想のエンクロージャーは高剛性かつ重量級、例えばコンクリートで固めた箱だ!
とかなりそうです。
でも実際に製作した例では、あまり芳しくはないようです。
私も「理想スピーカー」では期待外れに終わりました。
なぜそうなるのでしょうか?
これには2つの理由が考えられます。
1つ目の理由はもう1つの箱鳴り、P波箱鳴りです。
P波は、S波とは異なる特徴があります。
①P波は反射する
②(同質の素材であれば)P波は接合部を透過する
P波では共振は起きません。
そのため、音圧は低いです。
でも、P波はエンクロージャーをぐるりと回り、様々な周波数で混ざり合って干渉、共鳴してユニットのフレームを揺らします。
実態としては、P波は箱鳴りというよりも、ノイズと言った方が適切でしょう。
では、このP波ノイズを防ぐ対策を考えます。
①内部損失の大きい素材を使用する
これは極めて大きな効果を発揮するでしょう。
例えばダンボールでエンクロージャーを作れば、P波ノイズはほとんど無視できます。
ただし、剛性が低いのでS波箱鳴りには不利です。
いや、それ以前に低音再生そのものに不利ですが。
②板を薄くする
板が厚いと、多くのP波が反射して ''生き残り'' ます。
薄いと、ほぼ直進のP波しか残らないので、大きくP波を減じる事ができます。
(3次元に拡がるP波を、2次元に狭める。)
これくらいしか思い付きません。
では、逆にP波ノイズに不利なエンクロージャーは、どのような箱でしょうか?
そうです、すぐに思い付きますね。
コンクリートで固めた肉厚、重量級の箱です。
この箱では板の共振は起こりませんが、盛大なP波ノイズがユニットを揺らすでしょう。
そして2つ目の理由です。
こちらの方がむしろ大きな問題でしょう。
ユニットの振動板は、当然ながら箱内に音を放射します。
コンクリート等の硬く、重い素材は、音のエネルギーを吸収せず、そのまま反射します。
コンクリートは内部損失だけでなく、外部損失(?)も少ないのです。
大きなエネルギーを持ったままの反射音は、そのまま盛大な箱内定在波を生みます。
では、次にユニットから空気を経由して伝わる箱鳴りを考えてみます。
実は、ユニットから直接伝わるS波箱鳴りはバッフル面(ユニットの取り付け面)のみで、そこから先は振動の向きが変わるので、P波として伝わります。
つまり、バッフル面以外の上下左右、裏板のS波箱鳴りは全て空気振動から伝わります。
そして音圧は全ての板に均等に伝わります。
ということは、S波箱鳴りには振動の焦点、節があるという事になります。
具体的には、板の中心点が最も大きく振動する、ということです。
次に、P波も空気を介して伝わるでしょうか?
アパートの、部屋の間の壁をイメージしてください。
安普請、薄く軽い木材の壁だったとします。
隣室の物音がよく聞こえますね。
板が軽く薄いという事は剛性が低いということであり、板は音のエネルギーに抗する事無く簡単に振動します。
つまり、隣室の音が壁全体を震わせ、特定の周波数では共振して(S波箱鳴り)伝わってくるのです。
では次に、壁が硬い材料だったとしましょう。
隣室の物音は壁で反射、こちらにはあまり洩れません。
遮音性が高い壁と言えます。
では、壁に耳を付けて聞き耳を立ててください。
意外と明瞭に隣室の話し声が聴こえると思います。
実際には、壁の表面に壁紙などの(内部損失の大きな)仕上げ材が貼られるので、聞こえにくくなりますが。
これらの事から、空気振動が壁の中を伝わっていると考えられます。
振動レベルが低く、壁は音を発しませんが、耳を付けると聞こえます。
そうです。
音は空気を介して板に伝わり、P波として板の中を走るのです。
結論です。
スピーカーユニットが音楽を再生する限り、必ず箱でP波ノイズが発生します。
ならば箱のP波ノイズをいかにユニットに伝えないか、それが重要となります。
P波ノイズ対策を、真剣に考えるべきと思います。
それでは、エンクロージャーを設計するに当たって、どのような方向で考えれば良いでしょうか。
まず、P波ノイズ対策のため、箱の素材は内部損失が大きい(柔らかい)木材等を使用すべきだと思います。
でも、内部損失の大きな素材を使用すれば、S波箱鳴りには不利となります。
当然その対策として、補強を加えることになります。
ごく普通に行われている、一般的な方法ですね。
参考までにですが、私おすすめの補強方法があります。
一般的な形(四角形)のエンクロージャーの場合、反対面の板、例えば上板と下板は相似形状です。
ということは、同じ周波数で共振します。
そしてその位相は逆相です。
上板が上に動くとき、下板は下に動きます。
ならば、上板と下板の焦点、中心部を補強材でつないでしまえば良いのです。
お互い反対側に動こうとするので、振動が相殺されます。
これは左右面でも同様です。
前後面では条件が変わりますが、これも有効だと思います。
そして補強材には剛性が要求されます。
P波ノイズを考えると、薄い鉄板などが良いでしょう。
と思いましたが、あまり太くないボルト等がもっと良いですね。
もしこの考え方でエンクロージャーを作るのであれば、ユニットは箱の中央に取り付けるべきでしょう。
端に取り付けると、板の共振が相似でなくなり、箱鳴りが増えると思います。
そしてP波ノイズ対策として有効な手がもう一つあります。
箱のP波ノイズを、物理的にユニットに伝えなければ良いのです。
フローティング構造とでもいうのでしょうか。
例えばユニットを板に直接取り付けず、間に厚い吸音材を挟み込む、などの方法です。
こうすればP波ノイズの悪影響が大きく減るでしょう。
ならば、次のような考え方が浮かびます。
フローティング構造でP波対策が出来るのならば、箱の方はS波対策に専念すれば良い。
そうすれば二兎を得られるじゃないか。
おそらく間違ってはいないと思います。
でも、かなりの困難が予想されます。
P波対策まで考えた軽量箱の場合、箱鳴りは主に板の共振です。
定在波もあるでしょうが、まずは板の共振対策に頭を悩ますことになります。
つまり真っ先に必要なのは、箱の補強です。
でも、コンクリート等の重量箱の場合、箱鳴りはほとんど箱内定在波です。
S波箱鳴り無し、P波ノイズも遮断。
でも残るのが、定在波対策という厄介な問題です。
もし重量箱に挑戦するというのなら、箱を四角形にしないことを私はおすすめします。
上下、左右など正対面の壁がなければ定在波は減少します。
ただし、減少はしますが無くなる訳ではありません。
対策として、吸音材を使用する必要があるでしょう。
どこで妥協するか、細かいチューニングが必要になると思います。
高難易度は間違いなさそうですね。
なお、四角形にしない方法は、軽量箱にはあまり効果が期待できません。
軽量箱の主な箱鳴りは、板の共振なのですから当然そうなります。
今回の私の論考の結論は簡単です。
皆さんが普通に行われている、王道箱作りは合理的で正しい、と確認しただけです。
特に新しいアイデアがあった訳でもありません。
ただ、エンクロージャーに対する自分の考え方を整理、確認するために書いてみました。
今後何かアイデアが浮かべば記事に上げるかもしれませんが、現在ではこんなところです。
では最後に、私の魁スピーカーです。
実は魁1a型を製作した時点では、まだP波ノイズという考察にはたどり着いてはいませんでした。
そのため、箱は剛性が高く、重量級の方が良いと単純に考えて、プラスチックとコンクリートで製作しました。
それでもあまり問題にならなかったのは、箱が極めて小さい(半球状なのでP波ノイズが後ろに回り込まず、縁で反射して折り返す。)ので、あまり共鳴しなかったのだろうと考えています。
その後、一応のP波ノイズ対策として、セミ・フローティング構造を取り入れました。
具体的には、ユニットと箱の間にゴムパイプを挟んで、ビスで止めています。
ビス止めなので完全ではありませんが、P波ノイズをそれなりには防いでくれていると思います。
現在構想中の、次のスピーカーでは本格的なP波ノイズ対策を取り入れます。
木製、完全なフル・フローティング構造、バッフルスカートなどが採用される予定です。
100円ショップから外れそうなのが······。
小難しい話が続いて、申し訳ありません。
あと一回で終了予定です。
次回 魁スピーカーの低音増強について
(おまけのアイデア)
先日、ぶらタモリ(宇都宮編、再放送)を見ていたら、特産品として 大谷石(おおやいし)が紹介されていました。
気泡を大量に含むのが特徴で、加工性、断熱性に優れています。
音響特性にも優れていて、音楽ホールに採用されているそうです。
これはいい、エンクロージャーに使えないか?
と考えて、閃きました。
発泡コンクリートです。
ALCと呼ばれ、主に外壁材として使われます。
実際に手にした訳ではないので、あくまでも予想ですが、高剛性で内部損失が大きく、音の反射も少ないという理想に近い特性なのではと思います。
唯一の欠点は、軽量な事でしょうか。
水に浮くそうです。
将来製作するエンクロージャー素材の有力候補です。