野叟解嘲(やそうかいとう)ー町医者の言い訳ー

老医師が、自ら患者となった体験から様々な症状を記録。その他、日頃、感じていることや考えていることを語ります。

寿命

2023年10月31日 | 日記

古来、人類は不老不死に憧れてきました。真剣に研究している人も、昔から大勢居たと思います。この頃は「人生百年時代」などといい、もしかして、人が死なない時代が来るのではないかと期待している人もいるかもしれません。果たして、そんな時代が来るのでしょうか?

まず、「人生百年時代」ですが、老化について研究している偉い人の話では、人間は長生きできても、せいぜい百年が限度だそうです。記録がしっかりしている人について調べたところ、多少の長短はあっても大体百歳が限度だといいます。そして、此処から大事なのですが、いわゆる健康寿命は百年よりはずっと短いのです。つまり、百年生きたとしても、最後の十数年は寝たきりだったり、認知症になっていたりということです。ですから、私は「人生百年時代」ということばに踊らされるなと人に言ってます。要するに、長生きすればいいというものではないということです。誰でも、今の自分のままで長生きできるように錯覚しています。長生きすれば、その分衰えた姿になっていくということを忘れがちです。

皆さんにお勧めしている物語があります。「ガリバー旅行記」です。子供のころ読んだ話は、小人の国へ行く話がほとんどだと思います。私もそれしか知りませんでしたが、スィフトの書いた「ガリバー旅行記」はそれだけではありません。いろいろな国を訪れた話から成り立っていますが、中に「人の死なない国」の話が出て来ます。その国ではごく稀に(正確な数字を覚えていません)、決して死なない人間が生まれるのです。ガリバーはその話を聞いて「素晴らしい。もし私が死なない人間になったら、自分の知識や経験を若い人たちに伝えることで大いに役に立てるだろう。」といいます。しかし、その国の人たちは「とんでもない」」といい、「死なない人間」をひどく」軽蔑しているのです。なぜかというと「あいつらは、何があっても死なないんだ。病気になって、耄碌して、ボロ布のようになっても死なないんだ」として。ガリバーは長生きの希望を失ってしまうのです。18世紀に造られた物語ですが、時代を超えて通じるものがあると思いませんか。

少し前に、「人の死なない世界」というSF小説を読んだことがあります。冷凍技術が発達して、希望するときに体を冷凍保存して、希望するときに解凍するということを繰り返すというのです。すると、自分の息子や娘よりも若々しい姿で解凍された親や祖父母などが混在している世界の話です。これでほぼほぼ死なない世界が実現するというのですがどう思いますか?冷凍すると病気も進行せず、新しい治療法が開発されたときに解凍してもらえば、どんな病気も生命に対する脅威とはならないというのです。こんな人生は幸せなのでしょうか?こんなことが可能になったとして、それを賄うエネルギーは膨大なものになりそうに思われます。また、冷凍保存される人間が増えれば必要なエネルギーも増え続けることになるでしょう。現実的ではないからSF小説なのかもしれませんが、読者に間違った期待を抱かせるのではないかと危惧します。。

ちなみに、手元にある老化についての本によると、いろいろなメカニズムが老化に働いているが、大きなものとして放射線や宇宙線の影響があるといいます。これらによりDNAが傷つき、様々な不具合のもとになるというのです。宇宙線によっては、ほとんど遮ることができないものがあり、結局、どんなに体を大事にしても、いずれ老化(劣化)は逃れられないといいます。考えてみれば、なんでも大切に引き出しの奥に仕舞っていたとしても、長い保存期間の後に取り出してみるとボロボロになっているものです。

ここでお経を一つ紹介します。地蔵菩薩本願経の一節です。

佛日、「受身無間者永遠不死、寿長乃無間地獄中之大劫」(仏陀曰く、無間地獄に死はない。長寿は無間地獄最大の苦しみなり)

無間地獄とは、六層ある地獄の中でもっとも深いところにある地獄だそうです。

私は、人は死ななければならないと考えています。

 


悩みも驚きも尽きることがない

2023年09月03日 | 日記

そろそろ、このブログを初めて1年になります。腰椎すべり症、腰椎椎間板ヘルニアのさまざまな症状を中心に書いてきましたが、ここらで一区切り付けようと思います。結局、加齢に伴い症状は変わり続けており、際限がないということ、それをすべて書き出しても読む人の役に立つ話ばかりではないということから、今回を、神経症状を紹介する最後にしようと思います。

すべり症、および椎間板ヘルニアにより、馬尾神経障害と神経根障害を併せ持っている状態ですが、相変わらず、フォローアップの画像検査(MRI)では目立った変化は指摘できないにも関わらず、症状には変化が続いています。つい先日、気づいたのは神経根症状のある左下腿ですが、触覚は手術後半年の頃にはL5領域でほぼ無くなっていたのですが、徐々に回復していました。少なくとも自覚的にそう感じていました。ところがつい数日前、入浴した際に左膝から下にお湯の熱さを感じないことに気づきました。普段から、シャワーばかりで、湯船に浸かることがほとんどないため、最近まで気づかなかったのだと思います。それから、入浴する際に、一々、どこに熱さを感じるかなど意識することがありませんので分からなかったのだと思います。此度は、冷房のせいで下腿がひどく冷えた感じがしたため、湯船に足湯のように膝から下を浸けて見ました。するとどうでしょう。お湯の温かさが分からないのです。腰まで入ると大腿から上には熱さが感じられましたが、膝下は分からないのです。しばらくお湯に浸けていましたが、感覚に変化はありませんでした。触覚は問題ないことを確認しました。驚きました。組織学的に考察すると理解できるかもしれませんが、ここでは行いません。

いずれにしろ、症状は日々変化していて、後日、同様に足湯の真似をしてみると、そのときには温感がありました。様々な要素が影響しているものと考えます。

画像検査について書いたときに述べたように、脊椎はダイナミックに動くところですから、画像所見と神経症状が一致しないことも珍しくありませんし、症状も変動することが多いと考えます。

脊椎疾患の診断、治療に際しては、この「ダイナミックに動く」ということをいつも心に留めておきたいと考えます。

次回以降、少し自分の体を離れた記事を書こうと思います。まさしく老医師の独り言、繰り言になりますが、ご容赦ください。。


脊椎病変と自律神経症状

2023年07月17日 | 日記

さて、脊柱管狭窄症の症状というと間欠性跛行が有名ですが、他にも様々な症状があることはご存知でしょう。

しかし、自律神経症状に言及したものはほとんど見たことがありません。単に私が不勉強なだけかも知れませんが。

自らが経験した症状を紹介します。

<起立性低血圧> 所謂、立ち眩みです。リハビリの一環として、ぶら下がり健康法ではありませんが、手術後1年くらいしてから、自宅でも牽引療法に変わるものとして、ぶら下がり運動を始めました。そんなことをしてもすべり症が戻るとは考えていませんでしたが、やってみるととても気持ちがいいことに気づき、自宅車庫の梁に介護用の小型の手すりを取り付け、寝る前などに僅かな時間ぶら下がるようにしました。すると、何の関係か分かりませんが、ぶら下がると立ち眩みが出現し、意識を失いそうになることがありました。中学生の頃、立ち眩みから気を失ったことが2度ほどあり、自分でその直前の感じを覚えていますので、今では意識を失う前に危険な姿勢を直すことが出来ます。このぶら下がりの時も、目の前が暗くなる感じが出てきたところで、手すりから降りて、事なきを得ましたが、少し休んで再び試すと立ち眩みがまたやってくるのです。3回くらいは再現できました。このようなことが、おそらくその日の体調との関係でしょうが、時々現れます。脊椎に伸展刺激が加わると、迷走神経の異常な反射が誘発されるのではないかと想像しています。個人的な経験ですが、環椎軸椎亜脱臼の患者さんで何人かで起立性低血圧によると思われる、失神を見たことがあります。脊椎病変で、そういうことが起きうると思っています。

<体温調節障害>此は、今にして思うと、かなり早い段階で出ていた症状だと考えています。30代の頃、間欠性跛行の症状が出始めていた頃、下肢の症状として、寒暖の感覚障害とそれに伴う体温調節障害があります。

どういうことかと言いますと、足は冷えているように感じるのに手で触れてみると逆に暖かく、寧ろ火照り気味だったり、逆に熱く感じているのに触れると冷たかったりということがあります。特に日中、長時間歩行した夜、寝床でそういう感覚のためになかなか寝付けないことがよくありました。最近では、お年寄りの「足が冷えて寝付けない」という訴えに、「触った時には冷たくないでしょう?」と確認すると、「そうなんです」という答えが返ってきます。こういう人たちには、脊柱管狭窄症が隠れていないか、確認の検査をおすすめします。大抵は軽症ですので、リマプロストなどがよく効きます。

自覚的に熱い、冷たいと感じているだけではなく、その状態に対して体温調節が働くと、足が冷えていると感じる時には、全身は体温を上昇させる方向に働き、足は冷たく感じているのに嫌な汗をかくように体が火照って来ます。逆に足が火照っていると感じるときには、体が冷えていくということになりがちです。どちらも深いな症状です。若いお医者さん達にはわかりにくいと思いますが、年寄りや若くても狭窄症がある人には、このような症状もあることを知っていると、対処の仕方が変わるでしょう。


鎮痛、除痛の重要性

2023年07月09日 | 日記

ある姿勢をとることで症状が軽くなる話で、初めに気づいたのが智歯を抜く手術後の麻酔の覚め際だったことを書きましたが、その後も別の手術を受ける機会があり、その都度、麻酔が覚めきらない時に、すべり症による足のしのしびれが軽くなることを経験しました。

これは何故だろうと考えたとき、術後経過のところで紹介した膝の痛み(ハムストリングスなどの異常な緊張)を思い出しました。痛みは、筋肉の緊張が解放されることで消えましたが、その根本原因は腰椎病変に対する無意識の防御姿勢にあることも説明しました。

麻酔の覚め際の、いささか不自然な姿勢でしびれが軽減するのは、前回紹介した、姿勢そのものによる効果に加えて、麻酔により、腰の異常な防御姿勢、筋緊張が軽減され、姿勢による脊柱管の拡張を手助けしたと考えます。

その後も、ごく偶に睡眠導入剤を使う機会があり、このときも起床時の症状軽減が得られました。主にゾルピデムを少量使ったのですが、おそらく自然な睡眠より筋緊張の軽減があったと想像します。メーカーの説明では、Ω1,2受容体に対する選択特性から、ゾルピデムは筋緊張低下作用は弱いので、高齢者の転倒を 引き起こしにくいとされていますが、小生には十分筋緊張低下をもたらしたようです。

さて、麻酔学を学んだ方ならばお分かりでしょうが、麻酔の目的の第一は、もちろん痛みを取り除くことですが、単に痛みをのぞくだけではなく、痛みから生じる望ましくない反射(反射的な体の反応)を防ぐということも重要な目的です。麻酔まで大袈裟にしなくても、痛みを取り除く、或いは軽減するということは、体に不利な反射を抑制し、全体としての症状の軽減が得られる方法だと考えます。

人は薬について、可能ならば使用したくないと考えます。当然であり、妥当な考え方だと思いますが、場合によっては、鎮痛剤は本来の効能よりも広い影響を及ぼすことがあり、それは副作用という意味ではなく、癒すための手段として重要なものではないでしょうか。


リハビリは続く ー 怪我の功名? ー

2023年07月01日 | 日記

3月に硝子体手術を受けたことをお知らせしました。その術後にうつ伏せ寝を強制されたことも紹介しましたが、この際、予想外のこと(後述する説明を読めば、予想できないことではないことが分かるのですが)が起きました。

手術後、暇があればベッド上で俯せになっていたのですが、うつ伏せから起き上がると、両足のしびれが消失と言っていい程に軽くなっていたのです。その際に使用した器具が次の写真です。市販のクッションに手を加えたものだとのことですが、なんとアマゾンを探すと似たようなものが製品として紹介されていました。硝子体手術後のうつ伏せ寝のためにと。

 左の写真が実際に使用したクッションです。

 こちらはアマゾンのカタログからの写真です。手術後、上の器具を使って、ひたするら俯せでいました。

さて、何が起きていたのでしょうか?

脊柱管狭窄症は少しだけ背中を前屈させると症状が軽減するということを習ったことがあるでしょう。その姿勢が僅かに脊柱管の前後経を拡大するのですね。だから、おばあさんたちがシニアカーを押して歩くと長く歩けるのですね。その様子が図3です。俯せになると、図4のように、これを90度右へ回転させた形になります。(図3を90度回転させたものです)図3

 

   図4

さらに、うつ伏せ寝は単に背中を軽く前屈させているだけではなく、弱いながらも牽引する力も加わっていると考えられます。

図5のように、シニアカーを押しているとき、脊椎には重力により上下に圧迫する力が加わっています。

 図5

これに対して、うつ伏せでは図6のように上下方向に軽い牽引力が働きます。このためにうつぶせ寝の後、足のしびれが劇的に軽減したものと想像します。

図6

理学療法に「体位牽引」というものがあります。教科書の図を一部改変して、1例を示します。腰椎病変の急性期、症状軽減の手段の一つとして紹介されています。

意識せずに、この牽引療法を行っていた訳です。もちろん立ち上がって動き出すと、その効果は10分もすれば消えますが。

牽引療法に対して賛否の意見があることは知っていますが、個人の感想ですが、「効果はある」と思います。ただし、以前にも書いたように、治すものではなく、癒す効果があるという意味です。

この個人的経験を患者さんたちに紹介し、日常生活の中で、それぞれの方法で体位牽引療法を行うことを勧めています。