野叟解嘲(やそうかいとう)ー町医者の言い訳ー

老医師が、自ら患者となった体験から様々な症状を記録。その他、日頃、感じていることや考えていることを語ります。

腰部脊柱管狭窄症のシビレ

2022年08月20日 | 日記

下の表は、メルクマニュアルから抜粋した、末梢神経の太さによる分類です。かつて、某医科大学の偉い先生の講演で、このような神経線維の太さに従って症状が推移していくという解説を聞いたことがあり、当初は、なるほどと思ったものでした。つまり、初めは細い感覚神経が障害されるために、下の表の言葉を利用すると、部位が比較的明瞭な皮膚の温痛覚がやられるため、「チクチク」とした痛み、知覚異常が現れ、進行すると、皮膚の触圧覚が障害されて、以前述べたような「ボコボコした感じであったり、「水ぶくれができたような」感じが出るというのですが、実際に患者として経験すると、そう理屈通りには進みませんでした。馬尾神経は文字通り馬のしっぽのように神経の束が集まっていますが、それらがまとめて締め付けられるために症状が出ます。きれいな神経根症状とも違いますし、細い神経、太い神経が混在した状態ですから、締め付けるメカニズムと障害される神経の位置関係によって、症状のバリエーションが出るものと考えます。ただし、基本的には細くて長い神経軸索が最も障害されやすいことが予想されますので、足の遠位から症状が出現することは間違いありません。

分類 髄鞘 平均直径(μm) 平均伝導速度(m/s) 役割
15 100 骨格筋や腱からの感覚、骨格筋の運動
8 50 皮膚の触圧覚
8 20 筋紡錘の錘内筋運動
3 15 部位が比較的明瞭な皮膚の温痛覚
B 3 7 交感神経の節前繊維
C 0.5 1 交感神経の節後繊維、皮膚の温痛覚

感覚神経(求心性神経)では次の分類が用いられることもある。

分類 髄鞘 平均直径(μm) 平均伝導速度(m/s) 感覚
Ia 15 100 筋紡錘
Ib 15 100 腱器官
II 9 50 筋紡錘、皮膚触圧覚
III 3 20 部位が比較的明瞭な皮膚の温痛覚
IV 0.5 1 鈍痛、内臓痛

症状の出方が現実は異なると書きましたが、原則を理解しておくことは重要でしょう。脊柱管狭窄症では、物理的に馬尾神経が圧迫されることによる損傷と考えられますが、たとえば、動眼神経が内頚動脈後交通動脈動脈瘤の際に圧迫される場合には、同神経の表面背内側で表面に瞳孔への線維があるために、しばしば散瞳が初発症状として見られるというのとは状況が異なると思われます。

馬尾神経損傷のメカニズムについては、別の機会に考えて見ます。


間欠性跛行

2022年08月05日 | 日記

6年ほど前、腰椎すべり症と腰椎椎間板ヘルニアを同時に手術しました。

最終的に手術を決断したのは、ヘルニアによる足の痛みですが、間欠性跛行はおそらく30年くらい前から発症していたと思われます。今回はその症状について少し書きます。

振り返ると、30代前半の頃、東京での学会に参加した時に、それは始まりました。会場が数か所に分かれていたため、あちらの会場、こちらの会場と歩いて異動していたところ、左足の裏、第2趾の付け根(MT関節付近)に違和感を自覚しました。靴の中に砂がはいっているような感覚で、何度も靴を脱いでは、あると思っている砂を取り除こうとするのですが、何も出て来ません。しかし、そんな作業で数分休むと症状は軽減します。くつに原因があるのかと、中敷きの第2趾部分を削り取るようなこともしました。これも少し有効な感じだったので、よもや、自分の腰椎に狭窄症があるとは夢にも思いませんでした。間欠性跛行という言葉は、神経外科医の常識として知っていましたが、こういう感覚の異常とは想像していませんでした。

このような状態が、十年近く続きました。40才近くになったとき、勤務先の病院で、たまたま自分の腰椎MRIを撮影する機会がありました。L4,5間で少しすべりがあるかなとは思いましたが、脊柱管自体は広く、腰椎の形もl良好で、「狭窄症とは縁がないだろう」と自信を持ったものでした。古い資料のため、ここでお見せすることができないのが残念ですが、そのうち、手術する直前の状態はお見せします。

今回、覚えて欲しいのは「靴の中に砂がはいっているような感じ」ということです。若い先生方には、お年寄りの訴えに、このような表現があった場合には、腰椎病変を考えていただきたいと思います。この他にも「足の裏に水ぶくれができた」という患者さんもいます。もちろん、実際に診察しても水疱など見当たりません。あるいは、平らなタイルの上を歩いているのに「砂利の上を歩いているみたい」と表現する方もいます。

注意したいのは、糖尿病性ニューロパシーでも同様の訴えが聞かれるということです。鑑別診断として、頭に置いておきたいものです。

いずれにしろ、上記のような症状は、障害される末梢神経の種類に関係するといわれていますが、その話はこの次にします。