やはり俺は就職など出来ぬのだ。よく考えずともそれは当たり前で、小生の様に何をしても中途半端に事を終える癖のある人間は社会様世間様が求める様なスキル・技能など何一つ持ち合わせておらず、そういうのは大抵大学や専門学校などで身に付けておくべきであるが、俺の場合高校卒業後はデザイン学校の美術科に入学したものの初期の段階で芸術に目覚めてしまいこの目覚め様と言ったら目覚ましいものざまし、授業外の時間は大概芸術の研究や制作に充て一丁前の如く個展などを開いたりコンクールに入選などしやがったりしてまさしく猿の様に野心を燃やして居た訳であるが、ちょい、そもそも、猿って野心燃やしてんのかいワレ。貝割れ。まあいいか、ウッキッキッ。
こんな具合で中途半端に自信を蓄えてしまった小生はあろうことか「俺パリ行くねん。パリ。このジャポーネ?っていうの?俺に合わねぇし。なんか狭いんだよね。明日の俺ン家フレンチ」とか訳の分からない文句を吐いて中途退学という凶悪な所業に及び、まああいつは猿なのだから仕様が無いと社会様世間様に見切られた事に気が付かない猿なのだから。でもね。
俺っちそれで良いと思ってた。俺と同級の阿呆共はこのようなくだらない社会の歯車、それも替えの利くやつな、そのように為るために大学で興味の無い講義などを受け、それ以外ときたら女と遊んだり酒を飲んだり傘を買うたりと体たらく甚だしくその期間俺様ときたら此奴、在学中より画家として活動、のち退校という勇気在る選択、パリに行く為アルバイト、更に本を拵え風雅此れつまり世で最も意義在る事是れ極まった。
しかしどうだろう、何かおかしいぞっ、と誰も予想もしなかった衝撃の事態に陥ったのだ俺っちは。どう云う訳か全く以て売れないのである。こんな筈は無いと、とりあえず部屋で一人オペラを唄ったが何も起こらない。俺は絶望した。驚愕した。悲嘆した。在学中に得たもの、これは真の実力によって裏付けされた自信などではなく、慢心であったのだよ。ピエー。