これ周りを見て再度絶望。焦燥。と云うのは同級の人等、就職などしておるではないかっ。これ由由しき事態で、俺っち、学歴ナシ、作品売レズ、ハハキトクスグカヘレ、是れに比べ奴等大卒、就職のち出世、倖わせハッピー。わお。こりゃあかんやんけ。是れ気付いた時既に、俺はインターネッツで求人サイトを立ち上げ「正社員求ム」の求人に応募、自家用車で時速120kmなどを出し、面接を受けたのである。(駐車場料金一六〇〇円/一時間)
結果、採用であった。俺は安堵した。愉悦した。享楽した。これで奴等と同じ土俵に立った上更に芸術の能力が在る俺の方が有利で、こんど靴でも舐めてもらおうかしらん、そう云えば俺の就職先と言えば美術出版社なのだよわれ。かっこいいだろう、風雅だうん。仕事内容?何か営業とか言ってた気がするなぁ、まあそんなことどうでもいいって云うか、この美術出版社っていう響きがすべてっていうか、だって俺って美術・芸術の体現者っていうか、ぴったりだよね。とかなんとか、数日後、俺は初回勤務日を迎えた。
は?電話営業。美術刊行物、それも公募展入賞・入選作品集かなんかの入賞・入選者一覧に在る電話番号各種に只管電話をかけ続けろとな。ほいでうちで個展をやらぬか本を出さぬかと勧誘しろ。契約しろ。しかし電話先の君は君でそういった営業の勧誘などうんざりで、間に合ってるわ、ボケェ。と無慈悲にあしらわれる有様。
そりゃそうである。先ずこちらも作品すら碌に知らぬ先生殿に恰も存じ上げたうえで白羽の矢が立ったなどと空音を述べるのは当の先生方に、そして何より美術に対して大変な冒瀆でありつまりこの行い・仕事によって美術をより良い感じで盛り上げて行こうなどと言うのは矛盾しておるのであり、それは一介の表現者・芸術家の端くれたりともプライドが在り、そのプライドが許さないのである。けれどもこの会社はそのような言い分など聞いちゃくれなく、というのは当然でそれが社会なのだよこの戯けがっ。そうして20回程電話したタイミングで俺はクライ。破壊。後悔。結局一件も契約を取れず帰宅、部屋でオペラ。
つぐのひ、俺はさくじつと同じ地点に出勤するために家を出た。バスに揺られ、電車に揺られ、しかし気が付いたら俺は所期の目的地では無い東京駅なる駅で下車、皇居の周辺を徘徊、なんか良い感じの公園、なんか良い感じの開けた芝生のスペースが在ったのでそちらで寝そべり会社に欠勤すなどの連絡は入れず、木々が風に煽られる様子、流れる雲の様子、ベンチに腰掛けるふたりの女子社員の様子をぼうっと眺めながら一切が過ぎるのを祈るような気持で待った。
「明日からどないしましょ。」俺は一人呟き、再度無職になった事については考えず、ただ只管に帰って唄うオペラの曲目と来月末に会う約束をしている同級の効果的且つ芸術的な靴の舐め方について思考を巡らせていた。