身代わり申を買って奈良町資料館を出た私たちは、去年歩いた所へ行ってみようと、
細い道をくねくねと歩き始めました。
ところがよく道を覚えておらず、しばらくうろうろしているうちに、いきなりあの「元興寺塔跡」の門の前に出ました。
「え?こんなに狭かったっけこの道。」
何か、どこかの住宅街の路地に迷い込んだような道です。
記憶にある道はもっと広くて、商店街の一角ぐらいの感覚でいました。
この通りを少し行くと、「紅屋」さんがあるはずです。
紅屋さんはありましたが、こじんまりとした、これも記憶よりはかなり狭いお店でした。
どの通り、どの建物も、去年来たときより一回り小さくなったような気がしました。
やはり雨が降って、人通りが少ないと、広く大きく見えるのでしょうか。
去年は寒さに震えながらも気が急いていて紅屋さんの中には連れ合いだけが入りましたが、
今回は私も入ってみました。和風の雑貨が店内いっぱいに置いてありましたが、男の私にはあまり興味がわきません。
連れ合いは娘への土産に、和風柄のシュシュを2~3個買って行きました。
紅屋さんを出た頃には夕方も4時を回っていました。
「ああ、今日も元興寺を見られなかったなー。」
5時半に近鉄奈良の駅前の居酒屋さんを予約してあるので、まだ少し時間がありました。
「ちょっとどんな所か前まで行ってみようか。」
ここから10分以内で行けるし、丁度方角も同じなので、元興寺の前まで行ってみることにしました。
去年寒さをこらえきれずに、思わず入ってしまった奈良町情報館の先を少し行くと、
元興寺の駐車場の見える路地の前に来ました。
路地の突き当たりに門が見え、職員の人が手前の駐車場の前にいた男性と何か話していました。
私たちは、「あれが元興寺だ。」「もう今からじゃ入れないね。」などといいながらも、門のほうへ近づくと、
いきなり職員の人と話していた男性が近づいてきて、「元興寺に来られたのですか? 」
「ちょっともう時間が遅くて、外から見たかったので。」と私が言うと、
「どちらから?」
「東京から来ました。」と連れ合い。
「ああ遠くからよく来られました。是非中に入ってみてください。」
と、拝観券を私たちにくれ、自分も私たちを先導するようにさっさと中へ案内してくれました。
「もうすぐ閉門時間になるので特に見ていただきたいところしかご案内できませんが。」
と、国宝の極楽堂と、極楽坊禅室の周りをぐるりと回り、丁度二つのお堂が眺められる墓地の中ほどで、
瓦のことを丁寧に説明してくれました。
要約すると、この建物の瓦は飛鳥時代からのもので、大変な価値あるものだということです。
私は瓦もいいのですが、ぐるっとひと回りしたときにチラッと見えた極楽堂の曼荼羅に非常に興味をそそられました。
「奈良町はもともと元興寺の境内だったのです。この禅室はそのほんの一部です。」
「奈良町資料館のあたりが本堂だったのです。」
へえーっ。奈良町全体が元興寺の境内だったのか。めちゃめちゃ広いお寺だったんだ。
ということは(奈良町)=(元興寺)ということになるな。
ここに来る前は正直、何でこんな街中にある普通のお寺が世界遺産になっているのだろーか?
と不思議に思っていましたが、もし昔の姿を目の前にできたらそれも納得するかもしれません。
「極楽堂にも上って是非参拝してください。」と男性。
世界遺産のご本尊を参拝できる機会はめったに無いので、もう暗くなったお堂の中に入ると、
不思議な安心感を感じながらご本尊の曼荼羅に向かって拝みました。
それにしてもかつて広島カープからジャイアンツにトレードされた元ピッチャーの川口に似たあの男性は
一体何者だろーか? 元興寺の関係者? 奈良町の町会のスタッフ???
お名前も聞かずにお礼だけ言って分かれてしまいましたが、狐につままれたような思いで私たちはお堂を出ました。
もう暗くなり始めた元興寺の境内を後にしたとき、急にお腹がすいてきました。
ああ、今日は目いっぱい回って疲れたー。
一杯飲んで、ホテルの温泉に入ってゆっくりしよーっと。
つづく