精神疾患。二大精神病と言われる疾患は、統合失調症と躁うつ病でしょうか。
他にも様々な疾患がありますが、個々の疾患に対する解説は、ここではしません。
「発達障害?」のページでも記載いたしましたが、日本の精神科領域の診断は、DSMというUSAの「精神障害の診断と統計マニュアル」によることが多いです。DSMが改定されるたびに、診断基準が変わり、疾患名も変わるものもあります。今は5版にそって診断、表現されていますが、また、改定されたら変わるかもしれません。
例えば、躁うつ病。
「躁うつ病」と言うのは、昔ながらの名称です。病的な躁状態と病的な鬱状態を繰り返す人もいらっしゃれば、病的な躁状態がない方もいらっしゃいます。「気分障害」と言われた時期もありましたが、DSM-Ⅴでは、躁状態と鬱状態がある場合を「双極性及び関連障害」とし、躁状態がなく鬱状態のみの場合は「抑うつ障害・うつ病性障害」に分けました。
また、そのような診断名以外にも、様々な状態の鬱が報告されています。二大精神病に数えられるにも関わらず、というか、だからか、軽く見られたりして、受診に結びつかなかったり、「なまけ」「詐病」と誤解されたりすることも多いです。「自死(自殺)」が起こってしまった場合、すぐに鬱と関連付けて考えるように、深刻な病でもあるので、鬱を理解しようとする姿勢を持っていただきたいと思っています。一歩間違えば大変なことになる病気ではありますが、しっかり治療を続ければ、治る期間は人によって違いますが、治る病気です。
鬱の方の自死について書きましたが、自死の危険性が高いのは、成りはじめと、治りかけの時です。一番状態が悪い時は「死にたい」と思っても動くことができないので、実行できないのです。鬱病の状態の一つである視野狭窄となっていながら、動ける状態が一番危ないのです。視野狭窄となりながら、罪業念慮に囚われていると「空が青いのも、今日暑いのも、全部自分が悪い」から「自分なんか生きていてはいけない」と論理的に破綻した考え方に囚われたりします。なので、せめて罪業念慮を和らげる支えが欲しいと思います。”病気”の部分がそういう考え方をさせているので、説得だけではなかなか変わりませんが。
【再発予防に役立つこと】
ある病を抱えた方は、再発した状態を「賽の河原」と説明してくれました。きちんと服薬して、症状が安定しているときは、仕事もできて、それなりに業績を積み上げていました。でも、再発すると、その積み上げた業績がすべて崩れてします。賽の河原で子どもが親を思い積み上げた石を、鬼が蹴散らすのと同じだと。悔しいですね。症状が落ち着くと、また仕事に打ち込み業績を上げるのですが、こんなことを繰り返しているうちに、どうせ頑張っても、無駄だと思うようになられました。残念です。
病気が治る、もしくは症状が落ち着くということは、病にかかる前の状態に戻ることと思っていらっしゃる方が多いのですが、実は症状が復活しないような新しい生き方を手に入れることです。周りの方も、そのような、変わってしまう、病を抱えた方を受け入れていただけたら嬉しいです。
再発を100%防ぐことはできません。それでも、研究が続けられ、再発しにくくなる場合としやすい場合という報告がたくさんあります。
その一つがストレスケア、もう一つが高EEと低EE。いかに説明します。
①ストレスと程よく付き合うようになる。
ストレス耐性をダムに例えることが多いです。
多少のストレスがあっても、ダムの容量が大きいと、なかなか決壊しません。でも、ダムも長年使っていると、底にいろいろなものがたまり、保有できる水が少なくなり、決壊しやすくなります。
病を抱える前は、たくさん蓄えられなかなか決壊しなかったダムも、病を抱えたおかげで、余計なストレスがたまり、たまったストレスをうまく排出することもできず、徐々に保有できる量が少なくなっていきます。
なので、病を抱える前よりも、ストレスをためないような生活をすることが大切です。
②高EEと低EE。
統合失調症の再発についての研究から生まれた考え方です。鬱や他の疾患でも、当てはまると言う報告がたくさん出ています。
高EEとは高Expressed Emotion(高感情表現)の略です。具体的には、大声で怒鳴る・嫌味を言う・叱責など、感情的で高ぶった表現です。
低EEとは低Expressed Emotion(低感情表現)の略です。具体的には、普通の音量で語る・サポート的に言う・提案など、穏やかな表現です。
『ツレがうつになりまして』(細川貂々著・幻冬舎)のツレさんは、バラエティ番組が苦手で、ニュース番組が心地よかったそうです。バラエティ番組は急に声が大きくなったり、オーバーな表現が多く、その変化が予測がつかず、とてもつらかったと書いてありました。ニュース番組は、最近バラエティ化している物もありますが、基本、淡々と原稿を読み上げます。その安定が心地よかったそうです。
あるコミュニティのセミナーで聞いたのですが、人は言葉でコミュニケーションをとっている気でいますが、まず、表情や声の調子等の方が先に伝わり、言葉は伝わったものの中でごくわずかなパーセンテージなのだそうです。
私が高EE・低EEについてセミナーで説明するときは、以下のような実験をすることがあります。温かそうなニコニコ笑いながら「バカ」等ひどい言葉を言う。そして別バージョンとして、怒った顔をしながら誉める。私の演技力がないので、今一つ成功しないのですが、こんな例を基に、ご自身の経験を探ってもらいます。この記事を読んでいらっしゃる方はどうですか?恋人が笑いながら「ばか」と言っても、本気で怒る方は少ないでしょう。たいていは戯言ととるはずです。これが知らない人が慇懃無礼な笑みを浮かべながら言った言葉なら別ですが。怒った顔で誉められた場合。中途半端な知り合いー例えば上司とかなら、怒った顔と褒められた言葉のどちらが本心なのか、迷うでしょう。よく知らない方なら「嫌味?」と思うシーンもあるかもしれません。
2024年1月の能登半島地震の時のニュース報道も思い出してみてください。強い言い方が心に迫り、「怖い」と泣いたお子さんもいらっしゃったと記憶しています。切迫した言い方に危機感を覚え、なんだかわからないけれど逃げて助かった方も多かったと記憶しています。でも、途中悲鳴のような言い方も交じりましたが、基本大声で喚き散らした言い方ではありませんでした。本当に必要最低限の言葉で、聞き取りやすい言い方で、やるべきこと、その根拠を伝えていました。
このように、言葉と伝え方は切っても切れない関係なのです。
そして、病を抱えた方の頭と心は忙しい状況になっています。頭の中ではドーパミンやセロトニン等が誤作動しています。心の中もいろいろな思いが逡巡しています。だから、細かく相手の様子を見る余裕はないのです。相手のことを配慮はしていますが、相手の意図よりも深読みしている場合もあります。とんでもない方向に考えが飛んでいる場合もあります。
だから、穏やかにシンプルに伝えた方が良いのです。
人が大声を出すのは、自分が心配・不安な時です。相手が思うような反応をしてれなくて、聞こえていないのかと思う時も大声になります。また、問題行動を何とかしなければと叱責したり、どうしようもない現状に嫌味を言いたくなる気持ちはわかります。ごく自然な反応です。でも、残念ながら逆効果です。病を抱えた方を追い詰め、再発しやすくなるだけです。
病を抱えた方に話しかけるというサインを送り、気が付いてもらってから、普通の音量で話す。問題行動に悩まされている場合、攻めたくなる気持ちもわかりますが、あえて、協力を引き出すためにもサポート的に言う。そして、命令調になると反発しやすくなるので、提案する。
イソップ童話『北風と太陽』では、どちらが旅人のコートを脱がせたのかを思い出しながら、伝える。
このような低EEのコミュニケーションをとっている環境にいる方は再発率が低く、高EEのコミュニケーションをとっている環境にいる方は再発しやすいという報告がたくさん届いています。
これは、再発予防のための環境づくりですが、このような伝え方が皆に浸透したら、カスハラもパワハラもなくなり、すべての人にとっても、もっと良い社会になりそうなのですが…。皆さまはどうお考えですか?
シンプルに穏やかに伝えるためには、自分が本当は何を相手に伝えたいのかを自覚していなければなりません。なので、簡単にできるようにはなりません。たくさんの試行錯誤を繰り返す必要はあります。アサーショントレーニングで練習する方法もあります。
よかったら、一緒に練習しましょう。