ぱんどらのへや

ちょっとした子育てに役立つ話を紹介していこうと思います。

臨床心理士に相談したい時。

2024年10月18日 | 職業
☆カウンセリングって?
「カウンセリングを受けたいとき」と書こうとして、ふと、手が止まってしまいました。
 ”カウンセリング”という言葉から、皆さまはどんなイメージを持たれるのでしょうか?
 美容室でも「カウンセリングでスタイルを決める」という言葉が出てきますね。カウンセリング化粧品という幟があるお店もあります。これらと、臨床心理士が行うカウンセリングとは同じものなのでしょうか?
 美容室等で行っているカウンセリングを、どのような意味で使っていらっしゃるのかは、この言葉を使っている方の意図を聞いたことがないので、解りません。でも、自分が美容室で施術されているときのことを考えると、顧客の話をしっかり聞いて、言葉にならないニーズ+専門家として髪質等を考慮して、より満足のいくスタイルに仕上げるということでしょうか?化粧品でも同じような意図で使われているのでしょう。顧客満足度をあげ、よりよいサービスをするためにはとても重要なスキルの一つです。
 「カウンセリング」という言葉自体、英語の「counseling」からきており、英語辞書で調べると「カウンセリング、相談、助言」と出てきます。なので子育て相談も子育てカウンセリングということができます。
 「コンサルテーション」と言う言葉もあります。コンサルティング業の方々がなさるお仕事ですね。こちらも、専門家としての知見を示して、問題を解決する方法です。
 何が違うのでしょうか?「カウンセリング」は話をしっかり聞いて、言葉にならないニーズを汲んだ上での、専門性に基づいた助言。「コンサルテーション」には、言葉にならないニーズを汲むという意味合いは入っていません。カウンセリングの手法で話を聴き、コンサルテーションをする方はたくさんいらっしゃいますが。

 でも、臨床心理士が行う仕事はそれだけではありません。
 とはいえ、定義は難しい。
 深層心理を探るためにあれこれ研究を重ね、実践を重ねてきた精神分析や、ユング心理学系の流派があります。
 その対極にあるのが、認知行動療法でしょうか。認知行動療法は本で読んだくらいの知識なので、語れるほどの知識を私は持っていませんが、深層心理を想定していないと聞いています。「ある出来事に関しての認知を変えよう」というワークブック等が出版されていますが、深層心理を扱っているわけではありません。
 それらに対して開発された第三勢力と教科書で説明される療法もあります。傾聴を徹底的にするパーソンセンタードアプローチが有名です。
 そして、それらを基盤にして各種の手法を取り入れながら、発展しているのが、家族療法。精神分析を基にしている家族療法もありますが、個人の内面を見るよりも、対人関係の様相をクライエントと一緒に見ていくというやり方もあります。システムズアプローチと言って、個・家族・地域等を有機的につながり影響しあっている存在として、俯瞰してみていく視点も活用します。
 さらに、ソリューション・フォーカスト・アプローチなどの短期療法も開発されています。
 他にも、他にも…。
 ある方、あるご家族、地域の困りごとに対応しようとして、日々、世界各国の臨床心理士たちが工夫を重ね、学会誌等で研鑽を重ねた結果、とてつもなくいろいろな療法が生まれました。今も生まれています。
 なので、ここではカウンセリングと言う言葉は使わずに、臨床心理士の仕事、もしくは心理療法という言葉を使います。(心理療法と精神療法はどうちがうのかという論争は棚上げいたします)

☆どの心理療法がよいのか。
  あなたが困っていることにあう療法が一番です。って、それが判れば苦労はありません。
  「鬱病には認知行動療法と決まっているのに、なぜやらない」と、ある産業医に言われたことがあります。そのクライエントとのカウンセリングを妨害されそうになりましたが、ご本人の希望で続けられました。その方はパワハラにあい、鬱状態になって休職していた方でした。まずは傷つきを癒すために傾聴しました。自尊心をとり戻した段階で、パワハラに対抗するためのスキルを持っていらっしゃらなかったので、集団精神療法のやり方を使い、ロールプレイをし、パワハラを呼び込んでしまう言動を認識していただきました。そして、アサーショントレーニングを一緒に学びました。休職期間が切れた時は、まだよちよち歩きのようなスキルで心配でしたが、復帰なさいました。その後、私の知る限り、休職として戻ってきてはいらっしゃいません。
 最近、エビデンスが療法の目安として取り上げられることが多いです。その、エビデンスで、「効果が出る」と言われているのが、認知行動療法です。でも、私から言わせてもらえば、認知行動療法は、そのような効果測定にあっているのです。精神分析やユング心理学は症状についての療法と、人生についての哲学的な部分がない交ぜになっている療法で、人生の伴奏者です。10年、20年通い続けている方もいらっしゃるほどです。効果がはかりにくいのです。
 こんなケースもありました。若い頃に不調になった時に、認知行動療法を受けて回復した。なのに、40代になって、またぶり返したので、認知行動療法を受けたいとご自分でワークブックを購入されていらっしゃいました。最初にお会いするときは、インテークと言って、これまでとこれからと今の状況他、いろいろなことを伺います。どんな療法が役に立つのか、私が役に立てるのか、もっとこの方の悩みに詳しい他のセラピストがいるのではないかを考えるためです。お話を伺っているうちに、ユング心理学の中年期の危機として捉えた方が良いのではないかと思いました。その旨を提案したところ、興味を持って下さり、ユング心理学に詳しい方を紹介いたしました。
 このように、人の心の状態は、様々な観点から考えなくてはならないと思っています。
 そして、上記のように定められた休職期間や卒業等の時間制限のある場合もあります。
 相性もあります。
 なので、この療法と決めつけずに、試してみていただけたらと思います。

☆どんな時に心理療法を利用するのか。
  あなたのそのお悩みに、”心”や”認知等の考え方”が関わっているときです。
  風邪を治すために、心理療法を受けに来られても、治せません。それでも、風邪をひきやすい行動を繰り返しとってしまうというお悩みはぜひお聞かせいただきたいです。
  妄想と思っていたら、実は脳の障害だったということもありますので、体に気になるところがありましたら、まずは身体の医者の診察を受けて下さい。そのうえで、その病にかかってしまったお気持ちを聞かせてください。こんなに身体の調子が悪いのに、何ともないと言われたと言う時もぜひお話を聞かせて下さい。
  ストーカーに付きまとわれているときは、まず警察へ相談です。付きまとわれている恐怖・嫌悪感等は聴かせて下さい。
  離婚に有利になるようにという相談を受けたこともあります。弁護士への相談をお勧めします。その上で、感情的になって不利な条件をのまないように、心を整理するサポートはさせていただけたらと思います。
  勿論、不登校を始め、お子様の問題に関しても、一緒に考えさせていただけたら嬉しいです。
  こんな使い方もあります。パラグアイに居たとき、下宿先のDoña(ドーニャ:女主人)は月に1回心理療法を受けていました。有力者の妻であった彼女には、地域の女性たちから様々な問題が持ち込まれていました。行政への苦情からご近所トラブルまで。対応していると心がごちゃごちゃしてきます。それを月に1回心理療法を受けることで、心をニュートラルにして、的確なアドバイスをできるようにしていたのです。かつ、有料の心理療法を受けることは、そんなことにお金を使えるというステイタスシンボルにもなっていました。アスリートが、大会で結果を残せるよう自分の状態を一番良いものにするために、心理療法家がついていたことが話題になったこともありましたね。

☆心理療法と、人生啓発セミナー・宗教との違い。
  心理療法を語ると、人生啓発セミナー・宗教の勧誘と間違われることがあります。受ければ人生が変わるかもしれないという点では間違えるのも無理がありません。
  臨床心理士の価値観は、脇に置いておいて、クライエントのために何ができるか、どうしたらよいかを、専門的知見を基に考えることを、臨床心理士養成課程で訓練されます。取得後も訓練は続きます。各療法とも、「こうしたほうが良い」「これはやってはいけない」と療法上の決まりはあります。
  そして一番の違いは「これをやれば幸せになります」「絶対に治ります」などの確約は致しません。”幸せ”も”治る”ということも、心理療法の中で、その方なりのものを見つけていくもので、決まりきった”幸せ”や”治癒の形”はありません。セミナー主催者や宗教家が決めたゴールに向かっていくようなことはありません。
  勿論、壺等は買わせません。心理療法の進み具合によっては、新しい療法の提案や役に立つだろう書籍の紹介はするかもしれませんが。断っていただいても、たくさんの人で囲むような真似はしませんし、いきなり念仏やお題目をあげたりしません。最初に合意した料金以外には受け取りません。臨床心理士として困るのが、お花やお菓子等を謝礼として持ってきてくださること。お気持ちは大変うれしいのですが、倫理に引っかかります。あなたがあなたの人生を歩めるようになれば、それが一番のご褒美です。

☆臨床心理士に出会うには
  どの専門家に相談するかは大きな問題です。不動産屋やクリーニング店でさえ、はずれをひいたら腹立たしいものです。ましてや、ご自身やご家族のことを相談する相手となると、信頼できる方に紹介していただきたいと思うのは当然でしょう。
  スクールカウンセラーになった初期の頃は、児童・生徒、保護者、教員(校長先生含む)から、どこか良いところはないかとよく訊かれました。医療機関や、臨床心理士と相談したいが、スクールカウンセラーの出勤日と保護者の休みが合わない等様々な理由でした。状況を伺い、合いそうな機関を2,3か所、特徴を添えて情報提供しました。また、ご本人・保護者の許可があれば、保護者等と一緒に、「紹介状」を作成、相談に行く機関にもっていってもらいました。どういうことで、その機関を利用することになったのかを簡単にまとめたものです。何を伝えたらよいのかわからないとおっしゃる保護者からは喜ばれました。私が下書きをしたものを保護者と読み合わせし加筆訂正、所属長(校長先生)にチェックしていただいたものを持って行っていただきました。多くの場合は担任・養護教諭にも見てもらって構わないと許可をいただきましたので、見ていただいています。まれに、担任・学年の先生がたには見せて欲しくないとおっしゃる方については、そのお気持ちを尊重しました。ですが、学校の1職員として書くので、校長先生のチェックだけは外せません。それもだめとおっしゃる場合は作成をお断りしました。「紹介状」を受け取る身としては、これまでの状況が概観できます。ご本人・ご家族と学校の関係性も予測できます。学校の方としては、学校の様子を相談機関に伝えることができます。今後、アドバイスをいただくなど、連携が取れるかもしれない安心感と余裕が生まれます。紹介状なしで、相談機関に行っていただいたご家族で、ご家族もその相談機関からのサポートを欲しがっていたにも関わらず、伝え方が悪くて、「何でもない」と相談継続を断られたことがあったので、できうる限り、紹介状を作成して持って行ってもらっていました。
 でも、最近は、このような関わりができなくなりました。管理職から禁止令が来ます。相談機関を紹介することが、利益供与を疑われるからです。接待なんかしてもらってなくともです。また、「紹介状」を作成することも、そののちトラブルになる可能性があると言います。確かに、保護者に内容をチェックしてもらわないまま先方に渡した「紹介状」がトラブルに発展したという話は聞いたことがあります。子どものために何ができるかよりも、トラブルにならないかをまず考え、行動しなければならない。教員を萎えさせている要因の一つです。信頼関係が地に落ちた、なんと生きにくい世の中になったのだろうと思います。
 身近な専門家に教えてもらえなかったらどうしましょう。
 ここでご紹介するのは「臨床心理士に出会うには」というサイトです。全国に対応しています。一般社団法人日本臨床心理士会のホームページ内にあります。クリックしていただき、利用規約に同意していただくと、探すための画面に移ります。地域・相談したい事柄・年齢他で絞り込めます。相談や支援の方法でも絞り込めます。ただ注意していただきたいのは、臨床心理士のいる相談機関がすべて載っているわけではありません。
 いくつか候補が出てきたら、ホームページを読んで、相談してみたいかを確認してください。
 大学の臨床機関は、他の開業機関よりも価格が安いことが多いです。基本、教授等の指導の下、臨床心理士・公認心理師を目指している学生・院生が担当することが多いからです。教授や専任の心理職が担当する場合でも、学生や院生が陪席していることがあります。私が、大学の臨床機関にリファーした方は、養成機関では面談の技術が劣ると言って、私の基に帰ってきてしまいました。とはいえ、児童・生徒・学生の場合、同じ年代やお兄さん・お姉さんの立ち位置の方とうまくマッチングして、良い方に行ったこともあります。有名な先生よりも、なりたての臨床心理士が初めてのケースを一生懸命に担当して、WINの結果になったケースも聞いたことがあります。この人と話したいと思えるような、相性というものが大きいです。

☆スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカー
  学校にはスクールカウンセラー(SC)が配置されていることが多いです。
  そして、もう一つの専門家:スクールソーシャルワーカー(SSW)もいます。自治体や学校によって、配置のされ方は違います。東京都教育委員会にはユースソーシャルワーカー(YSW)と呼ばれている方がいますが、仕事としてはSSWとほぼ同じです。
  どう違うのか、どちらに相談したらいいのかという質問を受けます。
  基本、SCは心理の専門家。臨床心理士等の心理学の専門性をもって仕事をしています。SSW/YSWは福祉の専門家。精神保健福祉士や社会福祉士などの福祉系の専門性をもって仕事しています。
  SCは心の動きに注目して、心理療法を行います。
  SSWは制度等について詳しく、環境調整を行うと教科書に書いてあります。YSWは生活面でのサポートにたけた方と、就職等へのサポートにたけた方がペアになって、生徒とその家族・教員をヘルプすると聞いています。
  どんなふうに協働するかと言えば、例えば、被虐待児へのサポートで、臨床心理士が、PTSD治療の為に、被虐待児の現実とは違う内的現実に心理療法でどっぷりと付き合えるのも、ソーシャルワーカーが、現実で起こっていること・危険性を把握してくれるからです。
  けれど、ある精神保健福祉士に言われたことがあります。「心理療法の教科書にも、精神保健福祉士・社会福祉士の教科書にも、クライエントとラポールを形成し面談すると書いてあるけれど、同じことをやっているの?同じことをやっているのなら、二つの資格はいらない」と。この質問に、私は上記の被虐待児のサポートについての役割分担を答えました。
  でも、そう簡単に割り切れないのです。上記にSSW/YSWは環境調整を行うと書きました。例えば、私のブログ「再発しないために必要なこと」にも書いたような低EEの環境を整えるために、周りの方の意識を変える必要があるかもしれません。周りの方の意識を変える手段として、カウンセリングが有効な場合があります。似たようなことを行っているのです。勿論、臨床心理士の方が、心理学については広く深い専門性を持つように努力を続けたいと思うのですが。
  そのクライエントが何を求め、抱えていらっしゃる問題をどう見立てるかによって、どちらの専門家がどうサポートできるかが違ってきます。とはいえ、まずはお話を伺わなくてはわからない。相談しやすい人へ声をかけることから始めて下さい。


 
 

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トラウマ、そしてPTSD。

2024年10月09日 | 職業
災害によって、被害を受けた方々に、心よりお見舞いを申し上げます。
また、日々、いろいろな犯罪や事故も起きています。その被害を受けられた方にも、心よりお見舞い申し上げます。
 多くはここで、一日も早いご回復をと書くのでしょうが、このコラムでは書きません。ご自身のペースで、ご自身をいたわりながら、日々お過ごしくださいますよう、お願い申し上げます。

 最近、いろいろなことが起こりすぎて、「トラウマ」「PTSD」と言う言葉を、日常でも口にし、耳にすることが多くなりました。
 上記のような状況にあわれた方も身近にいらっしゃるようになりました。
 また、阪神淡路大震災の後から、そして東日本大震災以来、ご自身が被害にあったのではなくとも、ニュース等によってショックを受けられ、「トラウマ」という言葉を口にする方々です。実際、生き方を変えられた方も多くいらっしゃいました。
 そして、ちょっとショックなことにあった時に、「トラウマだ」とか、「PTSDになっちゃうよ」という会話も簡単に出てくるくらい日常語になりました。

 人は生まれてから今日まで、傷つきがない方などはいらっしゃいません。お腹がすいてミルクが欲しくて泣くと、すぐにお腹が満たされるときもあれば、いろいろな事情の中、満たされないで泣き疲れて寝てしまうというようなこともあったでしょう。他にも、友達が思うような反応を返してくれなかった。狙っていた仕事に就けなかった。すべてが思い通りになる人生なんてないでしょう。でも、思い通りにならなければ傷つきます。

 カウンセリングの基になった精神分析の祖・フロイトの治療を受けた方の中にコップから水が飲めない女性がいました。治療を始めた頃は思い当たることはありません。自由連想と言う治療を受けているときに、あるお宅のペットがコップにペロペロと舌をつけて、水を飲むのを見た時に、とても不快な気持ちになったことを思い出しました。ペットは家族とおっしゃる方々には当然のことでも、それほどペットに思い込みがない人にとっては不快です。でも、19世紀の淑女だったその女性は、不快感を押し殺しました。その時のことを思い出して、不快感を治療の場で表現し、そのことについて批判もなく、𠮟られなかった後からは、コップから水を飲めるようになりました。このような不快を押し殺すことも、前意識の中に隠されて、ご本人が意識しないまま、日常生活に悪影響を与えます。

 そういうことを考えると、一般的に会話に出てくるように、あらゆることがトラウマになりうる可能性はあるかもしれません。
 治療的には、私は、そういう視点を持ちながら話を伺っています。

 ところが、そうも言っていられない現状もあります。
 被害を受けた方というくくりになると、加害があって、賠償・補償の問題が絡んできます。あれもこれも賠償・補償を行うわけにはいきません。もらう方となればいいかもしれませんが、払う身となったら…。身体的な怪我や、財産の損失等は、目に見えるものを基準に査定しますが、心は目に見えません。そして、上記のように、生きてから負ってきた傷と、今回の傷とをどう分けるかと言うのも難しいことです。
 なので、初期の診断基準には、「命の危険を感じるような…」という文言が入っていました。

 でも、それだけではありません。
 例えば、虐待・DV・いじめ・パワハラ・カスハラ・セクハラ・拷問etc。一つ一つの出来事は「命の危険…」まで言っていなくとも、トラウマと言えるほどの傷を負っている方々がいらっしゃいます。小さな綿だって、積もり積もって1トン集まれば、圧死させるくらいになるでしょう。複雑性トラウマと言っています。
  そして、医師・警察官・消防署員・自衛官etc。命を懸けて業務に当たるというだけでなく、亡くなった方や瀕死の方々のお世話をします。転落事故にあわれた方を救急車で運ぶ、焼死した方の身元を確定する情報を集めるために、焼けただれたご遺体の身長等を測り、特徴を調べる。ご自身が死ぬ危険があるわけではありませんが、そのような状況に向き合うことも、トラウマになります。
 対人援助者の中にも、代理トラウマといって、トラウマを背負う方々がいます。トラウマを抱えている方の経験を共感をもって聞いているうちに、そのトラウマを引き受けてしまうのです。

 なので、トラウマ・PTSDも、定義するとなるととても難しい概念になります。


☆トラウマ的な出来事に出会ったら。
 「トラウマ」という言葉が出ると、合言葉のように「PTSD」という言葉が出てきます。でも、トラウマになるような出来事にあったすぐあとに、いろいろな症状がでるのは、心の反応としては当然のことです。急性ストレス障害(ASD)/急性ストレス反応です。大体4週間以内に自然治癒する一過性の反応と言われています。安全・安心を確保してあげて下さい。
 子どもでよくあるのは、保護者の方から離れない、夜泣き・夜驚・おねしょ、外に出られなくなる、赤ちゃん返りなどでしょうか。お友達と遊ばなくなるというのもあります。いつもと違う様子に戸惑われるご家族が多いです。
 叱らないでください。抱きしめて、「一緒にいるから大丈夫だよ」とか、「怖かったことはもう終わったよ」とか、その子が安全・安心を感じられるような言葉をかけて下さい。まだ、災害の途中で逃げいる時ならどう声をかけましょうか。私なら、「あなたを守るために今がんばっているからね」かな。他によい言葉かけがあると思うので、その言葉をかけて下さい。できれば笑顔でお子様の目を見つめて声をかけて下さるとありがたいです。周りに状況を確認するために目を合わせられない、お子さんの言葉に返せない状況なら、ぎゅっと抱きしめたり、手を握ったりすることで、お子さんを忘れていないことを教えてあげて下さい。言葉を発せない子でも、意外に聞いた言葉は理解している子もいます。何が起こり、保護者の方がどうしようとしているのかを教えてあげて下さい。できれば、保護者がパニックになっていて金切り声をあげたくなっていても、深呼吸して落ち着いた態度・声で対応したほうが株は上がります。お子さんがパニックになって騒いでいたら、このブログの「暴れる?」を参考にしてください。
 そのうえで、安全が確保できているのなら、見守りながら、一緒に作業しながら、普段の生活を送らせてください。お手伝いをさせるのも良いですね。誰かの役に立ち、「ありがとう」と言われることは、自分の有用性に気が付き、自信がついていきます。
 もちろん、心理職に声をかけていただければ、ご一緒にケアの方法を考えます。

 保護者の方から、家から、離れられるくらいになると、事件を再現するような遊びをする子どもが出てきます。USAでバスジャックから救出された子どもたちは、バスジャックごっこを繰り返したという報告があります。阪神淡路大震災の後、机を積み重ねて地震ごっこをした子どもたちが報告されています。東日本大震災では津波ごっこが報告されています。
 もし、お子様や、お子様のお友達が、このような遊びをしたとしても、𠮟らないでください。たんに禁止すると、ショックが心のうちに籠ったり、大人が見ていない場所でやろうとするので、かえって危険です。為す術がなかった圧倒的な出来事に対抗する術を見つけるために、同じ遊びをして、安全なことを確認して、出会ってしまったショックを和らげる作業だと言われています。”ごっこ”遊びなので、怪我がないような危険を回避する工夫ができます。本当に怖くなる手前で止められます。そして何より、いつも遊んでいる仲間と対処できます。机を重ねて地震ごっこのように、怪我する危険性がある遊びもありますので、怪我がないように見守ってください。ショックな出来事直後は興奮しているので体の刺激を求める子もいて、より危険なことをしようとすることもあります。でも、落ち着いてくるにつれ、マットを使ったり、砂場だったり、工作だったりとより安全な遊びに変わり、いつもの遊びに変わってくるはずです。彼らの気持ちに沿って、誘導できるといいですね。
 もちろん、心理職に声をかけていただければ、ご一緒にケアの方法を考えます。

 話すこと。なにかトラウマのような出来事があると、最近はすぐに、「臨床心理士を派遣して心のケアを」と動くことが多くなりました。私も、要請を受けて、話を聞いています。
 話をすること。カウンセリングを受ける事。心のケアにはとても大切です。でも、話せばよいというものではないのです。
 阪神淡路大震災の後、多くのボランティアが現地入りをし、その被害に圧倒されました。助けようと尽力したにも関わらず、力が及ばなかった事態を経験した方もいらっしゃいました。そのような経験をされた方々が、ボランティアの宿泊所に帰ってきたとき、誰ともなしに、その心の内を語り合いました。そこで、お互いの気持ちを伝え、共感しあった方々は、ASDやPTSDの症状が出ることが少なかったということがありました。それで、この心的デブリーフィングが有効だと言うので、いろいろな場所で取り入れられました。話したくない人にも、「予防だから」と強制するところもありました。ところが、この強制されて話させられてしまった人の中に、深刻なPTSDの症状を呈する人がたくさんでたという報告が次々に出てきました。
 なので私は、ケアが必要だと思われる方が、話したいと思って、話をされる場合は、ひたすら話を聴くにしています。
 そして、話したくない様子だったら、強制はしません。黙って一緒にいることもあります。他のことを話したいというのなら、その話を一生懸命聴いています。こちらの質問に答えてくれるようでしたら、眠れているか、食事は摂れているか、疲れていないか、日常生活で困っていることはないかなどを訊いています。そこでも、この項目を全部訊くのではなく(尋問ではありませんから)、ご本人の意思に任せています。今回のことではなく、それ以前からの困りごとが話させる場合もありますが、その時も傾聴します。安全・安心を保障することを心がけています。お子様だったら、絵を描いたり、粘土細工をしたり、コラージュしたり、絵本を読んだり…、プレイセラピーをします。
 そして時間があったら、未来のこととか、その方が努力していること、うまくいったこと、好きなことなどを聴いて別れるようにしています。トラウマで粉砕されるのはその方の有用感です。為す術の無いことに遭遇して、自分は何もできないと思わされてしまう。その手当をしたいと思っています。そのことによって、自己治癒力が高められることを目標としています。
 とはいっても、長く話せばよいというものではありません。人や、その方の状況にもよります。とても混乱していたり、罪悪感等を訴える場合は落ち着くまで寄り添うこともあります。ですが、このような状況で、本当は話すつもりのなかったことまで話す、パンドラの箱を開けてしまうような時は、お話を聴きながら、最後に希望が出てくるのか、見つかるのに1時間以上かかりそうならば、程よいところで箱を閉めるようにすることもあります。ある程度心の健康な部分が働いているときに、心の中の探索をした方が、お話してくださっている方の負担は小さいので。そして、精神科受診をされている方もあまりお話を引き出さないようにしています。お話してくださっている方の負担を考えて、15分~20分くらいを目安にしています。

☆PTSD
  上記のような反応が1か月以上続く場合、PTSDと言います。自己治癒力がうまく機能していない状態なので、応急処置ではなく、治療が必要です。とはいえ、すべてのPTSDが治療を必要としているのではなく、医療的な治療は日常生活に支障が出ているときです。心理職としては、日常生活に支障が出ていなくとも、気になるようでしたらお声をかけて下さると嬉しいです。でも、なんでも完璧に治さなくてはいけないものではないです。一病息災という考え方はありだと思います。
  上記に1か月以上続く場合と書きましたが、不思議なもので、直後はなんでもなかったのに、数年後にPTSDの症状が現れることもあります。数年後どころか、数十年後と言う時もありました。
  心の作用で、危険な記憶をタイムカプセルのように包み込んで、心の中のどこかに埋め込んでいるのでしょうか。そして何かの拍子にタイムカプセルが開くのでしょうか。
  その一つに、記念日反応をいうものがあります。東日本大震災後、ある方が、「最近地震の夢をよく見るようになった。予知夢では?」その方がそのような経験をするのは初めて(今まで予知したことがない)と確認しました。その相談があったのは、3月10日。記念日反応とお伝えしました。そのお電話の直後は地震はありませんでした。親友を亡くした方が、命日近くなって、その方の影をいたるところに感じると訴えてきたこともありました。これも記念日反応のひとつです。
  記念日反応以外にも、きっかけがあることもあります。レイプされた方が、満員電車の中で、まったく別の方のポマードに臭いに反応して、レイプされた時の恐怖が蘇るとか。今まで思い出さずに日常生活が送れていたのに、それがきっかけで電車に乗れなくなりました。勿論、レイプされた場所は電車ではありません。
  もっと、困ってしまうのは、記憶が万華鏡の中に入っている破片のようになっていて、エピソードとして思い出せない。エピソードとして思い出せないと、そのトラウマの出来事に対抗する術が立てられない。苦しんでいるご本人が、何が起こっているのかわからないのですから。記憶がバラバラになってしまうのも、その方の心を守るために、なんだかわからないようにした心の機制なのですが、それが漏れ出てきて、日常生活を困ったことにしているとなると、治療が必要です。

 治療法はいろいろと開発されています。何が優れているかではなく、貴方の助けになるのは何かです。

☆持続エクスポージャー療法について
  PTSDの治療に有効とされている療法の一つです。極力簡単に言うと、避けているシーンを再体験させて克服する方法です。
  上記の”ごっこ遊び”のように、再体現して、無能感を払しょくして、自分がその事態をコントロールできるのだと有用感を取り戻させる方法です。
  それを聞いて、再体験させればいいのだと、無理強いして悪化させる場合があります。
  ”ごっこ遊び”は、回復のレディネスが整った子どもが、自発的に行うもので、無理強いではありません。
  治療としての持続エクスポージャー療法は、訓練・精通したプロフェッショナルが、ご本人の安全・安心感とその方のレディネスを慎重に確認しながら行うものです。
  早く治したいとご本人や、ご本人を心配されている方が、耳学問だけで行うものではありません。かえって悪化しているケースはたくさんあります。
  信頼できる治療者を見つけて、治療を受けて下さい。
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再発しないために大切なこと

2024年10月06日 | 職業
精神疾患。二大精神病と言われる疾患は、統合失調症と躁うつ病でしょうか。
他にも様々な疾患がありますが、個々の疾患に対する解説は、ここではしません。

「発達障害?」のページでも記載いたしましたが、日本の精神科領域の診断は、DSMというUSAの「精神障害の診断と統計マニュアル」によることが多いです。DSMが改定されるたびに、診断基準が変わり、疾患名も変わるものもあります。今は5版にそって診断、表現されていますが、また、改定されたら変わるかもしれません。 

例えば、躁うつ病。
 「躁うつ病」と言うのは、昔ながらの名称です。病的な躁状態と病的な鬱状態を繰り返す人もいらっしゃれば、病的な躁状態がない方もいらっしゃいます。「気分障害」と言われた時期もありましたが、DSM-Ⅴでは、躁状態と鬱状態がある場合を「双極性及び関連障害」とし、躁状態がなく鬱状態のみの場合は「抑うつ障害・うつ病性障害」に分けました。
 また、そのような診断名以外にも、様々な状態の鬱が報告されています。二大精神病に数えられるにも関わらず、というか、だからか、軽く見られたりして、受診に結びつかなかったり、「なまけ」「詐病」と誤解されたりすることも多いです。「自死(自殺)」が起こってしまった場合、すぐに鬱と関連付けて考えるように、深刻な病でもあるので、鬱を理解しようとする姿勢を持っていただきたいと思っています。一歩間違えば大変なことになる病気ではありますが、しっかり治療を続ければ、治る期間は人によって違いますが、治る病気です。
 鬱の方の自死について書きましたが、自死の危険性が高いのは、成りはじめと、治りかけの時です。一番状態が悪い時は「死にたい」と思っても動くことができないので、実行できないのです。鬱病の状態の一つである視野狭窄となっていながら、動ける状態が一番危ないのです。視野狭窄となりながら、罪業念慮に囚われていると「空が青いのも、今日暑いのも、全部自分が悪い」から「自分なんか生きていてはいけない」と論理的に破綻した考え方に囚われたりします。なので、せめて罪業念慮を和らげる支えが欲しいと思います。”病気”の部分がそういう考え方をさせているので、説得だけではなかなか変わりませんが。


【再発予防に役立つこと】
 ある病を抱えた方は、再発した状態を「賽の河原」と説明してくれました。きちんと服薬して、症状が安定しているときは、仕事もできて、それなりに業績を積み上げていました。でも、再発すると、その積み上げた業績がすべて崩れてします。賽の河原で子どもが親を思い積み上げた石を、鬼が蹴散らすのと同じだと。悔しいですね。症状が落ち着くと、また仕事に打ち込み業績を上げるのですが、こんなことを繰り返しているうちに、どうせ頑張っても、無駄だと思うようになられました。残念です。
 病気が治る、もしくは症状が落ち着くということは、病にかかる前の状態に戻ることと思っていらっしゃる方が多いのですが、実は症状が復活しないような新しい生き方を手に入れることです。周りの方も、そのような、変わってしまう、病を抱えた方を受け入れていただけたら嬉しいです。
 再発を100%防ぐことはできません。それでも、研究が続けられ、再発しにくくなる場合としやすい場合という報告がたくさんあります。
 その一つがストレスケア、もう一つが高EEと低EE。いかに説明します。

①ストレスと程よく付き合うようになる。
  ストレス耐性をダムに例えることが多いです。
  多少のストレスがあっても、ダムの容量が大きいと、なかなか決壊しません。でも、ダムも長年使っていると、底にいろいろなものがたまり、保有できる水が少なくなり、決壊しやすくなります。
  病を抱える前は、たくさん蓄えられなかなか決壊しなかったダムも、病を抱えたおかげで、余計なストレスがたまり、たまったストレスをうまく排出することもできず、徐々に保有できる量が少なくなっていきます。
  なので、病を抱える前よりも、ストレスをためないような生活をすることが大切です。

②高EEと低EE。
  統合失調症の再発についての研究から生まれた考え方です。鬱や他の疾患でも、当てはまると言う報告がたくさん出ています。
  高EEとは高Expressed Emotion(高感情表現)の略です。具体的には、大声で怒鳴る・嫌味を言う・叱責など、感情的で高ぶった表現です。
  低EEとは低Expressed Emotion(低感情表現)の略です。具体的には、普通の音量で語る・サポート的に言う・提案など、穏やかな表現です。
  『ツレがうつになりまして』(細川貂々著・幻冬舎)のツレさんは、バラエティ番組が苦手で、ニュース番組が心地よかったそうです。バラエティ番組は急に声が大きくなったり、オーバーな表現が多く、その変化が予測がつかず、とてもつらかったと書いてありました。ニュース番組は、最近バラエティ化している物もありますが、基本、淡々と原稿を読み上げます。その安定が心地よかったそうです。
  あるコミュニティのセミナーで聞いたのですが、人は言葉でコミュニケーションをとっている気でいますが、まず、表情や声の調子等の方が先に伝わり、言葉は伝わったものの中でごくわずかなパーセンテージなのだそうです。
  私が高EE・低EEについてセミナーで説明するときは、以下のような実験をすることがあります。温かそうなニコニコ笑いながら「バカ」等ひどい言葉を言う。そして別バージョンとして、怒った顔をしながら誉める。私の演技力がないので、今一つ成功しないのですが、こんな例を基に、ご自身の経験を探ってもらいます。この記事を読んでいらっしゃる方はどうですか?恋人が笑いながら「ばか」と言っても、本気で怒る方は少ないでしょう。たいていは戯言ととるはずです。これが知らない人が慇懃無礼な笑みを浮かべながら言った言葉なら別ですが。怒った顔で誉められた場合。中途半端な知り合いー例えば上司とかなら、怒った顔と褒められた言葉のどちらが本心なのか、迷うでしょう。よく知らない方なら「嫌味?」と思うシーンもあるかもしれません。
  2024年1月の能登半島地震の時のニュース報道も思い出してみてください。強い言い方が心に迫り、「怖い」と泣いたお子さんもいらっしゃったと記憶しています。切迫した言い方に危機感を覚え、なんだかわからないけれど逃げて助かった方も多かったと記憶しています。でも、途中悲鳴のような言い方も交じりましたが、基本大声で喚き散らした言い方ではありませんでした。本当に必要最低限の言葉で、聞き取りやすい言い方で、やるべきこと、その根拠を伝えていました。
  このように、言葉と伝え方は切っても切れない関係なのです。
  そして、病を抱えた方の頭と心は忙しい状況になっています。頭の中ではドーパミンやセロトニン等が誤作動しています。心の中もいろいろな思いが逡巡しています。だから、細かく相手の様子を見る余裕はないのです。相手のことを配慮はしていますが、相手の意図よりも深読みしている場合もあります。とんでもない方向に考えが飛んでいる場合もあります。
  だから、穏やかにシンプルに伝えた方が良いのです。
  人が大声を出すのは、自分が心配・不安な時です。相手が思うような反応をしてれなくて、聞こえていないのかと思う時も大声になります。また、問題行動を何とかしなければと叱責したり、どうしようもない現状に嫌味を言いたくなる気持ちはわかります。ごく自然な反応です。でも、残念ながら逆効果です。病を抱えた方を追い詰め、再発しやすくなるだけです。
  病を抱えた方に話しかけるというサインを送り、気が付いてもらってから、普通の音量で話す。問題行動に悩まされている場合、攻めたくなる気持ちもわかりますが、あえて、協力を引き出すためにもサポート的に言う。そして、命令調になると反発しやすくなるので、提案する。
  イソップ童話『北風と太陽』では、どちらが旅人のコートを脱がせたのかを思い出しながら、伝える。
  このような低EEのコミュニケーションをとっている環境にいる方は再発率が低く、高EEのコミュニケーションをとっている環境にいる方は再発しやすいという報告がたくさん届いています。

 これは、再発予防のための環境づくりですが、このような伝え方が皆に浸透したら、カスハラもパワハラもなくなり、すべての人にとっても、もっと良い社会になりそうなのですが…。皆さまはどうお考えですか?

  シンプルに穏やかに伝えるためには、自分が本当は何を相手に伝えたいのかを自覚していなければなりません。なので、簡単にできるようにはなりません。たくさんの試行錯誤を繰り返す必要はあります。アサーショントレーニングで練習する方法もあります。
  よかったら、一緒に練習しましょう。
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