ぱんどらのへや

ちょっとした子育てに役立つ話を紹介していこうと思います。

知能検査について気を付けていただきたいこと

2024年09月21日 | 職業
心理職が行う心理テストにはいろいろなものがあります。
その中でも、馴染みやすいのは知能テストではないでしょうか。

様々なテストが開発されていますが、比較的日本でよく使われているのは、ウェクスラー式とビネー式だと思います。
 ウェクスラー式は、言語理解・知覚推理・ワーキングメモリー・処理速度という4つの指標も出て、より詳しく、その人の強みと弱みが判ります。なので、教育領域で使われることが多いです。2005年版「田中ビネー知能検査Ⅴ」では、結晶性・流動性・記憶・論理推理という4つの指標も出るようになりました。「改訂版鈴木ビネー知能検査」もあります。

【対象年齢】
 「ウェクスラー式」はWAIS(正式名称が長いので、ウェイスと略しています)、WISC(正式名称が長いので、ウィスクと略しています)、WPPSI(正式名称が長いので、ウェプシと略しています)の三つに分かれます。
  WAISは高校生以上の成人。
  WISCは小学生・中学生。 
  WPPSIは幼児(3歳10か月~7歳1か月)
 2005年版「田中ビネー知能検査Ⅴ」は2歳から成人まで。
 「改訂版鈴木ビネー知能検査」は2歳から18歳まで。
ですが、乳幼児の場合、大人からの聞き取りやチェックするタイプのテストもあります。また「新版K式発達検査」(適用は0歳~成人)を使うこともあります。
 調べたいことに合わせて、テストを受ける方に合わせて、検査を選ぶことが建て前ですが、検査者(テスター)が熟練している検査を使うことが多いです。
 
 どの心理検査も、その検査がはかろうと意図している側面の評価が出てきます。なので、心理状態をはかるテスト等と、幾つかの心理テストを組み合わせ、ふだんの様子も聞き取り、総合的にアセスメントしなければならないと、私は訓練されました。鬱状態や、投げやりになっていて、実力が発揮できない場合に、知能テストの数値だけで決めつけられてはたまりません。
 とはいえ、受けるテストが多いと、それだけ時間がかかり、何度も来室していただかなければなりません。なので、特に教育領域では、知能テストだけと言うことが多いです。
 知能テストは、他の心理テストに比べて、マニュアル通りにすれば、とりあえずの数値は出ます。知能テストを制作・販売している機関は、スーパーヴィジョンを受けながら、そのテストに精通することを求めています。数値だけで判断してはいけません。例えば、同じ数値でも、答えた答えはすべて正解でも、慎重すぎて答えた数が少ないのと、答えた数は多くても、ミスが多くて正解が少ないのと、同じ正答数でも、意味づけは違います。
 認知心理学・発達心理学・臨床心理学等の心理学の知見に詳しく、そのテストに精通しているテスターは、上記の投げやりや態度やエネルギーがなく実力が発揮できない等、マニュアルにない部分、数値だけでなく、答え方の癖なども様子も、心理学の知見を素に、その方らしさ、強み・弱みをアセスメントします。受ける方・知りたい情報によって、テストを選ぶことが建て前と上に書きましたが、すべてのテストを平均的に習得するよりも、一つのテストに熟練して言う方が、より豊かなアセスメントができます。
 ところで、心理テストと言っても、話のネタのようなものから、精神鑑定に使われるものまで、様々です。ここでご紹介したテスト「田中ビネー式知能テスト」「鈴木式ビネー式知能テスト」「ウェクスラー式(WAIS・WISC・WPPSI)」「新版K式発達テスト」等は、万単位の方々にご協力いただいて、”標準化”という作業を行い、学会や研究会等で研究を重ねて、正確性を突き詰めていますので、テスト自体の信頼性は高いです。解釈の精度の違いは多少ありますが。

【どんなことがわかるのか】
 はっきり言って、知的なレベルをはかるテストです。
 その子の知的なレベルに合わせて、学習内容や学習の仕方を変えた方が良いという視点から、ビネー氏とシモン氏が「ビネー知能検査」を作ったのか始まりです。
 学ぶには、その子のレディネスが整っているかが重要です。まったくレディネスが整っていない場合に学ばせようとしても、教える方も、教わる方も苦労するだけです。レディネスが芽生えているけれど、うまくいかない場合は、コツをその子ができるような工夫をして、できるようにしたら、子どもは学びたがります。コツをつかんだら、子どもがどんどん学びたがります。そのレディネスも知的・精神的発達の段階に合わせないと、お互い不幸になるのです。
 昔、放送大学の講義で聞いた話ですが、初等教育は、自然発生的に、どの地域・文化でも、大体5歳から7歳から始まるのだそうです。小学校入学は6歳ですね。昔はお稽古事は6歳(数え年なので5歳)の6月6日に始まることになっていました。家庭以外の場で、家族以外の方の指示に従って、集団の中で学ぶというレディネスが整うのが、小学校入学の頃で、それ以前はその準備が整っておらず、家庭の中で個別対応での躾の段階なのだそうです。
 ピアジェ氏は発達を①感覚運動期、②前操作期、③具体的操作期、④形式的操作期というように分けました。③具体的操作期と言うのは、具体的なものを手掛かりに考える段階ということです。算数で「🍎が幾つと梨が幾つで」とか、ブロックを使って”四則演算”を理解することです。”生活科”として、植物を手に取って観察したり、地域のお店を訪問して、具体的に身体全体を使って学ぶというやり方が多いのは、このレディネスの段階だからで、この年代の発達に合っているやり方なのです。④形式的操作期(11歳前後~)に入ると、目の前に具体的なものがなくとも、頭の中で考えることができるようになります。学校の勉強も、小4・5年から分数の掛け算・割り算や、三権分立等、頭の中でのイメージが必要なものが増えてきます。勿論、先生は図形、星座や原子などのモデルを作って説明し、より具体的にイメージしやすくしていますが。頭の中で考えられる段階というレディネスが必要になるのです。
 ところが、子どもが全員、このような発達を遂げればよいのですが、知的障碍者の手帳をいただけるレベルのお子さんでは、④形式的操作期のレディネスが整わないなどが起こります。頭の中でイメージできず、理解できず、授業に参加し続けている苦痛はいかばかりか。「できない」「解らない」「授業がつまらない」と言う思いを抱え、自分自身の強み・良さが見えなくなってくる子もいます。

 勿論、知能検査はそのようなレベルをはかるだけではありません。
 前回投稿した「発達障害」の時に、私は音韻把握が苦手で、工夫をしていると書きました。その自分の特性に気が付いたのは、このWAISを受けた時です。他にもいろいろ自分の特徴(特性)に気が付きました。児童・生徒の時代に受けていたら、自分の人生変わっていたのではないかと思うほどの衝撃でした。
 自分が良い思いをしたので、つい「このカレー美味しいよ」のノリで、知能テスト被検を勧めてしまって、苦笑されています。

 お勧めすると、どんなことをやるのかという質問をいただきます。
 具体的な内容をお伝えすることはできません。カンニングになってしまいますので。
 受けた方/子どもの感想をお伝えすると、「クイズやゲームみたいで面白かった、またやりたい」と言う子どもいます。それでも、”テスト”であり、何らかの”結果”が出るので、「緊張した」「嫌だった」という子もいます。
 こんなお子さんもいらっしゃいました。不登校で、家ではオンラインゲーム三昧です。保護者の方が「勉強しなさい」と叱っても、馬耳東風です。保護者の方は「さぼり」と断定、憤慨していらっしゃいました。いろいろ経て、そのお子さんが知能テストを受けることになりました(私以外の方がテストしてくださいました)。適当な答えでさっさと終わらすのかと思いきや、目安の時間の3倍かけて全部やり切りました。通常、1時間以上かかるときは、疲れによるパフォーマンスの低下を防ぐために、後日続きをとすることが多いです。でも、今回、ご当人が続けて頑張ることを望み、あまりにも真剣に取り組んでいるので、最後までやったとテスターがフィードバックしてくれました。そして、やり終えた後、そのお子さんが「俺だって、時間をかけてやればできるんだ」とつぶやいたとも。それを聞いて、ハッとしました。このお子さんはさぼりたくてさぼっていたのでしょうか?この知能検査の所見を素に、家以外の場面で、どううまくいかなかったのか、どうやったら達成感を得られるようなことができるのか。対策を立て直しました。まずは達成感を得られるようなことから、スモールステップで初めました。少しずつ、自分が困っている場面を教えてくれるようになり、その子なりのチャレンジをするようになりました。
 このように、子どもが自信を持てるきっかけを探す手掛かりにもなることがあるのです。

【どこで受けられるのか】
 手帳取得の為なら、児童相談所です。
 東京都の予算で働いている公立学校のスクールカウンセラーは、学校内で児童・生徒の心理テストを取ってはいけないことになっています。自治体によって違うようです。
 自治体には教育相談室/所/センターがあることが多いです。そこで受けることができることもあります。たいていの教育相談は、「テストを受けたい」と言っても、まずはその機関の心理職と話をして、必要と思われれば、受けることができるというのが、多いです。
 学校のスクールカウンセラーや特別支援教育関係の教員・コーディネーター、担任に訊いてみるのも一つの方法です。学校独自に、知能検査請け負ってくれる方を雇っていた学校もありました。
 あとは『日本臨床心理士会』のHPに、『臨床心理士に出会うには』があります。クリックすると、通いたい地域や、求めているサービスなどで絞り、検索すると、機関が出てきます。すべての開業・医療機関が登録しているわけではありませんので、ヒットしないこともありますが、チェックしてみるのも一つの方法だと思います。
 公認心理師・臨床心理士養成を担っている大学の心理相談室で受けてくれる場合もあります。教授のスーパービジョンを受けながら、公認心理師・臨床心理士を目指している方がテスターとなることが多いので、割安です。大学のHPでご確認ください。
 テスターはテストを受ける方と知り合いじゃない方が正確な数値が出ます。ふだんからの知り合いがテストすると、お互い甘えが出てしまい、正確な数値とならない場合があります。 

【テスト結果の活用】
 数値だけをフィードバックされることはほとんどないです。4つの指標や、答え方等についてもアセスメントして、”所見”という形でフィードバックしてくれることがほとんどです。
 お子様ご本人が自分も聴きたいと言った時に、お子様ご本人が判るような言葉で所見をまとめてフィードバックしてくれるところもありました。どのようにフィードバックをするか話し合ってください。テスターが学校を訪問して、保護者の許可を得て、教員やスクールカウンセラーも同席させていただいて聞いたこともあります。テスターと私のやりとりを聞いて、納得された保護者の方もいらっしゃいました。書いてある文は日本語として理解できるのだけれど、よくわからないと思っている方が多いようです。保護者の方も教員も。スクールカウンセラーが入ることで、書かれていることと、お子様の日常を結びつけることができます。
 その結果を、学校での指導に活かしてもらいたいと言って、持ってきてくださる保護者が多いですが、テストした機関から頂いたものをすべて持ってきていただけると一番助かります。中には、数値だけを持ってきてくださる方もいらっしゃいました。その数値とお子様のふだんの様子を思い浮かべて、所見を類推して活用させていただきます。ですが、数値よりも、テストを受けているときの様子なども書かれている所見の方を持ってきていただけたら、ありがたいです。以前投稿した「発達障害」にも書きましたが、学校で見せている顔、ご自宅で見せている顔、心理テストの場面で見せている顔が違うこともあり、新たな面が見つかることもありますので。皆に知れ渡ってしまうとの危惧は無用です。心理職には守秘義務が、教員は個人情報保護の観点があります。どんなふうに開示していいか、開示しないのかを話し合っておきましょう。テストの結果が周りに知れ渡ったこともありますが、発信元は、当のお子様でした。お子様とも話し合っておきましょう。
 進学・就職した時に、不利になるのではないかと心配される方もいらっしゃいます。どんな対応をするかわからない場合は、黙っていてください。就職には、障碍者枠を使って就職する場合は障碍者手帳を持っていることを申告しなければなりませんが、それ以外は規定されていないはずです。社内ルールは確認してください。発達障害のある方への合理的配慮を求める場合、学校や職場によっては、診断書や知能テストの所見の提出を求められることがあります。元々、知能テストを受けた理由は、お子様にあった環境を整えることにあると思います。初めは、スクールカウンセラーに、どんな学校かを聞いて、ちゃんと対応してくれると判ったら、結果を伝えた方がよいのではないかと思っています。

【特別支援学級や、特別支援学校を勧められた】
 人の価値は学業の出来だけで測れるものではありません。『佐賀のがばいばあちゃん』の主人公は勉強は全くできませんが、お笑いの才能、足の速さ、そして、馬鹿をやる主人公たちを叱りながらも認めてくれる周りがいて、主人公も生来の明るさ・逞しさで生きている姿が描かれていました。漫才師島田洋七氏の実話を素にした話です。そんな風に、お互いの強みをを認めあう世界は理想的です。でも、最近の学校は全国学力調査もあって、”学習習得”へのプレッシャーが強くなってきたように思います。
 上に書きましたように、知的レベルが、どうしても、自分一人で生活できないレベルや、形式的操作期に至らないレベルのお子様もいらっしゃいます。合わない学習を1日6時間行うことのつらさ。洋七氏のような強みを周りが認めておおらかに対応してくれればよいですが。
 ご本人が辛そうな場合は特別支援学級などへの転籍をお勧めすることがあります。その時の保護者の方の反応で多いのが「せめて、高校ぐらい出ておかないと就職できない」と言うものです。昔は障碍者手帳を付与されると、「生活保護を受けながら、作業所でわずかばかりの賃金を得て」という方法しかなかったように思えます。でも、今は違います。私は東京で仕事しているので、東京での話で申し訳ありませんが、特別支援学校高等部は、かなり就職に力を入れています。在学中から、就職を想定したマナー・身だしなみをはじめとし、就職に有利な資格を取得して、就職につなげていくコースもあります。そして、一番の特色は、就職後のフォローも学校の仕事となっていることです。卒後就職90%進学10%の高校を担当したこともありますが、卒業時は先生の努力もあって、就職できますが、トラブルが発生した時のフォローがなく、退職、フリーターになる子がなんと多いことか。学校以外でも手帳を持っている方々のための就労支援の事業所もあります。地元の状況を調べておくことも大切なのではないでしょうか。
 そしてもう一つ多かったこと。見学に行っていただいたら「勉強が遅れているのに、あちらの教室では塗り絵や籠を編んでいた。それじゃ困る」でした。作業療法の一つです。『大人のぬりえ』が流行ったように、ストレス緩和に最適ですが、それよりも、視覚と手の協応を鍛えるのに、最高なんです。力の抜き方も覚えられます。そして、籠編み。認知症予防の方法を思い出してください。「手指を動かすことで、脳の活性化を図る」です。「なんでこんなことを」と落胆する前に教員やスクールカウンセラーに質問してみてください。
 そのうえで、お子様・ご家族のお気持ち・将来について、話しましょう。

【気を付けて欲しいこと】
 知能検査を受けるメリットを中心に書きましたが、良いことばかりではありません。思い描いていたイメージと、テストの結果が違うことがあります。手帳をとれるレベルだった。ギフテッドと思っていたら違ったというものもあります。全体の数値は平均ですが、4つの指標のばらつきが大きすぎて驚かれる方もいらっしゃいます。ギフテッドでも、このばらつきゆえに達成感が生まれにくくなっている方もいらっしゃいます。
 心理職としては、「ありのまま」を認めて、強みを伸ばしていただきたいのですが、日本人はどうしても努力が好き。弱みを克服せねばならないと躍起になる方もいらっしゃいます。生きている価値を認められなくなってしまうレベルの方もいらっしゃいます。
 理想に近づけるように努力するのも良いかもしれません。理想をありのままに近づけるのも良いかもしれません。どちらを取るにしても、レディネスを頭に置きながら、訓練していただきたいと思います。
 そして、『佐賀のがばいばあちゃん』の主人公の強みは、知能テストでははかれないことも覚えておいてください。

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