夜中、息子が部屋のドアを開けた。
どうしたのと聞くと、お父さんが凄く泣いてるというのだ。
やはりそうかと思い、階下に行くとリビングで顔を覆って子どものようにウォンウォン泣く夫の姿があった。
お酒を飲み、娘に電話で話している夫は完璧に壊れていた。
母親が亡くなったというのにはしゃいでいる夫をみて、息子も母も呆れていた。
電話の向こうでも呆れ果てた娘がお父さん壊れてるねと思ったに相違ない。
そんな夫だったので、その後の姿には面食らってしまった。
泣き止まない夫の背をさすりながら夫の悲しみが私の中にこみ上げてきた。
またその瞬間、私はずうずうしくも私が死んでもこうして泣いてるだろう夫の姿がダブって見えてきた。
背中をさすりながら、私はここにいない方がいいのではないかとか、そんな大きな声で泣いて近所に聞こえはしないかなど、冷静に心配しているやや壊れ気味の私もいた。
初めてみる夫の悲しみの姿に、私は言葉にできないものを感じた。
それは「安心」といっていいのかもしれない。
言葉と行動が全く異なる強がりの弱さをもつ夫の本心を見たような気がした。
心とは複雑なものだと感じ、言葉とはなんと本心を偽るものだろうとも。
泣くだけないて落ち着いたのか、よろよろと立ち上がり、例の夫が戻ってきた。
「これは、あんたには関係ないからね。俺の問題だから」
訳がわからなかったが、いつもなら反撃するところだが言葉にならなかった。
外に出て、空を眺めながら煙草を吸っている。
しばらくたっても入ってこないので、カーテン越しに伺うと、何度か腰を上げても自力で立ち上がれない。
手を差し伸べるとそれを頼りに立ち上がった。
フラフラしながら、風呂に入るという。
倒れそうなからだを支えながら、今日は入らないようにと諭す。
すると歯を磨かないとといい、洗面所によろよろしながら向う。
体が前後に揺れながらの歯磨きである。
歯磨きが終わると、まだついている私の存在に気づいたのか
「酔っ払いを甘やかすと駄目だよ」
とまた訳のわからないことを・・。
「今日だけね」といい、無事、寝床につくまでの距離を介護する。
ふと義兄のことを思った。
義母を苛めているようにしか思えない罵詈雑言の本家のような長男である義兄のことを。
お酒も飲まない兄である。
さぞ並の悲しみではすまないだろうと、そんな兄を可愛そうになっていた・・。
号泣する夫の姿に出会った私は、もうすっかり眠れなくなってしまった。
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