チャイコフスキー庵 Tchaikovskian

有性生殖生物の定めなる必要死、高知能生物たるヒトのパッション(音楽・お修辞・エンタメ・苦楽・群・遺伝子)。

「チャイコフスキー『偽ドミトリーとヴァシリー・シュイスキー』1幕序奏」

2013年07月21日 17時00分06秒 | チャイコ全般(6つの目のチャイコロジー
(ミハイル・ロマノフ戴冠から400年)

英国の王位継承権第2位のウィリアム王子の妃
キャサリンの出産が間近いらしい。すでに
女児であることが判ってるとのことである。
エリザベス女王は17日に訪れた英国北西部湖水地方で小学生の女子に、
"Do you want Kate's baby to be a boy or girl?"
(拙大意)「ケイトの赤ちゃんは男の子のほうががいい、女の子のほうががいい?」
と訊かれてすかさず、
"I don't think I mind."
(拙大意)「どっちかは気にしてな~いの」
と答えた。続けて、
"I would very much like it to arrive.
I'm going on holidays.
No sign yet."
(拙大意)「ただ、本当に早く生まれてほし~いわ。
だって、予定日は来週から始まる私の休暇中な~のよ。
分娩の兆候はま~だだわよ」
と児童らに伝えた。
男女どちらでもいいというのは、
女系で繋いできた英国王室には当然の話である。
王位を簒奪するためにわずかな女系を頼りに成立した
テューダー朝は問題外としても、そのあとの
スチュワート朝の男系も英国王とは無関係である。つまり、
女系にしてしまった(せざるをえなかった)ために、
英国王室の"血"やウィリアム王子の頭髪は、
きわめて"薄い"ものになってしまってるのである。ちなみに、
大相撲で初めてアフリカ出身(エジプト)で関取になった
大砂嵐金太郎関は今場所がラマダーンと重なってしまったために
その食事問題が心配されてた。が、
髷を結えるかどうかのほうがよほど心配である。

いっぽう、
20日土曜21時放送の「世界ふしぎ発見」は、
フランス王ブルボン朝最後の王妃(王制復古の
ルイ18世とシャルル10世の妃はともに夫の即位前に死んでるため)
いわゆるマリー=アントワネッドが扱われてた。その母は
マリア=テレズィアであり、その女帝しか跡継ぎがいなかった時点で
ハプスブルク家の男系は途絶えてた。いっぽう、
マリー=アントワネットが嫁いだブルボン朝は
サリカ法を守って男系で繋がってきてた。ちなみに、
番組ではルイ16世とマリー=アントワネッドの次男で10歳で死んだ
ルイ・シャルル(ルイ17世)のことも話題にしてた。この王子は
チャイコフスキーが少年時代にその悲劇の物語を知って以来、
憧憬を抱きつづけてた対象だった。大人になってからも
ルイ・シャルル少年の肖像を部屋に飾ってたほどである。ともあれ、
このルイ17世の死でブルボン本家の男子は途絶えたのである。
"血筋"という意味では、
17世紀初頭から20世紀初頭までの300年間ロシアのツァーリだった
ロマノフ家も、その初代のいわゆるミハイル・ロマノフの血をほとんど
繋いでおらず、ドイツ諸侯の血がほとんどという、
いかにもデタラメでなんでもありなロシアらしい統治者である。

本日は我が国で第23回参議院通常選挙が行われた。
明日2013年7月22日から400年前の1613年7月22日は、
Михаил Фёдорович Романов
(ミハイール・フィョーダラヴィチ・ラマーナフ、いわゆる
ミハイル・フィョードロヴィッチ・ロマノフ、1596-1645)が
1613年2月の"全国会議"でロシアのЦарь(ツァーリ)に選出され、
その5か月後に戴冠してロマノフ朝が始まった日、とされてる
(2月、あるいは6月という話もある。いかにも
いいかげんなロシアらしく)。そんな
ロマノフ朝は1917年まで300年も続くが、
ミハイルが17歳で即位した当時の"ロシア"は、
せっかく蒙古人からの支配から逃れたものの
スウェーデンやポーランドという"大国"に攻め込まれ、
"国家"存亡の危機だったのである。が、やがて、
ポーランドとロシアの立場は逆転する。このように、
かつて"虐げられた"国や民族がのちに
興隆してのさばりだすと、
執念深く復讐心を燃えたぎらせることが多い。
ポーランドの舞曲であるポロネーズは、そんなロシアにとって、
軍事的優位・征服を誇示する象徴だったのである。ともあれ、
ミハイル・ロマノフが即位するまでの3年間、ツァーリは空位だった。そして、
スウェーデンやポーランドとのしがらみのなかった16歳の
ミハイル・ロマノフが全国会議でツァーリに選出されたのである。

ミハイル・ロマノフのツァーリ戴冠から遡ること15年、
1598年の1月にフィョードル1世の死でリューリク朝が途絶えた。
その妻の兄であるバリース・フィョーダラヴィチ・ガドゥヌーフ、
いわゆるボリス・ゴドゥノフが実権を握り、まもなく、
ツァーリに就いた。が、
血筋違いを理由に諸侯の反感を招く。
たった7年でボリスは死に、その子が
フィョードル2世として即位。が、
ボリス在命中からイヴァーン4世の落胤を称してた
偽ドミートリーに攻め込まれ、処刑されてしまう。そうして、
偽ドミートリーが帝位に就くのだが、妻の宗旨の問題で
諸侯の反感がつのり、リュークク朝のれっきとした男系である
ヴァシーリー・ジューイスキーらによる叛乱が起きる。そんな混乱の中、
偽ドミートリーは殺された。今度は、血統的にもっともふさわしい
ヴァシーリー・ジューイスキーがヴァシーリー4世として即位する。ところが、
"大国"スウェーデンやポーランドの思惑も絡んで、
このヴァシーリー4世も諸侯の支持を失い、1610年7月に
退位させられることになった。そして、
ポーランド王子をツァーリに仰ぐプロジェクトが持ち上がり、
その使節団の一員とされたヴァシーリーは、
いわゆるワルシャワに随行させられた。が、
カトリックからロシア正教への改宗がネックとなって
ポーランド王は即位を拒否する。そのうえ、
ヴァシーリーは俘囚となって2年、そこで犬死するのである。
こうして、1610年のヴァシーリー廃位から3年間、
ツァーリは空位だったのである。

その空位前の史実に基づいて、
Александр Николаевич Островский
(アリクサーンドル・ニカラーィヴィチ・アストローフスキィ。いわゆるオストロフスキー、1823-1886)
が2幕の劇にした。
"Дмитрий Самозванец и Василий Шуйский
(ドミートリィ・サマズヴァーニェツ・イ・ヴァシーリィ・シューィスキィ
=偽ドミートリーとヴァシーリー・シューイスキー)
である。オストロフスキーは1866年12月に、
音楽院を出たばかりのチャイコフスキーにその劇の附随音楽を依頼した。とはいえ、
オストロフスキーからもらった台本を紛失してしまったチャイコフスキーが仕上げたのは、
第1幕導入曲とマズルカの2つだけである。
前者は、1863-64年の音楽学院生時代のpf習作曲
「主題と変奏」の主題が採られてる。
[アンダーンテ・センプリチェ(表情をつけずに)、3/4拍子、無調号(イ短調)]
♪ラ<シ<ド(3連符)│
ドーーー・ーーーー・ド>シ>ラ(3連符)│ラーーー・ーーーー、・<ド<レ<ミ(3連符)│
ミーーー・ーーーー・ミ>レ>ド(3連符)│ドーーー・ーーーー♪
これが、劇の導入曲では、
[アンダーンテ・ノン・トロッポ、8/9拍子、無調号(イ短調)]
となって、5小節の前置きが附加されてる。そして、
この"無表情"な主題がオーボエの独奏で吹かれる。
♪ラ<シ<ド│
ドーー・ーーー・ド>シ>ラ│ラーー・ーーー、・<ド<レ<ミ│
ミーー・ーーー・ミ>レ>ド│ドーー・ーーー♪
主題の後半部である
♪シ<ド<♯ド│<レーー・ーー>シ・>ラ<シ>ラ│>♯ソ♪
のあたりは原曲とほぼ同じながら、pfから弦楽になることで、
よりチャイコフスキーらしい響きが醸し出される。
主題がフルートにバトンタッチされて、
[→ピウ・モッソ]
となったところで、さらにチャイコフスキアンなオーケストレイションになる。
最後は[→アッレーグロ]となり、実質イ長調で曲を閉じる。ここで、
プロとしてまだ駆けだしだった26歳のチャイコフスキーは、
偽ツァーリの後押しをした対ポーランドへの
軍事的優位・征服支配を誇示する
♪[タータタ・ターター・ターター│ターター・ターーー・ターーー│ターーー・ーータタ・ターター]♪
という「ポロネーズ」のリズムをトランペットに刻ませることを
忘れずに行ってるのである。ちなみに、
ロマノフ朝は1917年のロシア革命まで300年も続くが、途中で、
ほとんど開祖の"血"はほとんど"薄れ"てしまってた。そして、
いわゆるレーニンの共産党によってアナスタシアも含め一家皆殺しにされ(銃殺)、
ロマノフ本家は零人となってしまったのである。

(チャイコフスキーのオーケストレイションをほぼそのまま再現したものを
https://soundcloud.com/kamomenoiwao-1/tchaikovsky-dmitry-the
にアップしておきました)
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「チャイコフスキー『マンフレッド交響曲』05 第2楽章 アルプスの魔女の主題」

2013年07月18日 15時42分40秒 | チャイコ全般(6つの目のチャイコロジー
チャイコフスキーのいわゆる「マンフレッド交響曲」は
4つの楽章から成る。その
【第2楽章】は3つの部分から成ってる。
1)主部:アルプスの魔女の主題
2)中間部:魔女の甘い誘惑の主題
3)主部の再現:魔女の主題
という、いわゆる[A-B-A]形式である。
私に服従すればお前の願いを叶えてやるよ、
と魔女はマンフレッドに誘いかける。が、
マンフレッドは拒否するのである。ときに、
言い出しっぺのバラキレフの指示書もバイロンの原作も、
順番としてはチャイコフスキーが書いた第3楽章のほうが
その第2楽章より前である。だからといって別段、
"シナリオが想いどおりにならずにとまどった"
というわけではないし、背丈が
160cmもないことを隠して(hide)るわけでも
ジキル博士からMr.hydeにさまがわりしたわけでもない。
第1楽章がアンダーンテなので緩徐楽章をあとまわしにした、
ということなのかもしれないし、あれほど
強烈な終わりかたをする第1楽章のあとに
"穏やかで平和に満ちた"楽想を連ねるのは
あまりに唐突だからなのかもしれない。

この楽章にもユルゲンソン社刊のスコアにはロシア語とフランス語で
(オイレンブルク社刊のにはドイツ語とフランス語で)標題が記されてる。
ロシア語を打ち込むのは面倒くさいのでフランス語のみ掲げる。
"La Fee des Alpes parait devant Manfred sous l'arc-en-ciel du torrent.
(ラ・フェ・デザルプ・パヘ・ドゥヴォン・マンフェド・ス・ラルク・オン・スィエル・デュ・トホン
=アルプスの魔女が滝にかかる虹の下のマンフレッドの前に現れる)"
ちなみに、
英語の原作ではこう説明されてる。
"the Witch of the Alps rises beneath the arch of the sunbow of the torrent."

この楽章はおよそ原作の第2幕第2場
A lower Valley in the Alps.-- A Cataract.
(ア・ロウア・ヴァリー・イン・ディ・アルプス……ア・ケタレクト
=アルプスの谷底寄りの瀑布)の
とりわけ以下の箇所を描いてる。

魔女:
"That is not in my province;
but if thou Wilt swear obedience to my will,
and do My bidding,
it may help thee to thy wishes.
(ダ゛ット・イズ・ノット・イン・マイ・プロヴィンス。
バット・イフ・ダウ・ウィルト・スウェア・オウビーディエンス・トゥ・マイ・ウィル、
アンド・ドゥ・マイ・ビディング、
イット・メイ・ヘルプ・ディー・トゥ・ダイ・ウィシズ)
「(拙大意)それは我が専門外のことであるぞよ。
が、そなたが我が意向への服従を誓い、
また、我が命令に従うなら、
汝の願いを叶えてやらぬでもないぞ」

マンフレッド:
"I will not swear--
Obey! and whom?
the spirits whose presence I command,
and be the slave of those who served me--
Never!
(アイ・ウィル・ノット・スウェア……
オウベイ! アンド・フーム?
ダ・スピリッツ・フーズ・プレズンス・アイ・コマンド、
アンド・ビー・ダ・スレイヴ・オヴ・ドウズ・フー・サーヴド・ミー……
ネヴァー!)
「(拙大意)私は誓ったりしない。
服従しろだと! いったい、誰に?
貴様はタカ&トシか!? 欧米か!?
私が現れろと命じた悪魔にか。
それとも私に仕えた奴隷のようになれというのか……
とんでもない! ファウストなんかと一緒にするな!」

魔女:
"Is this all?
Hast thou no gentler answer?--
Yet bethink thee,
And pause ere thou rejectest.
(イズ・ディス・オール?
ハスト・ダウ・ノウ・ジェントラー・アンサー?……
イェット・ビティンク・ディー、
アンド・ポーズ・エア・ダウ・リジェクティスト)
「(拙大意)それだけかい?
汝にはそんなにべもない言いかたしかできないのか?……
もう一度考え直してみてはどうなのだ、
拒否る前に一息いれてみるのだ」

マンフレッド:
"I have said it.
(アイ・ハヴ・セディット)
「(拙大意)答えは変わらん」

魔女:
Enough!--
I may retire then--
say!
(イナッフ!
アイ・メイ・リタア・デン……
セイ!)
「(拙大意)よかろう!
わらわは引き揚げるとするか、それでは……
のう!」

マンフレッド:
" Retire!"
(リタイア!)
「(拙大意)失せろ!」

[The WITCH disappears.]
(ダ・ウィッチ・ディサピアズ)
「(拙大意)魔女は姿を消す」

[Vivace con spirito(ヴィヴァーチェ・コン・スピーリト=快速に、生気をこめて)、
4分音符=120、2/4拍子、2♯(ロ短調)]
フルート2管+そのほぼオクターヴ下のクラリネット2管+動機の最後を補完するファゴット2管
によって、スタッカートの16分音符の動機が2小節にわたって
pからmfへと吹かれる。クラリネットはほぼフールートのオクターヴ下をユニゾってるので、
第1フルートと第2フルートにしぼって目をあててみる。

(第1フルート)♪●●レレ・<【レレ】>シシ│<【シシ】<【レレ】・>レレ<<【ファファ】│>ファファ♪
(第2フルート)♪●●【【ララ】】・>♭ラ♭ラ<【【ファファ】】│>ミミ<ララ・>【【♯ソ♯ソ】】<ドド│>【【シシ】】♪

というように、第2フルートと第1フルートがほぼ交互に

♪●●【【ララ】】・<【レレ】<【【ファファ】】│<【シシ】<【レレ】・>【【♯ソ♯ソ】】<【ファファ】│>【【シシ】】♪

というほぼ減七分散上昇旋律ラインを受け持たされてることが判る。と同時に、
第2フルートが吹く音型は、アスタルテの主題の主要動機である
♪ミ>レ<ラ>ソ♪
の変形
♪ラ>♯ソ<ファ>ミ♪もしくは♪ラ>♯ソ<ド>シ♪
でもある。これが、
裏打ちでシンコペ的に歪められ、
スタッカートをかけられた16分音符でダブルクリックされて
奏されるのである。
楽譜なしで聴く者にとっては、
じつに拍の捉えにくいものとなってる。これは、
実質嬰ヘ短調で第3フルート、イングリッシュホルンを加えて確保される。

対して、
副次的動機は最初フルート3管のユニゾンによる
3連符回転下降音型である。これは次いで、
2オクターヴ下でクラリネット2管のユニゾンで繰り返される。
これもクルクルと捉えどころのないものであり、
ピッツィカートの弦や木管などが
「眠れる森の美女」の「親指小僧と兄弟、人食い鬼」
の冒頭のような、チャイコフスキーの音楽にときどき現れる
無調もどきの音型を連ねる。そうでなくても、
1874-90年あたりまででこれほど
"前衛感のある"クラ音を書いたのは、
モーツァルト以外にはチャイコフスキーくらいなのではないだろうか。
ベートーヴェンは強烈な「不協和音」を使って
(たとえば「英雄」「運命」「田園」「合唱附き」など)
劇的な効果を演出してる作品も少なくないが、
それとは少し趣を異にする。ことによっては、
「マンフレッド交響曲」を作曲したのが、
敬愛するモーツァルトがK465を作曲してハイドンを招いて御前演奏をした
1785年からちょうど100年のアニヴァーサリーだったから、
"先輩"バラキレフに献呈するこの作品において、
チャイコフスキーはその"故事"に倣ったつもりだったのかもしれない。

(この第2楽章主部の主要主題を
チャイコフスキーのオーケストレイションほぼそのままに再現したものを
https://soundcloud.com/kamomenoiwao-1/tchaikovsky-manfredsymphony-2
にアップしておきました)
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「チャイコフスキー『マンフレッド交響曲』04 第1楽章3拍子化されたマンフレッドの主題」

2013年06月18日 00時35分37秒 | チャイコ全般(6つの目のチャイコロジー
チャイコフスキーのいわゆる「マンフレッド交響曲」の
第1楽章の3部の構成のうちの3部めにあたるのが、
289小節乃至338小節=3拍子化されたマンフレッドの主題(固定楽想)
[Andante con duolo(アンダーンテ・コン・ドゥオーロ
=歩を進める速さで、罪を後悔する悲しみをもって。四分音符=69)、
3/4拍子、2♯(ロ短調)]
である(演奏所要時間2分弱)。
(1部=マンフレッドの主題提示とその展開、
2部=アスタルテを回想する主題とその展開)

ロ短調の主和音がおもに低音木管とホルンによって
♪タタタタタタ(6連符)・タタータ・ータータ♪
という強烈な律動で刻まれる。そして、
♪ミー・ーー・ーー、│>シ<ド、・<レー、・>ラ<シ、│
<ドー、・>ラー・ーー│ー●・●●・●●♪
というマンフレッドの主題が再現される。が、
イ短調の4拍子で提示された主題が、ここでは、
アスタルテの主題と同じロ短調に同化され、
アスタルテの主題と同じ3拍子に同化されてる。
これが、弱音器を外すように指示された
vnプリーモ、vnセコンド、ヴィオーラ、チェロ、という
弦楽4セクションの完全ユニゾンによってffffで擦られるのである。
こんな強烈なユニゾンは、チャイコフスキーならではである。さらに、
[dolente ed appassionato]
(ドレンテ・エド・アパッショナート)
「(拙大意=)胸かきむしられるごとく、万感胸に迫るように」
と指示されてる。また、
両翼vnは[sul G]というように、
ゲーセンで擦ることを義務づけられる。このマンフレッドの主題に、
♪ミーー<ファ│ファーーー・>ミー♪
と、「教会」「怒りの日」などを連想させる
トロンボーンという楽器が合いの手を入れる。

♪ラ・<シ<ド│>シ>ラ・>ソ>ファ・>ミ>レ♪
という8分音符主体の箇所になってからは、弦楽器群には、
[ganze Bogenlaenge]
(ガンツェ・ボーゲンレンゲ)
「(拙大意=)めいっぱい弓を使って」
と指示される。

ストリンジェンドしてって、
→[ウン・ポーコ・ピウ・モッソ](四分音符=76)
とテンポを速め、4管のホルンによってマンフレッドの主題が確保されるとき、
ドイツ語で[Stuerze in die Hoehe](シュテュルツェ・イン・ディ・ヘーエ)
フランス語で[Pavillons en l'air](パヴィヨン・ゾン・レル)
「(拙大意=)ベル部を上に」
いわゆる"ベル・アップ"するように指示されてる。
マーラーやストラヴィンスキーが真似た奏法である。ちなみに、
フランス語のほうのpavillonとは、
「張り出したもの」を表す。たとえば、
テント、旗、四阿(あずまや)、耳たぶ、
のようなもので、この場合は、
管楽器の朝顔部(ベル)を意味する。
5つしかないボルドー第1級赤ワインのひとつである
シャト・マルゴ(エチケットは金色)のセカンド・レイベルとして知られる
"Pavillon Rouge du Chateau Margaux"
(パヴィヨン・ルジュ・デュ・シャト・マルゴ=シャトー・マルゴーの赤い館)
のエチケットは赤一色刷りとなってるのだが、その
Pavillonは家という意味である。

それはともあれ、 
ホルンが通常の抱えかたに戻される(einfach=アインファッハ)
♪ラ・<シ<ド│>シ>ラ・>ソ>ファ・>ミ>レ♪
の確保&推移の箇所は、
→[ピウ・アニマート](四分音符=84)
とさらにテンポが速められる。

そしてまた、
→[アンダーンテ・ノン・タント(あまり遅くない歩を進める速さで)]
 (四分音符=76)
と速度を少し落とし、
D管トランペット2管のユニゾンでマンフレッドの主題の断片が
[con tutta forza e molto marcato]
(コン・トゥッ・フォルツァ・エ・モルト・マルカート)
「(拙大意=)あらん限りの音量で、刻みつけるように」
と吹奏される。ドラも打ち鳴らされる。

→[ポーコ・ピウ・アニマート](四分音符=84)
バトンタチされるホルン4管のトゥッティには、
[marcatissimo](マルカティッシモ=痕が残るくらいくっきりと)
と指定がなされてる。この箇所の、
[(ニ長調でのスキャンで)♯ド-ミーソ-ラ](ロ長調のド-ミ-ソ-♭シ)
という和音が強烈に響く。そして、
同じく[marcatissimo]と指示されたトロンボーン3管に引き継がれ、
ファゴットとチューバとコントラバスによる最低音の主音の通奏の中、
♪●●ファ│>ミミ♪、♪ミミ●♪
という変則3連符の強打から、1回8分音符の一撃を加えて、
8分音符の主音のユニゾンで第1楽章を熾烈に閉じる。

チャイコフスキーが書いた管弦楽を使った作品の中でも、
「悲愴交響曲(1楽章第2主題再現前)」
「歌劇マゼーパ(2幕3場カチュビェーィの処刑スィーン)」
などと並んで、心臓を掴まれて揺り動かされるような
もの凄い音楽である。
(チャイコフスキーの凄みがよくわかるこの箇所を
ほぼ原曲どおり……大太鼓とタムタムは省略しました……に
再現してみたものを
https://soundcloud.com/kamomenoiwao-1/tchaikovsky-manfred-symphony
にアップしておきました)
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「チャイコフスキー『マンフレッド交響曲』03 第1楽章亡きアスタルテを偲ぶ主題とアスカ時代の兄妹相姦」

2013年06月11日 00時06分53秒 | チャイコ全般(6つの目のチャイコロジー
チャイコフスキーのいわゆる「マンフレッド交響曲」の
第1楽章の3部の構成のうちの2部にあたるのが、
171小節乃至288小節=亡きアスタルテの主題
[Andante(アンダーンテ=歩を進める速さで、四分音符=69)、3/4拍子、2♯(ロ短調)]
♪●ミ・>レ<ラ・>ソ>ミ│<ファー・ーー・ーー│ー●・●●・●●│
●<ソ・>ファ<ド・>シ>ソ│<ラー・ーー・ーー│ー●・●●・ラ>♯ソ<ラ(3連符)│
<ミー・>レ●・>ラ>♯ソ<ラ(3連符)│<ミー・>レー・ーー│……♪
である。いかにも、
痛々しいせつない曲想である。
この2部では弦楽5部はみな、弱音器をつけるように指示される。
弦楽器の弱音器装指示は、譜面にイタリア語で、
"con sordino(コン・ソルディーノ=弱音器をつけて)"
"con sordini(ソルディーニ)"
などと表記されてる。
sordini(ソルディーニ)はsordinoの複数形である。
オケの弦楽器群のように同種複数の楽器が
ひとつの譜面に書かれてる場合に用いられる。ともあれ、
sordinoというイタリア語の名詞はラテン語の
surdus(スルドゥス=聞こえない)という形容詞からの派生である。
はずすときの指示は
"senza sordino" o "senza sordini" (センツァ=なしで)
である。この主題が提示されるときの強弱標語は
pであるが、盛り上がってってもセンツァの指示は表れない。
弱音器はつけたまま。どころか、fffでもはずさせてもらえない。
この部の終いまで弱音器は装着させられたままなのである。
<FBはスマホのつながりやすさナンバーワンになりました。
ナンバーワンにならなくてもいい、もともと特別なオンリーワン、
っていうスマスマホの話もあるし、
1位じゃないときもあるみたいなので、
個人的にはあまり大声で自慢するのもなんだと思うんで
小声でお話してます>
と「柔らかく・つつみ」隠して言うようなもので、
姉と弟が関係しちゃったら、いくら最下等の男爵家とはいっても
貴族の端くれなんだから世間体が悪いんで、
弱音器、使わせていただきま~す、
ということなのかもしれない。

バイロン(1788年-1824)は実際に
異母姉のオーガスタ(1783-1851)と
近親相姦だった。そして、
二人の間には娘もできてしまったのである。
とはいえ、
いにしえの王侯貴族の間では、
その"血筋"を守るために近親婚をしてたことも
稀ではなかった。白人のことは知らないが、
我が国では古墳時代や飛鳥時代に近親婚はしばしば行われた。
もっとも有名な例が
用明天皇(?-西暦およそ587)とその皇后である
穴穂部間人皇女(あなほべのはしひとのひめみこ、?-西暦およそ622)
の異母兄妹で、その第2皇子が
伝・聖徳太子なのである。だからか、
処女のまま懐妊して厩でイエスを生んだマリアの噺をあてはめて、
厩戸皇子と呼んだのかもしれない。
かように、同父異母兄弟姉妹の場合はOKだったのだが、
同母兄弟は禁忌だった。実際、現代の視点から見れば
それは至極科学的なことだったのである。

たとえば……以下の説明は解りやすさに重点をおくため
学術的でないので悪しからず了承されたい……
父の性染色体をX(f)Y(f)、
母AのをX(A)X(a)、母BのをX(B)X(b)、
と仮に振ると、生まれる子の性染色体の組合せは、
母Aの場合:
X(A)X(f)、X(a)X(f)、X(A)Y(f)、X(a)Y(f)、
母Bの場合:
X(B)X(f)、X(b)X(f)、X(B)Y(f)、X(b)Y(f)、
とそれぞれに4パターンずつの可能性がある。ここで、
母Aから生まれた男子X(A)Y(f)、X(a)Y(f)と
母Bから生まれた女子X(B)X(f)、X(b)X(f)との間で
子ができた場合の性染色体の組合せを考えると、
X(A)X(B)、X(A)X(f)、X(A)X(b)、X(A)X(f)、
X(B)Y(f)、X(f)Y(f)、X(b)Y(f)、X(f)Y(f)、
X(a)X(B)、X(a)X(f)、X(a)X(b)、X(a)X(f)、
X(B)Y(f)、X(f)Y(f)、X(b)Y(f)、X(f)Y(f)、
の16。同様に
母Bから生まれた男子X(B)Y(f)、X(b)Y(f)と
母Aから生まれた女子X(A)X(f)、X(a)X(f)との間で
子ができた場合の性染色体の組合せは、
X(B)X(A)、X(B)X(f)、X(B)X(a)、X(B)X(f)、
X(A)Y(f)、X(f)Y(f)、X(a)Y(f)、X(f)Y(f)、
X(b)X(A)、X(b)X(f)、X(b)X(a)、X(b)X(f)、
X(A)Y(f)、X(f)Y(f)、X(a)Y(f)、X(f)Y(f)、
の16。これら32とおりの組合せには
ひとつとして同じ染色体どうしが対をなしてるものは
【ない】。これを「ヘテロ接合型」という。いっぽう、
母Aから生まれた男子X(A)Y(f)、X(a)Y(f)と
母Aから生まれた女子X(A)X(f)、X(a)X(f)との間で
子ができた場合の性染色体の組合せを考えると、
【X(A)X(A)】、X(A)X(f)、X(A)X(a)、X(A)X(f)、
X(A)Y(f)、X(f)Y(f)、X(a)Y(f)、X(f)Y(f)、
X(a)X(A)、X(a)X(f)、【X(a)X(a)】、X(a)X(f)、
X(A)Y(f)、X(f)Y(f)、X(a)Y(f)、Y(f)X(f)、
という16通りで、同様に、
母Bから生まれた男子X(B)Y(f)、X(b)Y(f)と
母Bから生まれた女子X(B)X(f)、X(b)X(f)との間で考えると、
【X(B)X(B)】、X(B)X(f)、X(B)X(b)、X(B)X(f)、
X(B)Y(f)、X(f)Y(f)、X(b)Y(f)、X(f)Y(f)、
X(b)X(B)、X(b)X(f)、【X(b)X(b)】、X(b)X(f)、
X(b)Y(f)、X(f)Y(f)、X(b)Y(f)、Y(f)X(f)、
の16通りである。これら計32通りの可能性の中で、
【X(A)X(A)】【X(a)X(a)】【X(B)X(B)】【X(b)X(b)】
という女子4通りは同じ染色体がペアになってる。これを
「ホモ接合型」という。

ある形質が優性なほうに発現するとき、
ヘテロ接合型だと問題ない。が、それがホモ接合型になると
劣性形質が表出してしまうのである。たとえば、
ゴルフのダブルスでのフォーボールストローク・ルールと同じで、
相方の成績が悪くてもひとりが上手く打てば問題ない。が、
両方とも下手だと救いようがないのと同じである。
これは性染色体を例としたので、たまたま女子だけに
ホモ接合型が現れるのだが、常染色体の場合は
男子においても現れる。いずれにせよ、
こうした現代の初歩の科学で解ることを、
古墳時代や飛鳥時代の人々は経験的に感知してたものと思われる。
ゆえに同腹の兄妹・姉弟は子を儲けること、
その前段階の婚姻を禁じられてたのである。
地球ができて46億年と言われてるが、その数億年後に
生物が誕生して以来、とくに人類が生まれて数百年前から
現在も生命を繋いでる者は、つまり、現代人であり、
咲き誇る草花であり、ゴキブリなのである。それらは
サヴァイヴァー(生存者)なのである。だから、
どんなに温厚でイイ人であっても、かよわい善人であっても、みな、
要領よく、ずるがしこく、汚く、生き残ってきたのである。そして、
これから先も、さらに上手な者だけが生存してくのである。
ハイブリッドはサヴァイヴァルの奥義かもしれない。
日本人のように清潔にして
つまらぬ疾病をできるだけ避けて生き残る戦術もあれば、
フランス人のように日常的に不衛生に慣れて
病原体に負けない者だけが生き延びる戦術もある。ともかく、
テレ朝の「お試しかっ! & Qさま!! 合体2時間SP」に出てた
「東大軍団」のTVタレントのように、国民の税金で東大に通い、
卒業しときながら、国に恩返しする職に就かないという
呆れた図々しさの輩みたいのも、そうした
狡猾さが生命を繋ぐ原動力なのだから致し方ない。
アボリジニのようにガロワの理論並の巧みな方策で
近親婚を避けて生き残ってきても、獰猛な
アングロサクソンに大量虐殺されてしまっては
アボリジニというよりはイヌジニであり、
元も子もないのである。汚くても、悪くても、
生き残った者が得をする。力が正義なのである。

こうしてみると、
バイロンとその異母姉の仲も生物学的に禁忌だったとはいえない、
近親相姦は絶対的に悪いことでもない、
ということにバイロンも異論もないし、実際、
二人の間に生まれた女子、
Elizabeth Medora Leigh(エリザベス・メドウラ・リー、1814-1849)に
身体的な障害はなかったようである。が、エリザベスも
姉の夫と不倫・駆け落ちして女子を出産した。
"血は争えない"とはよくいったものである。
本日、2013年6月11日が没後50年の日にあたる
長谷川伸の代表作である
「関の弥太っぺ」や「瞼の母(番場の忠太郎)」などは、
「生き別れた妹」「生き別れた母」というような
一親等・二親等の血縁の近い女性への思慕で貫かれてる。
その思いはせつなくも報われない。
時の流れは無情なのである。
♪【ミ>レ<ラ>ソ】♪
というアスタルテを偲ぶ主題の骨子動機は、その
発展的動機である
♪【【ソ│<ラー・ー<ド・>シ>ラ(│<シ)>ソ】】♪
とともに、「仰げば尊し」の元歌である
"Song for the close of school"
という米国のミッション・スクールの卒業歌に内在されてる。
♪【は>や<い>く】>と<せーー♪
♪【A->lone,<a->lone】(>to<roam)♪
♪【【こ<の<と>し>つ>きーーー】】♪
♪【【May<live<but>in>the>past】】
独り孤独に彷徨い歩いたり、
竹馬の友は過去の中でしか生きてなかったり、
まさしくマンフレッドのアスタルテに対する、
バイロンのオーガスタに向かう気持ちそのものなのである。
時間の不可逆性に対する万感胸に迫る思いなのである。

(主題が提示される箇所と、
この主題がクライマックスを迎えて鎮まり
2部を終える部分を併せて
http://twitsound.jp/musics/tsCInzply
にアップしておきました)
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「チャイコフスキー『マンフレッド交響曲』02 マンフレッドの主題/愛ネ暗イネなハード無慈悲苦」

2013年05月17日 00時16分51秒 | チャイコ全般(6つの目のチャイコロジー

チャイコフスキー マンフレッド交響曲 アイネ・クライネ・ナハトムジーク


(チャイコフスキー「マンフレッド交響曲」とモーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」との関係)

チャイコフスキーのいわゆる「マンフレッド交響曲」は
4つの楽章から成る。その
【第1楽章】は3つの部分から成ってる。
1)1小節乃至170小節=(4拍子の)マンフレッドの主題(固定楽想)
[Lento lugubre(レーント・ルーグブレ=重々しく遅く、死を悼むように悲しく。四分音符=60)、
4/4拍子、無調号(イ短調)]
♪ミー・ーー・・ーー、・>シ<ド│<レー、・>ラ<シ・・<ドー・ーー│
ーー・ーー・・>ラー・ー、>♯ファ│>ミー・ー、>ド・・>ラー・ーー│……♪
2)171小節乃至288小節=亡きアスタルテの主題
[Andante(アンダーンテ=歩を進める速さで、四分音符=69)、3/4拍子、2♯(ロ短調)]
♪●ミ・>レ<ラ・>ソ>ミ│<ファー・ーー・ーー│ー●・●●・●●│
●<ソ・>ファ<ド・>シ>ソ│<ラー・ーー・ーー│ー●・●●・ラ>♯ソ<ラ(3連符)│
<ミー・>レ●・>ラ>♯ソ<ラ(3連符)│<ミー・>レー・ーー│……♪
3)289小節乃至338小節=3拍子化されたマンフレッドの主題(固定楽想)
[Andante con duolo(アンダーンテ・コン・ドゥオーロ
=歩を進める速さで、罪を後悔する悲しみをもって。四分音符=69)、
3/4拍子、2♯(ロ短調)]
♪ミー・ーー・ーー│>シ<ド、・<レー、・>ラ<シ、│
<ドー、・>ラー・ーー│ー●・●●・●●♪

拙註)
lento:例えるなら……粘性の高い液体の分子は動きにくい。
水飴とまではいかなくてもグリセリンの分子運動はノロい……
そのように粘り気のあるものやドロドロしてる感のあるものの形容が
ラテン語lentus(レントゥス)格変化lento(レントー)由来のイタリア語lentoで、
「遅い」さまも表すようになったのである。
lugubre:引き剥がすさまを表す接頭辞"leug-"から派生した語。
車轢きの刑で体を引き裂かれるほどつらく悲しいさま。
duolo:悔恨の情からくる心の痛み

この音楽の元ネタであるバイロンの劇詩「マンフレッド」は、
バイロン(1788年-1824)自身の
異母姉Augusta(オーガスタ、1783-1851)との
近親相姦および二人の間に娘ができたことが
下敷きとなってる。実在のオーガスタのほうは
68歳まで生きるが、詩の中ではマンフレッドが
自死に追いつめたことが察せられる。
マンフレッドは「記憶の忘却」を望んだが、
悪行の報いはあっても救済などされようはずもない。
ただただ眠れぬ夜を自らの不行状にさいなまれるだけである。
ともあれ、
禁断の男女結合の末にアスタルテを死に追いやって苦悩する
マンフレッドの主題を第1主題、
キリスト者としての禁忌を2つも(近親相姦、自害)破った
アスタルテの主題を第2主題、
とスキャンすると、
第1部は第1主題の提示部と展開部を兼ね、
第2部は第2主題の提示とその展開であり、
第3部は第1主題だけが回帰される再現部、
という捉えかたができる。
イ短調で4拍子だったマンフレッドの主題が、
第3部ではアスタルテの主題と同じ
ロ短調かつ3拍子かつ
アンダーンテ(四分音符=69)という同テンポ仕様に
"止揚"されてるのである。これはすなわち
特異ながらも"ソナータ形式"の新たな型といえる。そう考えれば、
この作品はまさしく"交響曲"なのである。

曲は3管のファゴットと(1管の)バス・クラリネットという
4本の低音域木管のユニゾンで
「苦悩するマンフレッドの主題」が始められる。主題提示に続く音楽も、
これ以降の管弦楽作品でチャイコフスキーが多用した
比較的低音域の木管とホルンによる独特の混合音色に彩られる。
胸を打たれるサウンドである。戻って、冒頭の節まわしは、
ちょうど同時期にブルックナーが「交響曲第8番」を作ってて
♪ファー>ド<レ・・<ミー>・シ<ド│<レー・>ド>シ・・<ドー・>ラー♪
という終楽章の一節に似た音型が出てくる。
チャイコフスキー自身では、
「6つの小品」(op.19)の第4曲「ノクチュルヌ」(嬰ハ短調)
♪ミ<ド・>シ<ド・・>♯ソー・ーー│<ラ<ミ・>♯レ<ミ・>シー・ーー│
<ド<レ・>ラー・・<シ<ド・>♯ソー│<ラー・>ソ>ファ・・>ミー・ーー♪
「交響曲第2番」第1楽章の
♪ミー・>シ<ド・・<レ>ド・<ミ>レ│>ラー・ー<シ・・<ドー・>ラー♪
「眠れる森の美女」(第2幕)第10曲「間奏と情景」
「アッレーグロ・コン・スピーリト」の「ウン・ポーコ・ピウ・トランクイッロ」
♪ミーー<ソ・・>ファー>ミー・<ファー<ソー│
>ミー>シー・<ドー<レー・・>ラーーー・<シーーー│
<ドー●●♪
などの音型にもそれぞれやや似てる。それから、
約20年後にラフマニノフは「交響曲第2番」第1楽章の第2主題で、
♪ド<レ<【ミ(3連符)│
>シー・ー<ド<レ(3連符)・・>ラー・ー<シ<ド(3連符)】│>ソー♪
とチェロ・パートにチャイコフスキーの「マンフレッド」を"しのばせて"るのである。

ともあれ、私が推測するに、この「苦悩するマンフレッドの主題」は、
モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムズィーク」のメヌエットが
チャイコフスキーの優しい心にインスピレイションを与えたものである。
シェイクスピアの「ハムレット」からの有名なセリフの一節からの
引用を冒頭に掲げた劇詩「マンフレッド」は、第1幕1場、
"Manfred alone. -- Scene, a Gothic Gallery. -- Time, Midnight."
(拙訳)マンフレッド=一人板付き 舞台=最上階のゴチック様式の部屋 時間帯=真夜中
という設定である。まさに今ぐらいの時間である。さて、
"Eine kleine Nachtmusik(k.525)"は、
1787年8月に作曲された。この頃モーツァルトは、
夜明けのドン・ジョヴァンニ、ツルッと亀が統べった、
というふうに第1幕が開く大作
「ドン・ジョヴァンニ」を作曲してた。
収入減が深刻になってきた頃で、数か月前には、
引越ししてる。そして、5月末には
鬼のように厳しくされたスパルタ星一徹のようだったが、
コンスタンツェとの結婚で決裂したままの
父レーオポルトが死んだという知らせが入ったのである。
息子ヴォルフガングには、
親子の確執が解消されないまま、少年期のトラウマだけが残された。
モーツァルティアンなチャイコフスキーには、
女性を不幸に落としまくったドン・フアンや
モーツァルトがその題材で作曲してた時期とのシンクロが
たちまちのうちに「マンフレッド」と結びついたのだ、
ということがチャイコフスキアンな私にはよく解るのである。

♪【ミー・ーー・・ーー、・>シ<ド│<レー、・>ラ<シ・・<ドー・ーー│
ーー・ーー・・>ラー・ー、>♯ファ】│>ミー・ー、>ド・・>ラー・ーー│……♪

ちなみに、この主題の終い4つの音を重ねると、
[♯ファ>ミ>ド>ラ]
という[トリスタン和音]になってるのである。それはともかくも、
モーツァルト「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」メヌエットは、
♪ソー│<ドー・<レー・<ミー│<ファー・ーー・>レー│
<ミー・>ドー・<レー│(>ド)>シ・>ラ>ソ・<ラ<シ♪
とオクターヴ・ユニゾンの両vnが奏する下で、
ヴィオーラとチェロ(あるいは、およびコントラバス)がやはりオクターヴ・ユニゾンで、
♪●●│【ミー>シー<ドー│<レー>ラー<シー│
<ドー>ラー>♯ファー】│<ソー・<ソー・>(N)ファー♪
と、和声づけではなく、あたかも"2声の対旋律"のように
奏されるのである。この作品を書いた5年前、
父イリヤーが84歳で死んだ1880年にチャイコフスキーは、
モーツァルトが父レーオポルトが死んだときに「セレナード」を作曲した故事に倣って、
"モーツァルト様式"を想定した、
(第3楽章に「エレジー」を持つ)「弦楽【セレナード】」を作曲したのである。
モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムズィーク」はチャイコフスキーの時代すでに
メヌエットが1つの全4楽章作品とされてた。その第3楽章の
メヌエットの"低旋律"をチャイコフスキーは"父への挽歌"と見たてて、
自作の「セレナード」の第3楽章を「エレジー」としてた。それをここで、
チャイコフスキーは苦悩するマンフレッドの主題としたのである。

(この「マンフレッド交響曲」のイデ・フィクスである
「苦悩するマンフレッドの主題」が、
モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」のメヌエットの主題の対旋律を引用してることが
よく判るようにまとめてみました。
https://soundcloud.com/kamomenoiwao_13/einekleinenachatmusik-3th-mov )
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