チャイコフスキー庵 Tchaikovskian

有性生殖生物の定めなる必要死、高知能生物たるヒトのパッション(音楽・お修辞・エンタメ・苦楽・群・遺伝子)。

「チャイコフスキー『眠れる森の美女』#8パダクション-(a)ローズアダージョその5」

2010年05月03日 22時40分44秒 | やっぱりリラだ! 百年経っても大丈夫
先月、大江戸探検隊で伝馬町を探索したときに、
新参の子に五街道の起点がすべて日本橋というのは徳川幕府の
「タテマエ」であって云々というウンチクをたれつつ、ひさびさに
日本橋高島屋まで足を伸ばした。ガキの頃私は、
父親には野球場や遊園地や歴史的施設に、
母親にはいろいろな百貨店によく連れていかれた。その中で、
私は日本橋高島屋がもっとも好きだった。三越は
母自体が日本橋本店ではなく銀座店が好きだったので、
本店にはあまり行ったことがない。あの
NYのデハートメントストアふうな造りの建物そのものと、それに合う
エレヴェーター、階段。おっさんになってからも、10年ほど前までは、
店内とはまったく違う小汚いエレヴェーターで車ごと登る
屋上の駐車場に車を置いて、別館の特別食堂か
近くの吉野鮨本店で鮨を食って、地下で飲食料を買って、
書籍売り場に寄って(私はガキの頃、百貨店の書籍売り場が大好きだった)
あといくつか買い物をして、また屋上からエレヴェーターで降りて
一通を左に折れて中央通りに出る、というようなことをよくしてた。
ともあれ、「バラの包みのタカシマヤ」である。

チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」(第1幕)第8曲「パダクション」の
(a)「アダージョ」(いわゆる「ローズ・アダージョ」)は、
[序奏-A-B-A(再1)-C-A(再2)]という小ロンド形式であるが、今回はその
A(再2)部である。このA(再2)部は19小節から成り、結尾部ともなってる。

【A(再2)】
(引き続き)
[アダージョ・マエストーゾ、12/8拍子、3♭(変ホ長調、ハ短調)]
ピッコロ+フルート2管+オーボエ1管+32分刻みのvnプリーモ、そのオクターヴ下の
オーボエ1管+コルネット1管+32分刻みのvnセコンドが、
Aの節をfffで奏する。その他の楽器は16分刻みで支える。
****♪ドーーーーー・ーーーー、>シー・・<ドー>シー>ラー・>ソー>ファー>ミー│<ラー♪
2小節めの「ラー」で、スィンバルと大太鼓が一撃を加える。次いで、
両翼vnが完全ユニゾンで32分刻みのパッセージを擦りある。途中から
ホルンらが8分音符の吹奏を重ね、Aの節を導く。そうして、
2小節が同様に反復されると、
→[モルト・ソステヌート、クワーズィ・ピウ・アンダーンテ]
と、テンポ・アップされる。モルト・ソステヌートであるから、
スタッカートはおろかマルカートぎみなアーティキュレイションは御法度である。そして、
「ソステヌート」されるということは、拍の強弱が薄められ、
12/8拍子、つまり、4拍子を感じさせない演奏が求められる。すなわち、
3/8の1拍が1小節単位のように聞こえなくてはならない。
フルート2管+32分刻みのvnプリーモ、そのオクターヴ下の
クラリネット1管+コルネット1管+32分刻みのvnセコンド、そのまたオクターヴ下の
コルノ・イングレーゼ+クラリネット1管+コルネット1管+32分刻みのヴィオーラが、Aの節、
****♪ドーーーーー・ーーーー>シー・<ドー>シー>ラー・>ソー<ラー<シー│
  <ドーーーーー・ーーーー>シー・<ドー>♭シー>♭ラー・>ソー<♭ラー<♭シー│♪
をfffで奏する。2小節めは、
****♪ミーーーーー・ーーーー>♯レー・<ミー>Nレー>ドー・>シー<ドー<レー│♪
というように、ドをミと置き換えた「変ハ長調、変イ短調」に転調されてる。
それはさておき、ピッコロは1小節めの最初の1拍だけを
フルート2管+32分刻みのvnプリーモと同じ高さで吹くのであるが、2小節めからは
オクターヴ上を単独で吹くようにされてる。ここを目立たせない演奏は
ボンクラとしかいいようがない。ともあれ、この間、
オーボエ・ホルン・トランペット・トロンボーンなどが、
[ターターター・ターターター・ターーータタタ(3連)・ターーータタタ(3連)]
というリズムを刻む。テンポが速められて3小節めにはさらに、
→[ポーコ・ストリンジェンド]
がかけられる。
****♪ミーーーーー・ーー>♯レー<ミー・ミーーーーー・ーー>♯レー<ミー│
   ミーーーーー・ーー>♯レー<ミー・ミー>♯レー<ミー・ミー>♯レー<ミー│♪
そして、5小節めで
→[テンポ・プリーモ]
とテンポがアダージョ・マエストーゾに戻され、調も変ホ長調に帰る。
小太鼓のトレモロが通奏され、最初の2小節は、
1拍めに大太鼓の一撃、2拍めにスィンバルの一撃、
という打楽器使いの超名人チャイコフスキーのセンスあるテクが施されてる。
****♪ドーーーーー・ーー>シー>ラー・・>ソー>ミー>ドー・<ミー<ソー<ドー│
  <ミーーーーー・ーー>ドー>ラー・・>ソー>ミー<ソー・<ラー<ドー<ミー│
  <ソーーーーー・>♯ファーーーーー・・>Nファーーーーー・>ミーーーーー│
  >♭ミーーーーー・ーーーーーー・・>レーーーーー・ーーーーーー│♪
そして、テンポ・プリーモに戻ってから5小節めでは、
クラリネット2管+トランペット2管の完全ユニゾン
(この最高潮の場面でチャイコフスキーは、
音階が吹きやすいピストン付きコルネットでなく、
渋い音色のトランペットをクラリネットに重ねて要求してることに
繊細にならなければならない)が、
****♪ドーーーーー・ーーーー>シー・<ドー>♭シー>♭ラー・♭ラー<♭シー<Nシー│
   (ミーーーーー・ーーーー>♯レー・<ミー>Nレー>ドー・ドー<レー<♯レー)
   ドーーーーー・ーーーー>シー・<ドー>♭シー>♭ラー・♭ラー<♭シー<Nシー│
   (ミーーーーー・ーーーー>♯レー・<ミー>Nレー>ドー・ドー<レー<♯レー)
   ドー>シー<ドー・>♭ラー<♭シー<Nシー・<ドー>シー<ドー・>♭ラー<♭シー<Nシー│
   (ミー>♯レー<ミー・>ドー<レー<♯レー・<ミー>♯レー<ミー・>ドー<レー<♯レー)
  <ドーーーーー(変ホ長調に帰る)、・<<ソーーーーー・・>ミーーーーー・>ドーーーーー│
  >ソーーーーー、・<ドーーーーー・・>ソーーーーー・>ミーーーーー│
  >ドー●●●●・●●●●●●・・>ドーーーーー・ーーーーード│
   ドーーーーー・ーーーーーー・・ーー●●●●・●●●●●●(フェルマータ)♪
この最高潮の場面でもチャイコフスキーは、最初の2小節では、
1拍めにスィンバルと大太鼓に8分音符の一撃を与え、
3拍めに大太鼓の付点4分音符の一撃、
4拍めにスィンバルの付点4分音符の一撃、をぶちかまさせ、
3小節めでは強拍である奇数拍に大太鼓の付点4分音符の一撃、
弱拍である偶数拍にスィンバルの付点4分音符の一撃、と
交互に打たせる、という妙味を加えてるのである。
徳永英明と森進一の口元の違いがわからない
拙脳なる私が感じることにすぎないが、
お見事としかいいようがないコンポズィションである。

本来3♯(イ長調)がホウムグラウンドであるはずのオーロラ姫が、
(父王が認めた)王子らの3♭(変ホ長調)バラの求婚で見せる、
求婚する4人の王子とのアチチュード・アン・プロムナードで回る
成人したオーロラ姫の手取りバランスと、
手を離した手をアン・オーにして静止する場面は、
オーロラの秀でた美しさを優れたバランス感覚で表したものである。
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「チャイコフスキー『眠れる森の美女』#8パダクション-(a)ローズアダージョその4」

2010年04月25日 21時35分29秒 | やっぱりリラだ! 百年経っても大丈夫
大江戸探検隊の中の酒好き連中に付き合わされて今週も土曜に、
朝まで飲んでしまった。野郎だけ、おっさんだけだったら
絶対に付きあわされたりしないのだが、今回はその中に
はたちの女の子がいたから、つい好奇心で付き合ってしまった。が、
歴史オタクなので、通常の女性の色気はまったくない。
オヤジたちと平気で朝酒してしまう性格も、逆に
艶がない。とはいっても、
かなりな可愛い顔をしてる。今回は小伝馬町探検の日だったが、
「六本木つながり」(家康入城前は小伝馬町あたりは「六本木宿」)で、
六本木で飲むことになった。ビール党の私は
デンマーク・ビールを一人でしこたま飲んだ。ともあれ、
このお嬢さん、どうやらいま流行りの真田"幸村"ファンらしい。さんざん、
知ってるだけの話をさせられた。おかげで今日は起きたのが14時だった。
なぜか腕の筋肉が疲労してる。酔って何をやらかしたか、
シャネン・ドハーティ女史と中山美穂女史の顔を区別できない拙脳なる私が
覚えてるはずもない。伝馬町探索の日の夜だからといって、
電マを使いまくったわけでもなかろうが、ともかくも、
アンデルセンのパンをかじってTV中継を見ながら即席の予想をして、
東京競馬のフローラ・ステイクスの3連複を10点ネットで買った。
飲み代程度は稼げた。ちなみに、
次回の大江戸探検は不忍池近くにあった喜連川家屋敷跡である。

チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」(第1幕)第8曲「パダクション」の
(a)「アダージョ」(いわゆる「ローズ・アダージョ」)は、
[序奏-A-B-A(再1)-C-A(再2)]という小ロンド形式であるが、今回はその
C部である。

【C】
(引き続き)
[アダージョ・マエストーゾ、12/8拍子、3♭]
A(再1)部最後の小節の後半2拍から、
このC部は始まる。このC部も、前のA(再1)部と同じく
8小節という短い単位でできてる。
ファゴット1管が、クラリネット2管の和音づけの上で、
****♪●ドッ>シッ>ラッ>♯ソッ>ラッ・●<ドッ>シッ>ラッ>♯ソッ>ラッ│♪
という16分刻みのハ短調伴奏をpで先行させる。そこに、コルノ・イングレーゼが、
****♪ミーィミーィミーィ、・ミー、<シーー、<ド・・>ラー♪……(a)
という節をドルチェで吹く。そこに、フルート1管が、
****♪ミ<♯ファ<♯ソ<ラ<シ<ド<レ(7連符)・<ミー♪
という上昇スケイル装飾の合いの手をmpで入れる。そして、
(a)の節をフルート1管がコルノ・イングレーゼのオクターヴ上で重ねて再度提示する。
合いの手もフルート1管のオクターヴ上にピッコロを重ねられる。すると今度は、
コルノ・イングレーゼがレをソに置換して変ロ長調に転じて、
****♪ソーォソーォソーォ、・ソー、<レーー、<ミ・・>ドー♪……(a´)
と吹く。その合いの手はフルート1管の、
****♪ソ<ラ<シ<ド<レ<ミ<ファ(7連符)・<ソー♪(変ロ長調)
である。繰り返しは、前と同様にオクターヴ上にそれぞれ重ねる形である。
5小節めからは、また変ホ長調(ハ短調と同じこと)に戻って、
コルノ・イングレーゼ+クラリネット1管+ファゴット2管、という
チャイコフスキー晩年における好みが際立ってた組み合わせ音色の完全ユニゾンで、
そして、フルート2管+クラリネット1管とそのオクターヴ下のオーボエ2管のユニゾンが交互に、
****♪ファーファーファー・>ミーーーー(<ファ>ミ)・・>レー♪……(b)
という節を2小節にわたって吹く。そして、
7小節めは、その(b)が1拍単位に縮小された形で展開される。
8小節めは、その(b)の終いの音レが1拍めの当初に置かれ、
****♪レー、>♯ドー<レー・<♯レー、<ミー<ファー・・
   <♯ファー、<ソー<♯ソー・<ラー、<♯ラー<シー│(<ドーー・ーー)♪
と、A(再2)部をお膳立てする。その8小節めの最後の拍の最後の8分音符では、
トランペット2管がオクターヴ・ユニゾンで、ソソソと3分割して、次小節(A(再2)部)の
コルネットのドーー・ーーにつなげさせる。つまり、
♪ソソソ<ドー♪という音型をチャイコフスキーは形成する。
ベートーヴェンの「運命動機」によるファンファーレなのである。

ところで、
1971年のアカデミー作曲賞はフランス人ミシェル・ルグランの
"The Summer of '42"(邦題「おもいでの夏」)だった。
映画そのものは、一部に根強いファンがいた
Jennifer O'Neill(ジェニファー・オニール)に恋心を抱いた少年が
同女の夫が戦死したことでただ一度の体験を得た、
というB級だかC級だか安っぽい陳腐な話の
ひとりよがりな感傷モノだった。その映画音楽も
このチャイコフスキーの(a)(a´)(b)の節をそのまま使ったもので、
ドルチェと指示されたチャイコフスキーのモトネタ同様に、
甘いセンチメンタルの極みのような音楽だった。ときに、
センチメンタルといえはイヨランタはまだ16だから、5月20日発売予定の
1982ボリショイ劇場公演の「イヨランタ」のDVDを予約した。
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「チャイコフスキー『眠れる森の美女』#8パダクション-(a)ローズアダージョその3」

2010年04月20日 23時43分09秒 | やっぱりリラだ! 百年経っても大丈夫
今週月-木、NHKハイヴィジョンで
「待ってました! 歌舞伎座クライマックス」
が放送されてる(いま、それを観ながらこのブログを書いてる)。
ほぼ同じ時間帯で日曜の夜にやはりNHKハイヴィジョンで
「中村芝翫・歌舞伎ひとすじ八十年」
を放送してた。それを録画しといたのをさきほど観た。
いよいよ現歌舞伎座が終いになる。あの
正面の景観……あそこでよく待ち合わせをしたものである
……エントランスの赤い絨毯とその周りの光景。定席にしてた
お気に入りの花道前の桟敷席。芝翫も収録の中で、
「鉄骨が丈夫そうなんですってね」
と言ってたが、その構造設計は、
名古屋テレビ塔・さっぽろテレビ塔・東京タワー・通天閣、
などと同様、「塔博士」といわれた
内藤多仲によるものである。現在は、日本の町工場が開発した
「胡桃でどんなに叩いてもけっして緩まないナット」があるが、
内藤多仲の手になるものはどれひとつとして
大地震でも倒壊してない。内藤多仲が構造設計したものは他にも、
大隈講堂、根津美術館、などがある。ときに、私が
初めてバレエ「眠れる森の美女」を観たのは1970年、
12歳小学校6年生の夏休みのときのことである。
それは日比谷の日生劇場で開かれた
「井上博文によるバレエ小劇場」という公演だった。
飯田深雪女史のアートフラワーが入場の際に
客の一人ひとりに配られた。うつくしい
紫のリラだった。それはともかく、その
日生劇場も内藤多仲が構造設計をしたものである。

チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」(第1幕)第8曲「パダクション」の
(a)「アダージョ」(いわゆる「ローズ・アダージョ」)は、
[序奏-A-B-A(再1)-C-A(再2)]という小ロンド形式であるが、今回はその
A(再1)部である。

【A(再1)】
(前小節でリテヌートされてまた)
[テンポ・プリーモ(=アダージョ・マエストーゾ、12/8拍子、3♭]
このAの第1再現はわずかに8小節である。その前半4小節は、
ピッコロ+フルート2管+vnプリーモ、そのオクターヴ下の
オーボエ2管+コーラングレ+vnセコンド、そのまたオクターヴ下の
クラリネット2管+ヴィオーラ、
という3層のユニゾンでAの節がff、
[con grandezza(コン・グランデッツァ=壮麗さをこめて)]
奏される。その裏では、おもにトランペットが強拍から弱拍にかけて、
****♪●ド<ミ>ド<ミ<ソ・<ド♪
そして、3番トロンボーン+チェロとそのオクターヴ下のチューバ+コントラバスが
弱拍から強拍にかけて、
****♪●ソ<ラ>ソ>♯ファ<ソ・<ド♪
という16分音符刻み受け渡しを繰り返す。次いで、
後半4小節は、
ファゴット2管+ヴィオーラ+チェロの完全ユニゾンが、Aの節をffで奏する。
****♪ドーーーーー・ーーーー、>シー・・<ドー>シー>ラー・>ソー<ラー<シー│
   <ドーーーーー、・<ミーーー>レー、・・レーーーーー、・>ドーーーーー│
   ドーーーッドーッ、・(ド<レ>)ドー>シー>ラー、
   ・・>ソー>♯ファー<ソー、・<♯ソー>♯♯ファー<♯ソー│
   <ラーーー<♯ラー・ーー<シーーー・・<ドー♪
チャイコフスキーはここでその特有の3連符伴奏を附けるのであるが、
通常ならその楽器にはホルンが中心に用いられる。ところが、
ここでは3管のトロンボーンに吹かせてるのである。
節を奏する楽器群の音色がダルな色なので、
ホルンにしたら伴奏が際立ってしまうためなのだろう。わずかに、
節がクレッシェンド<>ディミヌエンドするその頂点にかけて、
ホルン2管を3連符でなく補強するのみである。
内藤多仲の仕事ぶりも、このチャイコフスキーのような
細かい配慮が随所に見られるのである。
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「ローズ・アダージョと英雄交響曲/薔薇の名前とジョセフィーヌの名前」

2010年04月14日 00時45分39秒 | やっぱりリラだ! 百年経っても大丈夫

チャイコフスキー 眠れる森の美女


(「チャイコフスキー『眠れる森の美女』#8パダクション-(a)ローズアダージョその2」)
[What's in a name? That which we call a rose,
 by any other name would smell as sweet]

チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」(第1幕)第8曲「パダクション」の
(a)「アダージョ」(いわゆる「ローズ・アダージョ」)は、
[序奏-A-B-A-C-A]という小ロンド形式であるが、今回はその
B部である。

【主部B】
(ひきつづき)[アダージョ・マエストーゾ、12/8拍子、3♭]
ホルン4管(2管ずつのオクターヴ・ユニゾン)による
ハ短調の属音の3連符の伴奏と、
vnプリーモの属音からオクターヴ上の属音までの上昇音階
(ミ<♯ファ<♯ソ<ラ<シ<ド<レ<ミ)と
それに反行するヴィオーラの下降音階
(ミ>レ>ド>シ>ラ>ソ>ファ>ミ)
の装飾音に乗って、
ファゴット2管+チェロのユニゾンが、主部Bの主動機を奏する。
****♪【ミーーーーー・>シーーー<レー・・ド(tr)ーーーーー・(>シ<ド)>♯ソーー<ラ<ド>シ│
    >ミー】♪
これに、vnセコンドとそのオクターヴ下のヴィオーラのユニゾンが、
****♪●●●ミ<♯ファ<ソ・<♯ソーーーーー・・<ラーー>♯ソ<シ>ラ・<ドーーー>ラー│
    >ミー♪
というオッブリガートを擦る。主部Bの主動機は、
フルート2管とそのオクターヴ下のクラリネット2管のユニゾンで確保される。そのとき、
オッブリガートはチェロとそのオクターヴ下のコントラバスのユニゾンが擦る。ついで、
vnプリーモが、****♪シ(tr)ーーーーー・ーーーーーー(>♯ラ<シ)・・<ドーーーーー・>シーーーーー♪
vnセコンドが、****♪<♯ファ(tr)ーーーーー・ーーーーーー(>♯ミ<♯ファ)・・<ソーーーーー・>♯ファーーーーー♪
またvnプリーモが、****♪<♯ド(tr)ーーーーー・ーーーーーー(>♯シ<♯ド)・・<レーーーーー・>♯ドーーーーー♪
またvnセコンドが、****♪<♯ソ(tr)ーーーーー・ーーーーーー(>♯♯ファ<♯ソ)・・<ラーーーーー・>♯ソーーーーー♪
と、クロマティックな上昇フレイズをかけあう。そして、実質ホ短調を整えると、
→[ポーコ・ストリンジェンド]
フルート2管+vnプリーモとそのオクターヴ下のクラリネット1管+vnセコンドが、
主部Bの主動機を再現する。(ホ短調)
****♪【ミーーーーー・>シーーー<レー・・ドーーー>シー・>ラー●●】│
    <【ミーーーーー・>シーーー<レー・・ドーーー>シー・>ラー●●】│
    (ファをソに置換して→ヘ長調)
    <【ソーーーーー・>レーーー<ファー・・ミーーー>レー・>ドー●●】│
    <【ソーーーーー・>レーーー<ファー・・ミーーー>レー・>ドー●●】│
    (平行調ニ短調に)
    <ラーーー>ミー・<ファーミー>レー・・<ラーーー>ミー・<ファーミー>レー│
→[ピウ・モッソ]
    <ラー>ミー、<ラー・>ミー、<ラー>ミー、・・
    (ラをシに置換して→変ホ長調)
    <シー>ソー、<シー・>ソー、<シー>ソー│
    >●●ソ<ラ<シ<ド・<レ<ミ<ファ<♯ファ<ソ<ラ・・
    <シー>ソー、<シー・>ソー、<シー>ソー│
    >●●ソ<ラ<シ<ド・<レ<ミ<ファ<♯ファ<ソ<ラ・・
    <シーーーシー、・■■■■■■(この拍、省略)│
    <シーーーシー、・■■■■■■・・<シーーーシー、>>レー<ミー<ファー│
→[リテヌート]
    <♯ソー<ラー<♯ラー・<シー<♯ドー<レー・・
    <ミー<ファー<♯ソー・<ラー<♯ラー<シー♪
(→ロンドの2度めのA、となる)
なんという感動的な音楽であることか。
チャイコフスキーの教養とセンスが隅々にまでいきわたってる。

ところで、
ベートーヴェン(ベートホーフェン)の「交響曲第3番」
"Sinfonia Eroica"
(スィンフォニーア・エロイカ=英雄交響曲)の第2楽章は、
"Marcia funebre. Adagio assai"
(マルチャ・フーネブレ。アダージョ・アッサイ)
「葬送行進曲。きわめてアダージョで」
である。その主要主題の主動機16小節が提示、確保されると、
副動機が提示される。
[アダージョ・アッサイ(8分音符=80)、2/4拍子、3♭(ハ短調=変ホ長調)]
****♪ソーーー│<ドーーーーーーー・>シーーー>ラーーーー│
   >ソーーーーーーー・ーー、ソッ<ラッ<シッ<ドッ<レッ<ミッ│
   <ファーーーーーーー・>ミーーー>レーーーー│
   >♯ドーーー●●●<ソ・ソーーーーーーー│
   ●●●●●●●●・>ファーーー>ミーーー│
   >♯レーーーーーーー・<ラーーーーー>♯レー│
   >【ミーーーーーーー・>シーーー<レーーー│
   >ドーーーーーーー・>シーーー>ラーーー】│
   <<<【ミーーーーーーー・>シーーー<レーーー│
   >ドーーーーーーー・>シーーー>ラーーー】│
   >>ミーーー<ファーーー・>ミーーー<ラーーー│
   >♯ソーーー<ドーーー・>シーーー>ラーーー│
   >♯ソーーーーーーー・>ファーーーーーーーー│
   >ミーーーーーーー♪
この【ミ>シ<レ>ド>シ>ラ】をチャイコフスキーは
【rose adagio】に採ったのである。

ちなみに、
「白鳥の湖」の(第1幕)第5曲の「パ・ドゥ・ドゥー」第2曲において、
チャイコフスキーはこの【ミ>シ<レ>ド>シ>ラ】を引用してる。
[アンダーンテ、2/4、2♯]
****♪(ロ短調)●●【ミー・ーー>シー│<レー>ドー・>シー>ラー】│
   >ソ(をドに置換して→嬰ヘ短調)ーーー・ーー>♯ソー│
   <シー>ラー♪
vnのソロが擦るのである。

ともあれ、
「眠れる森の美女」のこの場面では、オロール(いわゆるオーロラ)姫には
4人の王子が求婚し、それぞれがそのプロポウズのしるしに
【薔薇】を贈る。ここで、
バラとは何ぞや、ということがある。
その花は美しいし、かぐわしい香りがする。が、
「イバラ」がついてる、のである。オーロラ誕生の洗礼式で
カラボスが予言した呪いの「尖ったもの」でもあるのである。
たしかに、4人の王子は結婚相手としていちおうの
条件は満たしてるのだろう。が、その
「贈り物」が【薔薇】では、所詮、
「3♯(イ長調)」であるべきオーロラには似つかわしくない
「3♭(変ホ長調=平行調ハ短調)」なのである。

ところで、
現在、世界中の人々が【薔薇】を愛でれるのは、
ナポレオンの最初の妻ジョセフィーヌに負うところ大なのである。
ジョセフィーヌはパリ郊外のたいそう高額なマルメゾン城を買って
そこに住んだ。マルメゾンのようなとこにスメルなんて、
それだけでも贅沢だというのに、大浪費家のジョセフィーヌは
その庭園に世界じゅうから【薔薇】を集め、
何千もの品種改良をさせたのである。それが、
現在のバラの栽培につながってるのであるが、
ジョセフィーヌはさらに【薔薇】のパルファンをつけてたほどの
【薔薇マニア】だったのである。ジョセフィーヌは、
Marie Josephe Rose Tascher de la Pagerie
(マリー・ジョセフ・【ローズ】・タシェ・ドゥ・ラ・パジュリー)
という名のとおり、その名自身に
【薔薇】が入ってるのである。ちなみに、
ジョセフィーヌは【薔薇】の香りが好きだったのであるが、
ナポレオンはジョセフィーヌ自身のニオイが大好物だった。ともあれ、
【薔薇】=【ジョセフィーヌ】→ナポレオン
という連想は、日本のバレエ関係者やチャイコフスキー研究者は
あまり御存じないようである。そして、
この【4王子がオロール姫にトゲのある薔薇を贈る求婚】の音楽に、
なぜ【ベートーヴェンの「英雄交響曲の「葬送行進曲」】を
チャイコフスキーが引用したのか、説明ができないのである。というより、
もとよりここに、
【ベートーヴェンの「英雄交響曲の「葬送行進曲」】が引用されてる、
ということにすら気づかない。おんなじ
3♭という調性でさえあるというのに。これだから、
やたらとプライドだけは高いのに適性の裏付けがないのに
その道に進んでしまったプロウは困るのである。巷の
エセもの「演奏」についてしか頭になく、
「作品」そのものなど、どうでもいい。が、もっとも、
故内海好江女史と大久保佳代子女史の顔の違いが区別できない
拙脳なる私のささやかな感想にすぎない。

果せるかな、
この第8曲のdがヴァルスに変じられたとき、
オーロラには紡錘を持った老婆が近づく。そして、
第9曲にそのままなだれこみ、オーロラ姫はそれに
指を刺して倒れてしまうのである。
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「チャイコフスキー『眠れる森の美女』#8パダクション-(a)ローズアダージョその1」

2010年04月07日 00時30分57秒 | やっぱりリラだ! 百年経っても大丈夫
花見の季節である。昨今は
目黒川っぺりの桜が流行りである。が、
コンクリートの護岸の風情のなさと水の汚さから、もっぱら
夜桜がたのしまれてるようである。夜なら、
港区役所前から日比谷通りを挟んだ増上寺の
大門の脇あたりのこぢんまりとした桜と
その向うに見える東京タワーの景色が、人もまばらだし、
しんみりとくる。といっても、
AKB48の「桜の栞」とバイエル教則本の第77番の節の
聴き分けもできない拙脳なる私の好みにすぎない。

桜といえばバラ科の植物であるが、
チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」の第8曲「パ・ダクスィオン」は、
(a)3♭(変ホ長調):アダージョ(いわゆるローズ・アダージョ)
(b)3♭(変ホ長調):新婦への付き添い娘たちと小姓たちの踊り
(c)1♯(ト長調):オロール(いわゆるオーロラ)姫のヴァリアスィオン
(d)1♯(ト長調)→3♭(変ホ長調):コーダ
という構成である。

(a)はバレエのパにおけるアダージョで、
[序奏-A-B-A-C-A]
という小ロンド形式である。

【序奏】
[アンダーンテ、6/8拍子、3♭]
最初の"1小節分"をホルン2管がオクターヴ・ユニゾンの8分音符で、
前ナンバー(イ長調)の主音であるa(イ音)を刻み、次いで、
オーボエ2管とファゴット2管が加わり、さらに、
残りのホルン2管が重ねられ、しまいには
コーラングレとクラリネット2管も添えられる。
上声はクロマティックに上昇する。
[a]

[f-as-b]

[des-f-as-ces]

[f-as-c]

[f-as-cis]

[f-as-b-d]
変ホ長調の属7に「おちつく」のである。これは、
オロール姫がハ長調で登場し、
変ホ音の異名同音である嬰ニ音を何度も繰り出しながらも、
ついにはイ長調に落ち着いた前曲と対極をなしてるのである。
木管群(とホルン)が変ホ長調の属7をフェルマータで引っ張ったあと、
ハープがその属7を分散しまくる。5小節あまり、
木管群(とホルン)が属7をさらに吹いたあとも、
ハープは属7をさらに爪弾き続ける。

【主部A】
→[アダージョ・マエストーゾ、12/8拍子、3♭]
あれだけ属7を引っ張られ続ければ、いやがおうでも
主和音は出てこないわけにはいかない。
ホルン3管の附点2分音符の主和音(オーボエ1管とその2オクターヴ下での
ファゴット1管の主音の補強は附点4分音符+8分音符分)を下敷きに、
クラリネット2管+コーラングレおよびハープが和音を従えて、
***♪ド<ミ<ソ・<ド●●・・>ド<ミ<ソ・<ド●●♪
という伴奏を奏でる。その1小節の前置きに導かれて、
両翼vn+ヴィオーラが3オクターヴのユニゾンでAの主題を奏する。
***♪ドーー・ーー>シ・・<ド>シ>ラ・>ソ>ファ>ミ│
  >レーー・<ミー<ファ・・<ソーー・>レ●♪
節は主題の体をなしてないが、
この[レ<ミ<ファ<ソ>レ]音型は、少しあとに作曲される
オペラ「スペードの女王」の序奏にも、
「3度昇って2度下がる」パッション動機が
「愛の主題」として使われてる箇所にも現れる。
***♪<ソ(※)│
  <♯ソーー・>ミ●<♯ソ(※)・・<ラーー・>ファ●<ラ(※)│
  <♯ラー♯ラ・♯ラ>♯ソ<♯ラ・・<シ<ミ>レ・>ファ♪
(※)実際の音価は16分音符であるが、煩雑になるので
  便宜的に8分音符の音価でカタカナ表記してある
と弦群が悩ましげな和声進行で続けると、木管群が、
***♪<ド>シ│>レ♪
とつっこみ、弦と木管の応答合戦が組まれる。
→***♪<ラ>ソ>シ♪→***♪<ミ>レ>ファ♪
→***♪<ド>シ>レ♪→***♪<♭ラ>ソ│>ド♪
この最後のドからまた***♪ド<ミ<ソ・<ド♪の伴奏が戻り、
A主題が確保される。が、その後半は同一でない。
***♪ドーー・ーー>シ・・<ド>シ>ラ・>ソ>ファ>ミ│
  >レーー・<ミー<ファ・・<ラーー・>♯ソ●♯ソ(※)│
  <シーー・>ラ●ラ(※)・・<ドーー・>シ●シ(※)│
  <レー>ド・ド>シ>ラ・・>ミ♪
この最後のミからB部が始まる。
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