チャイコフスキー庵 Tchaikovskian

有性生殖生物の定めなる必要死、高知能生物たるヒトのパッション(音楽・お修辞・エンタメ・苦楽・群・遺伝子)。

「チャイコフスキー『眠れる森の美女』#18Entracte」

2010年08月08日 23時12分03秒 | やっぱりリラだ! 百年経っても大丈夫
土曜は大江戸探検隊の探検日だった。
昨年新装移転なった山種美術館で
浮世又兵衛の絵が一昨年に重文指定された記念の
展示をしてるので、恵比寿プライムスクエアで集合して
昼飯を食ってから、近くの山種美術館に向かった。
夕方からは夏祭りメドレーツアーで、最後は、
中目黒夏まつりと四の橋夏祭り、それから、
飲み会となった。久しぶりに
浴衣を着た。ちなみに、
東京湾の海水は茶色く濁ってた。

チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」の第18曲は、
Entracte(アントラクト=幕間曲)である。が、ここは
第2幕第1場と第2場の間なので、
場間曲といったところであろう。
[A主題-B動機-A'主題]
という「サンドウィッチ形式」になってる。
「眠れる森の美女」の中では、
「2つ」のオロルのヴァリアスィヨンに加えて、
このナンバーにはvn独奏がある。
初演ではあのアウアーが演じる運びになってた。が、
その話は流れた。アウアーが「演奏不能」と断った、
わけではないらしい。

[Andante sostenuto、4/4拍子、無調号(ハ長調)]
ソステヌートであるから、本来の4拍子の
[強・弱・・中強・弱]
というリズムを平坦にすることが肝要である。

[A主題]
クラリネット1管+ファゴット2管の主和音に乗って、
vnソロがモルト・エスプレッスィーヴォで主題を奏ではじめる。****♪
●●ソー・<ラー<ドー・・<ミー<ソー・<ラー<ドー│
<ミー<ソー・>ファーッ>ミーッ、・・ミーーー・ーー>レー│
>ソーーー、・<シー<ド・・<レーーー、・>ラー<シ│
<ド<レ>ド>シ<ド・<ファーッ>ミーッ・・>レーーー・ーー<ミー│
>ドー、>>ソー・<ラー<ドー・・<ミー<ソー・<ラー<ドー│
<ミ(=eをラと置き換えてト長調)ー<ドー・>シー>ラー・・>ソーーー・ーー>ファー│
>ミーーー、・<ドー>シ・・>ラーーー、・>ソー>ファ│
>ミ、<ファ<♯ファ<ソ<ラ<シ・<ドー>(N)ファー・・>ミーーー・ーー>レー│
>ドー、>ソー・<ドー<レー・・<ミー<ファー・<ソー<ラー(=eをミと置き換えてハ長調)│
<ファー<ラー・>ソーッ>ファーッ・・>ミーーー・ーー>♯ドー│
<レ、>レ<ミ・<ファ<ソ<ラ・・<シ<ド<♯ド・<レ<ミ<ファ│
<レ>ド>シッ>ラッ・>ソォッ>ファァッ>ミィッ>レェッ・・>ド<レ<ミッ<ファッ・<♯ファ<ソ<ラ>ソ│>レ♪
A主題の前半4小節はクラリネット1管が確保する。
途中からト長調に変ずるあとの4小節は
独奏vnがG線上で奏する。そして、

[B動機]
曲はト長調の平行調であるホ短調となり、
vnsoloがコン・パッスィオーネ(=一般には、熱情をこめて)で
その動機を弾く。ところで、この
con passioneという指示であるが、
キリストの受難の語源ともなったパトスは、
起因となる状況を目の当たりにしたヒトが受けた
心的動揺=胸の奥からこみあげてくる感情である。
そのような感情を込めて弾け、ということである。
*****♪
・・●●●●ミーーー・<♯ファーーー<♯ソーーー│
<ラーーーーーー>♯ファ・♯ファーーーーーーー・・ーーーー、♯ファーーー・<♯ソーーー<ラーーー│
<シーーーーーー>♯ソ・♯ソーーーーーーー・・ーーーー、<ミーーー・ミーーーミーーー│
ミー>ドー>シー・>ラー<シー<ドー・・<ファー>ミー>レー・>ドー>シー>ラー│
ラーーーーーーー・>♯ソーーーーーーー・・♪
次のバレエ「くるみ割り人形」で、クリスマス・ツリーが大きくなる場面で、
この音型が使われてる。ともあれ、
[B動機部]は次第に技巧的になっていく。

[A主題の再現]
今度はファゴット2管のみで第5音を欠く主和音に乗って、
独奏vnがA主題を再現しはじめる。が、すぐに技巧的になって、
[sons harmoniques(ソン・ザルモニク=ハーモニクス音=左手指で弦を軽く押さえて出す倍音)]
が超高音域で要求される。終いは、チェロ+コントラバスのピッツィカートによって、
[○■■・■■■・・○■■・■■■]
というクラーベなリズムな主音ハの通奏が爪弾かれ、
vnソロがA主題を奏しながら三点ハに上昇してpppで曲を閉じる。

チャイコフスキー大好き人間にはたまらない曲である。が、
ただチャイコフスキーが好きというだけでは、同時に
ブラームスも好きなんていう見境のないむきもある。ので、
ただ真のチャイコフスキー好きのみがこのナンバーで敏感に察知することは
そういうむきには頓着しないことである。
このナンバーの速度標語は[Andante sostenuto]である。
この速度標語がこれより前に出てきたのは、
「(第1幕)第9曲」の終いの部分である。つまり、
この第2幕の直前である。
「王宮の庭園が森に変容する」場面である。
蔦の弦が伸びてく情景である。
リラの精の主題が木管群のユニゾンで吹奏される箇所である。
そこでも、曲を閉じる箇所で、
チャイコフスキーは撥弦楽器であるハープに、
ハーモニクス奏法を要求してるのである。pppで。そして、
第9曲もそのpppで曲は閉じられてた。
この「2つ」の「アンダーンテ・ソステヌート」は、
デズィレ王子のお見合い狩を挟んで対称になってるのである。
「先」の「アンダーンテ・ソステヌート」の前の「アンダンティーノ」の箇所でドラが打ち鳴らされ、
「後」の「アンダーンテ・ソステヌート」の次曲の終いでドラが打ち鳴らされる。
「先」の「アンダーンテ・ソステヌート」で「眠り」におちた王国の「目覚め」を
「後」の「アンダーンテ・ソステヌート」が「もうすぐだよ」と予告してるのである。
しみじみとした曲ながら、そうした
ワクワク感を認識しながら曲を聴き、あるいは、想像しなければ、
真のチャイコフスキー大好き人間とはいえないのである。

ところで、
「アンダーンテ・ソステヌート」を「充分に音を保って歩くような速さで」
なんて、杓子定規に認識してるようではいけない。
何度も繰り返すが音楽におけるソステヌートは、
音価を保つことによって、拍の強弱を薄めることに意味がある。
音価を保つことが手段であって目的ではない。
ただ遅くしただけでもその効果はあるので、大抵の奏者は
それだけで安易にすませてしまう。が、
テンポをおとすことで音楽が持つ「ふさわしい速度」を
台無しにしてることが多い。
イタリア語のandanteは動詞andare(アンダーレ=行く、先に進む)
から派生した、ということである。つまり、
先に進む→人が行く→歩く、という意味なのだろう。いっぽう、
時が過ぎゆく=過ぎ去る、という意味にもなった。したがって、
「時間の経過」にまつわってくる。
「テンポ」を表すのである。
メトロノームもなかった頃、身近にテンポを感じれたものといえば、
「心臓の鼓動」「脈拍」である。一般的な健康な成人の場合、
平均的な心拍数は1分間に60乃至80である。だから、
"Andante"が表すテンポは4分音符=69、72、76、
というチャイコフスキーの認識は真っ当である。そして、
ちょっと走ったあとの心拍数はその倍弱程度になる。それが、
Allegroである。だから、
"Allegro"が表すテンポは4分音符=132、138、
というチャイコフスキーの認識は的を射てるのである。
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「チャイコフスキー『眠れる森の美女』#17panoramaパノラマ」

2010年07月31日 23時32分01秒 | やっぱりリラだ! 百年経っても大丈夫
今夜は隅田川の花火だったようである。
享保18年(概ね1733年)の隅田の川開きの日に、
20発の花火を打ち上げたのが起源らしい。
川開きとは、旧暦5月28日乃至8月28日には、
川周辺での出店や納涼船を六つではなく四つまで許した
解禁期間のことである。前年の享保17年の
大飢饉によって、世相が悪くなってたのである。
享保18年の正月には、江戸でが初めての
打ち壊しがあったほどである。また、
吉宗は尾張の宗春を捨て置けない状態にあった。
初めて隅田川の川開きで吉宗の命で
花火が打ち上げられた年の前年3月、
江戸参勤となった宗春に対して
「上意」を藩邸に差し向けた。そこで、
宗春の倹約令違反を追及したのである。が、
宗春は反論した。吉宗はこれではっきりと
宗春下ろしを決意した。が、
この年の飢饉による死者の慰霊と悪疫退散を祈願して、
隅田川の川開きの日に水神祭を開催して
花火を打ち上げたのである。宗春が
御暇で国元に帰ったあとである。ともあれ、
隅田川には舟が多く浮かんだという。

リラの精はデズィレ王子にオロル姫に会わせてとせがまれる。
→リラの精は自家用真珠貝舟にデズィレ王子を乗せる。
→舟の運航とともに景色が変わる。
→眠ってる森へのトランスポーテイション。
→「パノラマ」である。

チャイコフスキーといえば、
甘美なメロディ、巧みなオーケストレイション、
というのが、一般的な評価である。が、
チャイコフスキーの真骨頂は、ハーモニーなのである。
なにも調性音楽における和声の極限をつきつめたり
限界を破壊して無味な音楽モドキを作ったわけではない。
ごく普通の和音を用いて、しかも、
舌を巻くようなお見事な和声進行を、
各楽器の音色も加味して「コンポウズ」する才能、
に満ちあふれてたのが、チャイコフスキーなのである。

[Andantino、6/8拍子、1♯(ト長調)]
このナンバーは、
[2小節の序奏→A主題(16小節)→B主題(8小節)
→A'主題→B主題→A'主題→13小節の結尾]
という小ロンド構成になってる。A、B、とはいっても、
まったく異なる素材の主題だというわけではなく、
律動はほとんど同じである。

[序奏]
低弦のピッツィカート、
オーボエ2管+クラリネット2管+ファゴット2管の16分音符刻みの主和音
(この和音の各音への楽器配置も絶妙)、
ハープの主和音のアルペッジョに導かれて、A主題が
両翼vnのオクターヴ・ユニゾンによって奏でられる。

(このブログで「カタカナ音符」を書くときの♪の前の*印は、
「カタカナ音符」の文字の音価を表してます。音符の数の逆数を
2のべき乗で表したときに*の数がそのべき乗数になってます。
たとえば、二分音符は全音符の1/2=1/(2^1)なので*♪、
四分音符は全音符の1/4=1/(2^2)なので**♪、
八分音符は全音符の1/8=1/(2^3)なので***♪、
十六分音符は全音符の1/4=1/(2^4)なので****♪)

[A主題]***♪(ここでは一文字が八分音符の音価で書いてあるということです)
(a)ドー>シ・ー>ラー│>ソー<ラ・ー<シー│<ドー>シ・ー>ラー│
(b)>ソー>ファ・ーーー│
(c)>ミー>・レー>♯ドー│<レー<・ミー<ファー│
(d)<ラー>ソ・ー>♯ファー│<ソーー・ー<ラ>ソ│
(a)<ドー>シ・ー>ラー│>ソー<ラ・ー<シー│<ドー>シ・ー>ラー│
(b)>ソー>♯ファ・ーーー(この♯ファ=cisをシと置き換えてニ長調)│
(a)<どー<れ・ー<みー│<そー>ふぁ・ー>みー│
(e)みー>れ・ー<みー│>どー・ーー(*)●●♪
 ((*)この「ど」=dをソと置き換え再びてト長調)

この両翼vnがpで奏でる主題の向こうで16分音符の刻みを吹かせる
管楽器の組み合わせを、チャイコフスキーはそれぞれ、
(a)=オーボエ2管+クラリネット2管+ファゴット2管
(b)=ホルン4管
(c)=ホルン4管+ファゴット1→2管
(d)=ホルン4管+ファゴット2管+コルノ・イングレーゼ
(e)=オーボエ2管+クラリネット2管+ファゴット2管+コルノ・イングレーゼ
(細かくいえば、交替する小節の冒頭8分音符はそれまでの楽器が残る)
と振り分けてるのである。その間、
主題の4小節めごとにハープが爪弾かれる。

なんというクールな楽器の使いかた・使い分けなことだろう。
その箇所ごとに見事に適合した音色である。
大作曲家といわれてる作曲家の中でも、これほどに
音楽・音質のセンスに長けた作曲家はいない。
(a)ドー>シ・ー>ラー│>ソー<ラ・ー<シー│<ドー>シ・ー>ラー│
までの3小節の間ずっとオーボエ2管+クラリネット2管+ファゴット2管が
主和音を16音符で刻み続け、旋律の流れとともに、
全体として1の三和音→1の7の和音→6の7の和音などと揺れ動き、
適度に「溜め」てからやっと4小節めで
刻みの和音を2の三和音「ラ-レ(-ファ)」に交替させるのである。しかも、
刻む楽器をホルンだけに交替させ、4拍以降でハープに分散させる、
という周到さである。

[B主題]***♪
(*)ラー>ソ・ー>ミー、│<ソー>フ・ァー>レー、│
 <ラー>ソ・ー>ミー、│<ソー>ファ・ーーー、│
 <ラー>ソ・ー>ミー、│<ソー>ファ・ー>レー、│
 <ラー>ソ・ー、>ファ>ミ、│>レ>ド<レ、・<ファ>ミ>レ、♪

両翼vnが3度重ねでこの主題を奏する。そして、そのオクターヴ上を
チャイコフスキーはフルート2管に3度重ねで吹かせてる。まったくもって、
あざやかすぎる絶妙な音色の組み合わせが響くのである。いっぽう、
コントラバスが属音をpで通奏する。そのオクターヴ上の属音を
ホルン1管が吹き、ティンパニがトレモロでpppでロウルする。そのまたオクターヴ上の属音を
コルネット1管がやはり16分音符音符で刻む。
ヴィオーラとチェロが両翼vnのB主題に反行する音型を奏する。が、
それもまた3度重ねになってる。
4流作曲家が残した薄っぺらいスカスカなポピュラー音楽とまったく異なる。

このあと、[A主題]→[B主題]→[A主題]と繰り返され、
1小節の前置き(ハープが主和音のアルペッジョを上下して爪弾く)があって、

[結尾]***♪
♭シー>ラ・ー<♭シー、│>ラー>♯ソ・ー<ラー、│
>♭ラー>ソ・ー<♭ラー、│>ソー>♯ファ・ー<ソー、│
♭シー>ラ・ー<♭シー、│>ラー>♯ソ・ー<ラー、│
>♭ラー>ソ・ー<♭ラー、│>ソーー・ーーー│
ーーー・ーーー│ーーー・ーーー│ーーー・<<ドーー│ー●●・●●●(フェルマータ)♪

このとき、
この結尾の1小節乃至3小節の第6拍から次小節の第1拍にかけて、
***♪ソ│<ド♪、♪ド│<ファ♪、♪ファ│<ド♪
という至極短く単純な合いの手がハープによって入れられるが、
それらにはすべて管楽器が併せられる。しかしそれはまた、
フルート2管のオクターヴ・ユニゾン→フルート2管+オクターヴ下のコルノ・イングレーゼ
→クラリネット2管のオクターヴ・ユニゾン、
オーボエ1管→ホルン1管→トランペット1管、
というふうになってる。その絶妙な音色の橋渡しにも冴えわたる
チャイコフスキーのセンスには、まったく舌を巻くばかりである。

ところで、
このナンバーは全曲をとおして6/8拍子なのに、ほとんどが
「一小節が四分音符×3つ」である。だから、これを
「これを6/8拍子で振ると必ず無理がくるから、
非常に優れた指揮者は3/4拍子で振る」
なんていう6拍子も突拍子もないことを言うむきが
出てきてしまうおそれがある。
そんなむきにチャイコフスキーはどだい無理である。といっても、
アセロラ体操の仲里依紗女史が久本雅美女史だと思ってたほど、
人の顔の区別ができない程度の拙脳なる私の感想にすぎない。

このナンバーがどんな速度標語に指定されてるか、よく
考え併せてみると、真のチャイコフスキー愛好者、
チャイコフスキー大好き人間になら、
「見えて」くる。が、そうでない者には所詮解らない。
チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」において、
[Andantino(アンダンティーノ)][6/8拍子]
といったら「リラの精の主題」の専売である。それに、
なにしろこのナンバーは、
「リラの精の小舟」が進むスィーンなのである。いっぽう、
第3幕ではオロルはめでたくデスィレと結婚の運びとなる。
「パ・ドゥ・ドゥ」は、
調性は、ト長調→ハ長調(→イ短調)→イ長調→ホ長調、
という、いかにも「リラの調」のような流れである。が、
その「アダージョ」(ハ長調)では、
「6/8拍子」でテンポも実質はおなじなのに、
[Andantino(アンダンティーノ)]ではなく、
[Andante non troppo(アンダーンテ・ノン・トロッポ)]なんていう、
奇天烈な速度標語でチャイコフスキーは差異を示してるのである。

[リラの精の主題]***♪
●ソ>ミ、・【ミ>レ>♯ド、│<レ<ミ<ファ】、・<ソーー│
ー、<ラ<シ、・<ド>シ>ラ、│>ソー>レ、・レーー♪

[パノラマの主題]***♪
ドー>シ・ー>ラー│>ソー<ラ・ー<シー│
<ドー>シ・ー>ラー│>ソー>ファ・ーーー│
>【ミー>・レー>♯ドー│<レー<・ミー<ファー】│
<ラー>ソ・ー>♯ファー│<ソーー・ー<ラ>ソ♪

つまり、この「パノラマ」の主題は、
「リラの精の主題」が素材になってるのである。
パノラミックな視界を持たないくせに
すぐに色眼鏡で面前の風景だけを見て
恣意的に歪めてしまうようなむきに、
チャイコフスキーは無理なのである。

ところで、
(1幕)第7曲で「成人したオロル姫」が登場する場面は、
[Allegro giusto、2/4拍子、無調号(ハ長調)]****♪
レーッ●●・>♯ドーッ●●│<レーッ●●・<ミ>レ>♯ド<ミ♪
で始まる。この[レ>♯ド<レ<ミ]は、上記、
【ミ>[レ>♯ド<レ<ミ]<ファ】
に内包されてるのである。この場面のすぐあとに、
オロル姫は紡錘に指を刺して倒れる。そして、
カラボスが予言した死をリラが100年の眠りに軽減する。つまり、
チャイコフスキーは[レ>♯ド<レ<ミ]という音型を使って、
この箇所ではオロルはリラの庇護下にあることを示してたのである。

ハ長(はちょう)といえば、
この「パノラマ」はト長であるが、チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」の
傑作なナンバーの中でも、珠玉の輝きをとりわけ放ってる。ちなみに、
おもにアルカリ金属やアルカリ土塁金属などの各金属の最外殻電子の
炎色反応でさまざまな波長の色を帯ビタル現代の花火とは違って、
江戸時代の花火は硝石が低温で燃えるときの放射熱による
暗赤色の光しか見えなかった、ということらしい。
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「チャイコフスキー『眠れる森の美女』#16情景、のアジタート」

2010年07月26日 23時51分07秒 | やっぱりリラだ! 百年経っても大丈夫
「デズィレ王子はリラの精に、
ぜひとも本物のオロル姫を紹介してほしいと懇願する」
[Allegro agitato(アッレーグロ・アジタート)、4/4拍子、3♭(変ホ長調)]
agitatoは「興奮して」という意味であるが、ここでは
「心躍らせて」と観念的に表したほうが相応しいかもしれない。

ヴィオーラ+チェロの完全ユニゾンが、前曲終いのト短調主和音終止を受けて、
その平行調である実質変ロ長調で開始する。
****♪ミ>シ、シ<ド・ド<レ、レ<ミ・・ミ<ファ、ファ<ソ・ソ<ラ、ラ<♭シ♪
2小節め終いの♭シをファと置き換えて、本来調の変ホ長調にシフトし、
両翼vnが完全ユニゾンで、
****♪ファ>♯ド、♯ド<レ・レ<ミ、ミ<ファ・・ファ<ソ、ソ<ラ・ラ<シ、シ<ド♪
と受け継ぐ。そして、そのまま主題になだれ込む。
****♪ドーーー・ー、>ソッ、ソ<ラ・・ラ<シ、シ<ド・ド>シ、シ>ラ│
   ラ>ソ、ソ>ファ・ファ>ミ>レ>ド・・<ラーーー・>ソーーー│
  <ドーーー・ー、>ソッ、ソ<ラ・・ラ<シ、シ<ド・ド>シ、シ>ラ│
   ラ>ソ、ソ>ファ・ファ>ミ>レ>ド・・<ラーーー・>ソーーー│
   ソ<ラ、ラ<♭シ・♭シーー>ラ・・>ミ<ファ、ファ<ソ・ソーー>ファ│
  <ラ<シ、シ<ド・ドーー>シ・・>♯ファ<ソ、ソ<ラ・ラーー>ソ│
  <♯ラ<シ、シ<ミ・ミ>シ、シ<レ・・レ>ド、ド>シ・シ>ラ、ラ>ソ│
   ソ>ファ、<シ>ラ・>ソ>ファ>ミ>レ・・>ド>シ<♯ド<レ・<ミ<ファ<♯ファ<ソ♪
主題とはいっても、少なくともこのナンバーにおいては、
8小節にはまとまってない。が、ともかくも、
この主題はもう一度提示されて、
チャイコフスキーの常套であるクロマティックなシフトによって、
変ホ長調から実質ニ長調に転調されて、
その主和音で曲を閉じる。ところで、
この主題に施されてる「16分ズラし技法」を、チャイコフスキーは
前作バレエ「白鳥の湖」の(第4幕)第28曲「情景」、でも用いてた。
****♪●ラ、ラ<レ・レ>ド、ド>シ・・シ>ラ、ラ>♯ソ・♯ソー<ラー♪
この場面のスコアに書き入れられたチャイコフスキーの場面メモは、
"Odete entre en courat et fait part a ses amies de son chagrin"
(オデト・アントル・アン・クラン・エ・フェ・パル・タ・セザミ・ドゥ・ソン・シャグラン)
(entrer en courat=駆け込む、
faire part a 誰々 de 何々=誰々に何々を知らせる)
「オデットがアジトである湖畔の廃墟に駆け込んできて、
みんなに悲しい結果を伝える」
である。そして、
[Allegro agitato(アッレーグロ・アジタート)、4/4拍子、6♭(変ホ短調)]
同じく4/4拍子で、かつ、速度標語もまったく同じ、
アッレーグロ・アジタート、だった。ここのアジタートは、
「動転して」のほうが相応しいだろう。いずれにしても、
心拍数や血圧があがってる状態である。
デズィレ王子はもはやオロル姫に対して
「Je te veux=発情状態」なのだった。もうじき、
阿波踊りの時期であるが、
♪オロル阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら
 オロルでなきゃイヤンイヤン♪
と歌いながら、デズィレ王子は、
渭山(いのやま)城の鷲の門めざして、
森の中を分け行くのだった。
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「チャイコフスキー『交響曲第5番』と『眠れる森の美女第15曲』のネジレとデズィレ」

2010年07月23日 02時22分20秒 | やっぱりリラだ! 百年経っても大丈夫
チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」の第15曲c)コーダ、
[Presto、2/4拍子、2♭(ト短調)]の主題の冒頭は、
♪ファ>ミ>レ>ド>シ>ラ♪
という、第6音から順次下降してくる短調音階である。いっぽう、
「交響曲第5番」の第1楽章序奏、27小節乃至30小節は、
**♪ファ│>ミ・>レ・・>ド・>シ│>ラ・ー・・ー、
 <ファ│>ミ・>レ・・>ド・>シ│>ラ・ー・・ー・ー♪
である。これはA管のクラリネット2管が完全ユニゾンで吹くものであり、
ホ短調の曲ながら、記譜はト短調でされてるゆえ、これをそのまま
ト短調の「眠れる森の美女」の第15曲c)コーダに流用することができる。

この「序奏」は他の3つの楽章に循環される。そして、
完全長調化される第4楽章では、
**♪ラ│>ソ・>ファ・・>ミ・>レ│>ド・ー・・ー♪
の箇所が、
****♪ドーーー│>シーーー・>ラーーー・・>ソーーー、
   ソーー>♯ファ│>ミーーー・ーーーー・・ーーーー♪
とされてる。が、これも
短期「嬰ト短調」転調とスキャンすることもできる。すなわち、
ホ長調のドを嬰ト短調のファと置き換えて、
****♪ファーーー│>ミーーー・>レーーー・・>ドーーー、
   ドーー>シ│>ラーーー・ーーーー・・ーーーー♪

もうひとつ、既述の
「交響曲第5番」第2楽章の第2主題と
「眠れる森の美女」の第15曲a)パ・ダクスィヨンの主要主題との類似、
はどこでも取り沙汰されてることで自明である。

その、
「交響曲第5番」第2楽章の第2主題が
vnプリーモ+オクターヴ下のチェロによって本格提示され、
vnセコンドとヴィオーラが加えられて、
主題がテンポを上げクロマティックに上昇しつつクレッシェンドして
クライマックスに達する箇所で、チャイコフスキーは
"con desiderio(コン・デズィデーリオ=求めるように)"
と指示してる。そして、
この主題がオクターヴ上で再現されるとき、チャイコフスキーはさらに
"con desiderio e passione(コン・デズィデーリオ・エ・パッスィオーネ)"
と指示する。conは前置詞で「~という状態で」という意味、
eは接続詞で英語のand、そして、
passioneは「激しい恋心」「相手を求める恋愛感情」
という意味である。あとさきになるが、
desiderioは英語のdesireで、中森明菜女史のような
「バーニング・ラヴ」「バーニング・ハート」、あるいは、
「相手に対する強い欲求」を意味する。いっぽう、
「眠れる森の美女」の第15曲を踊るのは、
オロル姫の幻影と踊って愛を希求するプランス・デズィレ、
Prince Desireなのである。

単に節が似てる、だけなのではない。明らかに、
チャイコフスキーは双方に「同様の感情」をかき立て、
「同種の意図」を配して創作したのである。
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「チャイコフスキー『眠れる森の美女』#15(c)Coda」

2010年07月22日 00時32分41秒 | やっぱりリラだ! 百年経っても大丈夫
#15のb)「オロルのヴァリアスィヨン」であるが、
ヂャーギリフ(いわゆるディアギレフ)のバレエ・リュスが1921年にロンドンで
チャイコフスキー作曲「眠れる森の美女」改竄版を上演した際、
ことさらストラヴィンスキーに編曲させたものを使った。
その"編曲"でストラヴィンスキーはチャイコフスキーが主題を吹かせた
オーボエをクラリネットにわざわざ替えてる。
この曲の主題提示を委ねるにはオーボエしかないということを、
YOU女史と故大原麗子女史の声を聞き分けれない
拙脳なる私程度の者にもよくわからせてくれる
"反面教師"となってる、という点では意義を持つ。ときに、
シャンソン歌手の石井好子女史が17日に亡くなってたそうである。
♪オ・パ、キャマラド、オ・パ、キャマラド、オパ、オパ、オパ♪

チャイコフスキーのバレエ「眠れる森の美女」の第15曲は、
a)Pas d'Action
b)Variation d'Aurore
c)Coda
という3つから成ってる。その
c)コーダ
である。
[Presto、2/4拍子、2♭(ト短調)]
この曲の主題は、細切れに
別々の楽器群に受け持たされる。
チェロのピッツィカートが導いて、
オーボエ2管+ファゴット2管が最初の動機を吹く。
****♪●●●●・●●ファー│>ミー●●・●●>レー│>ドー♪
両翼vn+ヴィオーラがピッツィカートでそれを受ける。
****♪シー│●●>ラー・●●>♯ソー│●●<ラー♪
次いで、クラリネット2管が後半部を受け持つ(スタッカートは省略)。
(1番クラリネット)****♪♯ソ♯ソ♯ソー│<ラララー・<シシシー│<ドドドー・♯ド♯ド♯ドー│
(2番クラリネット)****♪●●♯ソ♯ソ│<ラーララ・<シーシシ│<ドードド・♯ドー♯ド♯ド│
(ア・ドゥーエ)<レ<ミ<ファ>ミ・>レ>ド>シ>ラ│>♯ソ>ファ>ミ>レ・>ドー♪
この「継ぎ接ぎ主題」には、
「モツレク=ラ>♯ソ<ラ<シ<ド」が組み込まれてるのである。

曲は淀みなく進み、チャイコフスキーに特有の
クロマティックな節回しの妙が終始続く。
木管群を縦横に駆使してる反面、
ホルンを除くラッパ群は曲の後半のほうに、
節度を持って用いられるのみで、
ティンパニや打楽器系はまったく使われない。
ハープは曲締めのト短調の主和音以外には、
その少し前の箇所で、主音gのハーモニクスを、
vnセコンドが16分音符で刻む裏打ちとして
pで爪弾くだけの用法が与えられる。
この「コーダ」もまた、チャイコフスキーがしばしば見せた、
鋭い切れ味の木管群が主体+抑制された弦群のピッツィカート、という、
「小気味いい」「こぢんまりとした」「ミニアチュルのように精巧な」
「かわいらしい」オーケストレイションの、見事な一例である。
秀逸なスケルツォを聴くような味わいである。

バスがモツレクの動機を刻む。
終いから7小節め、「オロルの幻影は消える」の場面での、
その前から続くフルート1管→オーボエ1管→クラリネット1管→ファゴット1管
そして、ファゴット1管→クラリネット1管→オーボエ1管→フルート1管、
という16分音符のパッセージのリレイの妙は、
チャイコフスキーの音楽センスの高尚さのなせる技である。
コメント
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