あ、やだ・・・。
本当はちっとも嫌じゃないのに、そんな声を漏らしてしまう。部屋には誰もいないのに、恥ずかしさに思わず頬が熱くなる。
これから何が起きるのかを知っているから、もう体はしっかりと反応をみせる。裸の乳首はつんと上を向いて尖り、足の間からは愛液が流れ落ちそうなほど。
ソレは今夜もわたしの体を弄ぶ。小さな黒い箱の中から伸びる、細く長い無数のぬるりとした・・・そう、まるでイソギンチャクの触手のようなモノ。それがわたしの腕に、足に、するすると絡みついてくる。
ちろちろと舐めるように触れられて、わたしの乳首は痛いほどに勃起する。ベッドの上で、ソレがわたしの足を大きく広げる。自分の姿がバルコニーに続くガラス戸に映し出される。黒い茂みの奥の性器までが丸見えになる。濃い桃色をしたその部分は充血し、ひくひくと蠢きながら熱い液体を垂れ流す。
まるで焦らすように、足先からひざのあたり、太ももの内側までをソレは何度も往復する。同時に首筋からお腹のあたりまでをゆっくりと這う。それなのに一番いじられたいところには、まだわずかにも触れてこない。温かく湿った舌で舐めまわされているような感覚と、これから与えられるはずの快楽への期待に、思わず気を失いそうになる。
もっと、もっと。
その得体の知れないモノたちにわたしは期待する。触れてくれないのなら、もう自分の指をいれてしまいたい。乱暴に掻きまわしてしまいたい。でもわたしの両手にはソレが絡みついていているから、そんなことは許されない。
ゆっくりと全身を這いまわった後、触手たちは足の間へとまっすぐに向かい、一番敏感なクリトリスをいじり始める。興奮と快感にぷっくりと膨らんだその部分を、何本もの触手が責めたてる。
「あっ・・・んっ・・・はあっ・・・」
わけのわからないモノたちに絡みつかれ、縛られ、全身をいじられて、それなのに気持ちよさに悶えるいやらしい自分の姿が目の前の扉に映し出される。薄い皮を無遠慮に捲りあげてソレが与えてくる刺激に我慢ができず、わたしは声をあげて懇願する。
「あっ・・いいよォ・・・もっ・・・もっと、奥まで・・・してェ・・・」
ズルリ、と音を立ててソレらは動きを変える。乳首をいじり続ける数本を残して、残りの全てが女性器の中へと押し入っていく。ぬるぬると膣壁を刺激しながら奥へ奥へと侵入してくる触手たちの動きに、わたしは歓喜の叫びをあげる。涙が止まらなくなり、口からはだらしなく涎を垂れ流す。
すべての禁忌を犯してもその先にある快感を知りたいと願う。その瞬間、わたしはただの獣。ただ一匹のメスであるということを痛感する。
ソレが入っていたのは、手のひらサイズの黒く小さな箱。見つけたのは先週だ。
5センチ四方ほどの大きさで、なんの飾りもない。店の名前も書かれていなければ、ラベルもリボンも付いていない。
仕事から疲れ果てて部屋に帰ったときに、ふと机の隅に置かれていたそれに気がついた。
乱雑に積み上げられた仕事用の資料、散らばった筆記用具の類、うすく積もった埃。そういえば忙しさにかまけてろくに掃除もしていなかった。だらしない独り暮らし。
誰かにもらったプレゼントの空き箱か何かだったか。それとも昔、自分で買ってきたアクセサリーが入っていた箱だったか。思い出せない。その黒い箱は机の上で特別に違和感も無く、昔からそこにずっとあるもののようにしっくりと空間に馴染んでいた。
手に取ってみる。軽い。
中に何かが入っているような感じはない。振ってみても音はしない。さっさと開けてみればいいものを、何故だかそれがためらわれるような気がした。
今日はバレンタインデー。
ふと、わが身を振り返る。チョコレートは結局渡せなかった。
仕事に追われ、泥沼のような不倫の恋に溺れ、関係を清算することもできずにいるうちに、結婚相手を探すタイミングも見失った。毎日のストレスはいつのまにか澱のように蓄積されていく。頭が重い。体がだるい。
いつか誰かが、このくだらない現状から救いあげてくれるような気がしていた。白馬に乗った王子様。年甲斐もない、夢見るババア。気持ち悪いことこの上ない。
いつか彼が奥さんと別れて私を選んでくれる。そう信じて借りた、この3LDKのマンション。叶えられるはずのない願い。一人には広すぎて、寂しすぎて、悲しすぎる。
ダメかな、もう。
いろいろなことが限界にきている。やってもやっても終わりの見えない仕事にも、ごみくずのような恋愛にも。
黒い小箱を手のひらに乗せたまま、なんとなく、泣いた。どこで間違えたんだろう。なにが悪かったんだろう。がんばってるんだよ、わたし、これでも。
八つ当たり気味に小箱を壁に投げつける。箱のふたが壊れ、砂のようなものがサラサラとこぼれ落ち、妙な匂いが部屋中に広がった。
くせのあるスパイスのような?上司が吸っていた葉巻のような?わからない。そんなことを思っているうちに奇妙な匂いが体の奥深くまで染み込んできた。少し気分が悪くなって、床にうずくまる。呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が速くなる。意識がぼんやりと遠くなり、視界が霞む。これは・・・なに・・・?
こんなところで、ひとり寂しく死ぬのかしら。まあ、それでもいいや。どうせくだらない人生だったもの。
生への執着をあきらめた瞬間、今度は体の中心が考えられないくらいに熱くなってきた。お腹のまわりから腰、そして・・・その、恥ずかしい部分がぐんぐんと熱を帯び始めた。全身が汗にまみれて、苦しいほど暑くて、わたしは床を這いずりながら身に着けていたものを引き剥がすようにして脱ぎ、全裸になった。
真冬の、雪でも降りそうなこんな夜に、暖房ひとついれていないこの部屋がどうしてこんなに暑いの?この苦しさは何なの?
苦しい。苦しい。心臓がぎゅうぎゅうと締め付けられる。体中から汗が噴き出す、。
混乱と恐怖、そして股間にある熱い快感。そんなことをしている場合じゃないのはわかっているのに、たまらない気持ちになってわたしはその熱くなった部分に指を這わせた。
心臓の鼓動は異様なスピードで打ち続ける。指には自分の粘液が絡みつきぐちゅぐちゅと音を立てる。そこから漂う潮の香り。気持ちいい。苦しい。中指と人差し指を挿入する。
「ああっ・・・!!」
痺れるような快感が体を貫いた。死んでしまいそうな苦しさの中で、自分の指が与えてくれる快楽に溺れた。やめられなくなり、さらに奥へと指を挿れて激しく動かした。足りない、これじゃいけない。もっと欲しい、もっと欲しい。
そのとき、あの黒い箱から。
触手たちが、ずるずると這い出してきた。
熱に浮かされたようなぼんやりとした意識の中で、わたしはソレらに犯されたのだ。
最初は女性器だけを執拗に責められた。入口からその中、膣壁からさらにその奥にある子宮口までを徹底的に嬲られ、触手の先から出る熱い液体を体の奥に大量に放出された。体内から流れ出てきたソレは白く濁っていて、男性の精液にも似たにおいがした。
泣いても、叫んでも、その責めは終わらず、やがてわたしが失神してしまい、気がつくと朝になっていた。
そして、不思議なことに、わたしはいつものパジャマをきちんと着て、いつものようにベッドに寝ていた。
夢でも見たのだろうか。
そう思っていたのだけれど、触手たちはそれから夜毎にわたしを犯しにやってくるようになった。机の上に置かれた、黒い小箱の中から。
夢なのか、現実なのか、なにもわからない。
けれども、いま、わたしはこの触手たちに弄られることに夢中だ。
今夜もこうして触手たちはわたしの体を楽しんでいる。こうしていれば、恋愛のように傷つくことも無い。もう男なんていらない。
ああ、また。何度目かの触手たちの射精を、わたしは体の奥で受け止める。こうしているうちに、やがて彼らの子を孕んでしまうことがあるのだろうか。
それならそれでかまわない。無数のイソギンチャクたちに囲まれて永遠の責め苦を受ける。その自分の姿を想像して、その快楽の深さを妄想して、今夜もまた意識が暗闇の底へと飲みこまれていった。
(おわり)
本当はちっとも嫌じゃないのに、そんな声を漏らしてしまう。部屋には誰もいないのに、恥ずかしさに思わず頬が熱くなる。
これから何が起きるのかを知っているから、もう体はしっかりと反応をみせる。裸の乳首はつんと上を向いて尖り、足の間からは愛液が流れ落ちそうなほど。
ソレは今夜もわたしの体を弄ぶ。小さな黒い箱の中から伸びる、細く長い無数のぬるりとした・・・そう、まるでイソギンチャクの触手のようなモノ。それがわたしの腕に、足に、するすると絡みついてくる。
ちろちろと舐めるように触れられて、わたしの乳首は痛いほどに勃起する。ベッドの上で、ソレがわたしの足を大きく広げる。自分の姿がバルコニーに続くガラス戸に映し出される。黒い茂みの奥の性器までが丸見えになる。濃い桃色をしたその部分は充血し、ひくひくと蠢きながら熱い液体を垂れ流す。
まるで焦らすように、足先からひざのあたり、太ももの内側までをソレは何度も往復する。同時に首筋からお腹のあたりまでをゆっくりと這う。それなのに一番いじられたいところには、まだわずかにも触れてこない。温かく湿った舌で舐めまわされているような感覚と、これから与えられるはずの快楽への期待に、思わず気を失いそうになる。
もっと、もっと。
その得体の知れないモノたちにわたしは期待する。触れてくれないのなら、もう自分の指をいれてしまいたい。乱暴に掻きまわしてしまいたい。でもわたしの両手にはソレが絡みついていているから、そんなことは許されない。
ゆっくりと全身を這いまわった後、触手たちは足の間へとまっすぐに向かい、一番敏感なクリトリスをいじり始める。興奮と快感にぷっくりと膨らんだその部分を、何本もの触手が責めたてる。
「あっ・・・んっ・・・はあっ・・・」
わけのわからないモノたちに絡みつかれ、縛られ、全身をいじられて、それなのに気持ちよさに悶えるいやらしい自分の姿が目の前の扉に映し出される。薄い皮を無遠慮に捲りあげてソレが与えてくる刺激に我慢ができず、わたしは声をあげて懇願する。
「あっ・・いいよォ・・・もっ・・・もっと、奥まで・・・してェ・・・」
ズルリ、と音を立ててソレらは動きを変える。乳首をいじり続ける数本を残して、残りの全てが女性器の中へと押し入っていく。ぬるぬると膣壁を刺激しながら奥へ奥へと侵入してくる触手たちの動きに、わたしは歓喜の叫びをあげる。涙が止まらなくなり、口からはだらしなく涎を垂れ流す。
すべての禁忌を犯してもその先にある快感を知りたいと願う。その瞬間、わたしはただの獣。ただ一匹のメスであるということを痛感する。
ソレが入っていたのは、手のひらサイズの黒く小さな箱。見つけたのは先週だ。
5センチ四方ほどの大きさで、なんの飾りもない。店の名前も書かれていなければ、ラベルもリボンも付いていない。
仕事から疲れ果てて部屋に帰ったときに、ふと机の隅に置かれていたそれに気がついた。
乱雑に積み上げられた仕事用の資料、散らばった筆記用具の類、うすく積もった埃。そういえば忙しさにかまけてろくに掃除もしていなかった。だらしない独り暮らし。
誰かにもらったプレゼントの空き箱か何かだったか。それとも昔、自分で買ってきたアクセサリーが入っていた箱だったか。思い出せない。その黒い箱は机の上で特別に違和感も無く、昔からそこにずっとあるもののようにしっくりと空間に馴染んでいた。
手に取ってみる。軽い。
中に何かが入っているような感じはない。振ってみても音はしない。さっさと開けてみればいいものを、何故だかそれがためらわれるような気がした。
今日はバレンタインデー。
ふと、わが身を振り返る。チョコレートは結局渡せなかった。
仕事に追われ、泥沼のような不倫の恋に溺れ、関係を清算することもできずにいるうちに、結婚相手を探すタイミングも見失った。毎日のストレスはいつのまにか澱のように蓄積されていく。頭が重い。体がだるい。
いつか誰かが、このくだらない現状から救いあげてくれるような気がしていた。白馬に乗った王子様。年甲斐もない、夢見るババア。気持ち悪いことこの上ない。
いつか彼が奥さんと別れて私を選んでくれる。そう信じて借りた、この3LDKのマンション。叶えられるはずのない願い。一人には広すぎて、寂しすぎて、悲しすぎる。
ダメかな、もう。
いろいろなことが限界にきている。やってもやっても終わりの見えない仕事にも、ごみくずのような恋愛にも。
黒い小箱を手のひらに乗せたまま、なんとなく、泣いた。どこで間違えたんだろう。なにが悪かったんだろう。がんばってるんだよ、わたし、これでも。
八つ当たり気味に小箱を壁に投げつける。箱のふたが壊れ、砂のようなものがサラサラとこぼれ落ち、妙な匂いが部屋中に広がった。
くせのあるスパイスのような?上司が吸っていた葉巻のような?わからない。そんなことを思っているうちに奇妙な匂いが体の奥深くまで染み込んできた。少し気分が悪くなって、床にうずくまる。呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が速くなる。意識がぼんやりと遠くなり、視界が霞む。これは・・・なに・・・?
こんなところで、ひとり寂しく死ぬのかしら。まあ、それでもいいや。どうせくだらない人生だったもの。
生への執着をあきらめた瞬間、今度は体の中心が考えられないくらいに熱くなってきた。お腹のまわりから腰、そして・・・その、恥ずかしい部分がぐんぐんと熱を帯び始めた。全身が汗にまみれて、苦しいほど暑くて、わたしは床を這いずりながら身に着けていたものを引き剥がすようにして脱ぎ、全裸になった。
真冬の、雪でも降りそうなこんな夜に、暖房ひとついれていないこの部屋がどうしてこんなに暑いの?この苦しさは何なの?
苦しい。苦しい。心臓がぎゅうぎゅうと締め付けられる。体中から汗が噴き出す、。
混乱と恐怖、そして股間にある熱い快感。そんなことをしている場合じゃないのはわかっているのに、たまらない気持ちになってわたしはその熱くなった部分に指を這わせた。
心臓の鼓動は異様なスピードで打ち続ける。指には自分の粘液が絡みつきぐちゅぐちゅと音を立てる。そこから漂う潮の香り。気持ちいい。苦しい。中指と人差し指を挿入する。
「ああっ・・・!!」
痺れるような快感が体を貫いた。死んでしまいそうな苦しさの中で、自分の指が与えてくれる快楽に溺れた。やめられなくなり、さらに奥へと指を挿れて激しく動かした。足りない、これじゃいけない。もっと欲しい、もっと欲しい。
そのとき、あの黒い箱から。
触手たちが、ずるずると這い出してきた。
熱に浮かされたようなぼんやりとした意識の中で、わたしはソレらに犯されたのだ。
最初は女性器だけを執拗に責められた。入口からその中、膣壁からさらにその奥にある子宮口までを徹底的に嬲られ、触手の先から出る熱い液体を体の奥に大量に放出された。体内から流れ出てきたソレは白く濁っていて、男性の精液にも似たにおいがした。
泣いても、叫んでも、その責めは終わらず、やがてわたしが失神してしまい、気がつくと朝になっていた。
そして、不思議なことに、わたしはいつものパジャマをきちんと着て、いつものようにベッドに寝ていた。
夢でも見たのだろうか。
そう思っていたのだけれど、触手たちはそれから夜毎にわたしを犯しにやってくるようになった。机の上に置かれた、黒い小箱の中から。
夢なのか、現実なのか、なにもわからない。
けれども、いま、わたしはこの触手たちに弄られることに夢中だ。
今夜もこうして触手たちはわたしの体を楽しんでいる。こうしていれば、恋愛のように傷つくことも無い。もう男なんていらない。
ああ、また。何度目かの触手たちの射精を、わたしは体の奥で受け止める。こうしているうちに、やがて彼らの子を孕んでしまうことがあるのだろうか。
それならそれでかまわない。無数のイソギンチャクたちに囲まれて永遠の責め苦を受ける。その自分の姿を想像して、その快楽の深さを妄想して、今夜もまた意識が暗闇の底へと飲みこまれていった。
(おわり)