マイマイのひとりごと

自作小説と、日記的なモノ。

【オリジナル官能小説】聖夜の秘めごと【GL(百合・3P)】

2017-12-17 16:43:09 | 自作小説
平凡なOL詩織には、特別な美貌を持った友人がふたりいる。
子供の頃から、毎年クリスマスイブだけは一緒に過ごすと約束をし、その約束は28歳になったいまも守られ続けている。
美しく裕福なふたりにコンプレックスを抱く詩織。
ところが、彼女たちは詩織の知らなかった秘密を抱えていた……

みたいな話です。
今回も原稿と原稿の間で遊んでた。
思うままに書いたらなんだかずいぶん陰惨な話になってしまったかも。

3Pというには性描写がぬるく、いろいろ中途半端ですがなんでもOKな方は暇つぶしに読んでやってくださいませ。

・・・・・・・・・・・・・・・・

『聖夜の秘めごと』

 パチッ、と暖炉の薪が爆ぜた。
 ちらちらと燃えているオレンジ色の炎は見た目以上に温かく、外は吹雪だというのに少しも寒さを感じない。
 ずっとここにいられたらいいのに。
 水瀬詩織は床の上で膝を抱え、揺らめく炎の様子をいつまでも飽きずに眺めていた。

「詩織ちゃん、そんなところで何してるの?」
 月浦沙耶が不思議そうに首をかしげながら、詩織の真正面にぺたんと座って顔をのぞき込んできた。
 くりっとした大きな瞳に小さな桜色の唇、それにふんわりとした栗色の巻き毛も、子供のころから変わらない。
 こうしてパーティー用の華やかな赤いドレスを着ていると、映画の中に出てくるプリンセスのように可愛らしく見える。
 詩織は自分の着古した濃紺のワンピースを少し恥ずかしく思いながら、再び暖炉に視線を戻した。
「だって、本物の暖炉なんて初めてだから。暖炉がある別荘に、しかもクリスマスイブに招待してもらえるなんて本当に夢みたいで」
「そう? わたしはこんな山小屋みたいなところより、本当は都心のホテルとかのほうが良かったなあ」
「山小屋で悪かったわね、沙耶はいつだって文句ばっかり言うんだから。去年はホテルだったけど、雪が見られないなんてつまらないって騒いでたでしょ。詩織、そんな子は放っておけばいいからもっと飲んで」
 不満そうに口をとがらせる沙耶の頭を軽く叩きながら、須波晶がグラスを差し出してきた。
 ほっそりとした指先、長い爪には凝ったネイルアート。
 体にぴったりと沿うホルダーネックのドレスは光沢のある黒で、長身の晶によく似合う。
 屈んだ拍子にさらりと肩に流れる艶やかな黒髪、ややきつい印象のある切れ長の目元も含めて、『美人』という言葉は彼女のためにあるのではないかと詩織は常々思っている。
 皆に愛される可愛い沙耶と、どこにいても周囲の人々の視線を集める美しい晶。
 特別な彼女たちと一緒にいられる時間だけは、絵に描いたように平凡で地味な自分も彼女たちの仲間入りできたような気がして気分が上がる。
 やっぱり、今年も来てよかった。
 楽しそうにじゃれあうふたりの間で、詩織はワイングラスの中身をちびちびと舐めながら微笑んだ。
 
 詩織が彼女たちと知り合ったのは、もう15年も前のことになる。
 転勤族の父親に連れられてあちこちの地方を転々としていた時期、2年間だけ通った中学校。
 そこはお金持ちの子女ばかりが通うような学校で、ただのサラリーマン家庭の詩織は明らかに浮いていた。
同じクラスにいた沙耶が何かと気遣って声をかけてくれたのが始まりで、沙耶の幼馴染だという晶とも自然に話すようになった。
『ここの子たちはみんな同じでつまらないの』
『詩織ちゃんはすごく面白い子ね。わたし、あなたとお友達になりたい』
沙耶がそんなふうに言っていたのを詩織はいまでも覚えている。
 面白い、と言われたのが嬉しかったのかもしれない。
 勉強もスポーツも得意で常に皆の先頭に立っていた晶、勉強は苦手だったが持ち前の愛嬌でクラスの雰囲気を盛り上げるのが上手だった沙耶。
 当時から彼女たちは見惚れるほど美しく、生徒たちの中でも飛び抜けて目立つ存在だった。
 詩織は容姿も成績もいまいちパッとせず、本を読むのが好きなくらいで他に何の特技もない。
 誰が見ても沙耶や晶とは不釣り合いだったが、ふたりともなぜか昔からの友達のように何をするにも詩織と一緒にいてくれた。
 だからその学校にいた間、寂しいと感じたことは一度もない。
 放課後は遅くまで教室でおしゃべりをし、休日には彼女たちの暮らす豪邸に招待してもらい、パジャマパーティーと称してお泊り会をしたこともあった。
 話題は学校の先生たちやクラスメートのちょっと毒のある噂話や、沙耶の恋愛話、将来の夢。
 沙耶は当時から恋多き少女で、誰かに告白されたといっては大騒ぎし、その後で付き合ってみると『つまらない男だった』とすぐに別れて愚痴を言う。
 晶は恋愛には興味がないらしく沙耶の話を適当に聞き流し、学校を卒業したら家を出て自分で会社を興したいという夢を語り、詩織は自分には想像も及ばないふたりの話に目を輝かせて聞き入っていた。
 慣れてくるにつれてわかったのは、沙耶には我儘で融通のきかない面があり、晶は興味のある人間以外に対しては恐ろしく冷淡な態度をとるところがあるということ。
 それもまた詩織の目には、ふたりの魅力的な個性であるように映った。
 2年間は瞬く間に過ぎ、詩織が遠く離れた場所へ引っ越すと決まった日。
沙耶はびっくりするほど大きな声をあげてわんわん泣き、晶は沙耶を慰めながらただ寂しげに微笑んだ。
 それはちょうどクリスマスの1ヶ月前で、今年も一緒にパーティーをしようと約束していたのがダメになってしまう、と思うと詩織は残念で仕方がなかった。
 ごめんね、とつぶやくと沙耶は涙に濡れた顔を上げ、
『だいじょうぶ、わたしたちが会いに行くから。これからも、ずっとクリスマスパーティーだけは一緒にやるの』
 と、しゃくりあげながら言った。
 晶も『うん、そうしよう。絶対に行くから』と約束した。
 もちろん、詩織はそれを本気にしたわけではない。
 よくある転校していく友人へのお愛想のようなもので、これまでも似たようなことを言われた経験が何度かあったが、実際には誰一人として引っ越し先まで会いに来てくれた友人などいなかった。
 だからまったく期待していなかったのに、その年のクリスマスイブ、彼女たちは本当に詩織のところまで会いに来てくれたのだ。
 予想外の出来事に詩織は感動して泣き崩れ、ふたりはそれを支えながら『毎年会いに来るよ』と笑った。
 それ以来28歳になる今年まで、クリスマスイブの夜は毎年3人でどこかに集まってささやかなパーティーをするのが恒例行事のようになっている。
 今年の会場は晶の親が所有しているスキー場の近くにある別荘で、沙耶は山小屋だというが、詩織から見ればちょっとした城のように豪華で洒落たデザインの建物だった。
 こういうときどれだけ月日が過ぎても、あいかわらず彼女たちはお嬢様で詩織は庶民なのだと思い知らされるようで寒々しい気持ちになる。
 実際、詩織は中小企業に勤める薄給のOLで面白くもない仕事に心身を削られる毎日だが、沙耶は父親の会社で名ばかりの役員職をもらいながら旅行三昧の日々を送り、晶は自分で立ち上げた会社で目覚ましい成功を収めているらしい。
 いまだにどうしてふたりが自分なんかとの約束を守り続けてくれているのか、詩織にはさっぱりわからなかった。
 普段はさほどべったりとした付き合いはなく、会うのも1年に一度きりだったが、それも友情が長続きするためにはちょうどいいペースだったのかもしれない。
 あるいは、お嬢様たちの気まぐれなのか。
 詩織がぼんやりとそんなことを考えていると、ふいに腕を引っ張られた。

「詩織ちゃん、暖炉ばっかり見てつまんない。ねえ、ツリー見てよぉ。せっかくキラキラに飾り付けしたんだからぁ!」
 酔っているのか頬をリンゴのように赤くした沙耶が、詩織の腕にしがみつきながら後ろを指さしていた。
 2階まで吹き抜けになったリビングルームの中央に置かれた、巨大なクリスマスツリー。
 一番上には金色の星、それぞれの枝の先にはカラフルなボールやぬいぐるみのようなものが結び付けられ、点滅する電球が赤や青に色を変えながら煌いている。
 壁際には派手な包装紙とリボンにくるまれた大小さまざまなサイズの箱が、ショーウインドウのディスプレイのように積み重ねられていた。
 綺麗でしょ、すごいでしょ、と自慢げに言う沙耶を見ながら、晶がおかしそうに笑った。
「沙耶は邪魔しただけじゃない。ツリーも部屋の飾り付けも、全部業者がやってくれたんだから綺麗で当たり前でしょ」
「そうだっけ? まあ、どっちでもいいじゃん。とにかくパーティーなんだから、もっと楽しまなくちゃ」
 沙耶は詩織の腕をつかんだままフラフラと立ち上がり、クリスマスソングを歌いながら適当なステップを踏んで楽しそうに踊り始めた。
 晶はすぐ横に置かれた三人掛けのソファーの右端に腰を下ろし、あきれ顔でワイングラスを傾けつつも沙耶と一緒になって歌っている。
 つられて立ち上がってみたものの、沙耶のように踊るのはなんとなく気恥ずかしく、迷った末に詩織は晶が座っているソファーの左端に座った。
 遠慮がちに隅に寄ろうとする詩織に、晶がちらりと優しい視線を向けてくる。
「あの子、飲み過ぎよね。ひとりでボトル1本あけちゃうなんて。詩織の分まで飲んじゃったんじゃないの?」
「いいのよ、わたしはグラス1杯で酔っちゃうから」
「詩織って、本当にいつまでも変わらないのね。真面目で慎み深くて。そういうところ好きだけど、三人だけのときくらいハメをはずしてもいいのよ」
「あ、ごめん。なんだか、わたしだけ場違いな気がして。毎年ね、ちょっと思うの」
「思うって、何を?」
「わたしのこと、無理して誘ってくれてるんじゃないかって。晶ちゃんと沙耶ちゃんは同じ世界に住んでる気がするけど、わたしはそうじゃないから」
 彼女たちが連れてくる贅沢で素敵な空気感は大好きだけれど、自分には似合わない。
 何年たってもそんな気持ちがつきまとう。
 くだらないコンプレックス。
 詩織のつぶやきに、晶がちょっと怒ったような顔をした。
「住む世界が違うなんて馬鹿なこと思わないで。わたしたち、友達でしょ?」
「ううん、苦手だなんてそんな……ただ、なんていうか、ふたりを見ているとわたしなんてすごくつまらない人間に思えてきちゃう」
「詩織はつまらなくなんかないわよ。わたしも沙耶も形は違うけど、結局は親から離れられずに生きてるの。でも詩織は自分ひとりできちんと生活できているでしょう? それってわたしたちから見ればすっごくカッコいいんだから」
 カッコいい、と言われて複雑な気分になった。
 晶は現実を知らないからそんなことが言えるのだ、と詩織は思う。
 職場ではやりがいのない単純作業のような仕事ばかり押し付けられ、実家には要介護の父親、将来を考えると経済的にも不安で、恋人もおらず結婚できる見込みもない。
 年々状況は悪くなる一方で、ときどき何のために生きているのかわからなくなってくる。
 とてもカッコいいなんて思えない。
 詩織は小さくため息をついた。
 沙耶はもはや詩織たちのことなど目に入っていないようで、見えない観客に手を振りながら大胆に腰を揺らして踊っている。
 赤いドレスの裾が、風に舞い散るバラの花弁のようにひらひらとして綺麗だった。
「わたしは晶ちゃんたちがうらやましい。中学生のときからずっと、沙耶ちゃんや晶ちゃんみたいになりたいって思ってた」
 彼女たちはいつだって綺麗で、世の中のあらゆる悩み事とは無縁のように思える。
 そうこぼす詩織に、晶は意味ありげな視線をよこした。
「わたしたち、綺麗なんかじゃないわ。上手に隠しているだけで、誰にも見せられないくらい汚いところもあるのよ」
 悩みのない人間なんて、この世のどこにもいない。
 晶の言葉が妙に重々しく響く。
 そういえば、こうして晶とふたりで話す機会はこれまでほとんどなかった。
 いつも間に沙耶が割って入り、話題を引っ掻き回して笑いに変えていく。
 詩織は何を言えばいいのかわからなくなり、機械仕掛けの人形のように踊り続けている沙耶を見ながら話題を変えた。
「沙耶ちゃんと晶ちゃんは、小さいころからずっと友達なの? 例えば、幼稚園とか、小学校とか」
「沙耶とは幼稚園から高校までずっと一緒だったからね。友達っていうか、姉妹みたいな感覚かな。わたしがお姉さん、沙耶が妹」
「あはは、それはわかる。沙耶ちゃんは甘え上手だもんね」
「そう、甘えっ子で馬鹿っぽいでしょ? まあ、実際あまり賢くはないかもしれないけど、あの子もそれなりに抱えているものがあるのよ」
 抱えていた、かな。
 そう言い直してグラスにワインを注ぎ足す晶の目は、どこか暗く沈んでいるように見えた。
 あの沙耶が悩みを抱えている?
 野次馬的な興味が湧いた。
 だけど、詩織が聞いてもいい話なのかどうかが判断がつかない。
 迷う。
 詩織が何か言うよりも先に、晶が口を開いた。
「聞きたいんでしょう? そんな顔してる」
「え……いいの?」
「詩織は友達だもの。でも、後悔しないでね」
「後悔?」
「約束して。何を聞いても、わたしたちはずっと友達のままだって」
「も、もちろんよ。何があっても、わたしたちは」
 なぜだか、その先が言えなくなった。
 ごうごうと風の音が強くなり、白い雪が窓ガラスに叩きつけられていく。
 暖炉の火はまだ赤々と燃えている。
 そして沙耶は掠れた声ででたらめな曲を歌い、けらけらと笑いながら壊れた玩具のように踊り狂っている。


 ああ、わたしも少し酔ったみたい。
 晶がほんのりと上気した頬に手の甲を当てた。
「沙耶の話はどこまで知ってる?」
「どこまでって……恋愛の話とかはよく聞かされたけど。デートがつまらないとか、そんな話」
 それも学生時代までのことで、ここ数年は個人的な話などひとつも聞いたことがない。
「お兄さんたちの話は? 沙耶より四つ上の、ものすごく出来のいい双子の兄弟」
「沙耶ちゃん、お兄さんがいるの? わたし、ずっと一人っ子だと思ってた」
「いるわよ。地元の人はみんな知ってる。でも、ちょうど詩織がいた頃は留学してたのかも。辞書くらいの分量ならページをめくっただけで簡単に暗記できるし、理系の複雑な問題でも一瞬で理解して誰も考えつかないような方法で解いて見せたり、とにかく普通じゃなかった」
「すごい、天才なのね」
「まさに天才よ。沙耶の父親は製薬会社の社長なんだけど、ご両親も自慢に思ってたのね。兄弟の才能をさらに伸ばしてやるために欲しがるものはなんでも与えたの」
 彼らの勉強に必要な参考書、優秀な家庭教師を雇うのは序の口で、海外留学がしたいといえば好きなだけ行かせ、実験室が欲しいといえば自宅の敷地内に頑丈な別棟を建て、合法的に手に入る薬品はすべてそろえてやった。
 その成果なのか、兄弟は互いに競い合いながら高校生の頃にはいくつか実際の治療にも有効な薬を完成させ、さらに両親を喜ばせた。
 誰もが称賛する兄弟。
 彼らは沙耶によく似た愛らしい容姿を持ち、人前ではひかえめで穏やかな態度をとり、決して自分たちの能力をひけらかすような真似はしなかった。
 ただし。
 輝かしい光の裏側には、必ず濃厚な影の部分が存在する。
 彼らの抱えていた暗闇は、すべて妹の沙耶に向けられていた。
 最初は、他愛ない悪戯のようなものから始まった。
 兄弟が沙耶の髪を引っ張り、彼女が泣くのを見て面白がる。
 あるいは、駆け寄ってきた沙耶の足をわざと引っ掛けて転ばせ、痛がる様子が面白いといって笑う。
 そのたびに沙耶は『おにいちゃんたちが意地悪をする』と両親に泣いて訴えたが、どうせふざけて兄弟の勉強の邪魔でもしたのだろう、と逆にいつも沙耶の方が叱られた。
 悪戯は年々過激になり、馬鹿なおまえには必要ないと勉強道具を燃やされたり、両親が仕事で帰りが遅い日には理由もなく叩かれたり蹴られたりした。
 兄弟が中学を卒業するころになると、彼らが遊び半分に作った得体のしれない薬を飲まされ、洋服を脱がされて痣だらけの体をまさぐられ、ペットのように首輪をされて全裸のまま朝まで実験室の隅に放置されることも増えた。
 沙耶が泣けば泣くほど、兄弟は楽しそうに笑う。
 誰かに言えばもっと痛い目に遭わせてやる、と脅された。
 両親は気付かないふりをした。
学校の先生も頼りにならない。
 沙耶が助けを求めたのは晶だった。
 晶が初めてそのことを沙耶に打ち明けられたのは、まだ詩織と出会う少し前のことだったという。
「信じられなかった。だって、お兄さんたちはすごく優しそうだったし、全部沙耶の妄想か何かじゃないかって。それに事実だったとしても、こっちもまだ子供で、どうしてあげればいいのかさっぱりわからなかった」
 だから、ひたすら沙耶の話を聞き続けた。
 何をされたのか、どれほど嫌だったか。
 毎日、毎日。
 学校では、沙耶はいつも明るく笑っていた。
 そうしていれば、少なくとも学校でだけは楽しい人気者でいられるから。
 晶はいつ壊れるかもわからない彼女を支え、見守る役目を引き受けていた。
 暗く長いトンネルに放り込まれたような日々。
 そんなときに出会った詩織は、果てしなく広い外の世界を垣間見せてくれた。
 いつか大人になれば、詩織のように自由になれるかもしれない。
 逃げ場のない秘密に押し潰されそうだった彼女たちにとって、詩織は希望の象徴だった。
「晶ちゃん……」
 晶はさほど表情を変えることもなく、壮絶な話を淡々と語る。
 沙耶は調子の外れたクリスマスソングをハミングしながら、いつのまにか赤いドレスを脱いで下着姿になっていた。
 両手を腰に当て、とろんとした目つきで尻を振る。
 女性らしくくびれたウエストを詩織たちに見せつけるように。
 彼女が華奢な肢体をくねらせるたび、意外なほど豊満な胸がドレスと同じ赤いブラジャーに包まれながらたぷんたぷんと揺れている。
 せつなくなるほど真っ白な肌には、ところどころに古い傷跡が残っていた。
 とてもまともに見ていられない。
 息苦しさを感じる緊張感が部屋に満ちていく。
 口の中に異常な渇きをおぼえ、詩織はグラスに残っていたワインを飲み干した。
 晶は驚いた様子もなく、冷めた瞳で半裸の沙耶を眺めている。
「高校を卒業する少し前だったかな、真夜中に沙耶が電話してきたの。いますぐ、どうしても会いたいって」

 電話の声は取り乱していて、明らかに様子がおかしかった。
 とても正面からまともに訪ねていけるような時間ではない。
 それに、誰かに見つかってはいけないような気がした。
 親たちに知られれば、兄弟の耳に入る。
 そうしたらまた沙耶が酷いことをされる。
 可哀そうな沙耶。
 守ってあげられるのはわたしだけ。
 沙耶の自宅についた晶は高い門をよじのぼり、真っ暗な庭を抜けて一階の端にある沙耶の部屋の窓ガラスを叩いた。
 返事がない。
 窓は開いていた。
 晶は音をたてないように気を付けて窓の開口部から体を滑り込ませ、薄暗い室内に入り込んだ。
 学習机の蛍光灯だけがつけっぱなしになっている。
 開いたままの参考書とノート、その上に破れた制服のブラウスとちぎれたリボンが置かれているのが目に入った。
 倒れた椅子の脚には肌色のストッキングと白い下着が引っかかっている。
 沙耶、と小声で呼んだ。
 晶ちゃん、と震えた声が返ってきた。
 振り向くと、ベッドの端に全裸の沙耶が横たわっていた。
 声は泣いているのに顔は微笑んでいる。
 唇は切れて血が滲み、体は青痣だらけだった。
 わずかに開かれた両脚の間には、白い液体が大量にこびりついている。
 何があったのかはすぐにわかった。
『ここがね、痛いの。熱くて、痛い』
 力のない手で、沙耶は自身の股間を撫でている。
 猛烈な怒りと悲しみで、晶はしばらく動けずにいた。
 いつかこうなると頭のどこかでわかっていた。
それなのに助けてあげられなかったことが悔しかった。
 とにかく、何かを着せてあげなくちゃ。
 晶がコートを脱いで沙耶にかけてやろうとして近づくと、沙耶は晶の手を握って自分の方へと引き寄せた。
 はあ、はあ、と乱れた息遣い。
 熱いの、撫でて。
 いい子にするから。
 もう痛いのは嫌。
 母親に甘えるようにしがみついてくる沙耶を抱き締め、晶はぐちゃぐちゃに乱れていた沙耶の髪を指で梳いてやった。
 彼女の体は火傷しそうなほど熱かった。
 涙がこぼれた。
 沙耶は泣いていない。
 笑っている。
 笑い声に、ときおり喘ぐような声が混じる。
 沙耶は爪を立てて引っ掻くようにして乳首をいじり、赤く腫れた陰部に指を差し入れていた。
 自慰をしているのだとわかった。
 晶は感覚が麻痺してしまったように、何も感じなかった。
 やがて、沙耶は晶の手を求めた。
 晶の指に自分の硬くなった乳首を触れさせ、もう片方の手を濡れた秘部に導いた。
 求められるまま、晶は沙耶の望むように指を動かした。
 小さな突起をつまみ、指先で転がし、しっとりと湿った秘裂の内側を優しく擦った。
 淫らな声をあげ、腰を揺らしながら、沙耶は『こういうことをされるのは初めてじゃない』という意味のことを口走った。
 もうずっと前から。
 毎晩、寝る前に粒状の錠剤を飲まされる。
 すると体が熱くなってきて、兄弟に触られるのが嫌だと思わなくなる。
 男のアレが入ってきても、気持ちわるいと感じなくなる。
 その瞬間は頭がおかしくなるほど気持ちいい。
 けれど、満たされたふたりが部屋を出て行った後は、恐ろしいほどの吐き気と罪悪感に襲われる。
 今夜は特にそれが酷かった。
 ひとりでは耐えられそうになかった。
迷惑をかけるつもりはなかったけれど、電話をしてしまった。
 いまも、どうして自分がこんなことをしているのかわからない。
 だけど、気持ちいい。
 やめられない、やめてほしくない……。
 胸を掻き毟られるような沙耶の独白。
 晶はひとりでそれを受けとめた。
 その夜は沙耶が寝入ってしまうまで彼女を腕に抱き、ぎこちない愛撫を続けるしかなかった。
 それからしばらくして兄弟は海外で起業することになり、沙耶の家から出て行った。
 兄弟から解放された後も、沙耶はたびたび晶を部屋に呼び入れては愛撫をせがむようになった。
 晶は拒まなかった。
沙耶を相手に舌を絡めたキスをし、彼女が気持ちよくなれる場所を探して刺激した。
 そうすれば沙耶が安心したように微笑むからだ。
 特に強いストレスを感じた日、沙耶は自分の背中や尻を叩いてほしいとせがむ。
 強く叩きながら、いやらしいことをしてほしい。
 虐めてほしい。
 晶は沙耶の言う通りに、彼女の尻を何度も平手で打ち据え、他人には聞かせられないような言葉で沙耶をなじった。
 すると沙耶は普通のやり方よりもずっと早く絶頂に達し、そんな沙耶の姿を見るにつけ晶自身も歪んだ性の悦びを感じるようになった。
 秘密の行為は日常化し、暇さえあれば沙耶は晶を自室に呼ぶ。
そして晶に兄弟たちの代わりを演じさせ、狂った快感に溺れていく。
お互いの家族は、間違いなく娘たちの関係に気付いている。
でも、何も言わない。
 黙っていれば、誰も知らないことにしておけば、平穏な生活が壊れることはない。
 そう信じているかのように。
 
「沙耶は趣味であちこち旅行してるわけじゃないのよ。あれは沙耶のママがね、わたしから引き離すために無理やり連れて行ってるだけ。毎回失敗して、その日のうちに帰ってくるけどね。それにわたしも本当は会社経営なんてしてないの、全部父親が考えた作り話。だって、いい年の娘が昼間から女の子とそういうことしてるなんて、外聞が悪いもの」
全部、嘘ばかり。
ハリボテの現実。
嘘に嘘を重ね過ぎて、いったい何が真実なのか自分たちでさえもわからなくなっている。
 晶の声は何を話していてもトーンが変わらない。
 それが詩織を不安にさせる。
 どうして平気な顔でいられるの。
 どうして、こんな話をわたしに聞かせるの。
 室内は温かいはずなのに、寒気がおさまらない。
 踊り疲れたのか、沙耶が下着姿のままふらふらとよろけながら近づいてくる。
 床に置きっぱなしになっていたワインボトルが倒れ、半分ほど残っていた中身が沙耶の足を濡らした。
 沙耶は気にもとめていない。
 ぺたり、ぺたり。
 雪のように白い脚、赤い足跡。
 口ずさんでいるのは、歌にもなっていない不思議なメロディー。
「楽しいね、晶ちゃん」
 にこにこと微笑みながら、沙耶が膝から崩れるように晶の足元にへたり込んだ。
 苦しい、といってブラジャーを外そうとしている。
 詩織は焦ったが、晶は止めもしない。
 ぷちん、と背中の金具が外れ、豊かな乳房がふるりとこぼれ出た。
 見てはいけないと思うのに、きめ細やかな肌と小さな桃色の乳首に視線が吸い寄せられる。
 身に着けているものが少なくなるほど、沙耶の愛らしさは際立っていく。
 晶と沙耶がむつみあう姿が脳裏をよぎる。
 ほんの一瞬、沙耶の柔らかそうな体に触れてみたいと思った。
 その体温をこの手に感じてみたいと思った。
 慌ててその考えを打ち消す。
 わたし、いったい何を。
 今夜は何もかもがおかしい。
心臓の鼓動が速まっていく。
むせかえるようなワインの香り。
 高い位置で組んだ晶の長い脚に、沙耶がぺったりと体を寄せて頬ずりしている。
 うっとりとした表情。
 沙耶の右手は、彼女自身の両脚の間をそろりそろりと撫でている。
「ここ、熱いの。ねえ、すごく、あつい」
「悪い子ね、沙耶。自分で触っちゃダメだっていつも言ってるでしょう?」
 晶の突き放すような口調に、沙耶は泣き出しそうな顔になって首を振る。
 右手の指先は下着の内側に潜り込み、さらにその奥を触っているようだった。
「だって、気持ちいいの。ここ、ぐちゅぐちゅって……」
 はあ、はあ、と沙耶の呼吸が乱れていく。
 大きく開かれた太ももの狭間から、粘りつくような蜜音が聞こえてくる。
 それでも物足りないのか、沙耶は左手で乱暴に自身の乳房を揉みしだいている。
 すべてが夢の中の出来事のようで、まるで現実感がない。
 晶は動揺する素振りも見せず、ただ艶然と笑っている。
「びっくりしたでしょう? いつもはふたりきりのときにしか、こんなことしないんだけどね。今夜は特別なの、許してあげて」
「と、特別?」
「そう。沙耶にとって最高に素敵なことがあったの。そうでしょ? 沙耶」
 沙耶はもう何も聞いていないようだった。
 床に寝そべり、顔を赤くしながら夢中になって淫液に潤んだ性器をいじっている。
 だらしなく半開きになった唇からは涎を垂らし、ぶつぶつと何かを呟きながら。
 その声にときおり、おにいちゃん、という言葉が混じる。
 晶と目が合うと、嬉しそうに目を細める。
 詩織は息もできないほどの胸苦しさを感じた。
「い、いいことって?」
 詩織の問いかけをさらりと無視して、晶は自慰に耽る沙耶の足をソファーに座ったまま軽く蹴った。
 沙耶は大げさなほどびくりと身を震わせ、怯えたような表情で手を止めた。
「いい加減にしなさい、詩織が見ているのよ」
「あ、あ……ごめんなさい、怒らないで、痛いのは嫌、怖いの、こわい」
 背中を丸め、両手で体をかばうような仕草。
 いやらしい沙耶、可哀そうな沙耶。
 とっさに抱き締めてやりたいような衝動に駆られる。
 彼女が満たされるまで、自慰の続きをさせてやりたいと思ってしまう。
 沙耶に手を差し出しかけた詩織を見て、晶が意地の悪い笑みを浮かべた。
「沙耶、詩織が教えてほしいんだって。沙耶の大好きな、気持ちいいこと」
「詩織、ちゃん?」
 沙耶の虚ろな瞳が、ゆっくりと詩織に向けられた。
 いま初めて、そこに詩織がいるのを思い出したかのように。
「詩織ちゃん、大好き」
 無邪気な笑顔。脈絡のない言葉。
 白い肉体がゆっくりと起き上がり、這いずるようにして詩織の脚にしなだれかかってくる。
 沙耶の肌は、暖炉の炎のように熱かった。
「詩織ちゃん、抱っこして。いい子にするから、ねえ」
 小枝のように細い腕が、詩織に向けて伸ばされている。
 どうしたらいいのかわからなかった。
 晶は何も言わない。
 詩織が動けずにいると、沙耶は「お願い、お願い」と繰り返しながら詩織のワンピースの裾を捲り上げて膝に唇をつけてきた。
 やんわりと両膝の間が押し割られていく。
 やめさせたいと思うのに、酒のせいなのかうまく力が入らない。
 膝から太ももの内側へと、沙耶が顔の位置を上げていく。
 詩織には、まだ異性との経験が一度もない。
 他人にそんなところを見られるのも触れられるのも、生まれて初めての体験だった。
 恥ずかしい、くすぐったい。
 頬が熱い。
 沙耶の手が下着に触れてきたとき、詩織はたまらず声をあげた。
「い、いや……やめて、やめさせて、晶ちゃん!」
「どうして? 沙耶は上手よ、愉しませてもらえばいいじゃない」
 晶は沙耶を止めるどころか、詩織の背中のファスナーを引き下ろしながら、うなじや肩に指先を滑らせてくる。
 そしてさらに鎖骨をたどり、ブラジャーの上から大きさをたしかめるような手つきで胸を撫でていく。
 その間にも、沙耶は詩織パンティーを剥ぎ取り、両脚の付け根あたりに濃密な口づけを繰り返してくる。
 痛いのとも、こそばゆいのとも違う、ぞくぞくするような感触。
 頭の芯が、じん、と痺れていく。
 抵抗しようと思えばできたはずなのに、詩織はされるがままになっていた。
 秘部の周囲にちろちろと舌を這わせながら、沙耶が楽しそうに笑う。
「詩織ちゃんのここ、かわいい。ピンク色で、ヒクヒクってしてる」
「や、やだ……だめ、沙耶ちゃ……あっ……」
 ねっとりとした温かな舌先が、詩織の割れ目をゆっくりと上下に舐め上げていく。
 ぴちゃ、ぴちゃ、と濡れた水音が聞こえる。
わたし、いったい何をされているの?
 どうして、こんな。
 気が狂いそうな羞恥。
 ぞわぞわと迫りくる快楽の予兆。
 下腹の奥が燃えるように熱く疼いている。
「だ、だめっ、もう……んんっ……!」
 思わず背中を反らせた拍子にワンピースの布地が肩から落ちると、下着の中にまで晶の指が潜り込んできた。 
 乳首の先端に直接触れられると、微弱な電流を流し込まれたような衝撃が背筋を駆け抜けていく。
 自分の意志とは無関係に、びくん、びくん、と体が跳ねる。
 耳元に、叱責するような晶の声が注ぎ込まれていく。
「詩織ったら真面目な顔してるくせに、もう乳首ビンビンじゃない。わたしの話を聞いて興奮しちゃった? それとも沙耶のオナニー見てその気になったの?」
「そ、そんな、わたし」
 返す言葉が思いつかない。
 口ごもっているうちに下着が強引に押し上げられ、ささやかな胸のふくらみが剥き出しにされていく。
 青白い乳肌の先端で、そこだけは赤みを帯びた乳頭がぷっくりと大きく張りつめている。
 晶の美しい爪が、嬲るように小さな突起を擦り立てていく。
 胸の先からとろとろと甘い快感が染み込んでくるようで、詩織はいつしか自分でも気付かないうちにはしたない喘ぎを漏らしていた。
 こんなことされたくない。
 性的なことは考えるのも不潔な気がして、これまで友人同士の間でも話題にすることすら避けてきた。
 なのに、どうして。
 体が蕩けていく。
 頭がおかしくなりそうなほど気持ちいい。
「ん……おいしい、詩織ちゃんのおま×こ……すごくエッチで、かわいい……」
 沙耶はぴちゃぴちゃと音を鳴らして詩織の恥ずかしいところを舐めまわしながら、指で陰唇を押し広げ、隠れていた小さな肉芽に唾液を塗り付けてくる。
 剥き身にされたクリトリスが、ちゅうちゅうと音を立てて吸われていく。
 濡れた膣穴の入り口を、何本かの指でこじ開けられ、粘膜の襞をそろそろと撫でられていく。
 言葉にならないほどの強烈な衝撃。
「い、いや……やめて、やめてえっ!」
 喉の奥から悲鳴のような声が放たれた。
 やめて、と叫びながらも、詩織はもっと舐めてほしいとでも言いたげに自ら腰を浮かせて自身の秘部を沙耶の口元に押し付けていた。
 じくん、じくん、と体の深いところが激しく疼いている。
 もっと、もっと欲しい。
 陰核に与えられる刺激が強まるほど、乳首への愛撫から得られる快感も深まっていく。
 視界の端でクリスマスツリーのライトが明滅している。
 壁際にはプレゼントの箱のディスプレイ、床にはワインの赤い染み。
 世界がくるくると回っている。
 詩織の乳頭をこりこりと揉みながら、晶が何かを囁きかけてきた。
「これで……ね」
 うまく聞き取れない。
 自分の呼吸音と、沙耶の唾液の音が邪魔をする。
「え……?」
「これで詩織も、本当の友達ねって言ったの。今夜のことはわたしたちだけの秘密よ。絶対に誰にも言っちゃだめ」
 詩織は曖昧に頷いた。
 そんなこと言われなくても、誰にも話せるはずがない。
 言ったところで、きっと誰にも信じてもらえない。
 沙耶は執拗に詩織の陰核をしゃぶり続けている。
 抉るように強く舌を絡めてくるかと思えば、優しく慈しむように舌全体で肉豆を包み込んでいく。
 絶妙な舌遣いに、意識が朦朧としてくる。
 ふいに、猛烈な尿意に似た感覚がこみあげてきた。
 それは詩織の下腹部を圧迫し、いまにも破裂しそうなほど急激に高まっていく。
「や、やだ、こんな……沙耶ちゃん、やめて、やめてえっ……!」
「あら、もうイッちゃうの? だめよ、詩織。その前に約束して」
 晶が痛いほどの力で、硬く勃起した詩織の乳頭を擦り上げていく。
 痛みは感じない。
 ただ、気も狂わんばかりの快楽が押し寄せてくる。
 まるで淫らな拷問を受けているようだった。
「あ、あっ……約束って……?」
「わたしたち、ずっと友達でしょう? 何があっても、仲良しでいてくれるわよね?」
「え、ええ……」
「さっき、沙耶の話をしたのを覚えてる? ろくでもない双子の兄弟の話」
 覚えている。
 一生忘れることはない。
 ふたりの男に凌辱される沙耶の姿を思い描いた。
 泣き叫ぶ沙耶の顔を想像した。
 なぜだか、じゅん、とあそこが熱く潤んだ。
「沙耶のおにいちゃんたちね、少し前に休暇で日本に戻ってきたの。相変わらず、ふたりは沙耶の体をオモチャにして、それで」
 今日、この別荘まで沙耶のあとをつけてきた。
『おまえの友達とも遊んでやる』
 晶の前で、兄弟は冗談とも思えない口調でそう言い放ったのだという。
 沙耶は真っ青になってふたりを止めようとしたが、兄弟はそれを振り切って二人がかりで晶に襲い掛かった。
 晶は自分が拒めば沙耶が酷い目に遭うと思い、特に抵抗もしなかった。
 ただ、もうすぐ詩織がやってくると思うと、それだけが気掛かりだった。
 一階の奥にある、キッチンの床。
 ひとりは晶の膣にペニスを捻じ込み、もうひとりは顔を押さえつけて無理やり彼のモノを咥えさせた。
 泣き喚く沙耶の声。
 それが止んだ次の瞬間。
 頭の側にいた男の体が、ぐらりと傾いて横倒しになった。
 腰を振っていた男は「あ」の形に口を開いたまま動かなくなり、そのまま床に崩れ落ちた。
 その後ろに、沙耶が立っていた。
もう泣いてはいなかった。笑っていた。
 手には、薪割り用の斧。
 兄弟の後頭部からは、鮮血が噴き出していた。
 晶は彼らの死体をバスルームまで引き摺っていき、バスタブの中に押し込め、その後で沙耶と一緒にシャワーを浴びた。
 取り乱した沙耶はいつものように晶の愛撫をねだり、相手をしてやるとほんの三十分ほどで正気を取り戻した。
「あとは詩織が見た通りよ。ねえ、わたしたち何か間違ってる? 悪いことをしたと思う?」
 詩織はやっぱり何も言えなかった。
 沙耶は飽きもせず、ぺちゃぺちゃと詩織の陰部を舐めている。
 手を伸ばし、沙耶の赤い頬を撫でてみた。
 沙耶は子猫のように喉を鳴らし、顔を擦りつけてくる。
 可愛い沙耶、綺麗な晶。
 晶の話が妄想でも、現実でも、どちらであってもいいような気がした。
 このふたりと一緒にいられるのなら、平穏な日常など捨ててしまってもかまわない。
 それよりも、彼女たちの特別な友達になれた喜びのほうが大きかった。
 わたしたちの間に、もう秘密はない。
 胸に置かれた晶の手に自分の手を重ねながら、詩織は燃え上がる刹那の快楽に身をゆだねた。

(おわり)


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