「俺はさ、おじさん、こう思うんだよ」と青年は続けた。「これから何かちょっと
したことがあるたびに、ナカタさんならこういうときにどう言うだろう、
ナカタさんならこういうときにどうするだろうって、俺はいちいち考えるんじゃねえかってさ。
なんとなくそういう気がするんだね。で、そういうのはけっこう大きなことだと思うんだ。
つまりある意味ではナカタさんの一部は、俺っちの中でこれからも生きつづけるって
ことだからね。まああんまりたいした入れ物じゃねえことはたしかだけどさ。
でも何もないよりゃいいだろう」
しかし彼が今話しかけている相手は、ただのナカタさんの抜け殻に過ぎなかった。
いちばん大事なものは、ずっと前にどこか別の場所に去ってしまっていた。
青年にもそれはよくわかっていた。
「海辺のカフカ」 第48章 村上春樹
猫と話せたナカタさんと星野青年のやりとり、好きでした(^^)