水が削ってできた 美しい岩の門の前に立つ
陽が空を渡る途中の ほんのわずかの時間
この場所に 一条のひかりが 差し込んでくる
木々が深呼吸する音が聞こえるほどの 深い静寂
小さな葉さえ ゆらりとも 動かない
そっと目を閉じたとき
遠くで鳴いていた虫の声がとぎれた
次の瞬間
からだが 網目のように すかすかになったような感覚に包まれる
どの位の時間 そうして立っていたのだろう
巨大な風の塊が あたりの葉を大きく揺らして
ものすごい勢いで私の身体を通り抜け
光のさす方へ 舞い上がっていった
目を開けて
左手の掌を開いてみる
当然のことながら 肉体はまだここにある
なぜか 悲しい笑みがこぼれた
この鎧を纏って やるべき事が沢山残っているのだ
この美しいみどりの渓谷を
自由に行き交う風になるまでには
余計なものを 振り落としていく日々に つる姫