☆つる姫の星の燈火☆

つる姫的夏の18切符の旅・まじめバージョン~天空のカメ~

   霧が昇る時

 

オオカミ様、いや

おお!神様!

お日様がうっすらと姿を現した。

時刻は8時前である。

切り株から立ち上がり、城の石垣がある方に戻った。

 

なんと、数少ないベンチを陣取っていたあの女子たちは、諦めて下山したようだ。

このオバサンはあの子の言葉に励まされて2時間待ったのに。

私は霧の向こうですでに高く昇っていたお日さまに向かって手を合わせた。

「ありがとうございます」

心でそうつぶやくと何故か涙腺が緩んだ。

 

ご来光は見れなかったが、充分だ。

すると、目の前の霧がいっせいに天に向かって流れ始めた。

 

麓の町が見えてくる。

まるで空に吸い込まれるように昇って行く霧の中

城址を上を下へと走り回ってよいスポットを見つけ

町や川や田んぼを見下ろし、ヤッホーと心で叫んだ。

その叫びは心の中で行ったり来たりした。

こだまでしょうか。

いいえ誰でも。

 

虎臥(とらふす)城と呼ばれたこの城のある山は、ほかの山から離れて聳えており

東西南北360度の大パノラマが望める。

天守台の標高は353.7mだそうだ。

関ヶ原の戦いののち廃城になったという。

言ってくれれば先祖の姫が別荘にして、この絶景を見ながら一升瓶をあけ

子孫の姫は入山料で大儲け。

その姫は庶民派なので、呑むのは第三のビールときたもんだ。

 

朝一で登ってきていた人たちは、どうやら下山してしまったようだ。

少ないグループなので面子がわかる。

入れ替わりに来た人たちも、朝が早い事でまばらである。

人気が出て入山制限になるほどの時もあると聞くが、

夏休みも終わった今、霧の古城跡の侘び寂びを感じることが出来た。

ちょうどこのタイミングで登って来る人もいたが

待ち続けた後で見下す景色は格別だった。

と思う事にする。

 

   人生は坂道

 

さて、時刻はまだ9時前だ。

9時37分の電車には十分間に合う。

霧中の旅も、開け行く景色も堪能したし

ゆっくり下山することにしよう。

 

それはそうと、朝早い時間で入山料を払う所には人がいなかった。

帰りに窓口が開いていたら、きっと払って帰りたいと思い料金所まで下って来ると

そろそろ管理のおじさんやおばさんたちが集まって仕事の準備を始めていた。

「入山料を払いたいのですが」というと

「9時前だからいいよ」とおばちゃん。

「皆さんにこうして管理をしていただいているのですから払わせてください」

というような内容の事をいうと

「いいんだよ。この時間には誰からももらってないから」と別のおじちゃん。

私はお礼を言って山を下りた。

 

つい数時間前、死ぬかと思って登った道を振り帰ってみる。

私はもう人生の坂道を上り切ったのだろうか。

ふとそう思う。

生きている限りこれからも様々な事が起こるだろう。

人生とは死ぬ時まで坂道を上るようなものなのだろうか。

何故かこの時の私はそうは思わなかった。

傲慢にも、もう上り詰めた、と思った。

年齢的、余命的にはすでに折り返し地点を過ぎた私。

この坂道を登る前、この道があれほどきついとは思わなかった。

登ってみたからこそ、この道の厳しさが分かったのだ。

人生もそんなもの。

先がわからないから歩いて行ける。

正直この坂道はもう二度とごめんである。

 

数年前「修行」だと思って頑張った日々を

この時初めて、もう二度とごめんだ、と思えた。

そう思ったら負けだと思っていた自分とやっと決別できたのだ。

しかし、その日々が「無駄」だったというのはあまりにも悔しい。

あの日々がなければ、今日という日はなかったのだから。

 

実は下るのも楽ではない。

山は登るより下る方が時間がかかるとも聞いたことがある。

大体は上る方に時間がかかるが、急な坂道や筋肉が弱っている人は

気を付けてゆっくり降りるからのようだ。

 

深い。

いや高い。

 

しかしお蔭さまで筋肉は健在らしい。

転ぶ事も尻もちをつくこともなく、すいすいと下山することが出来た。

新しいスニーカーの履き心地もよく、滑りにも強かった。

お洒落なデザインだし、〇天ポイントを使って3000円以内だったから、よい買い物である。

歩くことが多い私の旅の強い味方になってくれそうだ。

 

  

   ツルがカメと出会う

 

ベタな人生観を思いつつ

いずれにせよ、これからも一番大切なのは「健康」である、と思い

日頃人様に自慢できるような生活をしていない私は

この元気な体をくれた親やご先祖様に改めて感謝した。

 

これから登って来る人たちとすれ違った。

そうでしょうそうでしょう。これからならすぐに絶景が見れるだろう。

一人は外国人の方のようだったので会釈だけして通り過ぎたが

他の人たちには

「おはようございます!この先めちゃくちゃきついですから覚悟して登ってくださいね~!」

と言っちゃった後でちょっと後悔した。

もうすぐですよ!といった方がよかったかな、と。 

挨拶だけで、何も言わないのが一番よかったのであるが

いつからこんなおしゃべりなおばさんになったのだろうとホトホト反省した。

 

答えは、「人間を好きになってから」である。

もちろんお生憎さま、すべての人間が好きな訳ではない。

修行が足りないと思うが、その類の修行ももうたくさんなのである。

人生はそう長くない。

 

山を下って表米神社に立ち寄り

関係ないけど入山料以上のお賽銭を投げ込んでお参りした。

神様に差し上げるより、おじちゃんやおばちゃんたちのお給料にしてほしいけれど。

 

登り始めはどんよりしていた表米神社の上空は今は真っ青だ。

電車の時間までまだしばらくある。

そうそう、まずは駅の自販機で水を買おう。

霞を食べたお蔭でか、喉の渇きを忘れていた。

実はこれ危険な状態。年寄り、ええっ、年寄り?は喉の渇きに鈍感ならしい。

それにしても何も飲んでいないにも関わらず、汗は次から次へと吹き出してくる。

BWER細胞の水分が使われているとしか思えない。

注釈するとWのE、つまりBとRの間にEが二つある細胞なのである。

細胞をビールに浸すことで簡単に作れます。

BWER細胞は、あります。

 

それにしても涼しい時間から登って正解だった。

思い出して億歩計を見ると

なんとこの時点で10000歩を越していた。

さて筋肉痛はいつ来るだろうか。

すでに太ももに多少の違和感はある。

 

見上げれば先ほどまでいた城址が綺麗に見えている。

トンビもくるりと輪を描いている。

別の方の空を見上げると

なんと空にカメがいる。

日本画に出てくる、尾に苔の生えたような亀の姿だ。

私にはそう見えた。

長寿の象徴らしいが、まさにツルとカメが出会った瞬間である。

想像力の少ない方のために、こんな感じである。

 

駅で水を買い、もう一つ隠し持っていたレーズンパンを食す。

和田山駅の近くの手作りパン屋さんのパンは、実に美味しかった。

それから汗びっしょりのシャツをトイレで着替えて

やっと人間に戻った気がした。

さっきまでは仙人だったのだ。

 

 

 

まだまだつづく。

この時点で朝の9時。

最後まで読んでくださってありがとうございます。

感謝をこめて

つる姫


私の好きなものは笑顔。笑顔は世界を救うと信じるつる姫のブログです。

コメント一覧

つる姫
ブラボーさん
その通りです。
しかし以前の私のように
人を嫌うのが怖いから自分を卑下してみたりする自分がいますが
それはまさに無駄だと思います。
今は自分の生きてきたすべてに
誇りを持ち感謝が出来るのです。

そう言えば宇都宮で一緒に餃子を食べましょうって話もありましたね。
次の18切符で検討しますから
お付き合いくだされば!
ブラボー
いやいや
無駄たったと思える事も含めての今の貴女だと思うのよ♡
長い人生には忘れたくても忘れられない事も有るわ
ソレも含めての今の自分だからこそ、
やはり人生に無駄なしと言えるんじゃないかしら?

昨日宇都宮に餃子食べに生きながら、買い物に出かけ
珍しく宇都宮?お目当てが有ったの。帰宅途中あっ!餃子。。
すっかり忘れてました。佐野と違ってと旗も立ってないから
忘れちゃう。。。宇都宮の餃子は何処~~
つる姫
ブラボーさん
人生に無駄なし、といいつつ
やはりあれは無駄だったと思う事も。

今が幸せだからそう思えるのかも知れないなって、この旅で思いました。

宇都宮!
昨日娘が行ってました。
餃子食べてきたって。
ブラボー
一皮むけたのね♪
そう思ったら負けだと思っていた自分とやっと決別できたのだ。

しかし、その日々が「無駄」だったというのはあまりにも悔しい

このくだり、少しは私の気持ち理解して貰えるかな?
そんな事思いながらも、貴方にもそんな時が来るんだ。。
そう思って読んでいました。

鶴と亀の出会い、確かに!必ず空を見上げる貴女だからチョンと亀さんが出て来たのね^-^

昨日13日~14日小旅行で帰宅、コレから珍しく車で宇都宮に行く事になりそう母の居ぬ間の命の洗濯してます。
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