☆つる姫の星の燈火☆

霊山の風

 

岩山の地獄を抜けたこの場所は、極楽にたとえられています。

先ほどまで風車を回していた風は、碧い湖面に億千万のさざ波を描いて通り過ぎて行きます。

宇曽利湖と呼ばれるこの湖は強酸性で、生息する魚はウグイだけだそうです。

プランクトンも少ないのがこの透明さの所以でしょうか。

 

どうやら待ち望んでいた雨は降りそうにありません。

こころの中でこの景色の明るさのレベルを低くして、細い筆で薄紫の雨の線を引いてみました。

さざ波の立つ湖面が天と繋がります。

私の身体の輪郭も雨に滲んで曖昧になって行き、雨とともに湖に流れ込んでいくようでした。

 

辺りには誰もいません。どこに行っても人の気配は残っているものですが

ここでは何故かそれを感じません。

山門をくぐった時の不思議な感覚もいつの間にかなくなり、ただ風を感じるだけでした。

小さなお地蔵さんの横を通り過ぎて、展望台に上がりました。

五智如来さまたちのお顔に目鼻は見当たりません。長い間風雨にさらされて座っておられるのです。

 

如来さまたちを拝んで展望台から下り始めました。

陽の恵みを受けて新緑から深緑へと変わった山の木々。

恐山の風が木の葉を裏返し、一瞬のうちに山全体を白っぽい景色に変えて吹き抜けていくと

山はすぐさま元の深緑に戻り、時折降り注ぐ陽の光に輝いて、さやさやと揺れています。

この時、ここに来て初めてこれまでに見送った命を想いました。

おじいちゃん、おばあちゃん、マイケル、ロッキー・・・

 

一年半ほど前に死と向き合ってから、逆に死を恐怖ととらえなくなっていました。

死の恐怖よりも、肉体を持って生きる事の辛さを知りました。

見送った命たちの名を声に出して呼びながら立ち止まった時、大きな風の塊が通り過ぎて行きました。

 

なにもない・・・・

 

死者の霊が集まるという恐山の真ん中に立って感じました。

 

そう・・・なにもないのだ。

生と死の堺目には、空(かぜ)が吹いているだけなのだ、と感じました。

 

おじいちゃん、おばあちゃん、マイケル、ロッキー・・ともう一度その名を呼び

私はまだそっちには行かないよ、とつぶやきました。

つづく

 

合掌

つる姫

 


私の好きなものは笑顔。笑顔は世界を救うと信じるつる姫のブログです。

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