☆つる姫の星の燈火☆

バブルとマイケルとわたし~別れの予感~

また冬が来て、マイケルはすっかり大きくなった。

首に巻きついて眠ることもなくなり

自分の体重を気にしているはずはなかろうが

出窓から、お腹にジャンプしてくる事もなくなった。

 

彼は、毎朝お化粧をしている間中、部屋を走りまわっていた。

しかし、口紅をつけ始めると

決まって遊ぶのをやめ、私の膝に入って眠り始める。

なぜだろうと、ずっと考えていた。

 

大抵の女性は、お化粧の最後に口紅をひく。

きっと、鼻のいいマイケルは、

紅の匂いがした後で、私がドアを出て行く事を学習したのだ。

 

ピンクの口紅の蓋を、カチッと閉めて

膝からマイケルをおろすと、先に玄関に走っていく。

扉と私を交互に見つめて、靴の前に座っている。

 

内側の鍵の金具が回って、足音が遠ざかった後

彼は、どのように一日を過ごしていたのだろう。

 

マイケルと暮らし始めた事を悔やんだ。

自分のさみしさを埋めるため

マイケルを孤独にしてしまったのではないか。

しかし、あのままでは三味線になったのだ。

いずれにしても、人間のエゴではないか。

 

マイケルがいるので、泊りの旅行に出る事もなかったのだが

ある時、親せきに不幸があり

どうしても一晩だけ、家を空けなければならない事になった。

 

猫は、必要な分だけしか餌を食べないので

一度に多く餌を置いておいても、食べすぎる事はない。

一度教えただけで、ウンチもおしっこも、トイレできたし

爪も爪とぎのところでしか研がない、聡明なマイケル。

一日くらいなら何とかなるだろう。

 

新幹線に乗り、夜遅くに、お通夜の終わった親戚の家に着き

翌日の告別式が終わると、東へ行く新幹線に飛び乗った。

暮れ始めた道を、マイケル、マイケルと心で呼びながら

部屋に向かって急ぎ足で歩く。

 

階段を上り始めた所で、すでにマイケルの鳴き声が聞こえてきた。

耳のいいマイケルは、どの辺りから、私の足音を認識していたのだろう。

玄関の向こうで、待ち構えている彼の顔が目に浮かぶ。

 

急いで鍵を開ける。

にゃあにゃああああ~にゃあああああ~ふにゃにゃにゃ~あ。

マイケルが、靴を履いたままの足にまとわりつくが

部屋には、私が食べるものが何もない。

 

一旦荷物を置いて、そのままコンビニに行こうとすると

マイケルが着いて出てきそうになり、ドアが閉められない。

こんな事は初めてだ。

外に付いて来ようとするそぶりなど、一度も見せた事がない。

「ごめんね、今度はすぐに帰ってくるから」

再び鍵をかけて階段を下りても、まだ大声で鳴いている。

食料を買って戻ってくると

ぴったりとくっついて離れようとしない。

脱ごうとするストッキングに爪を立てて伝線させる。

やっと着替えを済ませて座ると、膝の上に乗ったきり

びくとも動こうとしない。

 

よほど不安で淋しかったのだろう。

何度も何度も、玄関の鍵を見あげに行ったのだろうか。

その夜マイケルは、初めてゆるいウンチをした。

緊張が胃腸に来るのは、人間だけではないようだ。

 

華やかなクリスマスも、年末の喧騒も

みんな、マンションの外にある。

除夜の鐘を聞く事もなく、マイケルと眠る。

 

気がつくと、空を飛んでいた。

雪を被った富士山の横を通り過ぎる。

雲を突き抜けると、頬に雲の粒が当たって痛いほどの猛スピードだ。

さあ~っと雲の下に出ると

眼下に東京の街が広がった。

米粒のような家や四角い建物。

黄緑色の山手線が、まるいカーブを描いて走っている。

黄色い電車が横切っている。

その景色がだんだん狭まって、米粒程の大きさだった家が、目の前に迫った。

瞬間に目が開いた。

 

たった今まで寒空を飛んでいたように、頬はまだ冷たい。

雲の粒が当たった感覚が、しっかりと残っている。

神聖な風で洗い清められた魂が、身体にすうっと還ってきたような

かつてないほど、爽快な目覚めの朝。

東京は快晴。

先ほど俯瞰で見たのと、全く同じ明るさの街が

窓の外に広がっていた。

 

新しい年の初夢だった。

 

それからひと月ほど後、

女性として、人生節目の誕生日を迎えた。

 

もう、迷っている時間はない。

やりたかったことを、いまやろう。

待っていても、何も来てはくれない。

こっちから、捕まえにいってやる。

自分のオールを握りしめて、違う海に出よう。

そのためのタネは、蒔いたではないか。

自信を持って前に進もう。

 

首をかしげて私を見あげ

生まれつき、引きちぎられたように短いしっぽを

ゆっくりと動かしていたマイケルが

いきなり背を向けて、お気に入りの出窓に飛び乗った。

別れを予感したかのように。

 

凛と背筋を伸ばして座る、マイケルの黒いシルエットの向こうに

赤い電気が点滅している。

その上で、真冬の星が、鈴を鳴らすように輝いている。

 

 

あと一回つづく

 

今日もご訪問くださりありがとうございます。

感謝をこめて                                  つる姫

 

 

 


私の好きなものは笑顔。笑顔は世界を救うと信じるつる姫のブログです。

コメント一覧

つる姫
SEIRO_NAKAIさん
こちら、朝は少し楽でしたが昼前から暑くなってきました。
子供たちが小さいころ夏休みは、専業主婦にとっては地獄のような日々。お昼ご飯をちゃんと作るのも面倒だったし。
今年は子供が大きくなったし、仕事を始めたのでなんとなくやり過ごしている感じです。
子供をどこかに連れて行ってあげなきゃってことも、ほどんどないしね。

猫とか犬に、人間以上の感情を持つ人もいますね。
私はそこまでじゃなかったと思うけど
猫と二人で暮らす独身女性って
なんだかさみしいイメージですねえ。

下手な人間より
動物のほうがよかったりする。
嘘もつかないし、裏切らないし
見栄を張ることもしないし。

まだまだ暑い日が続きますが
お体に気を付けておすごしください。
SEIRO_NAKAI
彼との蜜なる関係。
つる姫さま、おはようございます。
今朝19日の広島は、いいお天気の日曜日のようです。
ガンガンに冷えたお部屋で、外のムッとした空気を想像しています。早いもので、夏休みも、あと2週間弱。何ゆえに、子どもを対象としている日本の夏休みという言葉を、大人たちが使うようになったのか、はなはだ、疑問ですけどね。

さて、愛しいマイケルとの蜜のような暮らし・・・これは、もはや、人間と猫を越えた愛ではないかと、思いました。つる姫さまのマイケルへの無償の愛情、そして、そのつる姫の愛にこたえる、いえ、それ以上の過剰反応をかえすマイケルに、猫を感じない僕は、異常体質でしょうか。
つる姫さまとマイケルの関係がここまでくれば、以心伝心、いや、LOVE&LOVEではないかと。

猫に嫉妬する人間というのは、この世に存在するのでしょうか。

すてきな1日を。
つる姫
るみこさん
私は空を飛ぶ夢をよく見ていましたが
あれほど鮮明な夢はなかったです。
そう言えば昨夜の夢、空は飛んでいませんでしたが
どこか海外の、砂漠みたいなところに旅して
「旅ってたのしい~~!」と大はしゃぎしていました。
どこだろう…エジプト、モンゴル。
猫も犬同様耳も嗅覚もいいらしいですね。
ただ、警察猫にはなれないみたい。
きまぐれですからね(笑)

マイケルが来てくれたおかげで
バブルに溺れなくて済んだのかも。
恩猫です。
るみこ
鮮明な夢!
目覚めた時に体感も残っているって
インパクトが強いですね。

以前 知人と田舎の一軒屋の一部屋づつを借りて住んでいた時に、
そこにもう一人ハウスメイトがいたのです。

そのハウスメイトとある日会話をする機会があった時に、
私たちが家からちょっと離れたバス停に降り立った瞬間に分かると教えてくれました。

どうしてかというと、
知人の猫がその瞬間からみゃ~みゃ~と鳴き始めるから・・・って。

あ~、賢いマイケル君とのお話の続き、
今からそく読ませて頂きますね。


つる姫
ブラボーさん
はい。。。
その事はまさに最終回に書きました。
つる姫
ふっきーさん
私も泣きながら書いてます。
特殊メイクも溶けます(爆)
己を失わないのは、強さだけではなく
弱さでもあるんです。きっと。
ブラボー
胸が痛い。。。
マイケルとの事。。一度でもペットを飼った経験者は
コレは人間のエゴなのか?と自問自答したに違いない

いくらペットとは言え、巡り逢い同じ時を過ごし、心通わし
生活した日々を思う時、何かの意味が有って巡り逢ったと
実感する。 この世で起きる全ての事には必ず意味が有る
そう思う私としては、胸が痛いが別れを予感し胸が痛い。
ふっきー
あぁ~私を泣かせる、つる姫さん、キライ
先回りして想像して、泣いてしまって・・・

つる姫さんの未来に向かう決心は、凄いなぁ~って思うのに
マイケルの事を思うと・・・
そして、バブルの狂喜乱舞の時代でも己を失わない強さ

後、一回、号泣しそう( p_q)
つる姫
テバネさん
言い方は違えど
>>「やるだけやってダメならしゃーない」
「昔は良かったと言いたくない」>>
これには、同感です。
私はこう見えて、どう見えるか知らんけど(笑)
今が一番いいと思っています。
いい加減は
良い加減と書くのよん。
お互いいい年(良い年)をとっていますよね(ウインク)
テバネ
ハハハハハそういう言い方も有るんだ(汗)
私の場合細かい所とアバウトなところが同居
していますね。

決まった形が崩れると・・・・・「イラ」っと来る。

でも、「まっいいか~」と手を抜いちゃいけない時に
平気で手を抜く(激爆)

人には完璧を要求するが、自分はあくまで完璧には
なりたくない・・・・・・と言う自己中的な所も有る(自爆)

悩みはそれなりに有るが、一晩寝れば・・・忘れる

でも、自分では忘れたつもりでも実際はかなりストレス
を感じているみたいですね。

なんだかんだ言っても、私の趣旨は
「やるだけやってダメならしゃーない」
「昔は良かったと言いたくない」
かな?

その割には・・・・・・いい加減な人間ですが(完全自爆)
つる姫
テバネさん
やはり、ボケてる。
「アホがボケて」ですけえ。
つる姫
テバネさん
頭のいい人は
考えなくても、ちゃんと生きていけるんです。
私は、アホなんで、理屈に走るのよ。
これはこうでなくては、あれはそうでなくてはと。
それで、その通りにならないとパニくる。
頭のいい人がうらやましいです。
いや、ほんと皮肉でもなんでもなく
でも、この頃はアホがボケできたので
ちょうどよくなった。超うれしい 爆
テバネ
私も一人暮らしの独身時代が何年もありましたが
な~んも考えてなかったな~
冬は一人でスキー・夏はバイクでソロツーリング
良く遊んでた(自爆)
つる姫
えせ管理人さん 爆
おはようさん。

一人の時間が長かったですからね。
しなくてもいい心配や、考えなくてもいい事まで
考えるようになったのでしょう、この方。
偽管理人
えっ????????
後1回で終わり???(涙)

マイケル、ゲージに入れて連れて帰れば良かったね。

ん~ここまで真剣に人生を考えていたんだ・・・・・・・

オイラは・・・ノー天気だったな~(自爆)
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