ゆったり山登り

北海道で暮らす自然が好きで、山登りやカヌーを楽しんでいるのんびり者です。
日々の自然や人との触合いを書いて行きます。

さてさて・・・(4)

2014-07-10 09:49:57 | 自作
眠りの浅かった私は朝靄の中を登山口に向かいました。

入山届けに記帳を済ませ直ぐに登山道に進みました。

道はゆるりとくの字に曲がりながら上へと続いています。

道端には石地蔵の涎掛けの赤い色が異界へ導くように続いていました。

一時間程経った頃でした。

突然、背筋に寒気を感じて立ち止まりました。

「お先に失礼」の声と冷たい風ともに白い影が横をすり抜けました。

当地では珍しい巡礼姿に杖を握った女性が立ち止まり振り返りました。

三十歳を少し越えていると思われる色白の悲しげな様子でした。

「野田さんを知りませんか」

あまりに唐突な質問でしたが、少し頭が足りない人と思いました。

「いいえ、知りませんよ」

「そうですか、ありがとう」

振り向くとすたすたと歩き出して朝霧に紛れて見えなくなりました。

杖に下げた鈴の音を残して、来た時は聞こえなかった筈の音が・・・

やがて山頂に達した私は彼女を探しましたが見つかりません。

行き違いになるような道ではありませんでした。

これはこの剣山が見せた現象と思うことにしました。


さてさて・・・(3)

2014-07-08 20:27:29 | 自作
登山口の横には大きな剣が奉納してある社殿がありまして。

その脇の細道を下ったところに先ほどの小屋が見えています。

泊まる気を無くした私は即座に此処まで戻ってまいりました。

後は目の前の鳥居を抜ければ呪縛から開放されそうな気がしました。

鳥居を抜けると来る時には気付かなかった沢山の赤い幟がはためいていました。

車を少し走らせるとそこには開山の趣旨を書いた大看板がありました。

「当杜は全国の彷徨える霊を呼び寄せて行くべき道を示す為に開山しました」

これはとても近くで寝る気はなれませんでした。

国道まで戻り古ぼけたドライブインの駐車場で車中泊をしました。


さてさて・・・(2)

2014-07-07 09:41:19 | 自作
薄暗い室内は微かな窓からの明かりで奥まで見ることは出来ました。

私と共に入り込んだ外気が黴臭い澱んだ空気を僅かに乱しただけでした。

中央は屋根に沿って通路となっておりました。

そこには大きな薪ストーブが置かれておりました。

両側は二尺程の高さの畳敷きの上がりかまちとなっておりました。

窓側に頭を向けて並んで寝るようでした。

私はそこに試しに横になって窓を見上げてみました。

何故かと言いますと、ある方のHPにここに泊まった時の事が書いてありました。

真夜中に息苦しくなり目覚めてから、ふと窓を見上げるとそこには彼を見詰める悲しげな色白の女性の顔があったそうです。

当然、彼はそのまま逃げ出したそうです。

私が見たかって、いえいえ、時間がまだ早いでしょう。

さてさて・・・(1)

2014-07-06 09:56:53 | 自作
さてさて、何から話しましょうか。

そう、あれは丁度今頃の季節でしたか・・・

あの頃は私も若くて元気でした。

名前と噂は聞いていましたが、日高では外せない山でしたし・・・

前日は登山口にある小屋に泊まる予定でいました。

予定通り日が沈む前には到着出来ましたが、かえってそれがいけませんでした。

見るからに陰気くさい小屋の佇まいは霊気を漂わせ私を拒んでいる様子でした。

丁度、二棟続きの炭鉱の社宅の大きさで中央に玄間があり壁は全部ガラス窓になっていました。

やっと、勇気を振り絞って中へ足を踏み入れました。


花瓶

2014-06-03 09:51:33 | 自作
ずんぐりとしているだけの

白色がくすんで灰色に見える

83才の長姉が娘の頃から

数知れない花木を活けていた花瓶

この冬、我が家のテーブルの上にあった

少し早めの桜の枝を活けられて

これが姉からの最後の贈り物

山野が桜色に染まったのを見届けて

突然、居なくなった

人はみな何れくすんだ花瓶のようになる

でも、沢山の花木を愛でてきた筈

それを自分で壊すようなまねはして欲しくなかった

いま机の上には100円均一で買った

茶色の角形の如何にも安物然とした花瓶の中には

沙羅沙ドウダン躑躅とオダマキの枝が

お互いに遠慮しながら花を咲かせている

まるで今の僕のように