眠りの浅かった私は朝靄の中を登山口に向かいました。
入山届けに記帳を済ませ直ぐに登山道に進みました。
道はゆるりとくの字に曲がりながら上へと続いています。
道端には石地蔵の涎掛けの赤い色が異界へ導くように続いていました。
一時間程経った頃でした。
突然、背筋に寒気を感じて立ち止まりました。
「お先に失礼」の声と冷たい風ともに白い影が横をすり抜けました。
当地では珍しい巡礼姿に杖を握った女性が立ち止まり振り返りました。
三十歳を少し越えていると思われる色白の悲しげな様子でした。
「野田さんを知りませんか」
あまりに唐突な質問でしたが、少し頭が足りない人と思いました。
「いいえ、知りませんよ」
「そうですか、ありがとう」
振り向くとすたすたと歩き出して朝霧に紛れて見えなくなりました。
杖に下げた鈴の音を残して、来た時は聞こえなかった筈の音が・・・
やがて山頂に達した私は彼女を探しましたが見つかりません。
行き違いになるような道ではありませんでした。
これはこの剣山が見せた現象と思うことにしました。
入山届けに記帳を済ませ直ぐに登山道に進みました。
道はゆるりとくの字に曲がりながら上へと続いています。
道端には石地蔵の涎掛けの赤い色が異界へ導くように続いていました。
一時間程経った頃でした。
突然、背筋に寒気を感じて立ち止まりました。
「お先に失礼」の声と冷たい風ともに白い影が横をすり抜けました。
当地では珍しい巡礼姿に杖を握った女性が立ち止まり振り返りました。
三十歳を少し越えていると思われる色白の悲しげな様子でした。
「野田さんを知りませんか」
あまりに唐突な質問でしたが、少し頭が足りない人と思いました。
「いいえ、知りませんよ」
「そうですか、ありがとう」
振り向くとすたすたと歩き出して朝霧に紛れて見えなくなりました。
杖に下げた鈴の音を残して、来た時は聞こえなかった筈の音が・・・
やがて山頂に達した私は彼女を探しましたが見つかりません。
行き違いになるような道ではありませんでした。
これはこの剣山が見せた現象と思うことにしました。