貫之集 656
いつとてか わがこひざらむ ちはやぶる あさまのやまの けぶりたゆともいつとてか わが恋ひざらむ ちはやぶる 浅間の山の 煙たゆとも いつになったら、あの人を恋しいと思わなくなる
貫之集 613
さけばちる ものとおもひし くれなゐは なみだのかはの いろにざりける咲けば散る ものと思ひし 紅は 涙の川の 色にざりける...
貫之集 494
ちはやぶる かみのたよりに ゆふだすき かけてやひとも われをこふらむちはやぶる 神のたよりに ゆふだすき かけてや人も われを恋ふらむ...
貫之集 476
初雁を聞けるはつかりの こゑにつけてや ひさかたの そらのあきをも ひとのしるらむ初雁の 声につけてや 久方の 空の秋をも 人の知るらむ...
貫之集 421
旅出立ちするところに、ある女ども別れ惜しめるをしみつつ わかるるひとを みるときは わがなみださへ とまらざりけり惜しみつつ 別るる人を 見るときは わが涙さへ とまらざりけり...
貫之集 351
あきはぎに みだるるたまは なくしかの こゑよりおつる なみだなりけり秋萩に 乱るる玉は なく鹿の 声より落つる 涙なりけり...
貫之集 201
はるがすみ たちよらねばや みよしのの やまにいまさへ ゆきのふるらむ春霞 立ちよらねばや み吉野の 山にいまさへ 雪の降るらむ...
貫之集 149
雨降る田植うるところときすぎば さなへもいたく おひぬべし あめにもたごは さはらざりけり時すぎば 早苗もいたく おひぬべし 雨にも田子は さはらざりけり...
貫之集 112
雪の降れるところはるちかく なりぬるふゆの おほぞらは はなをかねてぞ ゆきはふりける春近く なりぬる冬の 大空は 花をかねてぞ 雪は降りける...
貫之集 105
延喜十八年四月、東宮の御屏風、八首桜の花のもとに人々のゐたるところかつみつつ あかずと...
貫之集 099
三月うつろはぬ まつのなだてに あやなくも やどれるふぢの さきてちるかなうつろはぬ 松の名だてに あやなくも 宿れる藤の 咲きて散るかな...