「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

アイルランドで人工中絶禁止法が撤回される

2018-05-26 | 2018年イベント
本日、アイルランド共和国で実施された国民投票の結果が発表され、人工中絶禁止法が覆されました。アイルランド共和国、英国ではこのニュースがトップに飾っています。
私は全く存じませんでしたが、アイルランドでは女性の人工中絶は「女性が命の危機に瀕する限りの除いて」基本的に禁止だったのでした。例えば、レイプ事件の被害に遭った女性が望まない妊娠をしてしまったとしても、人工中絶は法的に禁止ということです。そのような状況なので、以前には、アイルランドでは中絶が(法的に)出来ないことから、わざわざ英国へ渡ったという話もあったようです。
日本と欧州の宗教観の差異もあるのでしょうが、21世紀の今日に至るまでこのような法律が機能していたというのは、日本で医療に携わってきた者として少し驚きを感じました。

私は、医学部、研修医時代を通じて、実は人工中絶に立ち会ったことがありません。人工中絶術は医師に必須の技術ではなく、したがって教科書レベルでしか私も知識がありません。おそらく人工中絶の施術は産科の中でもかなり特殊な領域だと思います。
中絶を人殺しと同義であると主張される方々もいらっしゃいますが、日本では人工中絶が可能な期間が法的に設けられていて、それを選択する方々が少なからずいます。私も人工中絶された方と会ったことはありますが、だからといって何か特別な対応をしたわけではなく、他の女性と何ら変わらないと思っています。

中絶の可否については、もちろん母親となる女性の意思を尊重してあげたいのですが、医療的に最も安全と考えられる選択も考慮すべきですし、さらには「生命とは何か」という生命倫理上もっとも重要な論点を含んでおり、容易に結論できません。
とくにキリスト教の教義の中に「受精した瞬間からヒトの命と見做す」というものがあり、受精卵はもちろん、受精能がある卵子の扱いなどは生命科学・医学においても細心の注意が求められています。ヒトの命を尊重するのは当然ですが、「どこからヒトなのか」を考えるのは非常に難しく、人によって判断が分かれるところなのですね。出産後の赤ちゃんはもちろんヒトであるとして、胎児のどの段階からヒトとして考えるべきか。

中絶法についてですが、私としては今回のアイルランドの判断は妥当なのではないかというのが率直な感想です。しかし、1/3以上の方々が反対票を投じていることの意味もよく考えなくてはいけないのでしょうね。


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