ようやく役者がそろってきたので、因果関係の検討が可能となりました。原因は結果に先行するはずですから、これらの事象の時系列が検討され、
アミロイドペプチド(Aβ)の蓄積→タウタンパク質蓄積→神経細胞死
という順番が確立されました。また、現在では、神経細胞死の前に実質的な症状の原因として神経機能不全が存在すると想定されています。
しかし、これだけでは厳密な意味での因果関係の樹立にはなりません。原因と想定される事象が、単なる付随的現象に過ぎない可能性も否定できないからです。この因果関係の検討において決定的な役割を果たしたのが、家族性アルツハイマー病です。患者さんや家族には幸いなことだった思いますが、人類遺伝学研究において、三つの原因遺伝子が同定されました。
最初の発見は、病理生化学によるAβの精製でした。次に、アミノ酸配列が当時最先端のペプチド化学によって決定されました。このアミノ酸配列をもとにアミロイド前駆体タンパク質の遺伝子がクローニング(遺伝子を単離すること)されました。そして、アミロイド前駆体タンパク質の遺伝子変異が、英国のある家系に見出いだされたのです。これによってはじめてアルツハイマー病は、
原因(家族性の場合は遺伝子変異として規定される)→分子レベルの病理→解剖学的病理→臨床像
といった一連の因果関係を検討することが可能になりました。
ここで大切なことは、アルツハイマー病患者の大半を占める孤発性アルツハイマー病も同様の病理像、臨床のを示すことから、前者に関する知識の多くは後者にも当てはまるという事実です。