伊織にしたあの電話から、僕はすぐに計画を立てた。計画を立てるのは得意だ。無鉄砲な伊織によく戦略を託されている。それで勝てるかは伊織次第だけれども。
「それで、どんな計画なの?」
「とりあえず、伊織からの連絡を待つ。というか、あいつが勝手に自分で判断して行動する可能性もあるから、こちらから毎日のように連絡を入れる。それで、美都の家の状況の情報を手に入ったら、その時の状況に対応する。僕たちはこのままこの家で待機していよう」
「ふぅん。なかなか冷静に考えるね」
「そうか?」
「お兄さんて、なんか感情的にならなさそう」
「そんなことないぞ。僕だって感情的にぐらいなる」
「え~?」
「え~じゃない。僕だって人間なんだ。ロボットじゃないんだぞ」
「ロボットって………ぷっ。ダサくない?ネタ」
中学2年生に言われてしまった。ダサい。たった3つくらいしか違わないのに。これほどのものなのか、この進化を遂げ続ける日本で、三年の差はこれほどのものなんだな。いまさらながら悲しくなる。
「じゃあ、洋服買いにに行こうよ!」
「いやいや、さっきまで外出できないからって友達に頼んでただろ!!!」
「だから、洋服ぐらい自分で選びたいの!」
「でも、見つかっちまうじゃねぇか!」
「じゃあ、もう一回街中に戻ろ!たぶん、その辺の人たちは、そうそうラジオなんて聞かないだろうから。まだラジオでしか言われてないんでしょう?」
美都の言うことももっともだ。僕だって買ってあげたい…というか、僕の金ではないけれども。しかし、みんながみんなラジオを聞いていないとも限らないが。
「だからこそよ!もう少しあとになったら、もう何もできないかもしれないじゃない」
「美都……」
「大丈夫っ!ロリコンって言われてたら否定しといてあげるからっ!」
「別にそこの心配してねぇよ」
美都があまりにも言い続けるので僕は仕方なく行くことにした。ていうか、さっきから僕って美都に流されすぎじゃないか?一応、伊織にも連絡は入れておいた。まあもちろん、事情を説明すると
「バカか。勝手にしとけ。そこらへんのロリコン親衛隊と警察官に捕まってもしらねぇぞ」
このとおり。
美都は、久しぶりの外出に嬉しさを隠そうとしなかった。また鼻歌歌っていやがる。僕は若干憂鬱な気分で、しかし、久しぶりにまともに体を使ったので、少しだけうれしかった。このあと、この外出がもたらす不幸をも知らずに。
「ん~お兄さんは、どんなのがいいと思う?」
悩んでいること1時間ほど。一店のお洒落な店に入って試着したり、見比べたりの繰り返し。はっきり言って何が楽しいのか分からない。しかし、美都は先ほどから10着以上の服を試着しているが、どれも似合っていた。
ちなみに、今試着しているのは少し肩がはだけた短めの丈の淡いピンク地の英字が黒く入ったTシャツ、中には黒のタンクトップ。下は、黒のグラデーションのチェックのミニスカート。少しでも身長を伸ばしたいのか、やはりヒールの高いブーツをはいている。傷だけは気にしているのか、ちゃんとストッキングをはいていて、腕には黒くて長い手袋をしている。
「なんでも似合うんじゃね?」
「何そのてきとーな言い方。アタシがお兄さんの趣味合わせてあげようって言ってんのよ。感謝しなさいな」
「なあ…やっぱ美都ってツンデレだよな」
「だからさっき否定したばっかじゃない。ち・が・う!」
「ハイハイ……で、僕の好みだっけ?」
「っていうか、まあ、うん。アタシ、なんでも似合うからなんでも着れるよ」
自分で言うか、普通。自意識過剰…ではないところは、まあいいのだが。僕の好みとか……やっぱり、ロングスカート?
「え、何お兄さん……昔ながらのスケ番好きなの?」
「いやいや、違うって。もっと清楚な感じのやつ!」
「ふぅん。お兄さんは清楚な人が好きなんだね」
「そういうわけじゃないんだが…ロングスカートが似合う人は上等だろ」
「まあそうだね。じゃあ、店員さーん!なんか、このお兄さんが好きそうなロングスカートのコーディネート、持ってきていただけますか?予算は~どんだけでもいいけど、なるべく安く。あ、全身靴からアクセまでお願いしまーす」
そういうと、自分は試着室へ戻っていく。僕はしばらく待つため、試着室の外にある椅子に座って待つ。女性の服の専門店だから、正直視線が痛い。店員さんが、服を抱えて美都の更衣室へはいっていく。店員さんも美都にコキ使われて大変そうだ。いや…そういう仕事なのだろう。色々御苦労さんだ。
「あの……すみません」
そりゃ、店員さんの事を考えていたのだから声をかけられたのだからびっくりする。
「ど、どうしました?みさ…あいつが何か?」
「いえ…あの、今朝聞いていたラジオに、お客様方とそっくりな2人が報道されておりましたので…。誘拐されたとか……」
げ、ばれてんじゃねぇか。幸い、ラジオでしか流れておらず、テレビでは流れてないため、向こうは顔まで知らない。十分に取りつくろえる。
「いえ、僕たちは、ただの兄妹ですよ」
「そ、そうですよね……申し訳ありません」
店員は深々と頭を下げて引いていった。僕は終始笑顔。
「なーにニヤニヤしてんのよ」
いつの間にか、美都は試着室から顔を出していた。
「ニヤニヤはしていない」
「ふぅん。それよりさっ。どうかな?」
美都は満面の笑みで試着室から出てきた。おお、さすが美都(?)というか店員さんのコーディネート。美都の体格に合っている。
薄いピンクのホルターネックタイプのロング丈ワンピースに白いジーンズ地の短い丈のベストを羽織っている。ロングの足元にちらつくのは、夏にぴったりの白い厚底のハイヒールのサンダル。
一見、淡い色でしまりがないように見えるのだが、頭にかぶった黒リボンのストローハットと腰に付けた革素材の茶色のウエストポーチでしっかりしまっている。腕には先ほどと対照的で白く、同じく長い手袋。
「ん~いいんじゃね?」
「む~!もっと…ちゃんといってよ」
「………はいはい。美都、可愛いよ」
「あ~なんかネットによくいるキモいおっさんに言われたみたい。まぁ、いっか。店員さーん!コレ全部くださーい!!」
「僕の可愛いを返せ!!」
「冗談だって。嬉しい。ありがとっ」
そんなに素直に言われても…なぁ。いったい僕はこの『なぁ』を誰に向けて言って同意を求めたのかはわからないが、少し照れちまうぞ。
美都は、荷物を取りに試着室へと戻って行った。僕のポケットでは、携帯電話がバイブ機能を発揮する。伊織からだった。
「もしもし?伊織?」
“そうだ。さっき、アニキから連絡があったんだけどな…”
「なんかあったのか?」
“確か、美都ちゃんって妹いたんだよな?怜ちゃん”
「ああ、確か包丁が胸に刺さってるのを見たって」
“その怜ちゃんな、まだ生きてるぞ”