「美都!?」
僕は急いで道路を駆け、小さな家にたどり着いた。
美都の悲鳴はすでにやんでおり、その後特に声はしないのだが、何かあったのかと急いで走る。
「なにこれ~!!超可愛い」
「……何をやっているんだ」
家に入ったらこの調子だ。家のドアは開いたままで、美都は床にしゃがみ込んでいた。
床は、木製のフローリングで、玄関がないことから土足OKだと考えられる。
美都はかがみこんでいて、何を見ているのか分からない。
「まぁ、コレ見てよ。絶対悲鳴上げるほどだって!」
そういうので、僕は美都の前に回り込んで同じようにしゃがんでみた。
そこには、でかい蜘蛛がいた。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
「ほらぁ!」
僕は飛びあがって後ずさり、美都をにらみつけた。
「ほらぁ、じゃねぇだろ!」
「む~………睨まないで?」
美都は、すこし僕を見上げるようにして言った。それはそれは、実に可愛らしい…って、僕がロリコンみたいじゃないか!でも実際、十中八九の人間が可愛いというだろう。
「ホントに悲鳴上げたじゃない」
「お前なぁ………美都は蜘蛛平気なのか?」
「ん~蜘蛛だけかな。ほかの虫は全部嫌い。アリとかバッタとかカマキリとか」
「なんでよりによって蜘蛛なんだ?」
「蜘蛛って、フォルムが可愛いし、8本の足で支えてるのがすごいツボなの!」
「……そうかぁ?」
「うん。それに、みんなに嫌われてるじゃない。あたしぐらい可愛がってあげなきゃ」
なんでもネガティブに考えるなぁ、こいつ。でも、根は結構いいやつに思えるけど。とにかく、この蜘蛛は美都に任せることにした。飼うなりなんでもするといい、といったら顔を輝かせながら、飼う!と言った。
祖母が使っていたころの家具がそのまま残っているため色々ある。ベッドはもちろん、冷蔵庫やソファや机、TVはさすがにないがラジオくらいはある。ちなみに、この家は土地の関係で二階はないが、地下室がある。電気は通っているようだ。祖母が払っているのだろうか、ここを提供したお偉いさんが払っているのだろうか、まあどうでもいい。払わなくていいだけありがたい。
「部屋割~じゃんけん!!」
美都はテンションアゲアゲで言った。大きく拳を振りかざし、さっさとやるぞアピール。僕はしぶしぶと手を出す。
「じゃ~んけ~んぽん!」
「ぽん」
美都はグー。僕はパー。ふ、勝ったぜ。
「む~…しょうがないなぁ。お兄さんからどうぞ」
「そうだな…僕が一階使っておくよ。美都は地下室ね」
「なんでよ」
なんでっていわれても、仮に居場所がばれても、ケーサツだか親だかが来ても地下室の扉隠せばいいだけだからだよ。
なんて言えるわけないから、僕はなんとなくだよと返す。
美都は、地下室を見に床の扉を開けて階段を下りていった。
僕はとりあえず、部屋にあるものをすべてみることにした。生活に必要なものはそろっている。ガスも電気も水も通っているようだ。あと必要なものは食料と金だ。まあ、すべては金があればどうにかなるのだが。
ちなみに、僕が決めた一階には、ベッドにソファ、冷蔵庫とランプが二つと蛍光灯、ラジオとキッチンと流しがある。トイレは地下のようだ。
「お兄さん、部屋は気に入った?」
「ああ、割とな」
「アタシの部屋も見る?」
「ん、じゃあ見ておくよ」
美都は床から覗かせていた頭を引っ込めて、僕は階段を下りて行った。地下室は、電気が割ときれいで明るく照らされていた。割と開放感のある部屋で美都には意味がないくらい天井が高かった。家具は僕とほぼ一緒で、キッチンがなく、トイレがあった。トイレもきれいに清掃されている。ベッドは僕よりでかかった。何気せこいな。僕の方が大きいのに。
「ところで美都、現実的な問題だが」
「なによ」
「僕と美都は一応男と女だ」
「一応じゃないじゃない。お兄さんはオカマだったの!?」
「おまえはアホか」
「まさかのおナベ!?」
「アホか?ではなく聞く前にもはやアホだった。いや、アホ以上だ」
「アタシはMじゃないからそんなに言っても嬉しくないよ」
「まあとにかく。そのへんは大丈夫なのか?」
「ん~別にいーよ」
「え、まじで!?」
「ただし、お兄さんが変態発言、もしくは変態的な目線、その他もろもろなんかあったら警察に通報するよ」
「だいぶ大事だな」
「だって、もう犯罪してるし、お兄さん。アタシの誘拐~」
「………っく」
かなりな弱みを握られているな。僕は明らかにアウェーだ。それでも僕は、まだ刑務所には入りたくないので美都に従うことにした。まったく。この世の果てだな。こんなロリ野郎に従わなくちゃならねぇ日が来るだなんて。まあ、こんなこと言ったら確実に死刑だから心の内にとどめておこう。
「ところで、さらに現実的な問題だが」
「なによ」
「お金の問題だ」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「あ?何をだ」
「この服とかもらったとき、お金も貰ったんだぁ」
「何円だ?お前腹黒いな」
「ん~ざっと30万。お兄さんがしっかりしてないからよ」
なんと、こいつは小さな熊のぬいぐるみの中に30万を入れていたようだ。ぬいぐるみは財布だったのか…。てか、だからあんなに太鼓の達人やってたんだ…。こりゃびっくり。とにかく、これで当面の生活の問題はなさそうだ。
とまあ、あまりにごたごたした逃亡生活だが、案外楽しいかもしれない。まだ不安や、僕が死にそうな要因はいくつかあるけれど、とりあえず安泰だ。これからは、美都といっしょに。